恋の嵐。
〜後 編〜
「大塚のヤツ…、なに落ち込んでんだ?」
「さぁ、知らねぇけどよ。 購買でなんかあったらしいぜ」
焼きそばパンを久保田に渡してしまった大塚は、かなり不機嫌そうな時任に『ジャマだからさっさとどけよっ』と言われて自分の教室まで戻ってきていた。
けれど焼きそばパンを買うことしか考えていなかったため、自分の昼食分のパンを買うのをすっかり忘れてしまっている。自分の席に座って窓から外を眺めながら、ぼんやりとため息をつく大塚姿を見た石塚と佐々原は、あまりの不気味さにさっきからひそひそ話をしていた。
だが、大塚を見て変だと思っているのはその二人だけではなく、クラスメイト全員がそう思っている。
時々、何かを思い出したかのように顔を赤くしている大塚の様子は、誰の目から見てもかなりおかしかった。
「くそっ、久保田さえジャマしなけりゃ…」
そんな風に大塚は呟いていたが、その言葉の意味を知っているのは大塚本人しかいない。
実は時任が焼きそばパンが好きだという情報を仕入れたので、話しをするきっかけを作ろうと焼きそばパンを買うために購買に行ったのだった。
けれどなぜか時任に差し出した焼きそぱパンを受け取ったのは久保田で、少しは仲良くなれるはずの時任からは睨まれてしまっている。どうやら『焼きそぱパンで仲良くなろう作戦』は、完全に失敗してしまったようだった。
本当は焼きそばパンだけではなく、時任のそばに久保田がいない時に話しかけようとずっと機会を狙っていたのだが、休けい時間もトイレも時任から久保田が離れる様子はまったくない。
よく相方だとか二人は言っているが、ここまで一緒に行動しているとは予想してはいなかった。
本当に冗談ではなく四六時中一緒にいる二人は、まるでカルガモの親子ようで…。
大塚が時任に話しかけられるような隙は、本当にまったくなかった。
「なぁ、佐々原…」
「と、突然、話しかけんなよ。ビックリするじゃねぇか」
ぼんやりしていた大塚が近くにいた佐々原に話しかけると、佐々原は驚いたような顔をして大塚の方を向く。すると大塚は佐々原に近寄って、その肩をポンッと叩いた。
「俺らって友達だよな?」
「あぁ…、と、友達だけど…」
「けどよぉ、四六時中一緒にはいねぇだろ?」
「そりゃあ、フツーはいねぇって」
「・・・・・そうだよなぁ」
「な、何が言いたいんだ…」
大塚に肩をつかまれてそんな話をされた佐々原は、石橋に向かって助けてくれ信号を視線で送る。だが石橋は首を激しく横に振って、救助は不可能だということを告げた。
そんなやり取りが佐々原と石橋の間で交わされている間も、大塚はじーっと正面から佐々原を見つめ続けてている。しかし本当は佐々原を見つめているわけではなく、ただぼんやりと考え事をしていただけだった。
だが見た目は佐々原と大塚が見つめ合っているように見えるので、これは何事かとクラス中が二人に注目している。
佐々原はクラス中の視線を浴びて、額に冷汗をかいていた。
けれど大塚はそんな異様な空気の中で、ぼんやりとしたまま時任と久保田のことを考えている。今まで二人の関係について考えたことはなかったが、しかしこうやって改めて見てみると、確かに普通の友達と言うには二人の関係は親密すぎるような気がしてならなかった。
時任の方は案外人懐っこいところがあるので不自然ではないが、明らかに久保田の方は時任以外の人間と親しそうに話している所を見かけたことがないため不自然である。
それに時任を見る時の久保田の視線は、どう見ても何かの感情が込められていた。
恋する男のカンが、久保田が時任を好きだと大塚に伝えている。
けれど今大塚が感じていることは、執行部員達に言わせると今更なことだった。
しかし、大塚は今まで時任をそういう対象として見たことがなかったので、改めてそれを感じてしまっているのである。
今までも久保田は執行部員だから天敵だったのだが、時任を好きになった瞬間に恋敵にもなってしまったのだった。
「おい…」
「な、なんだよ…」
「やっぱ執行部の中でも、久保田が一番ジャマだって思うよなぁ?」
「久保田って…、まぁ、執行部なら誰でも目障りだけどよ」
「なんとか、時任と久保田を引き離す方法ってねぇのか?」
「どうしたんだよ? 今日はヤケに復讐に燃えてんじゃんっ」
「復讐ってのもあるが、このままじゃ埒が開かねぇしな…」
「はぁ?」
「今から、ちょっと付き合えよ」
大塚はあやしい笑みを浮かべると、石橋と佐々原を連れて教室を出て行った。
見つめ合っている二人に注目していたクラスメイト達だったが、大塚達が教室から出て行った瞬間にホッと息を吐く。やはり学校公認のいちゃいちゃカップルは、一組で十分だとその中の何人かは思っていたかもしれなかった。
放課後になると執行部員は公務の時間になるが、生徒会室に時任が向かおうとすると、一人の女子生徒が久保田に何か手紙を渡しているのが目に入った。
こういう場合はほぼ間違いなく、手紙の内容は好きですと書かれたラブレターに違いない。
時任は女子生徒から手紙を受け取った久保田を見て、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
ラブレターを受け取るも受け取らないも久保田の自由と言えばそうなのだが、自分の目の前で平然とその手紙を開いて読んでいるのが気に入らない。
間違いなく久保田は、手紙を読んでいる自分を時任が見ていることを知っているに違いなかった。
「久保ちゃんっ、行くぞっ!」
白い便箋に書かれた文字を読んでいる久保田を見ながら時任はそう怒鳴ったが、久保田はそのまま動かない。それにますますイライラした時任が、生徒会室に行こうとしない久保田の方へツカツカと歩み寄った。
「なにグズグズしてんだよっ」
「あー、悪いけどさ、今日は先に行っててくれる?」
「…なにか用事でもあんのかよ?」
「ま、そんなトコ」
「ふーんっ、そうかよっ。じゃあ先に行くからなっ!」
「うん、俺は後で行くから」
女子生徒はすでにいなくなっていたが、ラブレターらしき手紙を読んだ直後にそんなことを言われれば、誰でも告白するために呼び出されたと思うに違いない。
のほほんとそう言ってポケットに手紙をしまった久保田を見て、時任は不機嫌そうにドカドカと歩いて教室を出た。
けれど生徒会室に向かいながら、やはり久保田のことが気になって仕方ないのである。
いつもこういう手紙を受け取った場合、時任は律儀に断りを入れに行くが、久保田はそのままゴミ箱行きだった。そのため今回の久保田の行動は、実はかなり意外なのである。
「まさか…、付き合う気だったりとか…」
そんな風にブツブツ言っているのは、本当は久保田がどんな子から告白を受けるのか知りたいからなのだが、意地っ張りな時任は素直にそれを行動に移すことができない。
険悪な顔でドスドスと不機嫌丸出しで歩いていると、廊下を歩いている生徒達が時任を恐れて避けて通っていた。けれどその生徒達の中で、その険悪な顔が久保田に恋する故だと気づいた者はいない。
今の時任は恋しているというよりは、どこかの組事務所の出入りという感じだった。
そんな様子で生徒会室に到着した時任は、派手な音を立ててドアを開ける。
すると、その音に驚いた生徒会室にいた全員が振り返った。
「なにヒトの顔ジロジロ見てんだっ!!」
「そんなに不機嫌な顔して、荒れてりゃ誰でも見たくなるわよ」
「べつにいつもと同じでフツーじゃんっ」
「…でっ、久保田君に何かあったの?」
「な、な、なんでそこで久保ちゃんが出てくんだよっ」
「あんたが不機嫌になる理由のほぼ80%は、久保田君がらみでしょっ」
「うっ…」
あっさり不機嫌の理由を桂木に見破られた時任は、ドカッと椅子に腰かける。
するとそのタイミングを見計らったかのように、相浦が生徒会室にやってきた。
いつものと変わりない様子でやって来た相浦だったが、なぜか時任の方を見ると妙なことを口にしたのである。
「あれっ、さっき久保田とあの大塚がいるのを見かけたから、てっきり時任も一緒だと思ってたのに今日は別々?」
「相浦っ、久保ちゃんと大塚が一緒ってどういうことだよ?」
「さっき久保田と大塚が、二人で廊下歩いてるの見たんだよ。別にもめてたようには見えなかったから、そのまま来たけどさぁ」
「なんだって、久保ちゃんが大塚なんかと…」
久保田と大塚が一緒だったということを相浦から聞いて、時任の脳裏に嫌な予感が走る。
あの手紙に何が書かれていたのかはわからないが、それが大塚からだったかもしれないと思うといてもたってもいられなかった。
「くっそぉっ!!」
「ちょっとっ、時任っ!」
「すぐに戻るっ!」
「今日の見回りあんた達でしょっ!!」
桂木が止めるのも聞かず生徒会室を飛び出すと、時任は久保田を探すために廊下を走り始める。その時の衝撃で生徒会室のドアが破壊されたが、今はそんなものに構っている場合ではなかった。
どこにいるかはわかっていないが、大塚達の行動パターンからおおよそ見当はついている。
時任は通行人を吹き飛ばす勢いで走っていたが、その途中で急ブレーキを踏んだ。
そうしたのは、さっき久保田に手紙を渡した女子生徒を見かけたからである。
凶悪な表情の時任に声をかけられた女子生徒は、素直に久保田に渡した手紙を誰からのものだったのか白状した。
「あ、あれは大塚君から頼まれたのよ」
「手紙の内容がなんだったか知らねぇのか?」
「それは知らないけど。あっそうだっ、これを時任君に渡してくれって頼まれたの忘れてたわ」
「それを早く言えっ!!」
時任はその女子生徒から手紙を受け取ると、封筒を乱暴に破いて中の手紙を読む。
そしてその内容を読み終わると、時任はかなり怒った様子でぐしゃっとその手紙を握りつぶした。そんな時任の様子を見ていた女子生徒は、自分の役目を果たしたと言わんばかりにそそくさとその場から立ち去って行く。
けれど時任は、すでに女子生徒のことなど頭になかった。
「うわぁあんっ、久保田せんぱぁーい!!」
「うるせぇぞっ、おらっ!」
「ぐあっ!」
普段は誰もいない資料室に捕まえるのが簡単な藤原を拉致すると、大塚は通りがかりの女子生徒に書いた手紙を渡した。
それから一度、資料室を出たのは、手紙の内容に従って久保田が本当に一人で来るかどうかを確認するためである。時任と久保田を引き離そうというこの計画は、当たり前だが久保田が一人で来なくては意味がないのだった。
しかし大塚の予想に反して、久保田はのほほんとした様子で時任を連れずにやって来たのである。
「来やがったなっ、久保田っ」
「相変わらず芸がないねぇ、大塚クン」
「…こっちには人質がいるんだぜ。逆らったらどうなるかわかってんだろうなぁ」
「うーん、ホントはどうでもいいんだけどねぇ」
「ああ? 何か言ったか?」
「べつに」
大塚は廊下から久保田を連行して、藤原を拉致している資料室に連れ込む。
そして藤原と同じように久保田にも縄をかけて、逃げられないように身動きが取れなくした。
前した失敗を繰り返さないためにちゃんと足にも縄をかけると、大塚は天敵であり恋敵である久保田に蹴りを入れる。
すると久保田ではなく、隣りにいる藤原が悲鳴をあげた。
「うわぁぁぁっ!! く、久保田せんぱいがぁぁぁっ!!」
「てめぇは黙ってろっ! このクズっ!」
「す、すいませんっ、僕のためにこんなことに…」
「べつに平気だから、気にしなくてもいいんだけど」
「あぁんっ、そんなに優しくされると…、僕…」
「うーん、タバコ吸えないのがイヤかも…」
大塚だけではなく、石橋や佐々原も蹴りを入れたり殴ったりしていたが、久保田は顔色一つ変えなかった。いくら久保田でも殴られれば痛いはずだが、そんな様子がまったくないのが見ていてムカツク。
だが、今は呑気に久保田をボコッっている場合ではなかった。
このままココにこうしていても、大塚の目標は達成されないのである。
大塚は最後に一発、久保田に恨みを込めて蹴りを入れると、資料室から出るためにドアへと向かった。
「じゃあ、後は適当にソイツらボコっててくれっ」
「ボコっとけって、お前はどこいくんだよ?」
「ちょっとヤボ用…。て、てめぇらはついて来るなよっ! ついて来たらぶっ殺すっ!」
「べ、べつに俺らは執行部に恨み晴らせればそれでいいけどさ」
「頼んだぜっ」
石橋と佐々原にそう言い残すと、大塚はちょっとだけ照れたようにニヤリと不気味に笑うとドアを開ける。そんな大塚の笑みを見たオトモダチ二人は、寒気を感じて全身に鳥肌を立てた。
詳しいことは何も聞かされていない二人は、大塚が何のために久保田を拉致したのか知らない。それ故に恋する男の笑みは、ひたすら不気味にしか見えなかったのだった。
大塚は機嫌良くドアを開けると、鼻歌を歌いながらパタンとドアを閉じる。
するとそんな大塚の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「大塚…」
その間違えようとしても間違えられない声は、今から会いに行こうとしていた時任の声だった。いつも常に久保田がそばにいたので、こうやって二人きりで会うのはこれが二度目である。
大塚はちょっと頬を赤らめると、一つ咳払いをして時任の顔を真剣な表情でじっと見つめた。遠くからばかりしか眺められないでいたが、やはり遠くで見るよりも近くで見る方が可愛い。
パッチリした目とか長い睫毛とか…、ほっそりした首筋だとか…、そんなものを見ていると思わず鼻血を吹いてしまいそうになった。
しかしせっかく二人きりになのだから、それに見惚れている場合ではない。
大塚は表情をキリッと引きしめると、じっと自分の方を見ている時任に向かって自分の想いを打ち明けた。
「こ、こういうのはガラじゃねぇんだけどよっ。その…、こないだ屋上で会った時に、す、好きになっちまってて…」
「マジで好きなのか?」
「ああ、好きだぜ」
「カワイイとか言ってたって、五十嵐が…」
「無邪気な笑顔とか…、キラキラしてる瞳とか…、そういうの見てたらカワイイなって思ってさ」
「む、無邪気な笑顔…、き、キラキラ…」
「すっげぇ、好きになっちまったからさ。付き合いたいんだ…」
「・・・・・・・おいっ」
「な、なんだ?」
「付き合った場合…、お前って受け?」
まだ時任に告白することしか考えていなかった大塚は、受けかと聞かれて心臓がドクンッと跳ねた。受けか攻めかと言われれば、その意味はおそらくあのことしかない。
大塚は時任の大胆発言に思わず想像の中で、時任の服を脱がしかけてしまった。
「そ、そ、そ、それは…、やっぱ俺が攻めだろう…」
「攻めなのか?」
「ああ、攻めだっ」
「攻め…」
攻めか受けかと聞かれて大塚が攻めだとキッパリ言い切ると、時任はうつむいてフルフルと震え出す。もしかしたら攻めをしたかったのかと思って、大塚が恐る恐る時任の顔を覗き込もうとした。だが、時任は攻めをしたかったわけではなかったのである。
こめかみをピクピクさせて再び顔を上げた時任は、大塚の襟首をきつく締め上げた。
「てめぇには絶対っ、渡さねぇからなっ!!!」
「な、なにを?!」
「とぼけんじゃねぇっ! 久保ちゃんを呼び出したのはてめぇだろっ!!」
「うっ、バレてたのかっ!」
「当ったりめぇだっ! 久保ちゃんはドコにいんだよっ!!」
「そ、それは…」
「まさか…、久保ちゃんをっ!!」
せっかく時任に告白した大塚だったが、どうやら時任は久保田を拉致したことを怒っているようである。けれどココで時任に、久保田をボコってることがバレたらマズイかもしれなかった。
けれど間の悪いことに、大塚がなんとかしてこの場から時任を遠ざけようとした瞬間、絹を引き裂くような男の悲鳴が響いてきたのである。
「うあぁぁっ、久保田せんぱーいっっ!!」
その悲鳴を聞いた瞬間、鋭く繰り出された時任の拳が大塚の顔面にめり込む。
いつものように警戒していなかったため、その攻撃をモロに受けてしまった大塚は、呻き声を上げてその場に倒れた。
「うおぁぁっ…、と、時任…」
大塚は床に沈んだままの姿で時任を止めようとしたが、時任はドアを壊す勢いで資料室のドアを開ける。すると、そこには縛られた久保田と藤原がいた。
藤原の方はそれほどボコっていなかったが、久保田の方はかなり痛めつけたので顔に殴られた跡があるばかりではなく、引き倒した時にシャツも破れて肌けてしまっている。
そんな久保田を見てしばらく動かないでいた時任は、床に倒れている大塚をゲシゲシと容赦なく踏みつけにすると目に涙を浮かべて久保田に走り寄った。
「く、久保ちゃんが、大塚になんかに犯されたなんて…っ!!」
そのセリフを聞いた瞬間、大塚だけではなく石橋と佐々原も石のように固まった。
大塚があの久保田を・・・・。
酷い目にあったのを慰めるようにぎゅっと久保田に抱きついた時任を見て、大塚はしばらく放心していた。だが、久保田に抱きついている時任を見ている内に、やっと時任が言った意味をなくとなく理解する。
つまり大塚は時任に告白したつもりだったが、どこをどう間違えたのか、時任は久保田と別れろ大塚に迫られたと勘違いしていた。
「ちょっと待てぇぇぇっ!! なんで俺が久保田なんかをっ!!」
「久保ちゃん…、痛い?」
「人の話はちゃんと聞きやがれっっ!!」
「くっそぉっ、ぜってぇ復讐してやるっ!!」
「おーい…、時任」
時任はボロボロにされている久保田のことしか目に入っていないので、大塚の声はまったく聞こえていない。
好きな人に誤解されて頭を抱えて苦悩している大塚の前で、時任は涙目のままで縛られていた縄をほどくと、殴られた跡のある久保田の頬を優しく手で撫でた。
「久保ちゃん…」
「助けにきてくれて、アリガトね」
「そんなことより…、その…、身体は平気なのか?」
「殴られたりはしたけど、時任が来てくれたからセーフだったし」
「じゃあまだ、ヤられてねぇの?」
「うん」
「・・・・・・・良かったぁ」
「心配した?」
「スゴクした…」
「心配かけてゴメンね」
「無事なら、それでいいから…」
「うん」
久保田が大塚にヤられてなかったことにホッとしたのか、時任は身体から力を抜くと久保田の肩口に顔を埋めて背中に腕を回す。すると久保田は、抱きついてくる時任の細い身体を包み込むようにゆっくりと抱きしめた。
大塚が久保田に恋したというのは間違いなのだが、久保田は犯されたことは否定したものの他の件については訂正しない。そのことに気づいた大塚がハッとして久保田を見ると、久保田の方も時任を抱きしめながら大塚の方を見ていた。
冷ややかな瞳のままで口元に笑みを浮かべながら…。
その瞬間、大塚はまんまと久保田の罠にはまってしまったことに気づいたのである。
「さて、可愛がってもらった礼はちゃんとしなきゃね」
「俺も相方として礼をしなきゃなんねぇよなぁ」
「それじゃ、やりますか?」
「やらいでかっ!!」
大塚が気づいた時はすでに遅く、ひとしきり抱きしめ合い終わった時任と久保田が戦闘態勢に入っている。
抱きしめ合ってる二人に悲鳴を上げていた藤原は、時任に殴られて床に転がっていた。
石橋と佐々原は逃げる体制に入っていたが、この狭い資料室で逃げ場などはない。
時任と久保田がが公務執行モードに入ったら、もうこの二人を止めることは誰にもできなかった。
『うがあぁぁっ、助けてくれぇぇぇ〜〜〜っ!!』
久保田をボコってしまった三人が、いつもより念入りにやられてしまったのは言うまでもなく、特に久保田に惚れたと勘違いされた大塚は時任にかなり集中攻撃されている。
ひとしきり三人をボコボコにし終えると、時任は久保田に肩を抱かれながら資料室を出て行った。けれどその時時任のポケットから、すでに落ちそうになっていた一枚の封筒がヒラヒラと床に落ちる。
二人が去った後で大塚がそれを拾ってみると、そこには自分に似た文字で手紙が書かれていた。
『久保田のことで話がある、一人で資料室の前まで来い。 大塚』
当然ながら、大塚はそんな手紙を書いた覚えはない。
実はこの手紙は、久保田に手紙を渡しにきた女子生徒に久保田が時任に渡すように頼んだ封筒だった。まんまと久保田にはめられた大塚はぎゅっとその手紙を握りつぶしながら、自分と同じく目の前でつぶれている佐々原と石橋の肩をポンッと叩く。
そしてグッと拳を握りしめると、新たなる目標に向かって決意を固めた。
「打倒っ!!久保田ぁ〜〜〜っ!!!!」
「し、執行部じゃないのか?!」
そんな様子を実は偶然通りかかった何者かが、ドアの影からその様子を見ていた。
それはこれから大塚達が向かうであろう、保健室のお姉さんこと五十嵐である。
五十嵐はふふふっと妖艶に微笑みを浮かべると、
「今度は縄も用意しようかしらぁ…」
と、楽しそうに呟きながら、自分のテリトリーである保健室へと戻って行った。
実はその足取りは、軽くスキップを踏んでいたりする。
未だに縛られて床に倒れたままになっている藤原は、ダーっと涙を水溜りになるくらい流しながら目の前で叫んでいる大塚を眺めていた。
「ったくっ、今度から大塚なんかに一人でついてったりすんなよっ!」
「はいはい」
「ぜったいだかんな…」
「俺が約束したら、時任も知らない誰かについてったりしないでくれる?」
「そんなのっ、するワケねぇだろっ」
「…ならいいんだけどね」
「久保ちゃんは狙われてて危ねぇからっ、一人で行動すんの禁止なっ」
「時任から離れないで、ずっとそばにいるから…」
「うん…、ずっとそばにいろ…」
「ずっと…、ずっとね…」
久保田が大塚達に拉致された日からしばらくの間、時任は本当に久保田のそばから離れようとはしなかった。
そんな二人の様子を見た桂木は、時任に向かって優しく微笑んでいる久保田を見てあきれたように深々とため息をついていたらしい。
だが、その後も大塚の目に時任が可愛く見えていたかは謎である。
実は大塚は屋上にいた日に風邪を引いてしまっていたらしく、時任に告白した日から一週間、熱を出して寝込んだのだった。
このお話は30000hit!! りく様のリクエストで、
「大塚君×時任風味の久保時v」
なのですっ〜〜〜(>_<)VVV
思わず大塚クン主人公なんて、すごいことしてしまいましたです(滝汗)
な、なんとなくですが…、私が始めてかもなカンジだったり…(@_@)
しかも…、大塚×時任なんて全然なってなかったりしてますっっ!!(冷汗)
うきゃっっ、キリリクなのにっ、キリリクなのにぃぃぃっ(絶叫っ!)
りく様〜〜vv リクしてくださって本当にありがとうございます(>_<)VV
なのになのに…、忘れるくらいお待たせした上にこんな結果になってしまい、
本当に申し訳ありませんデス(涙)ごめんなさい〜(T_T)
リクしてくださってとてもうれしかったですvvvありがとうございましたm(__)mvv
お伝えする方法がなくて、お礼もお詫びも申し上げられないですが(涙)
いつかふとした瞬間に、思い出されてこのメッセージが伝わることをひそかに
祈ってますvvv
本当に本当にどうもありがとうございましたっm(__)mvv
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