綿毛の雪 〜序章〜






 ・・・・・・・多分。



 そう、多分だが…、自分自身がボロボロになっていなければ、拾わなかっただろうと今でも思う事がある。あの時、俺は確かにボロボロになった自分と、電柱の影に落ちていたボロボロになったクマの縫いぐるみを重ねて見ていた。
 半年前に流行り病で父と母を亡くし…、全てを失った俺自身と…。
 だから、誰にも拾われる事なく、拾われる当てもなく、雨風にさらされているクマの縫いぐるみを手に取り、当時、下宿していた四畳半の部屋へと連れて帰った。
 でも、だからといって…、クマをかわいそうだとか、どうにかしてやりたいと思っていた訳ではない。
 ただ・・・・、どうしようもなく憐れだと思っただけだ。
 どうしようもなく憐れで、自分に似ているクマの姿を見ているのが嫌で…、
 だから、俺は持ち帰ったクセに視界に入らないように部屋の隅に転がしたまま、同じように畳みの上に転がった。
 いつまで、ここでこうしていればいいんだろうかと…、ぼんやりと思いながら…。
 腹が減ったなと…、朝から何も食べていない腹を抱えながら…。
 けれど、その時、信じられない不思議な事が起こった。
 このまま、こんな日ばかりが続くと思っていた俺の手に、柔らかな…、けれど薄汚れた小さな手が置かれて・・・・・・・。
 それから…、そこから俺と拾ったクマの…、


 ・・・・・・信じられない、不思議で小さな物語は始まったのだった。





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                                                  2008.5.23