すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「地上の旅人エイラ 第3部 マンモス・ハンター」 上・中・下 ジーン・アウル (アメリカ)
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ジョンダラーと二人で、いよいよ氏族たちが異人と呼ぶ、自分と同じ種族の人間の簇(むら)へ行く決意をしたエイラ。そこはマムトイ族のライオン簇、驚いたことにエイラの守護霊トーテムであるケーブ・ライオンの骨が飾られていた。そして、もっと驚いたことに、エイラの子供ダルクと同じように、氏族の血が混じった子供までいたのだった。 公式HP
にえ ケープ・ベアの一族」「野生馬の谷」に続く、地上の旅人エイラ・シリーズの第3部です。この先は第4部も第5部も上中下の3巻セットみたい。長い道のりだ〜(笑)
すみ エイラの人生もまだまだ長い道のりとなりそうよね。私たちと同じ新人類ホモサピエンスとして生まれながら、原人類ネアンデルタール人たちとともに育ち、そこを出て一人で暮らすようになって、ようやく自分と同じ種族の男ジョンダラーと出会ったエイラだけれど、とうとう新人類が集団で暮らす簇(むら)へ行くことに。
にえ といっても、ジョンダラーの故郷ではないのよね。エイラが一人で住んでいた谷の近くにあるライオン簇というところに行くの。
すみ いくつもの簇が集まって族となるんだけど、ライオン簇はマムトイ族なんだよね。ジョンダラーはゼランドニー族。言葉も習慣もまったく違うのよね。
にえ ネアンデルタール人たちのケーブ・ベアの一族でさんざん苦労したってこともあって、きっとエイラはホモサピエンスの簇でも苦労するんだろうな〜と予想が立つけど、いきなりジョンダラーの故郷へは行かず、ライオン簇に行くことで、わりあいと楽しい出会いとなるから、上中下の3巻のあいだ、息苦しい思いをすることにはならないの。
すみ 他の面で息苦しい思いをするけどね(笑)
にえ そうそう、ライオン簇の人たちはわりあいと慣習や常識にとらわれず、個々人の個性や特性を重んじる人たちだから、そこでのエイラの暮らしぶりはわりあいと楽しげに描かれていていいんだけど、ジョンダラーがね〜。
すみ ジョンダラーは3巻ぶっ通しで、エイラを自分の故郷に連れて行ったら、みんなからどう思われるだろうって、悶々と悩みつづけるのよね。最初のうちは、ジョンダラーの気持ちもわかるなあと思いながら読んでいたけど、あまりにも同じことの繰り返しで悩みつづけるから、いい加減にしろと思っちゃった。
にえ 現代的に言えば、世間体だよね。ジョンダラーは愛する女を守り、大切にするためにはだれになんと言われたってかまわないって男じゃなくて、世間体を気にしまくる男なの。
すみ でもまあ、エイラは社会性がまったくない、無の状態の女だから、社会性のあるジョンダラーと合わせれば、ちょうどいいのかもしれないけどね。
にえ それにしたってね〜。ジョンダラーがそんなふうだから、ラネクっていうライオン簇の男がエイラを愛するようになってしまうんだけど、こちらは偏見を持たない男で、自分自身も同じホモサピエンス内のこととはいえハーフってことで、エイラを理解しやすくて、ジョンダラーよりいいんじゃないのって感じなんだけど。
すみ でもまあ、なぜエイラにはジョンダラーじゃなくちゃいけないのかってことは、この先で追々わかってくるんでしょうってことで。それより今回は、細かい描写部分がホントに凄かったよね。
にえ そうそう、第1部のネアンデルタール人の暮らしのなかでも、よくまあこんなに見てきたように書けるなあと思ってたけど、こちらの初期のホモサピエンスの人々の生活の細かい描写には、もう驚くばかりだった。
すみ 生理のときのナプキン代わりになにを使っていたか、なんて、どうやって調べたのってぐらい具体的だし、想像もつかなかった遣り方だったし、石器の作り方や籠の編み方や、ホントになにを取ってもここまで丁寧に書かなくてもってぐらい丁寧に書かれてたよね。
にえ しかも、それぞれ何種類も紹介してたでしょ。皮の染め方なんて、こういう方法もあれば、ああいう方法もあると次々に出てきて、しかも、どれも現代に通じるところがありながらも、原始の人たちの工夫ぶりに驚くばかりだったし。
すみ 普段の生活ぶりから狩りや儀式や祭りや集会などといった特別な催しまで、なにを取っても、よくまあ、ここまで調べ上げたなと思うよね。それがまたどれも、ホントに活き活きとリアルに再現されてて。
にえ それに加えて、発見というものも多く描かれてたよね。これはエイラによってもたらされるってのが多いんだけど。
すみ 糸を針に通すってどのように発見されたのかとか、火打ち石はどのようにして発見されたのかとか、そういうのは調べてもわからないだろうから、やっぱり調べ尽くして自分の頭の中で彼らの暮らしぶりを再現して、その上で、発見するとすればこうであったに違いないと、そういう確かな想像から導き出していったんだろうね。
にえ 人以外の動植物についても目一杯書かれてたよね。今はもう見かけない動物や植物がありありと再現されてて。
すみ 動物といえば、前の「野生馬の谷」では、エイラによって、人間が初めて馬を飼い慣らし、上に乗ったかってのが描かれてたけど、今回は、人はどうやって犬を飼うことにしたのかってのが描かれてたよね。まあ、正確にはまだ犬じゃないんだけど。
にえ うんうん、犬とか馬とか、そういう人間と親しくなる動物が、いかに人々の生活を潤すことになったか、あらためて考えさせられるよね〜。
すみ ということで、地上の旅人エイラのシリーズは、作者がまだまだ書きたいことがいっぱいあるみたいで、続いていくのでした。この先もエイラがどうなるのか心配だけど、楽しみっ。