=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「逃れの森の魔女」 ドナ・ジョー・ナポリ (アメリカ)
<青山出版社 単行本> 【Amazon】
せむしの醜い女は助産婦だった。娘アーザは、女に似ず美しい少女だった。醜い女はアーザを心から 愛していた。友人バーラは、醜い女に助産婦の仕事だけでなく、悪魔を操り病を治す魔術師の仕事もする べきだと勧める。そのためには、悪魔を支配するための呪文をおぼえ、悪魔に支配されないように魔法陣 を描かなくてはならなかった。 | |
あとがきには、『ヘンゼルとグレーテル』のパロディー版と紹介されてます。 | |
パロディーっていうと、おふざけ、お笑いものってニュアンスが含まれるから、この本の紹介には相応しくないよね。 | |
うん、『ヘンゼルとグレーテル』の話をモチーフにして書いて あるけど、ふざけてるわけじゃなくて、まったく新しい世界をつくってみせてくれたもんね。 | |
それに削るだけ削った緊張感のある文章といい、ドキドキさせ る話のもって行き方といい、完成度高かったしね。 | |
『ヘンゼルとグレーテル』では、森に迷いこんだヘンゼルと グレーテルがお菓子の家に辿りつき、そこの魔女をやっつけるんだけど、この本は、そのお菓子の家の 魔女を主人公とした物語。 | |
魔女になる女性は、最後までとうとう名前があかされず、 醜い女と呼ばれてるのよね。 | |
両親のことや娘の父親についての情報もちょっとずつしか 出てこなくて、このへんのもったいぶり方はうまい、想像がどんどん膨らんで、醜い女がリアルになっていく。 | |
性格の設定も良かったよね。 | |
うん、自惚れそうになっていく自分を戒めたり、自分を魔女と 罵る人たちの気持ちまで理解しようとする、スッゴイせつない人で、もうめいっぱい感情移入してしまった。 | |
で、どうして愛する娘までいるこんなに心やさしい女性が魔女 になってしまったのか、ヘンゼルを食べようとしたのかっていうのがストーリーなんだけど。 | |
全編が悪魔と醜い女の戦いだったよね。悪魔は卑怯な手口で醜 い女をだまそうとするし、醜い女は必死で悪魔に利用されないすべを学んでいく。 | |
このへんの緊張感の出し方がまたうまい。最後には魔女になっ て、ヘンゼルを食べようとして殺されるのはわかってるでしょ、でも、読んでくうちに醜い女に感情移入し ちゃってるから、なんとか悪魔にからみとられないで〜ってドキドキしちゃう。 | |
駆け引きの連続、どっちに転ぶかわからないギリギリの選択の 連続、それが静かな文体で書かれてるから、もう、しびれてしまった。 | |
悪魔の名前の呼び方とか、魔法陣の描き方とか、宝石に宿る力 とかは、たぶん昔からの文献とかをもとに書いてるんだと思うけど、そのへんの知識のたしかさも、物語に 深みを与えてたよね。 | |
だからって、知識のひけらかしや無駄な書きこみがないしね。 | |
他の登場人物もよかったよね。とくに友人バーラ。謎の存在で、 欲深いだけの普通の人間のようにも思えるけど、悪魔の手先のようにも思える。 | |
自分の保身のために醜い女を裏切る人、最後まで信じつづける 少年、みんなピリッとひきしまった人物像だったよね。 | |
で、気になるヘンゼルとグレーテル。これもこの小説の世界に あうように性格づけがされてて、納得の存在感。 | |
悲しくせつないお話だったけど、すっごくよかった。 | |
こういう反対側からものを見るって考え方も好きだな。長さも ちょうど良かった。これ以上長かったら、結末がわかってるだけに緊張感がそがれちゃう。 | |
読む価値ありの完成度の高さでした。 | |