=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「デイルマーク王国史2 聖なる島々へ」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ (イギリス)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】 デイルマーク王国の南部、領主ハッド伯爵の治めるホーランドで生まれた少年アルハミット、通称ミットは、豊かな小作地を与えられた両親のもと、笑いの絶えない暮らしをしていた。 ところが、デイルマーク一非情な男といわれるハッド伯爵は、他国との戦に備えるため、小作地をどんどん上げていき、とうとう一家は小作地から追い出されることになってしまった。一家は港にほど近い大きな共同住宅のひと間で貧しい暮らしをすることになり、 明るかった両親のあいだにも諍いが絶えなくなった。そのうちに父親は<ホーランドの自由の民>という、ハッド伯爵の圧政に抵抗する漁師たちの組織に入った。しかし、ミットの父親を含めた若い組織員たちが、なにか実力行使して、本気だと見せつけてやらなければならないと主張したのに対し、 歳をとった組合員たちは、重い腰を上げようとしなかった。そればかりか、業を煮やしたミットの父親たちが倉庫に火を放ちに行ったとき、どうやら彼らは前もって密告していたらしく、倉庫にはハッド伯爵の兵士たちが待ちかまえていた。このときの騒動で父を失ったミットは、何度も何度も繰り返される母の教えのもと、 ハッド伯爵と密告者たちに復讐することを近いながら、育つのだった。 | |
「詩人たちの旅」に続く、<デイルマーク王国史>四部作の第2作めです。 | |
シリーズ物とはいえ、登場人物はほとんどだぶらず、同じデイルマーク王国の、同じぐらいの時代の話って設定なのよね。 | |
デイルマーク王国は王不在となってから、それぞれ領土を持つ伯爵たちによって分割支配されることとなり、その伯爵たちは北部と南部に分かれ、仲違いしているの。で、北部はわりあいと自由で豊か、南部は圧政を強いられてるんだけど、この物語は、南部のハッド伯爵領ホーランドが舞台。 | |
主人公はアルハミットという少年。父親の名前もアルハミットで、そればかりか、ホーランドに住む男性の大半はアルハミットって名前なのよね。 | |
あるある、現実の地球上でもそういう地域って、と思った。そこに行くと、同じ名前の人ばかり〜みたいな(笑) で、この主人公のアルハミットは、ミットって呼ばれているの。 | |
ホーランド海祭りも、あるある、そういうのって思わなかった? これは年に一回行われていて、ホーランド伯爵ハッドが奇妙きてれつな衣装を身にまとい、”哀れなアミットさん”と呼ばれる、麦わらでこしらえたかかしの人形と、その女房のリビー・ビアっていう、果物だけでこしらえたかかしを海に投げ込むの。そうすると、一年は安泰と言われているみたい。 | |
そのお祭りについては私、ダイアナ・ウィン・ジョーンズがイギリスの人だってこともあって、ガイ・フォークス・デイを連想しちゃったな。あのガイ人形を作って焼くお祭りと、なんか似てる。 | |
ガイ・フォークス・デイなら、起源が明らかだけどね。ホーランドの人たちは、その祭りの由来については忘れてしまっているの。なぜ”哀れなアミットさん”は”哀れなアミットさん”って呼ばれているのか、それさえも覚えていないけれど、とにかく儀式はちゃんとやらないと縁起が悪いみたい。 | |
なんか海に投げ込むってことで、処刑のような雰囲気はあるけどね。だから、ミットはそのお祭りを怖がったのかもしれないけど。 | |
でも、その海に放り込まれた”哀れなアミットさん”を沖で拾うことができると、その船には幸運が舞い込む、とも言われているんだよね。 | |
話がどんどん逸れていっちゃったんで戻すと、ミットはもともと、わりあいと余裕のある暮らしをしている小作農の家で生まれたんだけど、ハッド伯爵のせいで小作地を追われ、漁師たちの住む港町に移り住み、貧乏暮らしをすることになるんだよね。 | |
で、父親は反乱組織<ホーランドの自由の民>に入るんだけど、帰らぬ人となり、ミットは幼い頃から母親に、復讐を誓わせられながら育つことに。 | |
このミットの話とともに、もうひとつの家族の話も出てくるんだよね。ハッド伯爵には3人の息子がいるんだけど、3番目の息子ネイヴィスの娘ヒルドリダと、息子のイネン。 | |
母親は、イネンを産んだあと、亡くなっちゃったんだよね。それ以来、ネイヴィスはやもめ暮らしで、兄2人がいるから、自分がハッド伯爵のあとを継ぐ可能性もほとんどなく、ひっそりと覇気のない生活を送ってるの。 | |
ヒルドリダは覇気がありすぎるって感じだったけどね(笑) かなり気が強い女の子で、父親も手を焼いているみたい。弟のイネンは子分のようだし。 | |
そのへんは、「詩人たちの旅」のブリッドとモリルに凄く似てたよね。勝ち気で、自分が賢いと思っているけど、じつはそうでもない姉と、いつも姉と一緒に行動するおとなしい弟、でも、弟はじつは姉より思慮深い。 | |
うん、どっちの姉も、ちょっと読んでて痛々しいよね。ダイアナ・ウィン・ジョーンズって、女の子にたいして、こんなに手厳しい人だったっけ?と思ってしまった。男の子にはやさしいのに。 | |
それはともかく、ヒルドリダはまだ9才なのに、戦略上の理由から、<聖なる島々>の領主と婚約させられちゃうのよね。 | |
そんなことでめげないで、<聖なる島々>がどんなに素晴らしいところか本で調べたり、そのことを楯にとって父親に、自分とイネンのために帆船を買わせたりするけどね。 | |
さてさて、まったく違う暮らしをしている子供たちは、いったいどうなっていくのかって話なのだけど、正直言って今回は、とくに前半が暗いし、テンポも鈍いしで、前の「詩人たちの旅」みたいにサクサクは読めなかったな。後半になっても、ミットにもヒルドリダにもイネンにも、あまり情が移らなかったし。 | |
前半は少年ミットが、圧政を強いられた港町でする貧乏暮らしを細やかに描写してあったからね。「詩人たちの旅」みたいな開放感やスピード感はなかったかな。でも、ラストではこれからどうなっていくんだろうとかなり期待させられたし、 もしかしたら、特殊な力を持った子供たちが最終的には集合するのかな、なんて気になったりもして、この四部作じたいへの期待は衰えなかったけどね。 | |
うん、まあ、四部作だから、こういう話も含まれていてしかたないのかな。後半のほうになると、おお、これはこう繋がるのか〜、あらま、まったく意味のなさそうなところに意味があったのね、みたいな、ダイアナ・ウィン・ジョーンズらしい驚かせはいくつかあったし、これはこれで悪くはないんだけどね。とにかくこの四部作、最後はどうなるのか楽しみっ。 | |