ダブルキャスト.5



 
 俺が二人になっちまって、これからどうなんのか…。
 俺とアイツはどうやって…って、そう考えかけて始めて気づいた。
 男の俺の方がホンモノだって思ってたはずなのに、いつの間にかアイツも俺なんだって認めちまってる事に…。
 それがなんでなのかってのは聞かれてもわかんねぇけど、一緒にいればいるほど、そう思うのがなんか当たり前みたいな気がしてくる。一緒にいても違和感ねぇし、考えてる事もやる事も似てるし…、美少年で天才でカッコイイとこもそっくりだしっ!!!
 俺様っ、最高っ!!!!
 なーんて…、アイツも同じこと思ってたりして…。
 そんなコトを考えながらイスに座って足をブラブラさせながら、いつもメシを食ってる机に肘をついてソファーにいる久保ちゃんを見る。そしたら、久保ちゃんは新聞を見ながら、なんか一人でブツブツ言ってた。
 
 「時次郎と時子とか…、うーん・・・・・・」

 よーく聞いてみると名前を言ってるみたいだけど、時がついてたり三郎だったり…、
 また、オカマ校医に続いてイヤーな予感がするっ。俺と同じカオしたアイツは今、オカマと買い物に行ってていねぇけど、もしもいたら同じコトを言ったに違いなかった。
 久保ちゃんは新聞を読んでるようで、ぜっったいに読んでないっ。俺はイスから立ち上がってソファーまで行くと、久保ちゃんの新聞をバッと勢い良く奪い取った。
 「・・・・・新聞、読んでたんだけど?」
 「ウソつけ、さっきから読まずに同じトコばっか見てたクセにっ」
 「そうだったっけ?」
 「しかも、なんかブツブツ言ってるし、一体、新聞見ながら何考えてたんだよ?」
 「んー、名前」
 「名前?」
 「二人いると呼ぶのに不便でしょ?」
 久保ちゃんはそう言うと、俺の手から新聞を奪い取って開いて読み始める。だから、俺はソファーに座ってる久保ちゃんの前に…、床に座って新聞のテレビ欄を見た。
 うーん…、今日は特に見たいヤツねぇなー…。
 そんな風にちょっとだけテレビ番組をチェックしてから、床にうつ伏せに寝転がる。
 そして、その姿勢のまま久保ちゃんを見上げた。
 「そう言われれば、確かに不便かもだよなぁ…。今んトコ、なんにもわかんねぇワケだから、俺もアイツも同じ名前だし」
 「そうねぇ」
 「でもっっ、時次郎とかぜっったいにイヤだかんなっ!!」
 「ありゃ、聞いてた?」
 「聞いてんじゃなくてっ、聞こえたんだよっ」
 「じゃ…」
 「それも却下っ!」

 「・・・って、まだ何も言ってないんですけど?」
 
 久保ちゃんに任せてたら、ぜっったいヘンな呼び方されるに決まってる。
 だから、俺は自分とアイツをどう呼ぶかを考え始めた。
 俺は男でそのまんま変わってねぇから、フツーで時任でいいと思うけど、アイツに女だから違う名前にしろってのはなんか言いづらい。それはアイツも俺だって認めちまってるせいかもしれなかった…。
 俺も時任稔で…、アイツも時任稔…。
 改めてそう考えると、わけわかんなくて混乱してくる。同じようなコト考えてんのも、言ってる事がダブルのも同じだって証拠なのかもしんねぇけど…、
 証拠があっても、こんな風になっちまったワケはやっぱわからなかった。
 
 「俺は分裂なんかしてねぇっつーのっ」
 
 オカマ校医が言ってたコトを思い出してムッとしながらそう言うと、久保ちゃんは新聞から顔を上げて何かを考えるように細い目で何かを見つめる。だから俺も同じ方向を見たけど、そこにはいつもしてる格ゲーのパッケージが置いてあるだけで他には何もなかった。
 格ゲーには同じキャラで色とか服とか違ってるだけの…、1Pと2Pがいたりする。なんとなく、それが俺らと似てるカンジがしてパッケージをじーっと見てると、久保ちゃんが手を伸ばして俺の頭を軽く撫でた。
 「ま、時次郎ってのはジョウダンだけど…」
 「…って、ジョウダンだったのかよっ!!」
 「もしかして、ホントは時次郎って呼ばれたかったとか?」
 「んなワケねぇだろっ!」
 「だったら、呼び名はともかく…、とりあえずお前とあの子は双子で兄弟って事にしとこっか?」
 「でも、いきなり双子の兄弟がいるとかって不自然じゃねぇ?」
 「見た目で納得ってカンジだし、今まで家庭の事情で別々に暮らしてたって言えば大丈夫」
 「そんなモンか?」
 「そんなモン」
 「ふーん…」
 「どうかした?」

 「・・・・なんでもねぇよっ」

 俺とアイツが兄弟…。
 今まで分裂とか、同じだとかそんなコトばっかしか考えてなかったから、久保ちゃんに兄弟って事にしとこうって言われてちょっとビックリして、少し不思議なカンジがした。
 兄弟って言われても、俺にはいないし良くわかんねえけど…、
 ホントに俺とアイツが兄弟だったら、なんかいいかもしれない…。
 そう考えるとなんか楽しかった。
 「なんとなく楽しそうだけど、なんかいい事あった?」
 「べつになーんにもっ」
 「そう」
 「なぁ、久保ちゃん…」
 「うん」
 「アイツ…、早く帰ってくるといいな」
 「だぁね」
 寝転がって足をブラブラさせながら、アイツが帰ってくるのを待つ。けど、同じようにアイツの帰りを待ってる久保ちゃんを見ると楽しい気持ちがほんの少しだけ…、チクチクとした痛みに変わった気がした。
 もし俺のカラダで痛い場所があるとしたら、昨日、階段から落ちて打った場所のはずなのに…、チクチクするのは胸の中…。
 オカマ校医が貼った湿布を服の上から押さえると、胸とは違う痛みが走った。

 「痛ってぇ…」

 昨日、階段から落ちて打った場所…。
 そこは赤紫色のアザになっていて、アイツにもそれがある。
 だから、たぶん俺もアイツも階段から落ちたんだ。
 けど、そうだとしても…、なぜ階段から落ちたのかが思い出せない。
 なんで、階段なんかから落ちまったんだろ?
 もしかして、アザのトコだけじゃなくて頭も打っちまったのか?
 俺は足をブラブラさせながら、アイツが帰ってきたらなんで落ちたのかを聞いてみることに決めた…。でも、俺が答えられなくてアイツが答えられたら、どういう事になんだろ?
 いくら考えても、何もかもがわからないまま…。
 でも俺とアイツと…、そして久保ちゃんと三人でいる事が嫌なワケじゃなかった。

 「アイツのコトは女だけどさ…、稔って呼ぼうぜ」

 俺がそう言うと、久保ちゃんは反対せずにうん…って言う。せっかく、久保ちゃんが双子って事にしてくれたのに、俺が時任でアイツが稔って呼ばれてたらヘンかもしれねぇけど、その方が別な名前よりずっといい気がした。
 俺は足をブラブラさせながら、久保ちゃんは新聞をめくりながら…、
 昨日までは居なかった…、もしかしたら居たかもしれないもう一人を待つ。
 そうしてるといつも二人で居る時は時間なんて気にした事なんかねぇのに、アイツを待ってるせいなのか、それとも胸がチクチクするせいなのか…

 今日は二人でいる時間が…、やけに長く感じた…。



 

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