さて、どうしたものか…な。
学校からマンションに帰って、そうココロの中で呟きつつ眺めるのは9月のカレンダー。そこに丸印こそ付けていないものの、時任の誕生日である8日は、少し前から意識はしてる。
だけど、未だ誕生日プレゼントは決めてない。
去年と同じ新作ゲームにすれば、たぶん喜んでくれるだろうけど…、ね。なんとなーく、24日にもらったプレゼントが、ガラにもなく尾を引いちゃってるっていうかなんていうか。
今回はちょっち違うモノにしようか…とか、思ったりしなくもない。
うーん、だけどと視線を向けた先では、同じく学校から帰ってきた時任が、ソファーに座って何やらごそごそと自分のカバンの中を漁ってた。
だから、どうかしたのかと思って近づくと、ビクッと身体を震わせて漁っていたカバンを閉じる。いかにもアヤシイ反応にどうかした?って俺が首をかしげると、時任は慌てたようになんでもねぇよっと、カバンを持ってリビングを出てった。
「・・・コレでなんでもないって思う方が、フツーじゃないような?」
だけど、今、時任を追って寝室に行っても、カバンを漁ってた理由を教えてもらえるとは思えない。それくらい過剰な反応だったし…、うーん、どうしたもんかなと考えながら、晩メシの準備のためにキッチンに移動した。
今日のメニューはカレーはやめて、お惣菜の天ぷらに、これから茹でる予定のそうめん。ちょっち手抜きっぽいけど、夏らしく食べやすい。
だけど、作り終えて食べた時、時任はなんとなく食べづらそうだった。でも、そうめんがってんじゃなくて、さっき隠した何かを俺に聞かれるんじゃないかって、こっちの様子をうかがいつつ食べてるせい。
そんなにしなくったって聞くつもりないけど?…ってココロん中で呟いてはみるものの、時任の様子を見てると気になるのは事実。いつも夜更かししてゲームしてる時任も寝静まる明け方に、置かれたカバンの前に思わずウンコ座りしちゃってるのは必然なのかどうなのか…、
そんでもって、気になりつつもじーっと眺めてるだけなのは、プライバシーを侵害したくないからなのか、ただ単にイクジナシなだけなのか…、
「・・・・・・・ねぇ、どっちだと思う?」
カバンは机の上、時任は同じ部屋のベッドの上。俺のそんな問いかけに、すぅすぅ健やかな寝息を立てる時任からの返事は当然無い。
目の前でうっすらと開いてる唇の感触は知ってるけど、アレは時任的に事故だし、犬に噛まれた系で忘れたい系だし?
また、無意識に手の中で弄んでるジッポに視線を落とし、はーっとらしくない息を吐いた。
「さてと、俺も寝るとしますか」
そう言いつつも起床時間まで、あと三時間あるかないか程度。潜り込んだ狭いシングルベッドで細いカラダを起こさないように注意しつつ、そっと抱きしめると、眠くなるどころか逆に目が冴えてきた。
うん、ホント救えないなぁ。
それでも、ソファーに移動なんてしないトコも絶望的?
役得とばかりに目立たない位置に赤いアト付けたりしたけど、コレは犬じゃなくて、蚊に食われた系だった。
「早くニンゲンになりたーい…なんて?」
棒読みで呟いたセリフに、うるっせぇ、むにゃむにゃと寝言。
それにハイハイと返事して目を閉じたけど、十分後、寝相の悪い時任にベッドから蹴り落とされた。
・・・・・・背中が地味に痛いんだけど。
とか思いつつ、ふぁ〜っとアクビをして焼く目玉焼き。
その近くでトースターにトースト突っ込んでる時任クンは、寝てる間に蚊に食われたなんて知らずに、焼き加減に目を光らせながらマーガリンを持ってスタンバイ。まったくもって、平和そのものな我が家の日常。
チラリと送る視線の先にはソファーの上のカバンがあったりするけど、いつもの調子に戻った時任を見てると、気にするほどのコトでもなかったかもと焼けた目玉焼きを皿に入れる。それから、その皿とコーヒー入れたマグカップ、時任が焼いたこんがりトーストをテーブルに置いて、二人でイタダキマスと手を合わせた。
「さすが俺サマ、今日も良い焼き加減だぜっ」
「うん、そーね。はい、塩」
「ん、サンキュ。でもってさ、俺サマのトーストはいつも通りサイコーの焼き加減だけど、久保ちゃんの目玉焼きって、ちょっち焦げ加減?」
「お前の横顔見つめてる隙に、目玉焼きがヤキモチ焼いちゃって」
「ぶ…っっ!」
「あ、コーヒー吹いた」
「久保ちゃんが吹くコト言うからだろっ!つか、素直にぼんやりしてる隙に焦がしたって言いやがれっっ」
素直に…、ねぇ?
そんな時任のセリフにイロイロと素直に言っちゃったら、どーなっちゃうのかなぁ、なんてサクリとキツネ色で良い焼き加減のトーストを噛む。すると、こんくらい焦げてても久保ちゃんが焼いたのはウマいし、ベツに良いけど…なんて小声でカワイイこと言うから、俺は見えない尾を振るように犬らしく短くワンと吠えた。
そんなこんなでカバンを気にしつつも、犬に噛まれた系事故以降も変わらない、目下の悩みはプレゼントくらいな平和な日々。だけど、食器を片づけている時、ふと目に留まったリビングのソファーの下の物体を拾い上げた瞬間に事態は一変した。
「あぁあぁぁーー…っっ!!」
俺が手を伸ばして、落ちていた物体…。
綺麗に包装されリボンまでかけられた小さな箱を見た時任は、ソレを指先ながら大声で叫ぶ。だから、俺も右手に持った小さな箱を、左手の人差し指でコレ?と指差した。
「そ、それはだなっっ、その…っ!」
「コレってお前の?」
「う…、まぁ、俺のだけどさっっ」
「なら、ハイどーぞ」
ソファーの下に落ちてたヨ?…と、カバンを探ってるのを見た時と同じように、何も追求しないで時任の前に差し出す。だけど、時任はそれを受け取ろうと手を出しかけて、すぐにソレを引っ込めた。
アレ、どーしたのかなと思ってると、時任はベツにいらねぇから、ソレは久保ちゃんにやるとか言い出す。他にモゴモゴと貰いもんだからとかなんとか言ってたけど、何かどこか不自然だった。
小さな箱は包装されたまま開けた形跡もないし、ね。
だけど、時任は遅刻すんぞとか言ってさっさと玄関行っちゃうし、ま、仕方ないかと俺はとりあえずソレをポケットに押し込んだ。
後でそのまま時任に返すか、開けてみるか考えるつもりで…。
でも、それが良くなかったのかもしれない。
後回しにしないでいればと後悔したのは、夏休みが終わってからカンジてる視線の主が、昼休みの屋上で小さな箱を手にした俺の目の前に現れた瞬間だった。
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