俺達が到着したホテルには夜ほどではないが、人の出入りがある。しかし、俺と時任はホテルではなく、通りを歩く人間を注意深く観察し、不審な人物がいないかどうかを調べていた。
 俺達と同じように二人を追い、ここまで来た人物がいないか…、
 二人がホテルから出てくるのを、待っている人物がいないかどうかを…。
 その人物は橘達がホテルに入った時点で帰った可能性もあるが、俺はまだ、この周囲にいる可能性の方が高いと睨んでいる。それは追っている対象である橘と誠人が、一筋縄ではいかない人物だからだ。
 そして、必要以上に興味を引かれる二人でもある。
 そう…、冷静になって考えれば、色々と見えてくるものがあった。
 読めなかった橘の思考も行動も、今なら読める気がする。俺は今日の橘と誠人の行動を再度思い出しながら、周囲に鋭い視線を送っている時任の横顔をチラリと見た。
 「どうだ? 見つかったか?」
 「まだ、見つかんねぇ…」
 「そうか…、だが必ず居るはずだ。ホテルの周囲に不審な人物がいないかどうか、引き続き警戒してくれ…、いや、警戒を頼む」
 「了解」
 時任にいつもの命令口調で言いかけ、今はプライベートだった事を思い出して頼むと言いかえてみる。すると、引きしめられていた時任の口元が少し緩んだ。
 だが、それは一瞬だけで、すぐに緩んだ口元が引きしめ直される。時任はいた…と短く呟くと、潜んでいた物陰から飛び出し、いきなり走り出した。
 「ちょっと待てっ、一人で行動するな!」
 俺は走り出した時任の背中を向かって、そう言ったが、やはり止まらないか…。どこまでも真っ直ぐな時任は、走る時も真っ直ぐだ。
 真っ直ぐで…、しかも早いっ。
 だが、相手も何かスポーツでもしているのか、それとも必死に走っているせいなのか早かった。このままでは、運が悪ければ逃げられてしまうかもしれない。
 俺は時任が追う相手の姿を目で確認すると、二人が走る方向とは別の方向へと向かって走り出した。

 「貴重な休日に映画を鑑賞後、マラソン…、受験生のする事じゃないな」

 苦笑混じりに、そう口に出して呟いても立ち止まる気はない。
 必ず捕まえると…、その誓いを果たすまでは…っ。
 俺は周囲の不審な気配に眉をひそめながらも頭の中で、ここからの逃走経路をシュミレートし近道を走り抜け、追っている人物の後ろではなく、前に立ちふさがるように回り込む。すると、前から来た俺と後ろから追う時任の間で、一人の男…、いや、高校生が立ち止まった。
 しかも、制服は着ていないが、間違いなく荒磯の生徒。
 同学年ではなく二年だが、顔に見覚えがあった…。
 「お前は確か、仁科だな?」
 俺が名前を呼ぶと、仁科の肩がビクッと怯えたように揺れる。
 そして、何かを確かめるように、右手で右のポケットに触れた。
 「な、なんで…、俺の名前…っ」
 「私は全校生徒の名前と顔を記憶している」
 「・・・・・・・っ!!」

 「だから、逃げても無駄だっっ!!!」

 嘘も方便…、本当は全校生徒の名前など覚えていない。
 しかし、時任と俺に挟まれ、名前を呼ばれた仁科は俺のセリフの効果もあってか、怯えた表情でアスファルトの上に膝をつく。だが、そう叫んだ俺の視線は仁科ではなく、時任の後ろの物陰に潜んでいる影を捕らえていた。
 そうだ…、こうでなくては…、
 こうでなくては誠人と組んでまで、茶番を演じた甲斐が無いというモノだ。
 なぁ、橘…。
 しかも、こんな茶番に引っかかってくれる輩など、小物に決まっている。
 そして、やっている事もおそらく下の下だ。
 そんな輩のために、貴重な休日の貴重な時間を潰さなくてはならなかったとは、実に腹立たしいが、だからこそ放っては置けない。それに、なぜ橘が執行部に任せようとしなかったのか、その理由と可能性を考え思い浮かべると…、
 俺自身の手で、悪事を暴き叩き潰してやりたくてたまらなくなった。
 
 「出て来たくないのなら、こちらから行ってやろうか?」

 俺は影に向かってそう言いながら仁科に近づき、黙って右手を差し出す。すると、仁科は怯えた表情で、俺の右手にポケットの中に入れていたものを乗せた。
 ・・・・・・やはり、デジカメか。
 俺は自分の考えが間違っていない事を確認するために、映っている画像を素早く確認する。すると、やはり画像の中に橘と誠人が写っているものがあった。
 映画館のロビー…、上映前の館内…
 ここに来るまでの風景…、
 そして、誠人の肩に手を置いて、まるで誘うようにホテルに入る橘…。
 これらはすべて演技だと…、そう理解してはいるが…、
 
 ・・・・・・・・・・・・デジカメごと滅してやろうか、このタラシ野郎っ。

 そんな風に思いながらも、俺は他の画像もチェックする。すると、俺が思った通り橘と誠人だけではなく、俺と橘、そして時任と久保田の画像…、他にも色々と写っている…。
 しかも前の写真と同じように、二人の関係が疑わしく思われるような画像ばかり…。俺はその画像を時任に見せるべきかどうか少し迷ったが、俺にも見せろと時任がカメラを覗き込んで来たので、隠さず見せる事にした。
 「これを見れば、相手の狙いは明白だ」
 「って、久保ちゃんと橘のはアレだけど、後のは結構フツーだろ」
 「普通…? 普通に見えるのか、コレが?」
 「べっつにあやしくねぇじゃんっ」
 「時任…、視力はいくつだ?」
 「イッテンゴ、つーかっ、俺は目なんか悪くねぇっっ!!!」
 …と、時任は言うが、俺から見ると時任と誠人の画像は決定的な場面こそ写ってはいないものの、どう見てもあやしい。いや、二人があやしいというよりも、時任を触る誠人の手や…、誠人の視線があやしい…。
 ただ、見つめ合っているだけなのに、なぜこんなにも恥ずかしいんだっ。
 あまりの恥ずかしさに…、ちょ、直視できんっっ。
 し、しかし、それよりも問題なのは、そんなあやしい誠人の行動を相方なら当然だと、普通だと時任が思っている所だな…。
 
 「・・・・・・・・誠人のヤツ、一体どういう教育をしてるんだ」
 「…って、なんで俺が久保ちゃんに教育されなきゃなんねぇんだよっ!」

 俺達がそんな会話をしている間、影は動かず観察するように、こちらを見ている。デジカメを押収され、悪事の証人を捕獲された時点で逃げ出すかと思ったが、そうしない所を見ると、やはり・・・・・、だな。
 顔を覚えているという俺の発言を聞いて、仁科のように観念したわけではない。それでも、動かず逃げ出す気配がないのなら、こちらから行く必要はなさそうだ。
 そう判断した俺は軽く息を吐いて、いつの間にか入っていた肩の力を抜く。そして、押収したデジカメを落ちないように、自分のポケットの中に押し込んだ。
 「時任…」
 「言わなくても、わかってる。だから、こっちの心配はすんな」
 「そうか…。そう言えば、時任は無敵だったな」
 「…ったりめぇだ。天下無敵の美少年な俺様の向かうトコロ敵ナシに決まってんだろっ」
 「ならば、大船に乗った気分で行かせてもらうとしよう」
 「いいぜ。大船じゃなくて、宇宙船にでも乗った気で行けよ」
 大船に対して、宇宙船。
 予想外の答えに、俺は思わず声を立てて笑う。すると、時任は少しムッとした顔をしたが、すぐに笑顔になって俺と一緒に声を立てて笑い出した。
 実は仁科を捕らえ、主犯と思われる影を追い詰めたが…、
 実際に逃げ場を失っているのは、俺達の方…。
 おそらく、ホテルから出てきた橘と誠人を捕らえるため、自分の手の者を周辺に配置していたのだろう。俺達は仁科を逃げられないよう囲んだ時点で、そいつらに囲まれてしまっていた。
 そして、俺も時任も仁科を追いかけていた時、すでにそれに気づいている。それでも、仁科を追い捕まえたのは、俺達のために自らを犠牲にした橘と誠人の行動を無駄にしたくなかったからだ。
 そして、なによりも…、コイツらの人の想いを土足で踏みにじるような行為が、その卑劣さが許せなかった。

 「たとえ何人集めようとも、お前達に勝機はない。自分のためを思うなら、これ以上、悪事を重ねず無駄な抵抗はしない事だ」

 周囲を囲む不穏な空気を感じながら、俺はいつもと変わらない口調でそう言う。すると、影は嫌な笑みを浮かべながら、ようやく俺達の前に姿を現した…。
 「無駄な抵抗…か。そのセリフは、もっと周りを見てから言った方がいいと思うけどなぁ。気づいてないみたいだから教えるけど、アンタは俺の仲間に囲まれてるんだぜ?」
 そんな事は言われなくても知っていたが、あえて言わずに相手の様子を伺う。時任が何か言いたそうにしていたが、軽く右手を上げて止めた。
 やっと判明した影の正体は、同学年で俺と同じクラスの赤城…。
 だが、赤城は成績も優秀で、今までこれといって問題を起こした事はないはずだ。何度か話した事もあったはずだが、こんな事をするヤツには見えなかったし、思えなかった…。
 「なぜだ、赤城」
 俺がそう言うと、赤城が不気味に低く笑う。そして、ゆっくりと歩いて俺に近づき、まるで毒を吐くように俺に向かって叫んだ。

 「気持ち悪いんだよ、ホモ野郎っ!!」

 ・・・・・・・・・そう叫ばれて、ちょっと驚いた。
 だが、本当はそう思うのが普通なのだろう…、別に驚く事ではない。しかし、こう正面切って言われると、なかなか…、ショックではある。
 今さらだが、俺と橘のとの関係は世間では受け入れられない種類のものだという事を改めて思い知らされた気がした。自分の橘への気持ちを認めてはいるが、ホモと言われるのにはやはり抵抗がある。
 ホモと呼ばれた瞬間に、橘との事を微塵も後悔しなかったとは言えない。俺の心の奥で橘への気持ちと、ホモというレッテルを貼られてしまう事への恐怖がせめぎ合っている。
 こんなに、お前の事が好きなのに…、なぜだろうな…。
 なぜ、俺はいつも…。
 そして、そう思いながら、俺はそんな風にしか思えない自分自身に苛立ちと腹立たしさを感じている。ずっと、お互いの事や家族の事を考え、近い将来、離れなくてはならないと心のどこかで考え続けてきたが、赤城の言った言葉にショックを受け、橘との関係を後悔してないと否定できない俺は…、
 結局、ただ恥じているだけだ。
 橘へと向けられた自分の想いを、橘との関係を恥じ、現実を見つめているつもりで、逆に現実から目を背け逃げようとしているだけだ。
 俺はポケットに入れたデジカメを上から軽く撫でると、現れた赤城の仲間を睨みつけている時任の横顔を見る。
 そして、宇宙船に乗った気分で空を見上げた。
 「言い訳なんて、考えるだけ無駄だぜ。アンタがホモだって証拠は、すでに掴んでるからな」
 「・・・・・・・・・」
 「ふん…、さすがの生徒会長様も言い訳すら思い浮かばないみたいだな。しかも、自分の男を同じ男に寝取られたなんて、泣きたい気分だろ?」
 「・・・・・・・」
 「泣きたきゃ胸を貸してやってもいいんだぜ? デジカメをこっちに渡して泣いて許しを請えば、アンタだけなら見逃してやってもいい。橘の野郎は他の奴らと同じように、今日から俺の奴隷になってもらうけどな」
 ・・・・・・・・俺に泣いて許しを請えと赤城は言う。
 そうすれば、俺だけは見逃してやると…、
 だが、そんな事をしなくてはならない理由が、一体どこにある。
 俺は橘が好きだというだけで、校則違反や犯罪を犯した覚えはない。好きで恋人として付き合っているだけで、お互いに他の相手はいないし、当然、結婚もしていないから不倫でもない。
 なのに、その想いを証拠に脅されたりするのは、俺達が男同士だからか…、それだけの理由でポケットに入っているデジカメに写っている者達は、こんな卑劣な男の奴隷に成り下がらなくてはならなかったのか…。

 それは俺の想いが…、俺達の想い自体が罪だからなのか…。
 
 認めたくない現実と、俺に向けられた冷たい視線。
 しかし、俺は死んでも赤城の前に膝を折る気は無い。たとえ、俺達の想いが罪だとしても誰にも、神にも悪魔にも許しを請う気は無いっ。
 もし、俺が自分の想いについて許しを請わなくてはならない相手がいるとしたら、それはこの世でたった一人…、橘だけだ。
 だが、俺がすまないと許しを請えば、橘はきっと俺に許しを請われるような事をされた覚えはないと首を横に振り微笑むだろう。だから、俺は泣かず口元に笑みを浮かべ、自分よりも少し背の低い赤城を上から見下ろした。
 「俺がホモだとして、それがどうした?俺は橘が好きだという事を恥じるつもりはないし、卑劣なヤツの前に跪く気もない。己を恥じ跪かなくてはならないのは、俺ではなく、人の想いを踏みにじり悪事に手を染めた貴様の方だ」
 俺がそう言うと、赤城の怒りに満ちた顔が醜く歪む。
 その顔を観察するように冷静に眺めながら、俺は笑顔を浮かべたままで、ふと思い出したように赤城の言った言葉を訂正した。
 「あぁ、そう言えば勘違いしているので訂正しておくが、橘は浮気などしていない。あれは、お前達をおびき出すための演技だ。せっかく、俺に泣けと胸を貸してくれようとしたのにすまないな、赤城…。俺は男の胸で泣く趣味はないんだ」
 「・・・・・・・っ!!」
 俺の言葉に赤城の顔は、怒りと屈辱に真っ赤に染まっている。
 そんな赤城を見て、時任は腹を抱えて爆笑していた。
 「そりゃそうだ…っ。俺もねぇよ、そんなシュミっ」
 「だろう?」
 笑う俺達の上には、晴れ渡った青い空。
 そんな空の下で、気が遠くなるような可能性と偶然が重なって出会い、お互いを大切に想う俺と橘に恥じるような事は何もない。たとえ他の誰にも認められなくても、俺が認めているのなら、お前が認めてくれるなら、それだけで十分だ。
 そうだ…、それだけで十分だった。
 なのに、俺はこれから先の事を考えた事がなかった。
 別れる事がお互いのためだと…、それしか考えず思わなかった。
 だが、橘はそんな俺と同じ大学に行くと言った。
 ずいぶんと遠回りしたが、今、やっと同じ大学に行きたいと言った橘の気持ちがわかった気がする…。本当の、橘の気持ちが…。
 俺はすぅっと息を吸い込んだ後、胸の奥に溜め込んでいた想いを吐き出すように唇で言葉を紡いだ。
 「俺は橘が好きだ…。そして、その想いには一点の曇りも無い。だから、この想いは弱点ではなく、最大の武器になる。どんな手を使おうと何をしようと、この想いの前に、人の想いを踏みにじる事しかできない貴様など敵ではないっ」
 「・・・・・なら、てめぇらがホモってる写真をバラ巻いてやる」
 「やりたければ、勝手にやればいい。カミングアウトする手間が省けるだけだ」
 そう言い切った俺に、赤城が凶悪な表情でやっちまえっと大声で叫ぶ。たが、それは俺ではなく、周囲を取り囲んでいる仲間に向かって言った言葉だった。
 赤城の仲間の正確な人数はわからないが、何人来ようと俺も時任も決してひるまない。そして、それは負けを覚悟しているからではなく、勝利を確信しているからだ。
 「いくぜっ、松本!」
 「あぁ、宇宙船に乗った気分でな!」
 宇宙船に乗った最強の俺達は二人で、襲いかかってくる奴らを迎え撃つ。
 迎え撃ち、次から次へと粉砕していく。
 しかし、そんな中、俺の背に追い詰められた赤城の殺意が向けられた。
 
 「松本…っっ!」

 それに気づいた時任が、こちらに向かって走ってくるのが見える。
 だが、俺は意識を後方ではなく、前方だけに集中していた。
 前方から襲い来る火の粉を振り払い、決して後ろは振り返らず…、
 赤城ではなく、別の気配を感じて口元に深く笑みを刻む。
 もう、そろそろ…、来る頃だろうと思っていた。
 アイツは何があろうとも、俺の背に刃が突き立てられるのを許す男じゃない。それは、俺の背中を守る事ができるのは、自分だけだと知っているからだ。
 橘の背中を守る事ができるのが、俺だけしかいないように…。
 
 「遅いぞ、橘」

 赤城の握りしめたナイフが俺に到達するまで…、あと5センチ。
 そんな赤城のナイフを止め、腕を掴み捻じり上げている橘に向かって、俺は笑みを浮かべたままでそう言う。すると、橘は赤城の握りしめたナイフを手刀で叩き落とし、俺の耳に唇を近づけ…、愛を囁くように今の状況を報告した。
 「赤城によって収集された画像、写真、そのほとんどを僕と久保田君の手により押収完了しました」
 「なるほど、赤城の自宅はこの付近にあるという訳か」
 「えぇ、ホテルに入ったフリをした後、駐車場の車で赤城の自宅へ…。夜間はセキュリティ、昼間は人の出入りが激しく見張りもいて入り込めなかったのですが、僕と久保田君が誘い出した赤城達を、貴方がこちらに引きつけていてくださったおかげで、ずいぶんと助かりましたよ」
 「そうか…。だが、もしも今回の件に俺が気づかなかったら、お前はどうするつもりだったんだ?」
 報告を受けた俺がそう問いかけると、橘は赤城の手から落ちたナイフを踏み微笑む。そして、俺ではなく赤城に向かって、その答えを言った。
 「僕の事を誰よりも知る貴方が、気づかないなんてあり得ませんよ。それに、僕はいつも二人の、愛の力というのを信じてますから…」
 「何が愛の力だっ! この…っ、ヘンタイホモ野郎っ!!!」
 匂い立つように臭い橘の答えに、赤城が吼え食ってかかる。しかし、橘は余裕の表情で、自分に倒されアスファルトの上に這いつくばる赤城を見下ろした。
 「バカというヤツがバカだと、子供じみたケンカの時に良く使う言葉がありますが、どうやら貴方にもそれが当てはまりそうですね、ホモ嫌いの赤城君」
 「あ、当てはまるって何がだ…っ!」
 「ホモというヤツがホモ」
 「・・・・なっ!!!」
 「異性ではなく、同性に抱く恋心を嫌うのは貴方の勝手です。誰しも好き嫌いというのは、必ずありますから…。ですが、実は自分自身が嫌っているはずのホモだという事実を隠すために、他人に八つ当たりするのは関心しませんね」
 「フンっ、いい加減な事言って動揺させようったって、そうは行かないぜ。俺がホモだって証拠が、何かあるのかよ? ねぇだろ?」
 「ふふふ…、証拠ならありますよ。貴方の部屋を捜索した時、とてもおもしろいものを見つけたのですが…、見たいですか?」
 「警察に通報してやるっ!」
 「別にかまいませんよ。警察が捕まえるのは、部屋に指紋も何の証拠も残していない僕ではなく、どうせ手に入らないならと恋した相手を刺そうとした貴方の方でしょうから…」
 「・・・・・っ」

 ・・・・・相手が悪かったな。

 赤城に向けられた言葉に、それを否定しない赤城に引っかかりを感じたが…、あえて考えずに赤城を黙らせた橘を眺めて、俺はそう心の中で呟く。
 幼い頃から父親に武術を学んでいる橘相手に素手で戦いを挑んでも勝てないだろうが、それは口でも同じ事だ。
 ケンカをした事は今までないが、俺も橘に勝てた試しがあまりない。
 橘と対等にやり合えるのは、俺達の近くで戦う時任をのほほんと眺めながら、時任が避け切れない攻撃をしてくる相手だけを選び、蹴り飛ばしている誠人だけだろう。そして、そんな誠人の心を奪った時任は、やはり最強で…、
 つまり、赤城の最大のミスはヘタな芝居に誘われて、のこのこと出てきた事ではなく…、俺達を敵に回してしまった事だった。
 俺自身も、あの三人を敵に回すなど、まっぴらゴメンだ。
 どんな手を使ったとしても、まったく勝てる気がしない。
 なにしろ…、愛の力は最強らしいからな。
 そう、橘並みの臭いセリフを思い浮かべ小さく笑う。
 そして、背筋を伸ばし顔を引きしめると、俺は荒磯に通う生徒達を束ねる生徒会の会長として、この騒ぎを止めるために気合を込め、この場にいる全員に号令をかけた。

 「そこまでだ…っっ! 全員、拳を下へ降ろし、こちらを向けっ!!!」
 
 そう号令をかけた瞬間、拳を下げずに振り上げた者がいたが、俺は避ける事もせず睨みつけ、俺の意図を知っている橘は手出しせずそれを眺めている。すると、俺の頬に一発だけ拳が入ったが、それでも一歩も下がらずに睨み続けると、相手は二発目の拳を振り上げたまま固まり…、
 やがて、他の者と同じように力なく拳を下へと降ろした。
 「沸き立つ感情に任せて拳を振り上げても、その先にあるのは俯きたくなるような未来だけだ。そんな感情に身を任せるよりも、冷静になって良く考えろ。自分がどうするべきかを、自分がどうしなくてはならないかを…、自分のために」
 「自分の…、ために?」
 強い意志を込めて放った俺の言葉に、そう聞き返してきたのは赤城…。その瞳には複雑な感情が滲んでいる気がしたが、そこに何が潜んでいるのかまでは、さすがにわからない
 だが、橘が赤城に言った言葉を思い出した俺は、赤城の肩に軽く手を置く。そして、さっきまでの自分と赤城の姿を重ね合わせるように見ながら、会長としてではなく…、同じ学校に通う同級生として赤城に話しかけた。
 「赤城」
 「・・・・・・」
 「人を好きになる事を、人を大切に想う気持ちを恥じる必要はない。たとえ、その想いが相手にも世間にも受け入れられないものだったとしても…、人を大切に想う気持ちを恥じる必要はないんだ」
 「・・・・・・・・松本」
 
 「だから逃げるな、戦え…、他の誰でもなく自分自身と」

 それはたぶん赤城だけではなく…、自分にも向けて言った言葉。
 俺はそれだけ言うと赤城の肩から手を離し、その場に立ち尽くしたり、我に返り逃げ出そうとしている者達を眺める。そして、再び会長の顔に戻り、この場にいる全員の処分を言い渡した。
 「赤城、そして赤城の悪事に加担した者は、すべて一週間の自宅謹慎。その後は謹慎中、順番に呼び出し事情徴収を行った上で、それぞれの処分を決定する、以上…。解散っ!」
 この件の首謀者は赤城だが、赤城に加担していた人間は、おそらく金銭目的と、取られた画像や写真で脅迫されていた者の二つに分かれるだろう。いつの間にか気づかぬ内に俺のポケットからデジカメを取り出し、橘が証拠として犯人の画像を取っていた…。
 「上手く撮れたか? 橘」
 「えぇ、全員とはいきませんが、これだけ撮っておけば事情徴収の時に困らないでしょう。それに今回は首謀者の面も、ハッキリと割れてますから」
 「そうだな…。だが、今回の件は出来る限り表に出さずに片付けたい」
 「・・・・それは僕も、同じ意見ですよ」
 そんな風に話しながら、俺は肩から力を抜き小さく息を吐く。そして、俺達と同じように戦いを終えた時任と誠人を眺めながら、ずっと疑問に思っていた事を橘に聞いてみた。
 「それでなんだが…、今回の件で誠人と組んだのはなぜだ? やはり俺達と同じように、誠人も何かマズイ画像でも撮られていたのか?」
 「いいえ、別に撮られていないようですよ。それにマズイといっても、そもそも、あの二人はバカップルとして校内で公認されてますから、よっぽどの写真でなければ脅迫するほどのネタにはならないでしょうね」
 「・・・今回の件で協力を持ちかけたのは、お前と誠人のどっちだ?」
 「久保田君です。正確には協力ではなく、不本意ながら恩を売られた格好ですが…」
 橘の意外な答えに、俺は時任と誠人に向けていた視線を橘に向ける。すると、橘は軽く肩をすくめて、デジカメのレンズを俺達の目の前でいちゃついている二人に向けた。
 「偶然、僕が下駄箱の前で赤城からの脅迫文を読んでいたのを見られてしまったのが、恩を売られた原因ですが…、どうやら久保田君には赤城の件ではなく別の目的があったようですよ? 一応、久保田君達も赤城に狙われてはいたようですが」
 「別の目的?」
 「えぇ、久保田君は別に今回の件を解決したいとか、そんな風に思って行動していた訳ではないという事です。偶然、見つけた時任君関係の写真や画像は回収していたようですけどね」
 「それは一体、どういう意味だ?」
 俺がそう言うと、橘は微笑みながらデジカメのシャッターを切る。そんな橘の様子を見た俺が軽く眉をしかめると、橘は俺に今撮った仲が良さそうにじゃれ合っているバカップルの画像を見せた。
 今回の件を話しながら時任はふくれっ面をしていて、誠人は微笑んでいる。俺が画像から視線を外して、本物のバカップルに向けると、時任の怒鳴り声が耳に響いてきた。
 「いくら演技だからって、ホテルまで行くのはいきすぎだろっっ。後でヘンな噂とかになったら、どーすんだよっっ!」
 「うーん、そう言われても噂は噂だし、俺は別にどうもしないけど?」
 「じゃあ、橘とデキてるって思われてもいいってのかよっ!? 橘とホテルに行って…、せっ…、つーか、ああいうコトしてるって…っ」
 「ああいうコト?」
 「だ、だから…、ホテルに行ってするコトだよ」
 「って、言われても、ちゃんと言わなきゃわかんないし?」
 「あー、もー…っ、言わなくてもわかれよ!」

 ・・・・・・・・・。
 
 なんとなく…だが、さっきから真っ赤な顔した時任と話している誠人がセクハラ親父に見えるんだが、気のせいだろうか?
 そ、そう思いたいんだが、純情な時任を楽しそうに眺めている誠人を見ていると否定できない。今まで思った事は無かったが、誰にも興味なさそうな誠人も、その相手が時任となると…、じ、実はケダモノだったりしてな…。
 まさか…、無理やり襲ったりはしないだろうが…、
 と、俺が考えかけ、なぜか橘との事を思い出し身震いすると、妖艶に微笑む橘が時任と誠人を呼んだ。
 「大変申し訳ないのですが、万が一の事を考えてホテルに押収したカメラや写真や色々と,置いているので、取りに行ってもらえませんか? 渡すのは今ではなく、学校で構いませんから」
 橘のセリフを聞いた俺が口を開きかけると、横から伸びてきた手が俺の口を塞ぐ。その手から逃れようと俺がもがくと、いつもよりも開いた誠人の目が俺の方を見た…。
 う…っ、開眼した目でいきなり俺を見るなっ、怖いじゃないかっっ。
 まだ、俺は何もしてないぞっ!
 俺は心の中でそう叫び、何もしない事を示すために胸の辺りまで軽く手を上げる。すると、やっと口を塞いでいた橘の手が外された。
 「では、頼みましたよ、時任君」
 「…って、なんで俺らが写真を、ホテルなんかに取りに行かなきゃならねぇんだよっ!」
 「なら、僕と久保田君とで行きますが、それでもいいですか?」
 「そんなの松本と行けよっつーか、一人で行けばいいだろっ!」
 「一人じゃ入れない場所にあるんですよ。それに会長は受験を控えた身ですから、そんな場所に連れて行く訳には行きませんしね」
 「松本がダメで俺らならいいって、どーゆー理屈だっっ」
 時任がそう言うと橘がホテルに向かって歩き出し、誠人もその後に続く。
 それを見た時任は、慌てて誠人を止めた。
 「だーかーらっ、妙な噂になるから行くなっつってんだろっ!」
 「でも、松本が行けなくて時任も行かないなら、俺が行くしかないし?」
 「は、入っても…、すぐに出てくんだろうな?」
 「・・・・・たぶん」
 「って、その間はなんだよっ、しかもたぶんってっっ」
 「じゃ、行ってくるから」
 「・・・・・・っ!!!」

 ・・・・・・時任、それは罠だっ!
 写真やカメラがホテルにある訳ないだろうっっ!!
 ホテルにあるのは、ベッドと誠人の欲望だけだっっ!!!

 俺はそう思ったが、口に出しては言えないっ。
 二つの怖い視線が、俺を瞬間的に無口にするっ。今日、映画を見たり、ここまで二人を追ってきたり、一緒に行動して時任に友情に似た何かを感じ始めていたが、俺はケダモノの手から時任を救う事ができなかった。
 ゆ、許してくれ…、時任っっ!
 
 「し、仕方ねぇからっ、俺が行ってやるよっ! 行くぞ、久保ちゃんっ」
 「ほーい」
 「取るモン取ったら、すぐに出るからなっ」
 「はいはい」

 ホテルに向かう、子ヒツジとオオカミ…。一瞬、オオカミと橘の視線がぶつかり、何かを分かり合った二人が同時に微笑みを浮かべる。
 こ、このっ、ケダモノどもめっ!!!
 オオカミがどこまで何を企んでいたのか、正確なところは俺にもわからないが…、橘といちゃついたりホテルに行った事により、子ヒツジがそういう事を前よりも意識したのは確かかもしれない。これからオオカミに喰われてしまうだろう、子ヒツジの背中を俺が気の毒そうに眺めていると、横から楽しそうな橘の声がした。
 「ふふふ…、久保田君が僕と協力…というよりも、僕を利用する気になった理由は、つまりこういう事ですよ。純情な恋人は可愛いですが、その分、色々と苦労も多いという訳です」
 「だが、あの二人は同居しているはずだろう?」
 「えぇ、ですが、同居してるからこそ難しいのかもしれませんよ? 特に鈍感な上に、照れ屋な相手だと…」
 「そんなものなのか?」
 「僕も色々と苦労しましたからね」
 「僕もって…、一体誰の事を言っているんだ」
 「さぁ、誰の事でしょう…」
 「お前が思ってるほど、俺は鈍感じゃないぞ」
 「ふふふ…」
 「な、何がおかしい?」
 「いえ、別におかしくて笑った訳じゃありませんよ。 ただ、本当にそうだと思っただけです。貴方が鈍感で僕の気持ちに気づいてくれなかったら、二人で今ここには居なかったでしょうから…」
 ホテルに背を向け歩き出しながら聞いた、橘の言葉。
 時任達と出会い、赤城達と一戦交え、ようやく帰路に着いた俺達だったが、二人で並んで歩いても、いつもと違ってどこか落ち着かない。それは俺がチラリと橘の横顔を見たりしながら、俺達のこれからの事を考えていたせいだった…。
 俺は橘が好きだ、そして橘も俺を好きだと想ってくれている。
 そして俺達は同じ大学に進み…、それから…、

 それから…、俺達は・・・・・。

 俺がそこまで考えた時、ポケットに振動が伝わってくる。その振動に嫌な予感を覚えながら、俺がケータイの液晶画面を見ると…、そこには『クソ親父』と表示されていた。
 どうせ、くだらない用事にかけてきたんだろうが、後がうるさいから仕方ない。そう思い通話ボタンを押してケータイを耳に当てると、聞きたくないクソ親父の声が耳に響いてきた。
 『おはよう、隆久』
 「・・・もう、おはようの時間帯じゃないだろう。それよりもわざわざ電話をかけてくるとは、一体何の用だ? くだらない用事なら切るぞ」
 『息子を心配して電話した父親に向かって、そんな言い方はないだろう』
 「心配してくれと頼んだ覚えは無い」
 『はぁ…、昔はあんなに可愛かったのに』
 「そのセリフは聞き飽きた」
 『じゃあ、頑張って仕事をしている父親に向かって、たまには行ってらっしゃい、パパとか言ってくれないか?』
 「何を言っている、いい年して恥ずかしい事を言うな」
 まったく…、なぜ親父はいつもこうなんだっ。
 今は電話だからいいものの、橘に聞かれたら、また足を蹴られかねん。
 そう思い橘の方を見る。
 すると、案の定…、橘がこっちを見て不気味に微笑んでいた。
 お、俺が一体、何をしたっていうんだ…っ。
 親父がヘンタイなのは、俺のせいじゃないぞっっ。
 俺は橘にまた何かされない内に、親父からの電話を切ろうとする。
 だが…、俺はふと家へと向かう道と参考書を買おうとしていた本屋へと向かう道の分岐路に立っている事に気づいて、足とケータイの通話を切ろうとしていた指を止めた。
 「なぁ・・・、親父」
 『なんだ、息子』
 「今はまだ無理だが、いずれ話したい事がある。そして、それはたぶん…、親父が絶対に聞きたくない話だ」
 『・・・・・・・』
 「それでも、いずれ話さなければならない時が来たら、俺の話を聞いてくれないか?」
 俺がそう言うと、受話器の向こうに沈黙が落ちる。しかし、少しして、まるで俺を励ますような力強い親父の声が返って来た。
 『お前が話したいという事を、俺が聞かないはずないだろう? 何があろうと、どんな事が起ころうと俺はお前の父親だからな』
 いつもはふざけた事ばかり言うクセに…、まったく…。
 不覚にも親父の言葉に、胸が少し熱くなる。
 でも、やはり素直にありがとうと言う事ができず、俺は「・・・・いってらっしゃい、父さん」とだけ言ってケータイの通話を切った。それだけで俺の感謝の気持ちが伝わったかどうかはわからないが…、たぶん伝わっただろうと信じている。
 俺は心の中で親父にありがとうと呟き…、
 そして、誠人の事を話す時任の事を思い出しながら、目を逸らさずに真っ直ぐ橘を見つめた。
 「少し遅くなってしまったが、参考書を買いに行こう。俺の分だけじゃなく、お前の分も…。同じ大学を受験しても、二人で合格しなくては意味がないからな」
 「隆久…」 
「一緒に大学に行こう、橘…。それから先の事はまだわからないが、二人で考えるなら…、きっと一緒に行ける道が見つかるはずだ」
 橘に一緒に行こうと…、今、初めて言った。
 まるで、好きだと愛していると告白するように、そう言って橘の前に手を差し出す。すると、橘はらしくなく震える手で俺の手を握りしめて、ほんの少し涙が滲んだ瞳で優しく微笑んで頷いた。

 「・・・・・はい」

 短い返事に橘の涙が滲み…、その声に答えるように俺は握りしめた手に力を込める。そして、幼い頃、母に教わった指切りをするように、橘の手を握りしめながら誓った。
 俺自身と橘のために、俺は戦う。
 そして、戦う俺達に敗北の二文字はない。
 なにせ俺達は…、俺達の愛は最強で無敵だからな。

 ・・・・・そうだろう? 橘。

 やがて、俺達は握りしめた手を離し並んで歩きながら、街の雑踏の中に紛れる。だが、その足取りに迷いはなく、真っ直ぐに明日を目指していた。









 
 「・・・・・・さすがに眠いな」
 
 赤城の件が決着し、俺と橘が約束を交わした次の日。
 俺は自分の教室の前の廊下で、そう呟いてぼんやりと外を眺めていた。
 だが、別に好きでぼんやりとしている訳ではない…。
 ただ寝不足と筋肉痛に似た痛みで、頭がぼんやりするだけだ。
 くそっっ、ダメだとわかっているのに、なぜ橘の誘いを拒否する事ができんのだ…っ。もしかして…、橘に抱かれている内に、俺は淫乱になってしまったのでは…、いやっ、そんな事はないっ、断じてないに決まっているっ!!
 自分のとんでもない思考を否定し、俺は首を横に振った。
 実は昨日…、俺の告白を聞いた橘に部屋に帰った途端襲われ…、
 結局、買った参考書は一ページも開けず仕舞い…。
 しかも、今も昨日の熱が俺の中で燻り続けている…。

 ・・・・・・・俺はもしかして、本当に淫乱なんだろうか。

 昨日とは別の悩みを俺が抱えていると、自分の教室から、フラフラとした足取りで歩いてきた時任が俺の隣に並ぶ。そして、悩んでいる俺の横で盛大なため息をついた…。
 この分だと…、すぐにホテルからは出られなかったようだな…。
 そう思いながら時任を見ると、俺の胸がチクリと痛む。
 す、すまん…、時任っっ。
 心の中でオオカミの餌食となった時任に詫びると、時任は再びため息をつきながら、まるで独り言を言うようにブツブツと小声で俺に質問をしてきた。
 「なぁ、松本…」
 「な、なんだ?」
 「あのさぁ…、アレってさ」
 「アレ?」
 「受けとか攻めってさ、フツーどうやって決めんだ?」
 予想もしなかった時任の質問に、俺は言葉を詰まらせる。そして、何度目かのため息をついた時任の横で、俺も昨日の事を思い出しながら盛大にため息をついた。
 「それは…、俺も知りたい所だな」
 「くそー…っ、なんで俺様がこんな目に…っっ」
 「やはり、痛かったのか?」
 「痛かった…けど、それだけじゃなかったような…って、ナニ言わせんだよっ!」
 「そうか、痛いだけじゃなかったのか。なるほど、時任は素質があるな」
 「そ、素質って何の素質だよっっ」
 「それは、誠人に聞け」
 「いーやーだっ。なんか、聞いたら妙なコトされそうな気ぃするっっ」
 「・・・・・お互い、苦労するな」
 「ううっ、攻めとか受けとかって、どうやって決まんだよっ。マジで誰か教えてくれーっっ」
 そんな俺達の間に、友情というより仲間意識が芽生え…、
 二人で自分の身体に残る気だるさと愛を感じながら、ケダモノどもには秘密でまた映画に行こうと話し合い、笑い合う。だが、ひとしきり笑うと誠人の事を考える時任の口から、同じように橘の事を考える俺の口からため息が漏れる…。
 しかし…、このため息はたぶん幸せのため息というヤツなのだろうと…、
 ため息をつきながらも、幸せそうな顔をしている時任を見て俺は微笑んだ。
 俺達の進む道は、きっと辛く厳しい道なのだろう。だが、二人で歩く道の先には、隣に並ぶ大切な人の笑顔がある事を…、俺は信じている。
 やがて廊下に現れた橘の隣にしか、俺の笑顔がないように…。
 そして、俺は橘の元に向かうために歩き出しながら、俺と橘…、そして時任と誠人に心からのエールを送った。



 恋する最強な俺達に、幸あれっ!


                                             2007.11.17


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松本会長の休日…、略してダブルデートv
 か、か、完結しましたっ!!!!!!
 。・゜゜ '゜(*/□\*) '゜゜゜・。 ウワァーン!! vvvv
 予想以上に長くなり、長く時間かかり(涙)
 でも、無事に完結を向かえる事ができ、すごくうれしいですvvvv
 最後までお付き合いくださり、読んでくださった方vv
 本当にありがとうございますっ!!心からとてもとても感謝ですっvvvv

 〃>∇)ゞアリガトォーーーーーーーーーーーーーーーvv

 松本主人公で橘×松中心、初の長いお話になりましたが、
 ど、どうでしたでしょうか?ドキバク…。
 少しでも二人の想いが、書けているといいのです(〃∇〃) vv
 書いていて本当にとても楽しかったですvvvv