ラブパニック.18




 グラウンドの中央で向かい合うラスボスの名は、桂木和美と久保田誠人。
 この二人が揃うと、時任と久保田のとは違う意味でカツアゲ中の不良の顔も青ざめるっ。そんな二人は同じ執行部の仲間ではあるが、友達かと聞かれれば、そうだったしから?そうだったっけ?と首をかしげる、そんな関係。
 そのせいか、どんなに微笑み合い見つめ合う…もとい、睨み合っていても三角関係だとか浮気だとか噂にも浮いた話にもならない。それどころか屋上や生徒会室、保健室で二人きりになったとしても、そんな噂は皆無だった。
 火の無い所に煙は立たないとは、まさにこの事である。
 言葉の用法が間違っている気がするが、二人の間に火をつけようとしても燃えるのは久保田のくわえたタバコだけなのだから仕方ないっ。そもそも毎日毎日っ、毎日毎日っっ、相方と言う名の恋しい彼とイチャイチャイチャイチャしている男を相手に、そんな火の付く雰囲気になるなんてあり得ないっっというより…っ、
 こっちから願い下げっ、御免被るっ!コンチクショウ…っっ!!であるっ。
 桂木が折れた白いハリセンをギリギリと握りしめながら思い出すのは、噴き出しかけたいちご牛乳と男の友情!浮かべたブリザードの微笑みを深めながら、自分を執行部という名の蟻も寄り付かない砂糖地獄に引きずり込んだ犯人の片割れを睨み付けたっ。
 「・・・いい加減、観念したらどう?」
 桂木が口を開き、そう言うと久保田はなんのコト?とトンズラしようとした事実など、なかったかのように軽く肩をすくめる。だが、桂木は表情を緩めず、この期に及んでタッグマッチではない、別のものからもトンズラしようとしている久保田を追い詰めた。
 「このままトンズラしようったって、そうはいかない…っていうより、このまま帰ってどうするつもり? アタシが復活させるまでもなく、二人きりになればすぐに医者でも治せない病は再発、元の木阿弥、アンタの企みは海の藻屑よ」
 「それって、何のハナシ?」
 「アタシ相手に、ボケたフリが通用するなんて思わないことね。相方だなんだのって言って誤魔化して曖昧にして、モグラ叩きかイタチごっこみたいな事を続けながら、いつまでヘタレてるつもり?」
 「・・・・・・・」
 「否定も反論もしないの? そんな調子じゃ、また逃げられるのがオチね。それとも、何かヘタレてなきゃならない理由でもあるのかしら?」
 「そう言われても、ね。別にヘタレてるつもりないし?」
 「ふーん、ならヘタレてるのは演技ってわけ? そういうフリしてるってこと? あたし達をだましたり謀ったりしてるの?」
 桂木の言葉は情け容赦なく、まるで逃げ道を潰していくように、次々と久保田に向かって吐き出されるっ。
 その声の調子も破壊力も何もかもが鉄壁完璧っ、追い込む先は袋小路っ!
 久保田からだけではなく、松本や橘からも一目置かれている桂木の実力はやはり並ではないっ。握りしめた白いハリセンばかりが目立ちがちだが、桂木が得意とするのは身体を使った実践ではなく、持ち前の度胸と根性、良く回る頭と舌を使った心理戦っ。
 よって、桂木が入部してからは、力押しだけでは効かない交渉が必要な場面でも執行部は最強を誇る。しかし、そんな桂木の攻撃に、さすがというか何というか久保田は微笑みを浮かべたままで動じた様子はない。
 それもそのはず、実は桂木だけではなく、久保田も心理戦は得意。
 桂木の挑発に乗るような失態は、ヘタレていても犯さないっっ。
 そんな二人の間で、バチリと火花が散った!
 「さすが桂木ちゃん、ツッコミも揚げ足取りも立て板に水の勢いだぁね」
 「なーんて言いつつ、褒めてるようで褒めてないし。これ以上、ボケたフリを続けるなら、そのボケた頭ごと、ハリセンの錆にでもなってみる?」
 「うーん、ハリセン錆びたら、執行部最大の損失だしね。ココは執行部の未来のために、ご遠慮させてもらった方が良いかも?」
 「あら、遠慮なんてしなくていいのよ。あたしと久保田君の仲じゃない」
 「あれ…、ちょっち質問だけど、桂木ちゃんと俺の仲って、どんな仲だっけ?」
 「時任いわく、男の友情ってヤツで結ばれてるらしいわよ」
 「男の友情、ね」
 「ふふふ…、そう男の友情」
 「へぇ、それは初耳」
 
 ゴゴゴゴゴォォォォォ…っ!!

 聞こえてくるのは地鳴りか、耳鳴りかっ、幻聴かっっ!
 生ぬるく微笑む桂木の背後に仁王像っ、のほほんと微笑む久保田の背後に地獄の番犬っ。凄まじくミスマッチだが、それ故に寒さも恐ろしさも倍増っ。
 そんな二人の立つグラウンドは、すでに男の友情異空間!!
 ブラックホールと化した二人の友情が、すべての人々を恐怖のどん底に叩き落とし、泣く子は更に泣き出しっ、笑う子は笑顔のまま凍りつくっ!
 しかし、逃げ出したいのは山々だが、二人の意味深な会話が激しく気になって仕方がない。二組のチャペルのエンドロール待ちで、さぁ、帰ろうかと観客席から移動し始めていた生徒も再び椅子に腰を下ろした。
 『怖いけど気になる、この結末!
 風にたなびく大弾幕っ、バカップルの告白はどうなるのかっ!
 ビューティ時任とラブリー久保田の本当の関係は?!
 その謎が今、解き明かされるーーっっ!!』
 向かい合うラスボスの様子を伺いつつ、決死の覚悟でそう叫んだのは放送部!
 すると、一気に恐怖と緊張と期待が高まり、その中心にいる桂木と久保田に人々の視線が集中する。だが、二人とも気にした様子もなく、男の友情で語り合うっ、

 教室でも生徒会室でもなく、グラウンドの真ん中で…っ!!

 うわぁぁーっっ、ダメだっ、もうダメだぁぁぁっっ!
 世界は滅びないけどっ、執行部の明日は氷点下だぁぁっ!
 二人を遠くも近くもない場所で見守る相浦は頭を抱え、室田はうぅと唸り、松原はどこから持ってきたのかパイプ椅子に正座状態で緑茶をすする。そんな執行部の明日を左右する二人のブリザードは、未だ収まる気配がない。
 久保田は告白をする気がないし、桂木も引く気がない上に心理戦は互角。
 このままでは謎が解き明かされるどころか、いつまでたっても勝負はつかない。
 勝負がつかなければ、桂木が言うように元の木阿弥、海の藻屑っ。武力行使な公務中に備品を破壊するのは日常茶飯事、そんな執行部で相方という名のいちゃいちゃバカップルが追いかけっこしたり、照れ隠しにドアを破壊したりまで日常茶飯事になってしまったら、ただの赤字ではなく、物凄い赤字に真っ逆さまに転がり落ち…っ、
 そして、行きつく先は砂糖地獄ならぬ、赤字地獄っ!
 生徒会にも見捨てられ、挙句の果てに公務どころか部員全員でバイト三昧の素敵な日々が待っているっ!そんな素晴らしき未来に思いを馳せた桂木は、軽い眩暈を感じてわずかによろめいた。
 
 ・・・・・・・・これは紛れもなく、死活問題だわ。

 二人がお互いに自分の気持ちから逃げ続ける限り、被害は拡大し続けるっ。
 しかし、今、向かい合っている相手は時任でも他の誰でもなく、あの久保田誠人。
 一筋縄ではいかない曲者だが、話してわからない相手ではない。これ以上は執行部の存続に関わると釘を刺せば、のほほんと肩をすくめつつも何とかしてくれるだろう。
 そして、利用されたままトンズラされるのはムカつくっ、確かにムカムカとムカつくが、それはハリセン一、二発程度のムカつき。だから、久保田の思惑があったにせよ、すべて解決済みなら天誅っと、いつもの程度で済むはずなのだが…、
 そう、実はそれで済ませられない理由が、屋上でいちご牛乳を噴き出しかけた桂木にはあった。

 「あの日、あの時、あの場所でアタシがいちご牛乳を噴き出しかけた時…、時任を365日欠かさず見守ってる誰かさんは、一体どこに居たのかしら?」

 桂木の言葉を聞いても、相変わらず久保田の表情は動かない。
 すべてを知らないとすっとぼけたような態度で、のほほんとしている。
 しかし、だからこそ確信したっ。
 やっぱり全部知ってたのねっ、この野郎っ!!!
 桂木の予想が正しければ、久保田が相浦と噂を立てたのは、いちご牛乳を噴き出しかけた後、そうして追いかけっこは始まり、最終的に騒ぎは大きくなるだけ大きくなった。
 それに気を取られ、紛れ、時任がいつもの調子に戻るほどに大きく。
 シリアスに悩む暇など、追いかけられ逃げ続けた時任にはなかったはずだ。
 そして、一時的なものに過ぎなかったとしても久保田の思惑通りに、時任の望み通りに二人は相方に戻ったのは事実だ。桂木が呪文さえ唱えなければ、今みたいに5メートルどころか、二人の距離はほぼゼロのイチャイチャバカップル状態に復帰していたはずっ。
 だが、それでも桂木は久保田の前に立ちはだかるっ!
 馬に蹴られようともっ、逆に蹴り返す勢いで白いハリセンを構え続けるっっ!
 それはなぜかと問われても答えられないが、頭痛を感じた屋上を思い返しながら、狂犬の冷気にも負けず揺るがない彼女の姿は勇者でも仁王でもなくっ、

 髪の先から爪の先まで、どこまでも姉御だったぁぁあっっ!!

 姉御は、姉御故に仲間から相談されたら、それがどんなに犬も食わぬものだろうと、肩でもハリセンでも貸さずにはいられないっ。そして、振り返れば立場的に利用された感じになってはいるが、今回の件、桂木は桂木の思惑で動いていた。
 明らかにチューどころか、その先まで突き進みたい系の想いを寄せていながらも、なぜ久保田が相方にこだわり、時任が自分の気持ちに気づいても、なお相方で居ようとするのか理由はわからない。
 だが、時任の方は自分の想いを告げて気持ち悪がられたり、気味悪がられたりするかもしれないと心配しているだけだ。そのために想いを告げずに今のままでいたいのに、意識しすぎて顔もまともに見られないと悩んでいたのだ。
 そんな時任の想いを知りつつ、今回の行動に出たのだとしたら、久保田は時任の望みを叶えたのではなく、時任の想いをなかった事として無視しただけに他ならない。時任が事実を知れば、やはりショックだろう。
 きっと、自分の考えていた通りだったと思うに違いない。
 そこから先はどうなるのか想像は色々とできる、したくないけどしてしまうっ。
 だが、そこはバカップルの片割れからの相談ごと、そこまで心配する必要はないのかもしれないが、やはり心配は心配。馬に本格的に蹴られない程度には、何か出来ることをしてやりたくなるのは人情っ。
 言いかえれば、おせっかいとも言うがしかしっ!
 姉御の中の姉御な桂木は人差し指で軽くこめかみを抑えつつも、ツッコミから攻撃まで何でもこなす最強アイテムっ、白いハリセンを握りしめる手に力を込めた。

 「時任が戦わないなら、あたしが戦うわ。ああして大弾幕を掲げた以上、何らかの決着は必要でしょう? 皆、色々と期待してくれてるみたいだしね」

 タッグマッチで決着したのは橘と松本、そして三年女子とその彼氏。
 けれど、時任と久保田は決着していないと、桂木はハリセンの先を久保田に向ける。すると、久保田はどうだかねぇ…と軽く肩をすくめた。
 「色々と期待してくれちゃってるみたいなのは、まぁ、見ればわかるよ。でも、だからって桂木ちゃんと戦わなきゃらならない理由も、必要も無いと思うんだけど? 噂聞いて興味本気で集まった人間相手に、大弾幕の後始末も同じくね」
 「あら、誰が後始末なんて言ったの。あたしは決着って言ったのよ」
 「決着って、何の?」
 「この期に及んで、みなまで言わせるつもり?」
 「そう言われても、わからないものはわからないし?」
 「どうあっても、あたしとは戦わないつもりなのね」
 「客寄せパンダで赤字解消には十分貢献したし、ここらヘンでカンベンしてくんない? この分だとウチに帰るには、ちょっち時間かかりそうだしね」

 ・・・・・そんな狂犬、もしくはダンナの今の心情。
 眠い、腹へった、お家に帰りたい…、もちろん飼い主、もしくは妻付きで。

 簡単に言えば、それ以外興味ナシで取り付く島もナシっっ!!!
 こうなってしまえば、いくら心理戦では負け知らず、あの松本や橘に毒舌戦で勝利した事のある桂木でも、久保田の首を縦に振らせ戦いに持ち込むのは難しい。桂木は仕方無いわねと軽く息を吐くと、こんな時のためにと手にしていた切り札を心の中で握りしめた。

 「そんなに帰りたいなら、帰っても良いわ。けれど、その前に大切なお話…、聞いてくれるかしら?」

 聞かないと後悔するわよ…と目で脅しつつ、チラつかせた切り札を桂木が手に入れたのは、まったくの偶然。保健室でそのカードを手にした瞬間、脳裏に浮かんだラブラブバカップルの姿と桂木の勘が、これは切り札になると教えてくれた。
 いざっ、尋常に勝負っっ!!!と、桂木はビシーッと久保田の前に切り札を叩きつけるっ。実はこの切り札、時任が恋と5メートルの照れを発病した状況で最大の効果を発揮するスペシャルカードだった!
 「大切なお話のキーワードは風邪、一人きり…、そして家出よ」
 「たぶんだけど、風邪は藤原?」
 「さすが良い勘してるわね、正解よ。実は藤原がね、今、保健室に居るんだけど、風邪が悪化してきた上に発熱。しかも、今日は父親は出張、母親は友達と旅行中で不在らしくてね」
 「あぁ、それで一人きり」
 「せっかくだから、今日もおウチに帰りたく無さそうな誰かさんに看病してもらおうかと思ってるんだけど…、どうかしら?」
 そう言って笑みを浮かべた桂木が、声を低くして叩きつけたカードは藤原。
 しかも、ただの藤原ではなく、病気で家族が不在な藤原だ。
 何も知らない人間が聞けば、えぇー…、それが何っっ?!的なカードっ。それは誰の目から見ても二人は犬猿の仲で、とても時任が看病に行くとは思えないからだ。
 しかし、桂木の切り札を聞いた久保田が、次に口を開くまで妙な間があった。
 その久保田らしからぬ間に、勝利の感触を感じた桂木の口元に浮かべた笑みが深くなる。どうやら、久保田にとって桂木の出した藤原カードは、あり得ない事に本当に切り札っ。
 見事、ビンゴを引き当てた桂木は、唇に勝者の微笑みを浮かべた。
 「ふふふ…、行くとは思えないけどとか、どうぞご自由にとか言わないのね?」
 「一応、365日見守ってるんで」
 「誰よりも時任を知ってるからこそ、気に入ってくれると思ってたわ…、このお話」
 「気に入ったワケじゃないけど、みすみすオオカミの巣に子猫を放り込むほど、バカじゃないってダケ。まぁ、オオカミっていうより陸地のビーバーっていうか、手を出した所で引っ掻かれるだけってカンジだけど…、

 ・・・・・こういうコトに、油断は禁物デショ?」

 恋愛に油断は禁物、過信は大敵。
 陸地のビーバー藤原は、今、もっとも危険なダークホースっ!
 その疑惑に気づいたのは時任と藤原に挟まれていたはずが、実は挟む側かもしれない久保田とそんな彼らを生暖かい目で見守っていた桂木。
 そして、その二人ともが時任自身も普段から警戒している橘より、そういった意味で無警戒の藤原の方が危険度が高いと見ていた。
 いつものお決まりのパターンは、藤原が久保田に飛びつきくっつき、それを久保田がのほほんと放置しているため、時任が寄るな触るなっ、くっつくなぁぁっ!!と怒鳴り蹴飛ばしケンカに突入っ!だがしかしっ、自分で気づいているのかどうかは知らないが、藤原が久保田に突撃してくるのは時任と一緒にいる時だけ。
 二人きりになるのを邪魔しているようにも見えるが、どこか何かがおかしいっ。
 話もケンカ突入な時任とばかりで、久保田と藤原が話している事はほとんどないっ。
 姑息な手段は何も使わず、正々堂々と正面から突撃をかます藤原は、らしいようでらしくないっ!白昼夢は日常茶飯事、常に妄想はピンク色っ、ヘンタイでヘンタイの藤原はもっと姑息でっ、姑息で姑息だったはずだっっ!
 なのに、時任に蹴られ殴られるとわかっていながら、懲りもせずに突撃していく様はどう見てもマゾとしか思えないというか…、ぶっちゃけ、絶対マゾだろう。
 え…、もしかして、そっち方面に目覚めちゃった?
 ヘンタイはいつ何時っ、何に目覚めるかわからないぃぃぃっ!!
 そんなヘンタイの宿命を背負っているかどうかはわからないが、保健室の藤原の体温は現在38.6度で要看護っ!!しかし、藤原の自宅の寝室には、病原菌と目覚めかけた何かがあった!

 「へっくしょいぃぃ…っ!!」

 盛大な藤原のくしゃみが保健室に響き渡りっ、その聞こえるはずの無い、それを合図にしたかのように、改めて桂木と久保田が緊張の糸を紡ぎながら向かい合う。のほほんとした調子は崩していないが、眼鏡にキラリと日の光を反射させた久保田の周囲の空気の温度は、今までとは明らかに違っていた。
 今の状態で看病を頼めばブツブツ言いながらも仕方ねぇなぁと、結局、わがまま三昧のように見えて、実は面倒見の良い時任は行くだろうし、藤原も藤原で、ブツブツ言いながらも時任になら看病される。そんな仲が悪いようで、そう悪くもない二人の仲が少しでも進展するのは、嫉妬深い狂犬にとって好ましくない事態だ。
 しかし、こうして独占欲をむき出しにしながらも、久保田はあくまで相方で居続けるっ。どんなにイチャイチャイチャイチャしようともっ、どんなにラブラブであろうとも…っ!
 俺らは相方っ、いつでも相方、どこでも相方!
 学校でもマンションでも、部屋でも風呂でもベッドでも…っっ!
 相浦が聞いたら、なぜか涙ぐみそうなセリフだが、ぶっちゃけ…、

 ちょこぉーっと、ソコの相方ってトコを恋人に変えれば良いだけなんじゃないの?
 
 そんな疑問を常日頃から、365日な勢いで持っているのは何も桂木だけではないっ。相浦や相方止まりの二人を知る誰もがじれったくてじれったくてっ、じれったくてたまらなくて机にスタンドライトとカツ丼を置き、洗いざらいすべてを吐かせたい気分に駆られていたっ!
 両想いのクセに、なにやってんだっ! チクショウっっ!!
 最後のチクショウの99パーセントが相浦で出来ているのは無関係だが、今はアイドル久保田の熱狂的な追っかけな藤原が、現実の恋に目覚めたら、もっとヘンタイのヘンタイで姑息の姑息になるだろう。
 どちらにしても不毛には変わりないヘンタイの目覚めは、桂木の手にかかっているっ!そんな今なら、久保田に告白させる事も可能かもしれない。
 しかし、切り札を手にした桂木の要求は、あくまで告白ではなく戦いだった。
 「ヘンタイを目覚めさせたくないなら、あたしと勝負なさい。勝利条件と負けた方が告白っていうのは、そのままでいいわよね? 負けた後で、嘘や誤魔化しは許さないわよ」
 「・・・・それは構わないけど、桂木ちゃんは何を告白してくれるワケ?」
 「告白はアタシじゃなくて相浦が、今まで生きてきた中で、一番恥ずかしかった出来事を告白…でどうかしら?」

 「…って、何で俺ぇぇぇっ!」

 これから本当に拳をハリセンを交え、二人は戦うのか、戦ってしまうのかっ!
 嵐を予感させる二人を仲間である執行部員も、荒磯の教師や教師達もゴクリと息を飲み込みつつ見守っていた。



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