すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「幸運の25セント硬貨」 スティーヴン・キング (アメリカ)  <新潮社 文庫本> 【Amazon】
スティーヴン・キングの10年を総決算する傑作短編集”Everything's Eventual: 14 Dark Tales”に収録された14の短編小説のうち、日本では先に単行本として出版された「ライディング・ザ・ブレット」を抜いた、13編を「第四解剖室」「幸運の25セント硬貨」の2分冊で邦訳出版。
なにもかもが究極的/L・Tのペットに関する御高説/道路ウイルスは北にむかう/ゴーサム・カフェで昼食を/例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚/一四〇八号室/幸運の25セント硬貨
にえ さて、「第四解剖室」に続いての短編集ですが、こちらには7編を収録。
すみ こっちはスティーヴン・キングらしいなと感じる短編ばかりだったかな。かなり内容的にも充実してるって感じで。
にえ まあ、もとは1冊の短編集なんだから、あっちがこっちがと言うのも変な話だけどね。正直なところ、私は短編集ってことで、ふだんの長編とはまったく違ったテイストの、え、 スティーヴン・キングってこういう小説も書くんだ、みたいなものとか、実験的なものとか、そういう短編ならではのものを期待してたんだけど、それはなかったかな。
すみ う〜ん、どっちかというと、正統派のキング作品ってものが揃ってたよね。名前を聞いてきたいしたとおりの内容ってところで。ただ、表題作の「幸運の25セント硬貨」はグッときたけど。 個人的にはこういう作品がもう2つ3つあったら、大絶賛しちゃってたんだけど。
にえ うん、私も2冊に収録された13編のなかで、「幸運の25セント硬貨」が1番好きかな。次は「黒いスーツの男」と「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」。
すみ それにしても、正統派のキング作品っていうのはいいとして、短編小説だからもうちょっと捻りを利かせていたりとか、小話的なものが多いかと思ったけど、 それもまた長編小説とあんまり変わらないかなって気はしたね。
にえ つまりは、キングらしいキングが読みたいって思ってる方や、これから読もうかなって方に良いんじゃない。なんか私は短編にしてはモッサリ感があるものが多い気がしたけど。
すみ 短編集だけど、長編の味わい、かな。ピリッとスパイスがきいてはいなかったけど、さすがの秀作揃いってことで。
<なにもかもが究極的>
19才、高校を中退してスーパー、ピザ配達のアルバイトを経て、ディンキーはようやくいい就職先にありついた。今度の仕事は家を与えられ、生活に必要なものすべてを与えられ、 掃除も食事の準備もしてもらい、ダラダラと暮らすだけで週に70ドルももらえる仕事だ。
にえ これも<暗黒の塔>シリーズにつながるものなんだけど、「エルーリアの修道女」みたいな、モロにその世界のものではなくて、「アトランティスのこころ」の上巻のような、 ちょっと匂わせるだけで、気にせず読めるお話。
すみ <暗黒の塔>シリーズを読んでいない私としては、「ファイアスターター」を思いだしたな。超能力者の苦悩をやさしく描いてるって感じで。
にえ いい意味で、長編小説並みの味わいがあったよね。主人公ディンキーの、幼さの残る19才の青年の語りで話が進んでいくんだけど、けっこうイジメられっ子で、コンプレックスが強くて、 ついホロッと来ちゃいそうになる子なの。
<L・Tのペットに関する御高説>
L・Tは愛する妻に仔猫をプレゼントした。妻はL・Tに仔犬をプレゼントした。それが二人の別れる原因になるとは、思いもよらなかった。
すみ これはユーモアたっぷりに書かれた、ペット好きの心理をうまくついたお話。
にえ L・Tは奥さんに仔猫をプレゼントしたけど、奥さんと猫はソリが合わず、L・Tが溺愛することになり、奥さんはL・Tに仔犬を贈ったけど、L・Tとその犬はソリが合わず、 奥さんが犬を溺愛することになるのよね。
すみ ペットと飼い主の相性ってあるよね〜。犬がああした、猫がこうしたって話がたくさん出てくるんだけど、犬も猫も飼ったことのある私としては、たしかに犬ってそうよね、とか、たしかに猫にはそういうところがある、とか、頷くことばかりだった。
<道路ウイルスは北にむかう>
人気ホラー作家リチャード・キンネルは国際ペンクラブのニューイングランド支部大会に出席したあと、ガレージセールに立ち寄った。 そこで琴線に触れる絵に出会ったことが、恐怖の始まりになってしまうとは。
にえ これは一枚の絵がもたらした恐怖のお話。自殺した青年が描いた不気味な絵は、ただの絵ではなかったのよ。
すみ 主人公のリチャードが、妙にスティーヴン・キングと重なるところが多くて、ファンとの会話とかに実体験も盛りこんでるな、とニヤリとさせられた。
<ゴーサム・カフェで昼食を>
証券会社に勤めるスティーヴンは、突然出ていってしまった妻と離婚の話をするため、互いの弁護士とともに、ゴーサム・カフェで待ち合わせをした。
にえ これもホラーらしいホラー。悪魔が取り憑いたみたいに、ぶっこわれた男に追い回されることになるという、キングの作品で似たのを挙げだしたら、キリがないような。
すみ 短編だからかもしれないけど、なぜぶっこわれたかっていう理由がまったく書かれてなくて、いきなりぶっこわれちゃったところがとてもおもしろかったな(笑)
にえ そうそう、ぶっこわれた男のセリフがおもしろかったよね。なんだそりゃって感じで。
<例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚>
結婚25周年で夫と豪華な旅行に出たキャロルは、ホテルまでのドライブ中、強烈な既視感に襲われた。
すみ これはメビウスの輪をぐるぐるとめぐりながら、既視感に悩まされているような女性のお話。
にえ 単純におもしろいと思ったな。私もデジャヴが多いのよ。まあ、だいたいは前に来たことがあるのに忘れてるせいなんだけど(笑)
<一四〇八号室>
怪奇現象が起きる場所での実体験を書いた本がすべてベストセラーになっているマイク・エンズリンは、新しい本の取材のため、ドルフィン・ホテルの1408号室を予約した。
すみ これは正統派ホラー。ホテルの一室でさまざまな怪奇現象が起こり、長い歴史の中で驚くほど多くの人たちがその部屋で死ぬことになってしまったというのに、取材のためにその部屋に泊まる作家・・・。
にえ 部屋の怪奇現象じたいより、泊まるなって止める支配人の話のほうがおもしろかったりするんだけどね。これがやたらと長いの。
すみ その部屋を忌み嫌っているというより、かなり気に入っているって感じだったよね。止めるより、自慢しているようにも思えてしまった。
<幸運の25セント硬貨 >
ホテルの客室係ダーリーンは、322号室の客が置いていったチップにがっかりした。25セント硬貨一枚っきり。でも、ダーリーンはすぐに楽しい話にすり替え、笑顔を見せる。そういう性格だったから。
にえ 女手一つで娘と、病弱な息子を育てるため、働きつづけるダーリーンは、いつも笑顔を絶やさないけど、娘の歯列矯正とか、息子の欲しがってるゲーム機のこととか、お金のかかる悩みをタップリ抱えてるのよね。
すみ 読み終わってウルウルッときちゃったな。ちょっと切なく、いいお話だった。