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 「ぶたマン 洋上殺人事件」 ヴィルヘルム・ラーベ (ドイツ)  <人文書院 単行本> 【Amazon】
喜望峰の自宅に妻子を残し、故郷ドイツに戻ったエードゥアルトは、子供の頃に大好きだった地方郵便配達人のシュテルツァーじいさんが亡くなったばかりだと知って、親友だった「ぶたマン」ことハインリヒ・シャオマンに会いに行った。ぶたマンは、キーンバウムという男を殺したと疑われていたアンドレアス・クヴァーカッツの娘ヴァレンティーネと結婚し、アンドレアスの遺した赤砦で幸せに暮らしていた。
にえ 私たちにとっては初めての作家さんですが、ヴィルヘルム・ラーベは1831年生まれで、19世紀のドイツ文学を代表する作家の一人だとか。
すみ とはいえ、これまで邦訳は、長編小説は「雀横丁年代記」だけ、あとは短編小説と物語がいくつかって状態で、あまり日本には偉大さが伝わってなかったみたいね。
にえ 同年代のドイツ作家は、「水晶」などのシュティフターとか、「みずうみ」のシュトルムとかでしょ。雰囲気ぜんぜん違ったよね。
すみ シュティフターやシュトルムは美しさが主体で、ラーベはストーリーテラーって感じなのかしら。この「ぶたマン」を読んだかぎりでは、そう感じたのだけど。
にえ おもしろかったよね、単純といえば単純な話なんだけど、グッと引きこまれるところがあって。もうちょっと読みやすかったら、勧めやすかったけど。
すみ そうなんだよね〜、けっこう読みづらいから、翻訳本慣れしていない人は避けた方が良いと思う。古典だし、もとの文章じたいも今では読みづらいものなのかもしれないけど、地の文も追っていくだけで必死なのに、会話文で「ねえ」を「ねへ」とするとか、ちょっと翻訳文、懲りすぎかなって気も。
にえ 読んで疲れ果てるってほどではなかったけどね。わからなくなって同じ行を2度読みってのはたびたびあったけど、まあ、流れで追えるから、そんなに負担には。でも、イラッとしだしたらダメかも。
すみ イラッとしなければ、かなりおもしろい小説だよね。「ぶたマン」というタイトルだけど、ユーモア小説ではないんだけどね。「洋上殺人事件」と副題がついているけど、ミステリでもないんだけどね(笑)
にえ でも、殺人事件はあるよね。犯人もいるし。海の上での殺人ではないから、洋上殺人事件ではないけど。
すみ 殺人事件発生、さあ、犯人は誰なのか、ってことでもないよね。殺人事件は語り手であるエードゥアルトが生まれる前か、子供の頃だったかに起きた殺人事件で、今となってはちょっと昔の話。
にえ 語り手のエードゥアルトは、「レオンハルト・ハーゲブーハー」号という船に乗り、ドイツから喜望峰へ戻っているところなんだよね。で、一時帰郷していたドイツのことを思い出すという回想小説なの。
すみ エードゥアルトは故郷に帰り、子供の頃に仲の良かった地方郵便配達人のシュテルツァーじいさんに会いたかったけれど、ちょうどシュテルツァーじいさんは亡くなったばかりというところ。悔しいよね。で、せめて親友だった「ぶたマン」こと、ハインリヒ・シャオマンには会っておこうと出向くことに。
にえ ハインリヒは食いしん坊で、愚鈍な太っちょ少年だったんだよね。だから、ぶたマンなんて渾名で呼ばれてて。
すみ でも、キーンバウムという男を殺したとずっと疑われているために、つまはじきとなっているアンドレアス・クヴァーカッツという男の娘、ヴァレンティーネを騎士のごとく守ったりして、意外な一面を見せたりもするのよね。
にえ クヴァーカッツは、町から離れた赤砦というところで百姓をしている男だったんだよね。いかにも人を殺しそうだとみんなに思われていたみたいで。
すみ 話し相手は弁護士と、手紙を届けに来てくれるシュテルツァーじいさんぐらいだったけど、どうやらあとのほうになって、ぶたマンにも心を開いて話をしていたみたいなのよね。
にえ で、エードゥアルトが訪ねていくと、ぶたマンはキーンバウムを殺した真犯人を知っていると言いだすの。
すみ というと、ほんとにミステリみたいだね。でも、殺人はあっても謎解きはないし、他の話がいろいろ出てくるから、犯人はだれだってのを意識しすぎないほうがおもしろく読めるはず。
にえ 子供の頃には全部が見えているようで、なにも見えていなかったってことが、いったん故郷を離れ、歳月が経ち、戻ってきたところで、パ〜っと見えてくるって、なんかそういう設定が良いよね。好きだなあ。
すみ ぶたマンと呼ばれ、みんなに小馬鹿にされていた少年が、大人になってみると、ぜんぜん違ってたってところも良いよね。いろんなことがわかって、エードゥアルトと一緒にドキドキしてしまった。読みづらさ覚悟の上ならオススメです。