『・・・・なんっだありゃ』


 俺と見知らぬ兄ちゃんの声が見事にハモったのは、ちょっとだけ行列ってた銀たこの前。俺は銀たこ買って振り向いた瞬間、兄ちゃんは俺の前に銀たこ買って、入口横のベンチで喰いつつ発見…なカンジで見事にハモって、同時にお互いを見た。
 
 「・・・・アンタ、誰?」
 「そっちこそ、誰?」
 「つか、あのオンナとどーいう関係なんだよ?」
 「って聞かれるなら、俺も聞きたいけど、あのオトコとどういう関係? 友達?」
 『・・・・・・・・』

 誰だよ、何だよっ、どういう関係だよっっ。
 ハモリ、かぶり…、はぁ?とお互いに首をかしげ、視線を問題の場所へと向ける。
 すると、そこには銀たこ買ってる俺を待ちつつセッタふかしてた久保ちゃんと、久保ちゃんにやたらと馴れ馴れしく話しかけつつベタベタしてるオンナがいた。
 なんっっだありゃっ。
 俺サマが銀たこ買ってる間に、オンナくっつけてるとか、一体どういう了見だっ!
 ムカムカムカムカ…っ! むかつくーーっ!!
 ベタベタしてるオンナを振り払う気配もない久保ちゃんを見た俺はベンチに、ハモリ男の隣にドカッと座る。そして、買ったばっかの銀たこを開けて、むしゃむしゃ喰い始めた。
 フン…、久保ちゃんの分まで喰ってやるっ。
 ぜってぇやんねぇっっとか思ってると、横のハモリ男がため息をついた。

 「まぁ、誰でもどういう関係でも、今の俺には関係ないんだけどさ…」
 「今の俺…?ってコトは、もしかして、今じゃなきゃ関係あんのか?」
 「・・・およそ、30分前くらいまでならな」
 「はぁ? 30分??」
 「実はあそこで眼鏡にくわえタバコの男に話しかける女と、30分前に別れたんだ、俺。それで、何となく銀たこ好きだしヤケ食いするかーって来てみたら、目の前にアレ」
 「…で、なんだありゃ?」
 「そう、なんだありゃってなるだろ? 普通」
 
 30分前はコイビトで、今は元コイビト?
 だから、なんだありゃってなっても、ヤケ食いがせいぜいってハモリ男は言った。
 だけど、久保ちゃんとオンナを見るハモリの目は…、そうは言ってない。
 でも、そういう風に付き合ったりしたコトねぇから、なんかわかるようで、わかんないカンジ。俺もハモリも銀たこ喰いながら、ムカムカしてんのは同じっぽいけどさ。
 なーんて思ってると、こっちを見た久保ちゃんとバチッと目が合った。

 「フン…っだ!!」

 この色ボケ眼鏡野郎っっ!!!!
 目が合った瞬間、そう心の中で思いっ切り叫び、思いっ切り顔を背けてやったっ!
 そして、そのまま銀たこを喰うっ、ひたすら喰うっ!!!
 けど、ハモリの方の手は、いつの間にか止まっちまってて…、
 どうしたんだろってハモリを見ると、久保ちゃんとオンナじゃなくて銀たこをじっと見てる。
 でも、見てるのに見てないっつーか、なんか…、うん…。

 「・・・好きなんだな」

 30分前に別れたっつってた。
 だけど、別れたくて別れたんじゃないって、銀たこ見てる横顔でわかった。
 だから、思わず言っちまった。
 そしたら、ハモリは笑って右手で顔を撫でて、はーって大きく息を吐き出した。

 「けど、そういう気持ちって長続きしないだろ…。別に嫌いになるっていうんじゃなくてさ、ずっと傍にいて顔突き合わせてる時間が長くなればなるほど、好きは好きでも何か違ってくるし…」
 「なんか違うって、でも好きは好きなんだろ?」
 「そうだけど、初めより薄くなってくるっていうか、弱くなってくるっていうか…。うーん、何か言葉にするのは難しいけどな。今はまだ別れるつもりなかったけど、そういう予感は確かにしてた」
 「とかって、フラれるんじゃなくて、フル予定だった…って、自分に言い聞かせてんのか? ソレって好きとかどうとかってんじゃなくて、プライドってヤツの問題じゃねぇの?」
 「・・・・・っ」
 「図星」
 「嫌なトコ、ぐっさり突くなぁ」
 「俺様の得意技はカウンターで、一撃必殺だかんな」
 「格ゲーかよっ」
 
 好きなヤツがいたら、告白とかして付き合って…。
 でも、好きだったはずなのに、だから付き合ったはずなのに別れる。
 横で俺の一撃必殺喰らったハモリが言ったみたいに、ずっと…、そばに居て顔突き合わせてると好きじゃなくなってくるなんてさ、やっぱ俺には良くわかんねえけど…、
 もし、ホントにそうなら、どうすりゃいいってんだろ。
 好きだから近くに居たくても、近くに居過ぎたら…、キモチが弱くなる。
 薄くなって弱くなってきて、キライにはならないけど…、別れる。
 ベツにもっと好きなヤツが出来たから…って、そんなんアリかよって思ってっと脇腹にゴスッとハモリの肘が当たった。

 「…っ! いってぇ、何すんだよっ」
 「今、ものすっごい睨まれた」
 「・・・は? 睨まれたって誰が?」
 「俺がっ」
 「誰に?」
 「眼鏡にくわえタバコの男!」
 「はぁ? 久保ちゃん?」
 「なんかアレっ、めちゃくちゃ殺気がこもってたぞっ」
 「…って、何か殺されそうになるコトやったのか?」
 「んなワケねぇだろ、今、見ただけで話した事もないのにさっ」
 
 そうハモリに言われて、久保ちゃんの方を見る。そしたら、久保ちゃんはこっちじゃなくて、あさっての方向見ながらセッタふかしてた。
 そんでもって、相変わらずオンナもくっつけてるっ。
 なんなんだっ、たくっ!!!
 ばくばく喰いまくってたら銀たこも無くなっちまったし、そろそろ帰りてぇけど、オンナくっつけてる久保ちゃんなんかと誰が帰ってやるもんかってカンジだしっ!
 けど・・・、ハモリの言ったコトが妙に気になって落ち着かない気分になる。
 ちくしょうっっ、なんで俺ばっかっ!
 そんなカンジにココロん中でムカツク連呼してると、いつの間にか俺と同じように銀たこを完食したハモリが座ってたベンチから立ち上がった。

 「さてと、喰い終わったし、俺はそろそろ行くわ」
 「行くって…、マジでいいのか?」
 「銀たこ喰ったら吹っ切れたし、アイツ見習って、俺も新しい可愛い彼女探すよ。いつまでも、くよくよしてても何も始まらないしな」
 「・・・・・・・」

 くよくよしてても、何も始まらない…。
 確かにそれはそうだと思う…けど、なんかスッキリしない、なんか胸ん中がもやもやする。そのせいか、じゃあなって立ち去るハモリに何も言えなかった。
 俺とは逆に、妙にスッキリしたカオしたハモリは、さっきまでヤケ食いしてたヤツと同一人物には見えない。俺はハモリじゃねぇから、ホントんトコはわかんねぇけど…、マジで新しい彼女をすぐに見つけて来そうなピンと伸びた背中と軽い足取りが、らしくなく、胸の奥に引っかかって取れなかった。

 「・・・理由はなんでも、とにかくフラれたワケだし、前向きなのは良いコトじゃん」

 俺がそう呟くと、フラれたって誰が?…と近くから聞き慣れた声がする。
 それが誰かなんてのは、見なくてもわかる。
 遠くたって近くたって、見間違えたりしない。けど、どうかしたの?…と頭に伸ばされた手を、俺は反射的に左手で叩き落としていた。
 
 「・・・・・っ! 悪りぃ、先帰る!」

 ホントはこっちに久保ちゃんが来たら、何やってんだってスパーンと頭を一つ叩いてオワリ。たぶん、そんくらいのコトだったはずだ。
 だけど、何がどうなっちまったのか、自分でもワケがわからないままに走り出す。叩き落とされた手で俺の腕を掴もうとする久保ちゃんを振り切るように、ガムシャラに走った。
 けど、そんなコトしたって、どーせ俺らの帰る場所なんて一個しかねぇのに…、
 バカみてぇだってわかってんのに、俺はマンションに帰り着くまで止まれなかった。
 
                                   『吊り橋 前編』 2011.4.6更新

後 編
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