すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「逃れの森の魔女」 ドナ・ジョー・ナポリ (アメリカ)  <青山出版社 単行本> 【Amazon】
せむしの醜い女は助産婦だった。娘アーザは、女に似ず美しい少女だった。醜い女はアーザを心から 愛していた。友人バーラは、醜い女に助産婦の仕事だけでなく、悪魔を操り病を治す魔術師の仕事もする べきだと勧める。そのためには、悪魔を支配するための呪文をおぼえ、悪魔に支配されないように魔法陣 を描かなくてはならなかった。
にえ あとがきには、『ヘンゼルとグレーテル』のパロディー版と紹介されてます。
すみ パロディーっていうと、おふざけ、お笑いものってニュアンスが含まれるから、この本の紹介には相応しくないよね。
にえ うん、『ヘンゼルとグレーテル』の話をモチーフにして書いて あるけど、ふざけてるわけじゃなくて、まったく新しい世界をつくってみせてくれたもんね。
すみ それに削るだけ削った緊張感のある文章といい、ドキドキさせ る話のもって行き方といい、完成度高かったしね。
にえ 『ヘンゼルとグレーテル』では、森に迷いこんだヘンゼルと グレーテルがお菓子の家に辿りつき、そこの魔女をやっつけるんだけど、この本は、そのお菓子の家の 魔女を主人公とした物語。
すみ 魔女になる女性は、最後までとうとう名前があかされず、 醜い女と呼ばれてるのよね。
にえ 両親のことや娘の父親についての情報もちょっとずつしか 出てこなくて、このへんのもったいぶり方はうまい、想像がどんどん膨らんで、醜い女がリアルになっていく。
すみ 性格の設定も良かったよね。
にえ うん、自惚れそうになっていく自分を戒めたり、自分を魔女と 罵る人たちの気持ちまで理解しようとする、スッゴイせつない人で、もうめいっぱい感情移入してしまった。
すみ で、どうして愛する娘までいるこんなに心やさしい女性が魔女 になってしまったのか、ヘンゼルを食べようとしたのかっていうのがストーリーなんだけど。
にえ 全編が悪魔と醜い女の戦いだったよね。悪魔は卑怯な手口で醜 い女をだまそうとするし、醜い女は必死で悪魔に利用されないすべを学んでいく。
すみ このへんの緊張感の出し方がまたうまい。最後には魔女になっ て、ヘンゼルを食べようとして殺されるのはわかってるでしょ、でも、読んでくうちに醜い女に感情移入し ちゃってるから、なんとか悪魔にからみとられないで〜ってドキドキしちゃう。
にえ 駆け引きの連続、どっちに転ぶかわからないギリギリの選択の 連続、それが静かな文体で書かれてるから、もう、しびれてしまった。
すみ 悪魔の名前の呼び方とか、魔法陣の描き方とか、宝石に宿る力 とかは、たぶん昔からの文献とかをもとに書いてるんだと思うけど、そのへんの知識のたしかさも、物語に 深みを与えてたよね。
にえ だからって、知識のひけらかしや無駄な書きこみがないしね。
すみ 他の登場人物もよかったよね。とくに友人バーラ。謎の存在で、 欲深いだけの普通の人間のようにも思えるけど、悪魔の手先のようにも思える。
にえ 自分の保身のために醜い女を裏切る人、最後まで信じつづける 少年、みんなピリッとひきしまった人物像だったよね。
すみ で、気になるヘンゼルとグレーテル。これもこの小説の世界に あうように性格づけがされてて、納得の存在感。
にえ 悲しくせつないお話だったけど、すっごくよかった。
すみ こういう反対側からものを見るって考え方も好きだな。長さも ちょうど良かった。これ以上長かったら、結末がわかってるだけに緊張感がそがれちゃう。
にえ 読む価値ありの完成度の高さでした。