籠の鳥.36




 大切だからこそ、振り返れない過去と記憶…。
 そしてその中で楽しそうに幸せそうに笑っている、あの人…。
 瞳を閉じれば思い出す明るい日差しに満ちた光景が偽りだったとしても、その人が笑っていてくれるならそれで良かった。
 たとえ…、何もかもが偽りにしか満ちていなかったとしても…、
 それだけが、守りたいすべてだったから…。


 「院長は、宗方はどこに・・・・・・・」


 屋敷内を歩いている内に宗方の部屋だと思われる場所にたどり着いた橘は、そう呟きながらテーブルに置かれたワイングラスを眺める。すると、そこにはさっきまでここに宗方がいたことを示すように、まだ半分くらい赤い液体が残っていた。
 けれど、隣の部屋にある寝室に行っても宗方の姿は見えない。橘はらしくなく少しあせったように軽く唇を噛むと、整えられたまま使われた様子のないベッドから窓へと視線を移した。
 窓の外ではいつの間にか雪が降り出していて、暗くなり始めた空からヒラヒラと雪が舞い落ちてくる。その雪を眺めていた橘は、ゆっくりと窓を開けると雪と同じように白い息を吐きながら舞い落ちてくる雪の下に手を差し出した。
 だが、手のひらの上に落ちた雪はすぐに跡形もなく消えていく…。それを見た橘は自嘲するように微笑むと、何かを掴むように指をゆっくりと折り曲げた。

 「結局、僕の手には何も残らない…、犯した罪にふさわしく…」

 手のひらの雪は消えても、犯した罪が消えることはない…。
 橘はどんな理由があろうとも自分のしようとしていることが罪にしかならないこと知りながらも、宗方を探すことをやめようとはしなかった。それは病院内で松本の父親の死の原因を探ることで、憎む理由を探すことで、本当はこうすることを先延ばしにしてきただけだったからである。
 宗方総合病院に医師として勤めることを松本が決めた時、橘も同じ病院に勤務することを決めた。その行動自体は少しも不自然ではなかったが、なぜか病院に勤務するようになってから橘自身の心の中で何かがずっと引っかかり続けている。
 恋人である松本と一緒にいることと、松本の父親の死に関係があると考えていた宗方を探ることが病院に勤務した理由だったはずなのに…、
 松本と院長が話している場面を見る度に、心が乱れて息苦しくなって…、
 もっと別の何かが、宗方を消せと耳元で囁いてくる。
 けれど、それが何かも未だわからぬままに橘は鋭いナイフを手に握っていた。

 「すべて僕が悪い…。そう、貴女の言う通りですよ」
 
 橘は誰に言うでもなくそう呟くと窓から見える裏庭を注意深く眺めたが、そこにはいつも庭をうろついている番犬の姿はない。ここから見えるのは裏庭に植えられている木々と、個人の持ち物にしては立派すぎる温室だけだった。
 周囲が暗くなってきたせいか温室には明かりが点っていて、その中に人影が動いているのがわかる。それは温室の手入れをしている使用人かもしれなかったが、橘は妙にその陰が気になって宗方の部屋を出ると白い雪の降り注ぐ裏庭に向かった。

 手に持っているナイフで…、自分の目的を果たすために…。

 けれど、外に出て冷たい空気が肌に触れるとナイフを持つ手が震えてくる。だから、そんな自分の手を橘は反対側の手で抑えたが、その震えはどうしても止まらなかった。
 なのに何を怖がり恐れ…、何に怯えているのかすらわからない。
 ただ、胸の奥を犯し続けている痛みだけが真実を伝えていた。
 温室の中の影はナイフが自分を狙っているとも知らずに、そこに植えられている植物を眺めているかのようにじっと立ち止まっている。だが、それが宗方ではなく使用人だったら、屋敷の人間ではない橘が入り込んでいるのを見て騒がれる可能性もあった。
 しかし、迷わずに勢い良く一つしかない温室のドアを開けて中に入ると、橘はたくさん置かれている鉢や植えられている植物を見て眉をひそめる。そしてたくさんの鉢の列の中にいた人物に視線を移すと、そこには温室の世話をしている使用人ではなく…、
  この屋敷の主人であり、病院の院長である宗方誠二が立っていた…。

 「貴方に植物を育てる趣味がおありとは知りませんでしたよ…、宗方さん」

 橘はわざといつも呼んでいる院長という呼び名ではなく、宗方と呼んで優雅に微笑む。そして、ナイフを服の下に隠してゆっくりと宗方に近づいた。
 けれど、宗方は橘の方に視線を数秒向けただけで、すぐに眺めていた植物の方へと視線を元に戻す。宗方の視線の先にあるのは赤い小さな花をつけた珍しい植物で、橘もその植物の名前が何なのか心当たりはなかったが、温室ですくすくと育っている植物がすべて毒草であることだけは一目でわかった。
 どの植物も見ているだけなら色鮮やかで美しく、中には薬として使用されている物もあるが、使い方によっては人の肉体や精神を犯す。
 そして、そんな美しいが危険な植物達を見た瞬間に橘の脳裏をよぎったのは、真田から受け取った調査書に書かれていた宗方の父親である前院長の急死…。死亡診断書は病死と書かれていたらしいが、その診断書を作成したのは松本の父親だった。
 「どの植物も葉が青々と茂り、花も美しく咲いている…。ここは手入れも行き届いていてずいぶんと素晴らしい温室のようですが、この植物達が美しさを観賞するために置かれているとは思えません…」
 「ほう、それはなぜかね?」
 「貴方の趣味が、本当は植物を育てることではないからですよ」
 「なるほど…、では私の趣味は何だと?」

 「それは、ご自分の胸に聞かれてみてはいかがですか?」

 宗方を挑発するように橘はそう言ったが、宗方は口元にかすかな笑みを浮かべただけで挑発には乗ってこない。それに橘がこの温室に入り込んできたこと自体も、それほど気に止めている様子もなかった。
 温室にあるのは育てることは違法とされている植物も多いので、使用したという事実を掴まなくとも見つかれば警察に逮捕されることは間違いない。だが、この温室は目立たない裏庭にあるものの、特別に警備されている様子もなかった。
 だからこそ橘が裏庭や温室に侵入することができたのだが、そのことがやはり引っかかる。それに屋敷を歩き回っていた橘を見咎めた者がいないのは、実は屋敷の外の警備と違い屋敷内は使用人も必要最低限しかおらず、廊下もほとんど人通りがなかったせいだった。

 ・・・・・・何かがおかしい。

 それを感じながらも、橘は自分の目的を果たす機会をうかがっていた。屋敷や温室に橘を陥れる罠が潜んでいたとしても、宗方と二人きりになれる機会はそうあるものではない。
 だが、服の下のナイフを握る手がまだわずかに震えていて、確実に迅速に目的を実行するためにそれが静まるのを待っていた。
 無理にあせって仕損じてしまったら、ここまで来た意味がない。しかし、本当の原因は震えではなく、覚悟を決めてナイフを握りしめながらも心のどこかでまだ自分が罪を犯す理由を欲しがっていたせいだった。
 だからこそ、前院長の急死のことをちらつかせるようなことを言ったのだが、宗方は何も答えない。そんな宗方の何も感情の感じられない横顔を見た橘は、手の震えを止めて気持ちを落ち着かせるために短く息を吐いて止めた。
 「答えてくださらないのなら、僕が貴方の胸に聞いてみてもいいんですよ…」
 その言葉とともに握りしめたナイフを構えたが、そうしようとした瞬間に宗方が真っ直ぐ橘の方に視線を向ける。宗方の視線を正面から受けた橘は、感情のない冷たい黒い瞳に魅入られたようにそのまま動きを止めた。

 「その服の下の凶器を私の胸に突き立てたとして、君には何かそうしなければならない理由でもあるのかね?」

 温室に入ってきた橘の方を見もしなかったが、宗方は初めから橘が自分を殺そうとしていることを知っていた。しかし、それを知りながらも宗方の手には武器らしきものは何も握られていない。 
 だから、この状態でナイフを突きつければ宗方に勝ち目はないはずだった。
 なのに、まるで自分の方が優位に立っているかのように、宗方の無機質な瞳は身動きが取れなくなるほど強く橘を威圧している。そして、その瞳に写る橘の凍りついた顔には恐怖が張り付いていた。
 「昔も今も私を見る時、君はいつもそういう顔をしている。そんなに私が怖いかね?」
 「昔も今もって…、それは僕が病院に就職してからのことですか?」
 「君がまだ、私の腰までの身長しかなかった頃の話だ」
 「え?」
 「君とは、松本家の書斎で始めて会った」
 「書斎?初めて会った…? なんのことなのか意味が…」
 「WAを射たれて、すべてを忘れてしまったのかね? 橘君」
 「僕はWAを射たれていないし、何も忘れてはいません。だからこそ…、だからこそ僕は今、貴方の目の前に立っているんです」
 「何のために?」

 「自分の父親である元院長を殺し、それに協力したあの人の父親を口封じのために殺した…、貴方に復讐するために…」

 宗方が元院長を殺したという証拠も、松本の父親を殺したという証拠も何もない…。
 けれど、橘はあの暑い夏の日からずっとそう信じてきた。
 だからこそ、自分を家族として迎え入れてくれた松本の父親の復讐を果たすために男達を利用し、久保田の元から時任をさらって罪を重ね、こうしてナイフを握りしめている。なのに、そんな橘の怒りに満ちた瞳を見返した宗方は、手に握られているナイフを見て低く笑った。
 「なるほど、ナイフを突きつけてきた理由はわかったが、やはり私は君のナイフに刺される覚えはないようだ」
 「・・・・・・貴方が自分の罪を認めないと言うのなら、僕の手で裁いてあげますよ」
 「ふふふっ、無実の罪を裁くとはずいぶんと面白いことを言う」
 「死を目の前にしても、あくまで認めないつもりですか?」
 「いや、死を目の前にしているからこそ、私は真実を言っているのだよ」
 「・・・・・・・」
 「それになぜなのかはわからないが、君はナイフを突き立てる相手を間違えている…。もっとも、すでに死んだ人間をもう一度、殺すことは無理だろうがね」
 「・・・・・・・そ、それはどういう意味です」
 すぐ目の前に宗方がいて、手に持っているナイフを突き出せば目的を果たせる。だが宗の言葉に、なぜか橘の手は凍りつき動かなかった。
 そんな橘を嘲笑うかのように伸びてきた宗方の手が内をナイフを叩き落すと、落ちたナイフは派手な音を立てて温室の床に転がる。しかし、その音は立ち尽くしたまま動かない橘の耳には、どこか遠くから響いてくるように聞こえていた。
 ナイフを叩き落した宗方の手は、ゆっくりと弄ぶように橘の頬を撫でる。すると橘は頬を撫でていく手の冷たい感触に鳥肌を立てたが、宗方はそのまま橘を温室の床に押し倒した。
 そして無機質な目で閉じられてしまった橘の瞳を上から覗き込むと、冷たい手を上から下へと這わせていく。だが、その手がベルトを外してズボンの中に忍び込んできても、橘は生理的に与えられる刺激に反応するだけで抵抗できなかった。
 「さぁ、思い出すがいい…」
 「な…、なにをっっ」
 「無力で幼い子供だった君を、私の見ている前で書斎の床に押さえつけて犯した男を…」
 「・・・・っ!!」
 「君はその男のことを、なんと呼んでいたかね?」
 「そんな男なんて…、知らな・・・・・・っ」
 「閉じた目を開ければ、すぐ目の前に見えるはずだ…。本当に殺すべき相手が、憎むべき相手が…」
 
 「あっ、あぁっ…、あぁぁぁ…っ!!」

 すぐにでも起き上がって、自分を犯そうとしている相手を殴りたかった。けれど、胸の奥の一番深い場所に沈めてしまっていた記憶が蘇ってきて、橘の年齢を無力だった幼かった頃に戻していく…。
 すると暖かな家の裏側の冷たい闇が胸の奥から滲み出してきて、それが橘の頬を涙になって伝い始めると…、胸も身体も何もかもが痛くて、痛くてたまらなくて瞳を開ける。
 だがそこには宗方ではなく…、もっと身近で、もっと良く知っている男の顔があった。

 「・・・・・・・・お父さん」

 自分をそう呼ぶように言った男は松本の父親で事故でなくなった両親の友人で、そして親戚中をたらし回しにされていた橘に居場所をくれた人だったけれど…、
 ある日、突然…、その男は橘の父親になることをやめてしまった。
 でも、何度も何度も床に押さえつけられ犯されても、自分に家を居場所をくれた男を恨むことも憎むこともできなくて…、それはやがて抱かれることに慣れれば慣れるほど、松本や松本の母親への罪悪感に変わって…、
 橘は友達だった松本の隣ではなく、一歩後ろを歩くようになった…。
 松本の母親は、何も言わないけれど夫と自分の関係を知っている。
 けれど、絶対に松本にだけはこのことを知られたくなくて…、自分に向かって笑いかけてくれる笑顔を、無邪気にうれしそうに父親に向ける笑顔を壊したくなくて…、

 ・・・・・・・・・小さな身体の中に秘密を必死で押し隠した。

 忘れていた…、忘れようとしていた痛みを想い出した橘の瞳は、温室の中に咲いている名前も知らない赤い小さな花を見つめながら悲しみに揺れている。けれど真実を想い出しても…、宗方の言う憎むべき相手も殺すべき相手もいなかった…。
 ただ深い深い悲しみと痛みが、波のように心の奥から打ち寄せてくるだけで…、
 けれど、その波は止まることなく寄せては返してどこまでも続いていく…。
 そんな心の奥の波を感じながら、橘はゆっくりと落ちているナイフに手を伸ばした。
 「思い出せないくらい遠い日も、今も…、あの人にいつも笑っていて欲しかった…。だから、こんな記憶も真実もいらないんです…」
 「まだ、私を殺す気なのかね?」
 「貴方の中に、あの日の記憶がある限り…」
 「それは、君の中にもあるだろう?」
 「えぇ…、ですから、貴方を消した後で僕も消えますよ。この世から跡形もなく…」

 「ほう、この私と心中でもしようというのかね?」
 
 宗方はそう言ったが、相変わらず表情は無機質なままで変わらない。それは、松本の父親に犯される幼い橘を見ていた時と同じだった。
 何かの用事で松本の家に宗方が訪れた日…、偶然、母親が留守で変わりに橘がお茶を出すために書斎に入る。その時、二人がどんな話をしていたのかはわからないが、入ってきた橘を見る父親の目はいつもと違っていた。
「あの日、貴方は僕を犯すようにあの人をそそのかしたかもしれませんが、その様子を楽しそうに見ていただけで確かに何もしていない…、それはちゃんとわかっています…。ですが、こうなったのは貴方が悪い…」
 「理由は?」
 「忘れた頃に、貴方があの人を病院に呼んだりするからです」
 「息子が医者になったら、就職を世話するよう頼まれていたのだよ」
 「ふふふ…、意外な所で律儀なんですね。それとも、貴方とあの人が接触するたびに、怯える僕をなぶり者にでもしたかったんですか?」
 「そんなに、松本君に事実を知られるのが怖いのかね?」

 「えぇ…、とても怖いですよ…。ナイフを持つ手が震えるほどに…」

 そう言った言葉の通り、ナイフを握りしめた橘の手は震えている。でも、それは自らの手を赤く血に染めても、松本に知られたくない本当の理由がわかったせいだった…。
 幼い日は松本の笑顔を守りたかったから、胸の奥に必死で隠し続けたけれど…、あの暑い夏の日から本当に何もかも消し去りたいと強く強く念じて…、
 本当に記憶の奥に閉じ込めてしまうほどの何かにすり替わる。
 そしてそれは…、松本がずっと探し続けていた真実で変わりようもない事実だった。

 「真実も事実も…、すべては僕の中にあったんです…」
 
 橘が胸の痛みに耐えて苦しそうにそう告げると…、そんな橘を上から見下ろしながら宗方はゆっくりと口の端を吊り上げる。それを見た橘がわずかに身体を震わせると、宗方はポケットから透明な液体の入った注射器を取り出した。
 「君を犯したがっていた松本にはこれを渡してやったのだが、どうやら使わなかったようだな…」
 「まさか…、それは…っ」
 「そう、そのまさかだよ、橘君。もっともその頃はWAを射てば記憶が消える…、という結果ぐらいしかまだわかってはいなかったのだがね」
 「・・・・・・貴方という人は」
 「そんなに心配しなくとも、君に射った後で松本君にもすべてを忘れるように注射しておいてあげよう…。だから、安心するがいい」
 「・・・・・・・・やはり貴方は生かして置けない」」

 「ほう、それは非常に楽しみだが…。そんなに震えた手で私を殺せるのかね?」

 ナイフはなんとか握りしめているものの、床に押さえつけられている橘の形勢は完全に不利だった。宗方の喉に突き立てようとしたナイフは再び叩き落され…、いくら暴れても宗方を払いのけて起き上がることが出来ない…。
 それは未だ幼かった日の記憶がそうさせているのか、それともただ力が足りないだけなのか橘自身にもわからなかった…。
 
 「本当に誰よりも・・・・・・、貴方が好きでしたよ…」

 肩に注射器の針が突き刺されるのを感じた瞬間、橘は遠い記憶の中にある一番綺麗な光景を…、松本と二人で家の近くにある空き地で見た夕焼けの空を脳裏に思い浮べながらそう呟くと瞳を閉じる。
 あの日のままでいられたら、あの夕焼け空の下にいることができたら…、ずっと二人で並んで歩けたかもしれない…。
 もっともっと…、深く抱きしめ合えたかもしれない…。
 けれど、その日は遠すぎて鮮明な赤だけが…、美しく哀しく胸に満ちていた。

 これで…、あの夕焼け空も愛する人のことも忘れてすべてが終わる…。

 肩に痛みを感じながら橘がそう思った時、温室のドアが勢い良く開く音がして…、聞き覚えのある声が耳に届いてくる。それは会いたいと想っていたから、幻聴が聞こえてきたのかと想ったが…、
 突然、身体が軽くなって肩の痛みが消えた…。
 
 「橘に…っ、遥にさわるなぁぁっっ!!!!!」

 何年ぶりかに聞いた…、自分のことを苗字ではなく名前で呼ぶ松本の声に…、
 WAを射たれる寸前で助けられた橘は、ゆっくりと閉じていた瞳を開ける…。
 松本の声を聞いていると胸の奥があたたかくて、涙があふれそうになるけれど…、
 それと同時に胸を切り裂くような痛みが襲ってきた。

 「早く…、早く消してしまわなくては…」

 そう、うわ言のように再びナイフを握りしめてフラフラと立ち上がった橘は、松本と一緒に温室に入ってきた葛西と対峙している宗方に切りかかる。けれど、橘の目には宗方ではなく…、あの暑い夏の日の一週間前に、初めてベッドで抱き合った松本と橘をドアの隙間から見ていた…、

 松本の父親の驚きと恐怖に満ちた顔が見えていた。




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