幸せの定義.4




 「行きますよ、時任君」
 「えっ?!」

 橘は時任の手を取ると、まるで駆け落ちでもするかのようにそのまま走り出す。
 追いかけてくる気配に気を取られていた時任は、いきなり手を引っ張られて驚いている内に、なぜか一緒に走らされてしまっていた。
 久保田から逃げてはいたが、別に逃げるのに橘と手に手を取って逃げる必要は当たり前だが全然ない。そのことに時任が気づいた時には、すでに手をつないだまま何メートルか走ってしまった後だった。
 見られている気配にハッとして時任が振り返ると、廊下を歩いている生徒達が仲良く手を繋いでいる時任と橘を指差して見ている。時任はゲッと短く叫んで、橘から自分の手を取り戻そうと勢い良く手を振り回した。
 「なんで俺様が、てめぇと手ぇ繋いで走らなきゃならねぇんだよっっ!!」
 「仲良しだからじゃないですか?」
 「だ、誰と誰が仲良しだっ!!」
 「ふふふっ、貴方と僕がですよ」
 「くうっっ、はーなーせぇっ!!!」
 「どうせですから、このまま生徒会本部に」
 「はぁ?! なんで俺様が本部に行かなきゃならねぇんだよっ」

 「本部は基本的に役員しか入れませんから…、隠れるには丁度いいでしょう?」

 何から逃げているかまではわからないようだが、橘は時任が何かから逃げていることがわかっているようだった。常に後ろを気にしている時任を見ていればすぐにわかるかも知れないが、最初の時点でそれを見抜いたのはさすがと言うべきなのかもしれない。
 だが全速力で走りながらも息一つ乱さずに、妖艶な笑みを浮かべていることの方がさすがと言うより人間離れしていて恐かった。
 人間離れしていると言えば力の方も並ではなく、時任がいくら手を振り回しても橘の手はびくともしない。時任は叫び声をあげながら、半ば橘に引きずられるようにして生徒会本部に連れ込まれてしまうことになった。
 橘は手を強引に引っ張って時任を室内に入れると、ガチャリと音を立ててカギをしめる。そして更に妖艶さに磨きのかかった微笑みを、やっと手を開放されてホッとしている時任に向けた。

 「やっと二人きりになれましたね…」

 橘にそう言われて時任が室内を見回すと、運がいいのか悪いのか本部には二人の他には誰もいない。時任はドアに逃げようとしたが、目の前にはドアをさえぎるように橘が立っていた。
 橘の浮かべている微笑みはファンが見たら卒倒しそうなくらい魅力的だったが、時任には不気味にしか見えない。微笑みを浮かべたままでじわじわと近づいてくる橘とは逆に、時任はじりじりと後ろに向かって下がっていた。
 本気で時任はこの場から逃げ出したいと思っていたが、実は橘の目には怯えている可愛い子猫に見えてしまっている。なぜかはわからないが時任に男が惚れると、惚れた男は時任のことが猫っぽく見えてしまうらしかった。
 橘が素早く腕を伸ばすと、時任はそれを避けようとして更に後ろに下がる。
 すると後ろにあった応接セットのテーブルに足がぶつかって、時任はその上に後ろ向きに倒れた。
 時任はあわててすぐに起き上がろうとしたが、その上から橘が素早く身体を押さえつける。
 足が床についていないので、いくら暴れても時任の足は空を掻くだけだった。
 「なっ、なにすんだよっ!!!」
 「本当にちょうどいい所に、テーブルがありましたね」
 「俺様に触るなっ!! ヘンタイっ!!」
 「まだ、何もしてないのにヘンタイとは心外です」
 「さっさと離せっ!!!」
 「残念ですが、それはお断りしますよ。 久保田君もいないし、せっかくのチャンスですから…」
 「チャ、チャンスって…っ!」

 「貴方と仲良くなる…、絶好の機会だということですよ」

 鋭くにらみつけてくる時任を見て目を細めると、橘はそう言って暴れる時任の上にのしかかる。
 そしてパーカーのすそをめくって一気に脱がせると、それで時任の腕を拘束した。
 時任はかなり抵抗はしていたが、橘の力と手際の良さにあっという間に白い素肌を空気にさらされてしまっている。室内の空気の冷たさに鳥肌が立ったが、それは空気の冷たさを感じたからというだけではなかった。
 橘は時任のパーカーと制服の上着を脱がせると、あらわになった肌に散る赤い痕を指でたどり始める。久保田のつけたその痕は自分のモノだと誇示するように、首筋から鎖骨にかけてを重点的に沢山つけられていた。
 「ずいぶんと可愛がってもらってるみたいですね、久保田君に」
 「・・・・・・・・っ!」
 「少し妬けますが、こういう貴方も扇情的で素敵ですよ…」
 「さ、触るなっ!!」
 「ここらヘンにキスマークが多いですね…」
 「・・・・・・・くっ!」

 「久保田君と僕とどっちと相性がいいのか…、貴方の身体に聞いてあげますよ」

 橘は脇腹をゆっくりと右手で撫で上げると時任とキスをしようとしたが…、頭を振って激しく拒ばまれたため、あきらめて首筋に唇を落とす。
 そして嫌がる時任を押さえつけながら、わざと強く吸い上げて赤く痕を残した。
 久保田がつけたものよりも、それが目立つように…。
 橘は自分のつけた痕を満足したように少し眺めると、今度は久保田のつけた痕にそって時任の白い肌に舌を這わせ始めた。
 「ふっ…、うっ…」
 「逃げようとしてもムダですよ…」
 「くぅっ…、こ、これ以上なんかやったらブッ殺すっ!!」
 「どうせ殺すならこんなテーブルではなく…、貴方と寝た後のベッドの上にしてください」

 「誰がてめぇなんかとっっ!!」

 橘の言葉に怒りを爆発させた時任が、ありったけの力を込めてのしかかっている身体を跳ね飛ばそうとする。だが、見た目よりも橘の身体が重くてなかなか跳ね飛ばすことができなかった。
 時任は橘に胸や脇腹を唇や手のひらで愛撫されながら、何か武器になるものでもないかと辺りを見回して見る。
 すると、いつの間にか部屋に入って来ていたある人物と目が合った。
 
 「て、てめぇ…、そんなトコでなにしてんだよっ!!!!」

 時任はその人物に向かってそう叫んだが、叫ばれた相手はいつもと変わらない顔のまま「やあ」と時任に挨拶すると、さっさと自分の定位置に座って書類を読み始める。
 目の前で時任が橘に犯されかけていると言うのに、あまりにもその人物には反応がなさすぎた。
 あまりの反応のなさに呆然とした時任は、思わずじーっと書類の山を見つめる。
 すると今度は時任ではなく、橘がその人物に向かって話しかけた。
 「今日の書類は机の上にあるものだけです、会長」
 「そうか、例の件はどうなってる?」
 「写真部に協力していただいて調査中です」
 「うーん…、やっぱり時間がかかるのは仕方ないか…」
 「やむを得ませんね」

 「・・・・・・・・・・・ふっ、ふざけんなぁぁぁっ!!」

 ディスクに座って書類に目を通している会長と、応接のテーブルの上で時任を犯そうとしながら話をする橘。
あまりの状況にブチ切れた時任は、そう叫びながら手首を拘束していたパーカーをビリビリと音を立てて破る。そして橘の腹にパンチを食らして自分の上から蹴落とすと、やっとの思いでテーブルから起き上がった。
 自分を無理やり犯そうとしていた橘も許せないが、黙って見ている松本も許せない。それに聞いた話によると二人は付き合っているということだったのに、時任とエッチをしようとしている橘を松本が平然と見ているのはおかしかった。
 時任は松本の座っているディスクに近づくと、積まれている書類の山を手で勢い良く払いのける。
 すると書類は、ぱらぱらと床に落ちて行きながら空を舞った。

 「てめぇはこいつと付き合ってんじゃなかったのかっ!!!」

 そう叫びながら時任が橘を指差すと、松本はディスクの上で両手を組んでふーっと息を吐く。
 そして松本らしくない憂鬱そうな表情で、時任の指差す方向を見た。
 すると松本の視線を受けた橘はいつもの微笑みを絶やさずに浮かべたままだったが、それを見た松本は少し口元を歪める。そういう表情をするということはやはり平静を装ってはいても、心の中は穏やかではなかったことを示していた。
 誰しも恋人の浮気現場を見せられて、平然とはしていられないだろう。
 松本は橘の方から再び時任の方に視線を移すと、また仮面をかぶるように平静な顔になった。
 「確かに付き合ってると思うが・・・・・・」
 「ならなんで、黙って見てやがんだよっ!」
 「橘がお前のことを好きだと言うなら…、俺には止める権利はないからな」
 「権利がねぇって…、アンタは橘のことが好きなんだろっ?!」

 「・・・・・・・・だとしても、橘が別のヤツを好きなら仕方がない」

 松本はため息混じりにそう言うと、ディスクから立ち上がって書類を拾おうとする。
 どうやらこのまま何もなかったことにして、自分の仕事の続きをするつもりらしかった。
 そんな松本の様子を見た時任は、イライラしながらバラバラと散らばった書類を足で蹴る。
 そして腕を伸ばして松本の襟をぐいっとつかむと、もう片方の手でディスクをドカッと真っ二つに割って破壊した。
 「ざけんなよっ!!! そんなハンパな気持ちで、付き合ってるとか言うんじゃねぇよっ!!浮気されても仕方ないって思うくらいなら、あんなヤツとはとっとと別れちまえっ!!」
 「・・・・・・・・」
 「橘のことが好きならっ、浮気すんなって怒鳴って怒れよっ!!」
 「・・・時任」

 「浮気されて平気なフリしてるクセに、自分だけ好きとかふざけたこと抜かしてんじゃねぇっ! 嫉妬すんのも怒るのも…、そういうのだって好きだからだろっ!」

 時任はそこまで言い終えると、松本を鋭くにらみつけてから襟をつかんでいた手をパッと放す。
 すると松本は何かを思うように、下に散らばる書類を見つめたまま動かなかった。
 ぐちゃぐちゃにされてしまった書類の中には、破れてしまっているものもある。
 もう書類として使えないものもある紙の束を松本はもう拾おうとしなかったが、いつもと違う少し悲しそうな微笑を浮かべた橘が広い集め始めた。
 「悪いのは僕の方なんですから、貴方が悩む必要はありません…。僕は恋人である貴方の前で、浮気なんて最低のことをしたんですから…」
 「・・・・・・・だが、俺は怒りもしなかった」
 「でも、手が震えてたでしょう?」
 「・・・・・・」
 「僕は貴方に、嫉妬して欲しかったんです…。けれど、もし貴方と別れることになったら、僕は時任君と付き合いたいと思うでしょう」
 「そう、だろうな…」
 「愛想をつかされても文句は言えません。貴方が別れたいと言うなら、別れます…。こんなズルい最低な言い方しかできない僕を、どうか憎んで恨んでください…」
 「恨んで憎めるくらいなら…、とっくの昔に別れてるに決まってるだろう」
 「・・・・会長」

 「怒鳴っても怒ってもやれないが…、俺はお前が好きなんだ」

 ぐちゃぐちゃになった書類に囲まれて、松本と橘が見つめ合っている。
 これからキスシーンに突入しそうな雰囲気の二人から視線をそらせると、時任はくしゅっと小さくくしゃみをした。あまりのことに興奮していて忘れていたが、橘にパーカーを脱がされた時のままだったので時任はさっきから半裸状態だった。
 もう春とは言え、まだまだ寒い時期なので上半身裸ではかなり寒い。
 時任は両手で自分の肩を抱きしめると、突然襲ってきた寒さにブルブルと身体をふるわせた。
 強引に橘に本部に連れ込まれた挙句、襲われて半裸状態にされたのだが…。
 ラブラブ状態に突入してしまった橘と松本を見ていると、なぜか怒る気が失せてしまっていた。
 この仕返しは後でしようと思ってはいたが、今はなんとなくしづらい。なんとなく納得いかない気分になりながら、時任は破れたパーカーの方ではなく制服を拾いあげた。
 そうしながら今日は自分が見回り当番だったことを思い出したが…、このままの状態で公務をすることはさすがにできそうもない。
 それは早く暖かい場所に行かないと、寒くて風邪をひきそうだったからだった。
 だがなんとなく公務の他に何か忘れていることがあるような気がして、時任は制服を着かけた手を止める。しかしさっきの騒ぎのせいか、すぐにはそれがなんなのか想い出せなかった。
 「そもそも…、なんで俺はこんなトコにいるんだったっけ?」
 時任はそう呟いたが、その瞬間に鍵がかけられている本部のドアが爆発したかのように吹っ飛ぶ。そして轟音を立てて吹っ飛んだドアは応接セットをぶち壊して、その背後にある窓ガラスを見事に割った。

 「うわぁぁっ!!」
 「な、何事だっ!!」
 「・・・・・爆弾じゃないですか?」

 ドゴォォォンッ!!パリーンッ…という音が室内に響き渡ると、松本は驚いて硬直していたが、橘は平然とした様子で服についた埃をはたいている。そんな二人を見ながら、時任は忘れていた何かを思い出して額に汗を浮かべた。
 時任をここに連れ込んだのは橘だが、そうなることになった原因は別にある。
 襲われかけたのを何とか回避してホッとして忘れかけていたが、時任は自宅のマンションから生徒会室、そしてこの本部へとある人物から逃げて来たのだった。

 「まだ夏じゃなくて春だと思ってたけど、俺の勘違いだったかなぁ?」

 少し低めの聞き覚えのある声が、破壊されたドアの入り口から聞こえて来る。
 その声を聞いた時任は、肩をビクッとふるわせると恐る恐る入り口の方を向いた。
 すると入り口にはいつもの糸目とちがって、目の開き切った状態の久保田が立っている。
 久保田の鋭い視線に気づいて首筋についた橘のキスマークをとっさに右手で隠したが、すでに完璧に見られてしまっていた。どちらにしろ銭湯でもないのに、半裸状態になってしまっているのでは言い訳すら見つからない。
 時任は手のひらにも汗をかきながら、近づいてくる久保田とは逆にじりじりと後ずさりした。
 「く、久保ちゃん…」
 「誰につけられたかなんて、聞くまでもないよねぇ?」
 「あのさ、他はされてなくて未遂だし…、だから…」
 「そんな痕つけられて、未遂はないっしょ?」
 「うっ…、それは…」

 「そんなに、橘のコトが心配?」

 久保田はそう言いながら手から制服を奪い取ると、橘の視線から隠すように時任の肩にかける。
 思いもよらず橘をかばうようなこと言ってしまったことに気づいた時任は、それを訂正しようとして久保田の顔を見上げた。
 だが、すでに久保田は時任ではなく橘の方を見ている。
 橘の方も視線をそらさずに、時任の横に立つ久保田の方を眺めていた。
 「時任君は誰かから逃げていたようでしたが、何か心当たりはありませんか?」
 「さぁねぇ? 男子校生を連れ込んで、犯そうとした副会長なら知ってるけど?」
 「時任君にしたことはちゃんと認めますよ。言い訳をするつもりは、まったくありません」
 「ふーん…。ならウチの猫を可愛がってくれたお礼は、それなりにしなきゃねぇ?」

 「ふふふっ、貴方とは本気で一度やり合ってみたかったんですよ」
 
 そんな風に言い合っている久保田と橘の間を、お互いの顔を照らし出すようにカッと雷のような電光が走る。あまりのことに時任が叫びそうになったが、実は外で本物の雷が鳴り出しただけだった。
 今日、空に変な色の雲が浮かんでいたのは、どうやら雷が鳴る前兆だったようである。

 妖艶な微笑みを浮かべた橘と…、
 感情の読めない、冷ややかな笑みを口元に刻んでいる久保田。

 激しい雷光の中で不気味に笑みを浮かべ合う二人の迫力に、時任と松本はごくっと息を飲む。普段は何があっても真っ向から勝負したことのない二人なので、これからどうなるかは予想がつかなかった。
 橘が強いことはわかっているが…、やはり久保田と戦って勝てるとは思えない。
 それに今の久保田が見た目以上に本気になっていることを、時任は感じ取っていた。
 今ならまだ止めることができるかもしれないが、戦いが始まってしまったらもう止めることはできない。それを悟った時任は、久保田の腕をぐいっとつかんで自分の方に引き寄せた。

 「帰るぞ…、久保ちゃん」
 
 時任はそう言うと、久保田を引っ張って本部を出て行こうとする。
 帰ったらまた同じことになるかもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
 生徒会室でのことぐらいなら冗談で済まされるかもしれないが、今回はそうもいかない。いくら執行部員でも、この状況で橘に怪我をさせたりすれば自宅謹慎処分になるかもしれなかった。
 自分のために怒ってくれているからこそ、ここで本気で橘とやり合うような真似はさせたくない。
 今も朝と同じようにどこかおかしかったが、肩に制服をかけてくれた久保田の手はいつもと同じで優しかった。
 やはりどんなに様子が変で壊れていても…、やはり久保田は久保田なのである。
 それを感じた時任はまたベッドに直行させられることになったとしても、もう久保田から逃げないことに決めていた。
 だが久保田はそれを勘違いしたようで、帰ろうと言った時任に冷たい視線を向ける。
 そして強引に自分の腕の中に時任を抱き込むと、無理やり時任の唇にキスしようとした。
 「な、なにすんだよっ!!」
 「ココで俺とキスしてくれたら、橘を助けてあげるよ」
 「な、なに言って…っ」
 「時任は橘を助けたいんでしょ?」
 「ふぅっ…、や、やめっ…」
 「それとも、橘の前じゃキスできない?」
 「そ、そんなんじゃ…っ、そんなんじゃねぇって言ってんだろっ!!!」
 強引に迫ってくる久保田に向かってそう叫ぶと、時任は胸を押して腕の中から逃げようとする。
 すると…、久保田は冷ややかな表情のままで、時任の頬を勢い良く平手で叩いた。

 「えっ…?」

 パシーンという音が室内に響くと同時に、頬が赤くなってジンジンしてくる。
 けれど何が起こったのかわからなくて小さく声を上げて自分の頬を押さえると、時任は呆然とその場に立ち尽くした。
 今まで何があっても、久保田が時任を叩いたりしたことはなかったが…、
 ・・・・・・・・痛んでくる頬が叩かれたことがちゃんと現実だと知らせてくれている。
 時任が驚いた表情のまま久保田の方を見ると、久保田はじっと自分の手を見つめていた。

 時任を叩いてしまった手のひらを…。

 そしてようやく目が覚めたように数回瞬きした後、まるで自分自身が何者であるかを確かめるように…、その手のひらで自分の顔を撫でた。
 ゆっくりと冷たさも暖かさもない、無表情な顔で…、
 そうしてからやっと時任の方を見ると、無表情だった顔に少し苦しそうな色が浮かんだ。

 「・・・・・・ゴメンね」

 久保田はそれだけ呟くと、時任を置いて生徒会本部を出て行く。
 しかし激しく鳴っていた雷はまだ鳴り続けていて、外では激しい雨が降り始めていた。




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