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 「みずうみ」 シュトルム (ドイツ)  <新潮社 文庫本> 【Amazon】
テーオドール・シュトルム(1817年〜1888年)の短編集。3作品収録
「みずうみ」(1849年) 「ヴェローニカ」(1861年) 「大学時代」(1862年)
にえ 読んでない古典名作文学をこれからボチボチと消化していきましょう、 ということで、シュトルムの「みずうみ」を読んでみました。
すみ 私たちの読んだ新潮文庫のだと、収録作品は「みずうみ」「ヴェローニカ」「大学時代」の3つ。 あとで調べてみたら、岩波文庫の今出ているの「みずうみ 他四篇(改訂版)」だと、収録作品は「みずうみ」「マルテと彼女の時計」 「広間にて」「林檎の熟する時」「遅咲きの薔薇」の5作品。「みずうみ」以外は違う作品が入ってるってこと?
にえ 両方読めばよかったねえ。そしたら、翻訳違いの「みずうみ」を読み比べつつ、 他のも一度に読んでしまえたのに。
すみ そうだよね〜。岩波文庫のもあとから読めばいいんだけど、できれば一度に読んで、どっぷりシュトルムの世界にはまりたかったし、 「みずうみ」をキッチリ読み比べたかったね。
にえ ドイツ文学というと、この前読んだジークフリート・レンツの 「アルネの遺品」もそうだったけど、静謐な美しさのあるものが多いって印象がある。これもそうだったね。
すみ オーストリアの人だけど、シュティフターにも似てた気がしたけど。シュティフターが 1805年から1868年の人で、シュトルムが1817年から1888年だから、共通するところが多いのかな。
にえ そうそう、恥ずかしながら私たちはずっとシュティフターをドイツの作家だと勘違いしちゃってたんだけど、 私たちの受ける印象としては、ほんと近いのよね。
すみ シュトルムはドイツのなかでも、北ドイツのほうの方なんだそうで、作品の中で描かれている景色もそっちのほうになります。 これが美しいんだ、また。
にえ 美しい景色に、美しくも悲しい物語、読みたいときに読めば、どっぷりはまれること請け合いでしょ。
すみ ストーリーは3つとも似てるの。自分のものにはならない美しい女性を愛する青年、というシチュエーション。 こういう古さがまた良いのよね。
<みずうみ>
ラインハルトは5才年下の幼なじみエリーザベトをずっと大切に思っていた。エリーザベトはラインハルトに 物語をねだる。ラインハルトはエリーザベトのための物語を書いておこうとするが、それよりもエリーザベトへの思いを 詩にして、こっそりと書きためることのほうが多かった。故郷を離れ、本格的に学問に励むことになっても、 ラインハルトの気持ちは変わらなかった。
にえ 晩秋の午後、一人歩く老人、ふと呟くのは「エリーザベト」。そこからお話は始まるの。
すみ まず、幼い頃の思い出が語られてるんだけど、それは森の中に二人で苺を摘みに行く話なのよ。いいよね〜。
にえ それから数年が過ぎ、遠くへ行ってしまったラインハルト。エリーザベトのもとには、ラインハルトの友人エーリヒが 現れるの。エーリヒは裕福な家の子息なのよ。
すみ いくつか挿入された詩が印象的だったよね。とくに最後のほうに出てくる、民衆に口承で伝わっているという歌の詩は、 ストーリー全体を解く大きな鍵となっているの。
にえ とうとう語られなかったエリーザベトの思いが、偶然にもその詩ですべて語られてしまうのよね。
すみ 美しく、悲しい物語でした。これが一般的にはシュトルムの代表作といわれてるみたい。
<ヴェローニカ>
復活祭前の4月初め、市で最も声名のある弁護士が、遺言を遺そうとしている老人に会うため、 水車小屋に向かっていた。ういういしく美しい若い妻ヴェローニカと、弁護士宅に逗留している従弟の建築家の青年ルードルフも 同行した。ヴェローニカはルードルフの手ほどきで、楽しく絵を描く日々が続いていたが、その絵も仕上がった今、 二人の様子はどこかおかしかった。
にえ これはかなり短いお話だったよね。
すみ 「みずうみ」は男性のラインハルトがメインになってたけど、この短編では、 女性のヴェローニカがメイン。
にえ 若く美しいヴェローニカは、罪の意識に悩んでいる様子。はっきり何があったかは書かれていないけど、 読めばわかる。
すみ ラストも想像にお任せしますってところがあったよね。弁護士とヴェローニカとルードルフ、 三人はこのあとどうなったのかしら。
<大学時代>
良家の子息が通う、市のラテン語学校の第二学級の生徒8人は、週に2回、舞踏講習会に通うことになった。 だが、パートナーとして同じ人数の女子を揃えるには、1人足りない。そこで医者の息子フィリップと、市長の息子フリッツは、 仕立屋の娘ということで身分こそ低いが、大きな黒い目が印象的な美少女ローレを誘うことにした。
にえ 私たちは3つのなかでは、これが一番好きだったんだよね。一番ストーリー性もあるし、 女主人公の個性がクッキリ鮮やかに描かれてるし。
すみ うん、「みずうみ」だと女性主人公はどこか薄い影のような存在で、人となりが今ひとつわからなかったんだけど、 こっちのローレという女性については、ヒシヒシ気持ちが伝わってくるものがあったよね。
にえ フィリップとフリッツは、好意からローレを舞踏講習会に誘うんだけど、それがかえって ローレを苦しめることになるのよね。
すみ 娘盛りのローレにとっては、同じ年頃とはいえ裕福で、なにもかもを備え持ち、キラキラ輝いて見える お嬢様方と一緒にいることはそれだけで苦しみだし、自分に思いを寄せるフィリップの気持ちさえ、苦痛のもとなんだよね。
にえ 今は自分のあとを追いかけようとするフィリップも、けっきょく大人になって、 結婚相手を選ぶときには、ローレではなく、自分と同じ身分の淑女を選ぶことはわかりきっているんだもんね。 そんな人を好きになるのは、わざわざ茨の道を選ぶようなもの。
すみ 世間というものを知っていて、すべてを見通せるローレと違って、フィリップは単純なものよねえ。
にえ でも、見通せてはいても、良家の子息と親しく口をきくことを知り、身分からすると持てあますことになること必至なダンスまで覚えさせられた ローレの行く先は、やっぱり悲劇的。
すみ フィリップには、職人の息子で、クリストフという友だちがいるんだけど、 クリストフはローレともとから親しくて、まさにふさわしい相手。フィリップも、ローレの幸せを願い、クリストフからローレを奪おうとまではしないんだけど。
にえ フィリップとローレは、舞踏講習会が終わり、やがてフィリップが遠くの町の大学に通うようになっても、 幾度が運命を交差させ、出会うことになるのよね。
すみ ちょっと蓮っ葉なところもあり、賢さも純粋さも持ちあわせたローレがとにかく魅力的だった。 ローレの魅力が伝わってくるから、フィリップの気持ちもよくわかったのでした。