=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「デイルマーク王国史3 呪文の織り手」
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ (イギリス) <東京創元社 文庫本> 【Amazon】 デイルマークがまだ<川の国>と呼ばれていた頃、シェリングの村に父親と暮らす5人の兄弟がいた。父親や他の村人たちは黒髪だというのに、この兄弟だけは波立つ金色の髪をしていた。 シェリングに王の使者が来て、父と長男のガルは兵士として連れて行かれた。次女のタナクィは二人のことを心配しながらローブを織った。亡くなった母親は長女のロビンに織物を教え、 次女のタナクィはロビンから織物を教わったのだが、その織物は独特の文字が織り込まれていた。 | |
「詩人たちの旅」「聖なる島々へ」に続く、全4巻からなるデイルマーク王国史シリーズの第3巻です。 | |
前2冊とは時代が違うんだよね。前の2冊はどちらも、王を亡くしたデイルマークが王不在の王国となり、それぞれの領地をまかされていた伯爵たちが北部と南部に分かれていがみ合っている時代。それに対してこの巻の舞台は、 それよりずっと前、デイルマークに王が君臨するよりも前、<川の国>と呼ばれていた時代なの。 | |
個人的には主人公が女の子になったのが嬉しいっ。前2冊では男の子だったんだけど。 | |
主人公のタナクィは物怖じせずにハッキリ喋る方だけど、わりと内省的な子だったよね。自分が悪かったのかしらとか、あんなこと言うべきじゃなかった、するべきじゃなかったとか、 けっこう後悔することが多くて。 | |
もちろん、ダイアナ・ウィン・ジョーンズが書く女の子だから、暗く落ち込みっぱなしってことはないけどね。それはそれで力強く次に向かって進んでいってた。 | |
住んでいるのは川のほとりの村シェリング。母親は幼い頃になくなっていて、家族は父親と二人の兄ガルとハーン、一人の姉ロビン、そして一人の弟マラード。 | |
ガルは「カモメ」って意味で、ハーンは「アオサギ」、ロビンは「コマドリ」、マラードは「マガモ」だからふだんはダックと呼ばれているのよね。ちなみに父親はクロスティといって、二枚貝という意味。 | |
でも、なぜかタナクィは、川岸に映えている薫りの強いイグサの名前なんだよね。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ好きなら、これはなにかの伏線になっているのかなとワクワクするところだけどっ。 | |
シェリングの村人はみんな黒髪なのに、タナクィの兄弟だけがクリクリの金髪なんだよね。そして、異教徒が攻めてくるんだけど、その異教徒もタナクィたちと同じ金髪。 | |
父親と長男が徴兵され、あとに残されたハーンとロビンとタナクィとマラードの4人は、しだいに村人たちに疎まれるようになっていくのよね。 | |
あ、そこで話を止めちゃうと、兄弟が小さな村の中でひたすら虐められる話かと思われてしまうかも。やがて兄弟は旅に出て、世界は広がっていくのでご安心を。 | |
兄弟の足跡がそのまま有史前のデイルマークの歴史をたどることになるのよね。 | |
あとは、そうそう、異教徒って言ったから、タナクィたちがなにを信じているのかっていうのにも触れておかないと。 | |
でも、説明しづらいよね。偶像崇拝ってことになるのかな。神の象徴として偶像を崇拝しているんじゃなくて、偶像そのものを神として崇拝しているみたいだったけど、違うかも。子供の説明だから、大人がどういう信仰心を持っているのかちょっとわかりづらかったり。 | |
え、そんなにキッチリ把握する必要があるの? あとに続く物語を考えれば、だいたいのところでわかってればいいと思うんだけど。あとでハッキリわかってくるんだから。 | |
そりゃそうだね。なんか翻訳本を読んでいるうちに、宗教はキッチリ把握しておかなきゃって妙な義務感が身に染みついてしまったみたい(笑) | |
タナクィたちの家の炉のそばのくぼみには、<不死なる者>と呼ばれる三体の偶像が安置されているの。それぞれ<唯一の者><若き者><女神>って呼ばれているけど、本当の名前は別にちゃんとあるみたい。 | |
村のそばに流れる川も信仰の対象といってもよさそうな感じだよね。村人たちはなんだかとても川を怖れているような。もちろん生活に欠かせない水を運んでくるんだから、敬い愛す気持ちがあるのは当たり前だけど、それ以上のものがある感じ。 | |
だいたいまあ、そんなところから物語はスタートよね。そこから旅があり、出会いがあり、戦いがあり、過去だのなんだのの、わからなかったことがわかっていき、大きな物語へと発展していくの。 | |
タナクィが語り手になるんだけど、有史前の話ってことで、ちょっと語り口はかたく、軽やかではなかったかな。ちょっと最後のほうがわかりづらくもあったし。でも、登場人物たちの個性がおもしろかったり、思いのほか大きな謎が秘められていて興味深かったりして、かなり楽しめた。 | |
ここまでの3つのお話では、それぞれの話の主人公が自分の持つ能力というか、魔法の力に目覚めていて、おそらく第4巻ではその力が集結するんじゃないかなと思われるんだけど、このお話のタナクィの力はなんとも不思議な力だったよね。タイトルから織物に関する力なんだなと想像はつくけど。 | |
他の二人の主人公とは生きている時代も違うから、第4巻でどう関わってくるのかってのも気になるよね。最終巻に向けて、期待がグググッと高まるお話でした。 | |