姫君にキスを.8




 王子役になるという三宅から差し出された手を、時任は握ったりはしなかった。
 藤原がケガをしたから代役を誰かがしなくてはならないというのはわかるが、三宅の笑顔を見ているとなぜか嫌な気分になってくる。
 時任は三宅の隣りにいる桂木を、抗議を込めて軽く睨みつけた。
 「なんで部外者が代役なんだよ?」
 「適役がいないんだから、しょうがないでしょ?」
 「誰でもいいじゃんかっ」
 「あんたって結構、背が高いから相手役を探すのが難しいのよ」
 「別にそんな高いってワケじゃねぇだろっ」
 「執行部であんたより背が高いって限られてるでしょ?」
 「俺より高いって、藤原と室田と…くぼ…」
 執行部の中で自分より背の高い人物を思い浮かべていると、やはり久保田の名前を言ってしまいそうになる。けれど時任は途中で口をつぐんで、その名前を言おうとはしなかった。
 それは藤原に王子役を譲ったくらいだから、代役も絶対にやってくれないだろうと思ったからである。
 結局、久保田はシンデレラをする本番当日になっても時任を止めようとはしなかった。
 そればかりか、学校に来ているはずなのにここにもどこにもいない。
 もうじき劇の準備をしなくてはならないというのに、久保田の姿はどこにも見えなかった。
 「シンデレラはやったことがあるけど…。もしかして、時任は俺が相手役じゃ不満?」
 「べつに…」
 「じゃ、よろしく頼むよ」
 「ああ」
 時任は不機嫌そうに返事をしていたが、三宅は相変わらず笑みを浮かべたままだった。
 前々から三宅は時任に気があったのだが、直接的に告白はされていないため、時任は未だに三宅の気持ちに気づいていない。
 例のポスターの件はあったがその件に関しても、三宅は時任には何も言わなかったためそれほど悪い印象はない。さっきから優しく見つめられてはいたが、三宅に全然興味がなかったので時任はその視線の意味がわからないでいた。
 それに時任は王子役になった三宅のことよりも、さっきからずっと時計の針をばかりを気にしている。
 その時計の針は小さく音を立てて、止まることなく時を刻んでいた。
 劇が始まるまでにまだ時間があるが、こうしている間にも時間が過ぎて、急いでシンデレラの準備をしなくてはならなくなる。

 けれどシンデレラになるその前に、時任はどうしても久保田に会いと思っていた。

 ずっと芝居だから本当じゃないから、これは浮気でも裏切りでもないと自分に言い聞かせてもどうしても気持ちが割り切れなくて…。 
 久保田に練習のためのキスをされると、哀しくてたまらなかった。
 キスされてもキスに答えることもできなくて、ただキスされているばかりで…。
 そんなキスばかりされていると久保田の気持ちがわからなくなって…。
 まるで何かを責めるように冷たく見つめられると、胸が痛くてつらくてたまらなかった。
 そんな風に久保田のことを考えていると、もうじきシンデレラにならなくてはならないのに、気持ちがユラユラと揺れて舞台に上がる気にはなれない。
 自分で言ったことだからちゃんとしようと決めてはいたが、やっぱり久保田以外に抱きしめられたくもキスされたくもなかった。
 だから、どうしてもシンデレラをする前に久保田と話をしたかったのに…。
 朝、ベッドから起き上がってリビングに行くと、ソファーで眠っているはずの久保田はすでに出かけてしまっていた。いつも二人で寝ているベッドで一人眠るのも寂しかったが、何も言わずに久保田がいなくなっているのを見みるともっと寂しくなってきて…。
 けれど、今日が本番なので学校に行かないわけにはいかなかった。
 藤原とも誰ともキスする気にはなれないでいても、劇をすっぽかしたら後で自分が後悔するから…。
 だから、後悔しないために学校に行かなくてはならなかった。
 「逃げたりしたくねぇけど…」
 時任はそう呟くと、じっとシンデレラの台本を見つめる。
 その台本には、これから三宅とするキスシーンがちゃんと付け加えられていた。
 だから、今からいつも久保田とキスする唇で三宅とキスしなくてはならない。
 
 けれど三宅とキスしてしまったら、もう久保田とキスできなくなる気がした…。

 時任はシンデレラの台本から視線をドアの方に向けると、これから劇の準備をしなければいけないというのに保健室から出ようとする。
 だがそれに気づいた桂木が、ドアのそばにいた室田に指示を出した。
 「室田っ、時任を止めてっ!!」
 室田は桂木の指示に従って、ドアを出る直前で時任を捕まえる。
 ケンカには自信のある時任だったが、室田のバカ力からは逃れることができなかった。
 「くそぉっ、離しやがれっ!」
 「これから準備しなきゃならないのに、どこ行く気なのよっ!」
 「べつにドコでもいいだろっ!! 始まるまでに戻るから離せっ!!」
 ジタバタと手足をばたつかせながら時任が暴れていると、桂木はそんな時任の様子を見てため息をつく。そして、シンデレラの台本を丸めて暴れている時任の頭を軽く叩いた。
 「探しに行っても、たぶん久保田君は見つからないわ」
 「・・・・見つからないって、どういうことだよっ?!」
 久保田に会いに行こうとしていたのを見透かした桂木のセリフに、時任が不審そうな顔をする。
 だが、桂木は久保田が見つからないと言った理由を言わなかった。
 けれど、時任の知らない何かを桂木が知っているということは間違いない。
 時任は暴れるのをやめると、室田の束縛から逃れて桂木の前に立った。
 「久保ちゃんが、どこで何してるか知ってんだろ?」
 「…知らないわ」
 「ウソついてんじゃねぇよっ」
 「ウソじゃないわよ、本当にどこにいるか知らないしね。けど、あんたに一つだけ言える事があるわ」
 「言えることって、何だよ?」

 「それは、もしかしたら私たちの劇が妨害されるかもしれないってコトよ」

 執行部が妨害されるかもしれないという桂木の発言に、思わず保健室にいる全員が黙り込む。
 妨害される理由を桂木は言わなかったが、真剣な表情と口調からそれがウソではないことがわかった。その妨害される理由と久保田がどう関わっているのかわからなかったが、とにかく無事にシンデレラをやるには自分達の周囲に注意する必要がありそうである。
 時任は唇を噛みしめると、桂木の手から台本を取ってぐしゃっと握りつぶした。
 「つまり一人で行動すんなってことだろ?」
 「久保田君がしてることをムダにしたくないなら、おとなしくしててよね」
 「久保ちゃんは…」
 「なに?」
 「なんでもねぇよ…」
 何か理由があって久保田がここにいないということはわかったが、相方である自分に何も言わずに行動していることに時任はショックを受けていた。
 文化祭の劇の練習のことがあったにしても、何か言ってほしかったのに…。
 久保田はこうして一人で何かをしようとしている。
 まるで相方としても必要ないと言われたみたいで、もう何も言う気にはならなかった。
 
 「とっとと劇の準備しようぜっ、時間ねぇんだろっ」

 時任が俯いたままそう言うと、桂木はふーっと息を吐いてから準備していた衣装を保健室のベッドの上に並べた。
 その中には、継母用と意地悪の姉用、魔法使い、そして王子の衣装とシンデレラのドレスがある。
 シンデレラの衣装は家にいる時のものと、舞踏会の時のものを合わせて二着あった。
 そしてメイクするための化粧品は、五十嵐によってすでに用意されている。
 五十嵐は時任と桂木の会話を口をはさまずにじっと聞いていたが、メイクの道具を手に持つと元気付けるように時任の肩を軽く叩いた。
 「ぼんやりしてないで、さっさと準備始めるわよっ」
 「五十嵐先生っ、メイクお願いしますね?」
 「ふふふっ、まかせてちょうだい。アタシこういうの得意だものぉっ」
 「着替えが終ったら順番にメイクすることっ、いいわねっ!」
 「ほらぁっ、着替えて早くいらっしゃ〜いっ」
 妨害のことはあったがシンデレラの開演を前に、桂木と五十嵐はかなりはりきっていてやる気である。
 特に怪しい笑みを浮かべながら手招きしている五十嵐は、あまりにも危険な気がした。
 女装するのはシンデレラ役の時任だけではなく、継母役の松原も意地悪な姉役の相浦もしなくてはならない。しかし二人ともドレスなど着たことがないので、着替えるのに苦労していた。
 「ど、ドレスって結構重いんだな…」
 「なぜこんな着づらい構造になっているのか、不思議です」
 「後ろのファスナーって、どうやって上げるんだ?」
 「手が届かない…」
 松原は後ろのファスナーを閉めようと手を伸ばしていたが、どうやっても途中までしか上げられない。どうしたものかと松原が悩んでいると、横から手が伸びてきて松原のドレスのファスナーを上げた。
 「あっ、すまない」
 そう松原が礼を言って振り返ると、そこには室田がぼーっと突っ立っていた。
 ファスナーを上げたのは後ろにいた室田に違いなかったが、なぜか真っ赤な顔をしてあらぬ方向をむいている。実は室田のいた位置から、松原の綺麗なうなじが良く見えていたのだった。
 「…室田?」
 「い、いや…、なんでもない」
 「熱でも?」
 「ね、熱はない…」
 熱がある、いやないと松原と室田が言い合いを始めたが、その様子を見ていた相浦はまだファスナーを閉めようと苦戦している。だが、顔を真っ赤にしている室田と、その理由を追求しようとしている松原はそれに気づいていなかった。

 「ううっ、熱があってもなくてもどうでもいいからっ、誰か手伝ってくれぇ〜」

 そんな風に大騒ぎしながら準備が終ると、ちょうど演劇部の部員が執行部に控え室に行くようにと知らせに来た。少し早いが、もう控え室で待機していなくてはならないようである。
 しかし、時任はシンデレラの衣装を着て椅子に座ってはいたが、もうじき劇が始まるというのにその表情は沈んでしまっていた。
 全員の化粧をし終わった五十嵐は、時任のそばに歩み寄ると黒いストレートの長い髪に水色のリボンをつける。時任が着ていたのはシンデレラの衣装なので何の飾りもないドレスだったが、つけられている長い髪にはシンプルなドレスが良く似合っていた。
 顔の方は化粧もそれほど濃くはなかったが、元が整っているため美少女と言っていいほどの出来である。だが美少女めいた顔に似合う印象的な綺麗な瞳は、気分が沈み込んでしまっているため憂いを帯びてしまっていた。
 五十嵐は髪にリボンをつけ終えると、微笑みながら俯いている時任に話しかける。
 その声には、学校の保健の先生らしい優しさがこもっていた。
 「せっかく綺麗にお化粧してあげたのに、そんなカオしてたら台無しじゃない」
 「うるっせぇ…」
 「久保田君のこと、考えてるの?」
 「べっつに考えてなんかねぇよっ」
 「色々気になるのはわかるけど、何の考えもなしに久保田君がアンタに黙って何かすると思う?」
 「・・・・・そんなの知るワケねぇだろ」
 「じゃ、信じられない?」
 「・・・・・・・」
 「きっと久保田君はアンタのこと考えてるわよ、いつもみたいに…。ちょっと焼けちゃうけどっ」
 「…んなの、言われるまでもねぇっつーのっ、クソばばぁっ」
 「ぬぁんですってぇっ!!」
 時任にクソばばぁ呼ばわりされて、五十嵐がいつものようにこめかみをピクピクさせている。
 だが、そんな五十嵐と言い合いながら、時任はまだ完全には吹っ切れていないようだったが、少し調子を取り戻したようだった。
 そうして全員が準備を終えると、舞踏会のシーンなどを助っ人で参加してくれるマン研部の部員達と合流すると執行部は体育館の控え室に移動する。何か起こるのではないかと全員が内心冷や冷やしていたが、準備を終えて体育館の控え室に行っても何も起こる気配はなかった。
 この分だと、心配することなく無事にシンデレラをすることができそうである。
 控え室では可憐なシンデレラになった時任にマン研部員達の間で悲鳴が上がっていたが、松原と相浦も同じようにキャーキャー言われていた。
 だが、なぜか王子役である三宅の姿だけが控え室にはない。
 実はここに来る前に、用事があるという生徒に呼び出されていたのだった。

 「ちょっと、トイレに行ってくっからっ」
 「誰かついて行ってくれる?」
 「トイレくらい一人でヘーキだって」
 「ま、待ちなさいよっ、時任!」

 時任は誰かが付き添うというのを断って、桂木の言うことを聞かずに控え室から外に出た。
 けれど、実はトイレというのは嘘で久保田を探しに行くつもりだったのである。
 運の良いことに最初に劇をしたところがかなりタイムオーバーしてしまったため、時間がずいぶんとずれ込んでしまっていた。
 「時間内に戻ってくれば問題ねぇよなっ」
 時任はそう呟くと、長いスカートを膝の辺りまでめくり上げて走り出す。
 それを見た男子生徒達が騒いでいたが、そんなものに構っている余裕はなかった。
 桂木に久保田のしていることをムダにしたくなかったらあきらめろと言われたが、やっぱりどうしても会いたくて…。
 だからどこにいるかわからなくても、こうして走り出さずにはいられない。
 けれど何を話すかとか、もし会ったらどうしようかなんて全然何も考えてなくて…。
 なぜ来たのかと言われてしまうかもしれなくても、ただ会いたいだけだったから…。
 久保田に会って顔を見ることができたら、それで十分だった。
 たとえ久保田じゃない誰かと、キスすることを止めてくれなくても…。
 
 「どっから探せばいんだよ…」
 
 久保田の姿を探して校舎まで来たが、やはりそう簡単には見つからない。
 シンデレラの衣装のままでキョロキョロと辺りを見回していると、誰かが後ろから声をかけてきた。
 なんだろうと思って時任が振り返ると、いきなり何かで口をふさがれる。
 抵抗しようとして拳を繰り出したが、相手は一人ではなかったらしく腕をねじ上げられてしまった。
 「なにす…」
 とっさに相手の顔を見ようとしたが、口をふさいでいるハンカチに染みこまされている薬品のせいで視界かぼやけてしまって見えない。かすれていく意識の中で聞き覚えのあるような声を聞いた気がしたが、それもはっきりとはわからなかった。









 時任が気がついて目を開けると、昼間のはずなのに視界が暗かった。
 立ち上がるために手と動かそうとしたが、後ろ手に縛られているため動かすことができない。
 しかも足まで縛られてしまっていたので、ズルズルと這って顔を上げるのがやっとだった。
 自分のいる真っ暗という訳ではなく薄暗い程度なので、ここがどこなのかすぐに知ることが出来る。
 近くに跳び箱とハードル、下にはマットが敷かれているとなると、閉じ込められている場所は体育館倉庫以外に考えられなかった。
 「くっそぉっ、妨害ってこういうコトかよっ」
 時任はなんとかして縛らせている縄を解こうとしたが、きつく縛られていて外れない。
 劇の始まる時間を気にしながら時任が腕に力を込めていると、誰もいないと思っていたのに背後から声がした。
 「あんまり手に力入れると、皮がむけるからやめた方がいいぞ」
 「て、てめぇ…」
 「勘違いするなよ、俺も捕まってんだから」
 「え?」
 「二人で倉庫に監禁されてるんだよ」
 時任の背後から声をかけてきたのは、王子役をするはずの三宅だった。
 いきなり出てきたので三宅が犯人かと思ったが、シンデレラを妨害するというなら、王子役である三宅が一緒に捕まったのも納得できる話である。
 シンデレラと王子が二人ともいなければ、劇が出来なくなるに違いなかった。
 時任は小さく息を吐くと、目の前にある閉ざされた扉を見る。
 すると三宅が開かないことを時任に見せるように、扉を手で引っ張って見せた。
 「扉に鍵がかかってるから、出られないぜ」
 「お前はやったヤツの顔、見なかったのか?」
 「いきなり薬嗅がされたから、見るヒマなかったよ」
 「そっか…」
 自分も見るヒマがなかったので、三宅が見なかったことを責めることはできない。
 だが、犯人の顔も何もかもわからなかったし扉から出ることはできなかったが、三宅は時任のように縛られていなかったので縄を解いてもらうことはできそうだった。
 「悪りぃけど、俺の縄解いてくれねぇ?」
 時任はそう言うと、後ろを向いて三宅の前に縄に縛られた手を見せた。
 すると三宅が時任のそばまで近づいてきて、その前に静かにひざまづく。
 けれど、いつまでたっても縄を解かないので時任が不審に思っていると、いきなり三宅に身体をきつく抱きしめられた。
 「好きだ、時任」
 「はぁ?!突然、なに言ってんだよ?」
 「突然なんかじゃなくて、ずっと前から好きだったんだ」
 「好きだっつって言われても、俺はアンタと付き合う気なんかねぇよっ」
 「・・・・・へぇ、そうかよ。やっぱり久保田なんだな?」
 「く、久保ちゃんは…」
 「そうなんだろっ!!」
 「やめろっ、離せっ!!」
 時任は必死に三宅から逃げようとしていたが、手足を縛られているので逃げることができない。
 そうして逃げようとあがいている内に、三宅の唇が強引に時任の唇に押し付けられる。
 時任は唇を塞がれてその息苦しさに思わず口を開いたが、その瞬間に深く口付けられて、三宅の舌が歯列を割って中に侵入してこようとした。
 だが、侵入してくる舌のねっとりとした感触のあまりの気持ち悪さ耐え切れず、時任が三宅の舌に噛み付く。すると、噛み付ついた三宅の舌に赤く血が滲んだ。
 「痛っ…!!」
 「ざまぁみろっ、バーカッ!」
 そう言いながら時任が血を飲み込んでしまわないように唾を吐くと、三宅は平手で時任の頬を派手な音を立てて数回叩いた。三宅はそれでおとなしくさせるつもりだったらしかったが、叩かれた頬が赤くなってしまっていても時任は怯んだりはしない。
 じっと鋭い瞳で三宅を睨みつけると、縛られている足を振り上げて三宅を攻撃しようとした。
 たが縛られているため、やはり蹴るのには威力が足りず、簡単に足を三宅に捕まえられてしまう。
 三宅は時任の肩を押さえつけると、ゆっくりと時任の足に手を這わせ始めた。
 「久保田といつもこんなことしてるんだろ?」
 「てめぇっ、ぶっ殺してやるっ!!」
 「やれるもんならやってみろよ、できるもんならな」
 「このっ、ヘンタイホモ野郎っ!!」
 抵抗らしい抵抗も出来ないまま、ドレスのスカートが三宅にめくり上げられて、男にしては細い綺麗な足が空気にさられる。そして、きちんと閉められていたはずの背中のファスナーも、半分くらい開けられてしまっていた。
 
 「時任に染み付いてる久保田の匂いを、俺が消してやるよ」

 そう言いながら自分の首筋に三宅の唇が下りてくるのを、時任は歯を食いしばりながら必死に耐えていた。身動きが取れなくてくやしくても、それに心まで負けてしまわないように…。
 時任はあきらめずに自力でなんとか縄を外そうとしていたが、力を込めすぎて手首には血が滲み始めていた。



 
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