残照.19




 「・・・・・・今、何時だ?」

 そう呟きながら、うっすらと目を開けて見えたのはリビングの床…。
 でも、それはどこかぼんやりとしていて、時任はエアコンで冷やされた床の冷たさを感じながら、自分がなぜ床で寝ているのかを思い出し考える。
 確か…、晩メシの買出しに出ようとして…、
 でも、突然右手に激痛が走って、床に倒れて・・・・、
 そのまま気を失ってしまったのか、そこからの記憶が無い。
 ぼんやりと時計を眺めてから、部屋に久保田が居ない事を確認した時任は、ほっとしたように口から小さな呟きと細く長い息を吐き出した。

 「帰ってきてブッ倒れてたら、マジでシャレになんねぇよな…」

 久保田は怪我の治療のため、東湖畔に行っている。
 本当は一緒に行くつもりだったが、他に用事があるとかなんとか理由をつけて、強引に留守番させられる事になって…、
 けれど、それで良かったのかもしれない…。
 追いかけて玄関に向かった時、目の前でドアを閉められてしまってショックだったが、今思うとそのおかげで倒れた姿を見られなくて済んだ。
 時任はゆっくりと上半身を起こすと、痛みの無くなった右手を眺める。こんな風に右手が痛むのは初めてではないけれど、倒れて意識を失ってしまったのは初めてだった。
 なのに、感じているのは恐怖よりも…、哀しみの方が深い…。
 自分自身の力ではどうすることもできない現実が、事実がとても哀しくて辛かった。
 
 チリリン・・・・・、リリン・・・・・・。

 ベランダから聞こえる風鈴の音を聞きながら、時任は右手で拳を作り…、その拳に強く力を込める。けれど、窓越しに見える、いつの間にか暮れ始めた空に向けられた瞳は、哀しみに暮れる事も歪む事無く綺麗に澄んでいた。
 ただ、瞳に静かな哀しみを湛えたまま、時任は握りしめた拳を開くと立ち上がる。
 そして、風鈴の揺れるベランダへと向かった。

 チリリ・・・ン・・・・、リリン・・・・。

 もうじきベランダを、横浜の街を染め上げるだろう…、赤い夕焼け。
 その空の色はたぶん…、一日の終わりを告げる色。
 けれど、なぜかそんな色の中で幻を見てから、今回起こった事の…、何もかもが始まった気がしてならない。月島の事も真田の事も、本当はただのきっかけに過ぎなくて、もしかしたら、あの幻を見た瞬間から断崖に向かって歩いていたのかもしれないと…、
 風鈴の音を聞きながら、ベランダに出て風に吹かれていると思えてくる。
 大切だから失う事が怖くて…、不安でたまらなくて…、
 絶対に誰にも奪わせないと、守ると心に決めていたのに…、
 結局、気づくと守るのではなく、しがみついていて・・・・・、
 それに気づいたのは久保田を抱きしめながら、断崖を飛んだ時…、目の前に迫ってくるような赤い空を見た時だった。
 飛ぶ前も飛ぶ瞬間も死ぬつもりはなかった…、微塵も…、
 断崖を飛んだのは絶望ではなく、自分の手で希望を掴むため…。
 そのために伸ばしたのが、人間よりも力のある獣化した右手だったのは皮肉かもしれない。けれど、左手ではなく右手で希望を掴めたら、何かが変わる気がしていた。
 絶対に変えてみせると…、そう想っていた…。
 なのに、断崖を飛んだ時に見えた夕焼け空が、あまりにも綺麗で…、
 一瞬だけ、それに心を奪われて右手を伸ばすのが遅れた…。

 「二人分の命背負って…、なんてザマだよ…。月島に偉そうなコト言ったクセに、自分は偶然に助けられて・・・、情けねぇ・・・」

 無事で良かったと…、心からそう思う…。
 でも、伸ばそうとしていた自分の手が、何も掴む事ができなかった事がくやしかった。
 自分の手で大切なものを守れなかった事がくやしくて…、とても哀しかった。
 守りたいものも大切なものも、ちゃんと腕の中にあったのに…、
 空を染めていた赤い色が…、残照ばかりが胸に焼きついて…、
 脳裏に浮かぶ幻が時任の足を…、手を凍りつかせる。
 何があっても何が起こっても後悔はしない。久保田と一緒に居られるのなら後悔なんてするはずがないけれど、幻を見た時の痛みが…、これから自分が犯すかもしれない罪が胸を刺し続けていた。
 
 「永遠・・・・、か…」

 東湖畔で久保田が口にした言葉を、時任も口にして変化していく空を見つめる。そして、ようやく、あの日と同じぐらい空が赤く染まると、時任は後ろを振り返った。
 怖がる事もなく恐れる事もなく、哀しみを湛えた…、
 けれど、強い瞳で…、自分の罪を見つめるために…。
 これは現実じゃなくて、今は幻だとわかっている。
 でも、それでも夕焼けに映し出される光景をもう一度見たかった。
 あの断崖から帰ってきた時から、ずっと会いたかった。
 
 ・・・・・・・・・・赤い残照の中で、佇む久保田に。

 だから、おびえないで恐れないで幻の映る窓に近づき、届かない背中に触れるように手を伸ばしてガラスに触れる。そして、今よりも少しだけ年を取ったように見える…、久保田のやつれた横顔を見つめた…。
 二人で暮らした部屋で…、一人佇む久保田の姿を…。
 すると、断崖である事に気づいた時と同じように、ゆっくりと頬に涙が伝う。でも・・・、ガラスの向こうに居る久保田を見つめる事に必死で、その事ばかりに気を取られ過ぎていて、時任は自分自身の涙に気づかない…。
 頬をゆっくりと滑り落ちた時任の涙は、雨のようにぽつりと落ちて、灰色のコンクリートの上に染みを作った。

 「俺、久保ちゃんが居なくなるのが怖くて、すごく怖くて・・・さ…。でも、それは俺だけじゃないって…。そんな、当たり前のコトに気づいてなかった…。ホントは気づいてたけど、気づきたくなかったんだ…」

 その言葉の先は涙と一緒に零れ落ちてしまったのか…、声にならなくて…、
 声にならずに溢れ出した想いが胸をしめつけてきて、苦しくて…、
 苦しくて苦しくて・・・・、叫び出したくて…。
 痛みしか産まない右手を、灰色のコンクリートで打ち壊して…、
 終っていく赤い残照を映している窓ガラスを叩き壊して、向こう側にいる久保田を抱きしめたくてたまらなかった。
 
 夕焼け色に染まった断崖で、その中にいる久保田を見て気づいた事…。

 それは、リビングに座る久保田の横に自分の姿がない事。
 そして、たぶんマンションの部屋のどこにも…、居ないという事。
 これは幻だけれど…、これから起こるかもしれない現実…。
 違うと絶対にこんな事は起こらないと痛む右手が、どんなに否定したくても否定させてくれない。獣化した右手に痛みを感じるたび、WAを使った人間の結末を思い出すたびに…、越えられない壁が時任の前に立ちふさがって・・・・、
 何もあきらめてなんかいないのに…、終わりを意識させる。
 だから、幻を見るまでは心のどこかで、自分よりも久保田が先に歩いて逝ってしまう事なんて無いと信じていたのかもしれない。そして、心のどこかで…、そう信じる事で安心していたのかもしれない…。
 久保田なら、きっと大丈夫だからと・・・、
 そう信じて・・・、気づかないフリをしていた。
 久保田には自分だけじゃなくて、葛西も鵠も他にも…、いるからと…、
 久保田と自分の想いを天秤にかけて寂しさと切なさを感じながら、同時に胸の奥でほっと息をついていた。そんな気持ちが想いが、ずっと一緒に居たいと思っているはずなのに、逆に久保田を突き放して・・・・、
 目の前の幻が罪が…、時任に問いかけてくる…。
 絶対に離れないように、ぎゅっと強く握りしめていたはずの手を離したのは…、

 ・・・・・・・・どちらだったのかと…。

 「いくら自分の命かけても、久保ちゃんは守れねぇんだな…。久保ちゃんがいくら命かけても、俺を守れないみたいに…」

 そんな呟きが、やっと言葉になって零れ落ち…、
 哀しみだけを湛えていた瞳に、久保田を映した瞳に恋しさと愛しさが滲む。時任は額を窓ガラスに押し当てると赤く染まる残照ではなく、滲んだ想いを胸に抱きしめ微笑んだ。

 「でも、それがたぶん二人で居るってコトなんだよな…」

 二人で居た日々を、二人で居る日々を大切に想うなら…、
 今度こそ最後の最期まで、明日に向かって手を伸ばして、希望を掴み取らなきゃならない。二人で暮らした日々が、久保田がどんなに大切なのかを伝えるように…、そして大切な日々を人を守るために…、
 どんなに右手が痛んでも、この先、何が起こっても・・・・、
 変わらない想いを抱いて…、久保田を自分を…、

 その想いのすべてを・・・・・・。

 今度は永遠ではなく…、別の言葉を時任の唇が紡ごうとする。
 なのに、その先が続かなかったのは涙のせいじゃなかった…。
 窓ガラスの向こうに見えるのは、夕焼けと共に消える幻…。
 赤い赤い・・・、残照…。
 そう思っていたのにガラスの向こうにいる久保田が驚いた表情で、時任の方をじっと見つめている。そして、幻じゃない事を示すかのように立ち上がり、ゆっくりと時任の方へと近づいてきた。
 でも・・・・、こんな事はあり得ない…。
 どんなに覗いてもガラスの向こうに…、久保田はいない…。
 けれど、久保田は時任の前まで来ると立ち止まり、床に膝をついた。

 『・・・・・・・・・・ときとう』

 そう、久保田の唇が動いているのが見える。
 でも、どんなに耳を澄ませても声は聞こえない。そして、ガラスに触れた時任の手に重ねるように置かれた久保田の手のぬくもりも、やはり感じられなかった。
 なのに、久保田の手は時任の手に重ねられたまま…、離れない…。
 瞬きも忘れたかのように、じっと見つめてくる久保田の瞳には、赤い夕焼けと時任の姿が映っていた。

 「くぼちゃん・・・・・・・」

 時任が名前を呼び返すと、久保田の表情が驚きから哀しみに変わり…、歪み。
 重ねられた手のひらがゆっくりと握りしめられ、その拳がガラスを叩く…。
 けれど、薄いはずのガラスは、久保田の哀しみを映し出すだけで、声もぬくもりも…、何も伝えてはくれなかった。でも、それでも目の前の哀しみが大切な人の姿が、ただの幻だとはどうしても思えなくて、時任は初めて見る久保田の涙を…、
 涙が流れ落ちていく頬を、ガラス越しにゆっくりと右手で優しく撫でた。

 「後悔・・・・、してるか?」

 もっと…、他に何か言いたい事があったはずだった…。
 けれど、口から出たのは…、そんな言葉で・・・・、
 でも、もしかしたら、それが一番聞きたい事だったのかもしれない。
 自分は大切な大好きな人と一緒に居られるなら、何が起こっても…、どんな事が起こっても後悔はないけれど…、後悔なんてしたくてもできないけれど…、
 久保田は自分と一緒に居た事を、居る事を後悔しないでいてくれるのかと、それを聞きたくて夕暮れのベランダに立ったのかもしれない。
 今の久保田ではなく…、残照の中の久保田に…。
 そうしなければ、これから先へ前へは進めない気がしていた。
 掴めるまで掴むまで、希望に向かって手を伸ばし続けなくてはならないのに…、
 守るという事がどういう事なのかを知ってしまったから…、失う事と同じくらい、失わせてしまう事が怖くてたまらなくて…、

 痛む右手と、それに関わる過去の重さが、二人で一つの道を歩む事を躊躇わせていた。

 けれど、久保田は哀しみを痛みをガラスにぶつけながらも、そんな時任に向かって首を横に振る。少しも迷うことなく、一度は哀しみに歪めてしまって顔に微笑みすら浮かべて…。
 握りしめていた拳を開くと時任と同じように、零れ落ちた涙の跡を辿るようにガラス越しに時任の頬を優しく撫でた。

 『・・・・・・後悔はしない。したくても…、できないから…』

 そう…、ゆっくりと言葉を紡ぐ久保田の唇を眺めながら…、
 聞こえないはずの声を聞き、伝わらないはずのぬくもりを頬に感じた気がして、時任も久保田と同じように触れ合えない哀しさと切なさと…、それでも手を伸ばさずにはいられない愛しさと恋しさが混じり合い滲んだような微笑みを浮かべる。
 すると、久保田は眩しそうに目を細め、自分の額をガラスに押し付けた。
 
 『お前に逢えて一緒に居られて、それ以上に楽しいコトもうれしいコトも…。こんなに大切だと想った日々も…、他にはない…。だから、守りたかった…、すべてを…』

 大切な人…、二人で過ごした穏やかな日々…、
 そんな日々の中で、一緒に泣いて笑って…、抱きしめ合った時間…。
 それらはすべて一人じゃなくて、二人の間にあって…、
 だからこそ・・・、後悔を恐れるより足を踏み出し手を伸ばして、どんなに困難でも絶望的でも希望を掴み取らなくてはならない。久保田の言葉で躊躇い迷っている時間など、とっくに失われてしまっている事を知った時任は、まるで無いはずの永遠を追うように誓うように…、ガラスに押し付けられた久保田の額に同じ額ではなく…、柔らかな唇を寄せた…。
 すると、久保田はガラス越しの口付けに微笑みを深くして、時任の頬に唇を寄せる。それはやはりガラス越しで届かないけれど、胸の奥に二人で居る事の温かさが…、ぬくもりが深く優しく滲んでいくのを感じた。
 けれど、その瞬間に突風がベランダを襲い…、優しい音を響かせていた風鈴が激しい音を立る。すると、まるで風がさらっていくようにガラスに映る風景が消えていき…、驚いた時任は消えていく久保田に向かって必死に手を伸ばし…、その手を掴もうとした。

 「またいつか…、きっと・・・・・・、どこかで…」
 
 最後に呟いた…、伝えた言葉は、きっとガラスの向こう側にいる久保田にとっては残酷な言葉で…。でも、それでも幻のように消えていきながら…、久保田は微笑んだまま、時任の言葉にうなづいた。
 またいつか・・・と、そう答えるように…、
 きっと、どこかでとそう誓うように…。
 けれど、突風が止んで、また静けさが戻るとガラスに映っているのは、鮮やかな夕焼けばかりで久保田の姿はない。風で飛んでしまったのか、窓辺に吊るされていた風鈴もなくなってしまっていた…。
 時任はゆっくりと立ち上がると、窓ガラスに向けていた視線を空へと向ける。すると、今度はまるで室内で突風でも吹いたかのような大きな音がして、リビングから廊下へと続くドアが、何者かの手によって勢い良く開け放たれた。
 
 「時任っ!!!!」

 今まで呼ばれた事のないような大きな声で名前を呼ばれ、時任は驚いてベランダからリビングへと戻る。すると、そこには東湖畔から走って帰ってきたのか、肩で息をしている久保田が立っていた。
 そんな久保田を見たら何かあったのかもしれないと…、普段なら思ったかもしれない。でも、今は残照の中で見た光景が胸の中に焼きついていて、上手く思考が回らない…。
 目の前の久保田と、残照の中に居た久保田は違う…。
 けれど、自分を見つめる久保田の瞳は、残照の中の久保田とあまりにも似ていて哀しみに満ちていて…、時任は思わず久保田に駆け寄る。そして、走って帰ってきた理由も、名前を叫んだ理由も聞かないままに、久保田の身体を…、哀しみを包み込むように両腕で優しく抱きしめた…。

 「久保ちゃんを置いて、どこにも行ったりしねぇよ…。一人でどっか行こうとしても、きっとどこにも行けないから…」

 久保田を抱きしめながら時任が言った言葉は、時任を抱きしめながら久保田が言った言葉…。そのおまじないの言葉を聞いた久保田の肩がわずかに震え、ゆっくりと吐き出される息と共に身体の力が抜けていくのを感じる…。
 そして、おまじないの言葉は時任自身にも効果があったようで、いつの間にか力が入りすぎていた自分の肩からも力が抜けていくのを感じた。
 「お前におまじないしたつもりだったのに、ね。なんか…、お前じゃなくて俺の方に効果あったかも…」
 さっきとは違う穏やかで優しい久保田の囁きが耳をくすぐり、時任は「違ぇよ。俺に効果あったから、久保ちゃんにもしてみただけだっつーの」と囁き返しながら、久保田を抱きしめたままで微笑む。すると、幻を見てから恐れ怯え、色々な事が起こって緊張の連続だったのが嘘のように時任も久保田も…、二人の居るリビングもいつもと変わらない日常という温かな穏やかさに包まれていた。
 
 「なんか…、やっと戻って来た気がする…」
 「うん、そうね…」
 
 今、やっと赤く染まった断崖から生還した二人は、抱きしめ合っていた腕を同時に離す。けれど、その時に触れた指が離れるのを拒んで絡み合って…、どちらからともなく相手の手を握りしめる。
 そして、二人で並んで断崖から見るよりも綺麗な、マンションのベランダから見る夕焼けを眺めた。けれど、そんな二人の瞳に映ったのは夕焼けだけではなく…、なぜかベランダいっぱいに置かれていた太陽の花・・・・。
 本来、黄色いはずの向日葵は、夕陽を浴びてオレンジ色に染まっていた。
 「・・・・あの花は、お前が?」
 そう尋ねてきた久保田に、時任は首を横に振る。
 向日葵なんて、さっきまでベランダになかった。
 けれど、誰がベランダに置いたのかは、なんとなくわかっていた…。
 あれは幻なのかもしれないけれど…、間違いなく久保田だったから…、
 それがわかるから、この花も久保田が贈ってくれたものだとわかる。
 ベランダを埋め尽くすたくさんの向日葵は、時任の目には手向けるようにではなく、ベランダを明るく照らすように…、微笑みと笑顔で埋め尽くそうとしているかのように見えた。
 まるで…、そうまるで・・・・・、
 今、時任の居るマンションの、この部屋で二人で過ごした日々を…、
 その時に浮かべた…、浮かべていた微笑みを笑顔を思い出すように…、

 赤い夕陽の色で、そっと優しく抱きしめるように・・・・。

 その光景は断崖で見た…、あの瞬間に焼きついた色よりも…、
 鮮やかに時任の心に焼きつき、眩しい夕陽の光に目を細める。
 すると、時任の頬に残っていた涙の跡を、横に立つ久保田の指が撫でる…。
 けれど、時任は涙の訳を話さずに、向日葵の花の前まで久保田の手を引いて歩み寄ると、右手を沈んでいく夕日に向かって伸ばした。

 「俺は絶対にあきらめない…。何があっても何が起こっても、手が届くまで掴めるまで伸ばし続けてやる…。いつだって…、どんな日だって沈んでく夕日の向こう側にあるのは、伸ばし続ける手の先にあるのは終りじゃなくて、明日だからな」

 痛みしか伝えない右手を見つめ、そう静かに…、けれどはっきりとした声で告げ…、
 時任は夕焼けを見つめていた瞳を、横に立つ久保田に向けて微笑んだ。
 そして、ベランダを埋め尽くす向日葵の笑顔と一緒に、明日を見つめる。
 すると、久保田も時任と同じように夕日に向かって伸ばし、目の前にある空を染める美しい鮮やかな赤に目を細めた。

 「伸ばした二人の手で掴む明日なら、もしかしたら…、永遠じゃなくても…。それに近い色の夕焼け空の向こうにあるのかもしれないね…」

 そう言った久保田の横顔は、残照の中、消えてしまう寸前に見た久保田と良く似た表情を浮かべている。大切なものを守りたいと、守ろうとする久保田の穏やかだけれど、強く激しい感情を秘めた瞳は…、今は断崖ではなくベランダから見る夕焼けを見つめていた。
 久保田と時任と瞳に映る残照は終りではなく、明日へと続いていき…、
 吹いてくる夕凪の風が、吊るされていた風鈴の名残りに残された細いヒモを揺らし、その下で咲き誇る向日葵の花を撫でるように吹き抜ける。時任はその風を掴むように伸ばした手で拳を作ると、それを久保田の胸に軽く押し当てた。

 「まだ、何も決まってない…。決まってても変えてやる、この手で…」

 そんな時任の言葉を合図に、二人はいつもと変わらない様子で今日の夕飯の話をしながら、ベランダからリビングへと戻る。けれど、同じ歩調で歩み出した二人の手は想いは…、夕焼けの向こう側へと伸ばし続けられていた…。
 終りじゃなくて…、明日へと続く空へと向かって…、

 限りなく永遠に近い色を…、掴み取るように…。

 そんな二人の住むマンションのベランダから消えた風鈴は、探しても見つかる事はなく。けれど…、鮮やかに咲き誇る一面の向日葵は、赤い残照が空から消えても…、今を笑い哀しみ、そして生きる二人の姿を見守るように照らし出すように…、


 いつまでも、横浜の風に吹かれ揺れていた。




 このお話は、44288HIT! 聖界翔様のリクエストでvv
 泣いている久保ちゃんに、時任からのキス。
 後日、その時のお礼にと久保ちゃんから時任へ花束のプレゼントv」
 でしたぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ぅわ━━。・゚ ゚・(p>□<q)・゚ ゚・。━━ん

 うわーんっっ、い、いつ連載を始めたかを考えると本当に恐ろしすぎます(涙)
 でもでも、長い年月をかけて、このたびやっと完結する事ができました!!
 素敵リクをしてくださって聖界様っ!!vvvv
 そして、最後まで読んでくださった優しい方っ!!vvvv
 本当に本当にありがとうございますっっ(/□≦、)vv
 心から激しく感謝ですっ!!!
 と、途中、書き直ししてしまったり、色々とありましたですが(号泣)
 書き終えてみて、本当に書き直して良かったと心の底から思いましたっ。
 頂いたリクに答えられたかどうかは謎なのですが…(汗)
 込めた想いと感謝は無限大ですvvvv

 ☆゚.+゚o(>Д<。*)ノ゚+.★ァリガトォ★゚+.ヽ(*。>Д<)o゚+.゚☆

 聖界翔様vvvv
 ううう、もう何と申し上げて良いのかわからないくらい…、リクを頂いてから年月が過ぎてしまい…(号泣)でもでも、この度、やっと頂いた素敵キリリクを完結させることができましたっ!!!!vv本当に本当にありがとうございますっ!!!!vv聖界様が素敵リクをくださったおかげで、二人の物語をまた一つ書き上げる事ができましたのですっっvvvv

 (。TωT)ノ☆・゜:*:了└|力"├vvvv

 き、キリリクは後日…という所が、違っていた感じで本当にすいませんですっっ。
 その他も少しあやしい感じで、書きながら最後まで久保ちゃんが泣かないような気がして、バクバクしてたりもして…、色々と上手くいかなかったり…(>_<、)けれど、自分の持っている精一杯の想いを込めて、最後まで書き上げる事ができて幸せですvv
 久保時が幸せで居てくれるようにと、どうか聖界様が元気でいてくださるようにとvv
 心からたくさん祈っています…vv

 多謝vvvv<(_ _)>


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