ダブルキャスト.4



 
 今日は日曜日で学校に行く必要はない。
 だから、こんなコトになっててもリビングで床に座ってのんびりポテチ食いながら、色々と考える余裕とかあんだけど、玄関でチャイムが鳴った瞬間に不吉な予感が頭ん中をよぎった。しかも、チャイムを聞いて玄関に行った久保ちゃんがなかなか戻って来ない…。
 新聞の勧誘とか押し売りなら、二言くらいでオシマイ。
 それに、久保ちゃんが長々と玄関で立ち話しってのも珍しかった。
 ・・・・・・もしかして、なんかあったのか?
 そう思って時任が床から立ち上がりかけると、隣から同じように立ち上がろうとしてた男の俺と目が合う。どうやら、同じコトを考えてたらしかった。
 「なぁ?」
 「ん?」
 「なーんか、イヤーな予感しねぇか?」
 「するっ、なんかすっげぇするっ」
 
 『なんか…、すっげぇイヤーな予感がっっ!』

 二人で同時に同じコト言ったせいで、リビングに声が大きく響く。なんでかわかんねぇけど、俺ともう一人のヤツとは考えてるコトが似てんのかこういうコトが多かった。
 カオを見てると鏡見てるみてぇだし、喋るとハモるし…っ。
 まさか…、ホントに何もかも同じってコトはねぇよな…。
 そう思って、ふと自分の胸の小さなふくらみを思い出してガックリと肩を落とす。
 すると、その瞬間にリビングから廊下へと続くドアが勢い良く開いた。
 
 「あらぁ〜、二つに分裂するなんて、アンタってホントにアメーバだったのね。どうりで思考回路も何もかも単細胞だと思ったわ」

 そう言って、俺ともう一人の俺を見てオカマが楽しそうに笑ってる。
 しかもっ、ガッコじゃなくて俺んちでっ!!!
 だから、俺は近くにあったクッションを思いっきり投げつけた。
 しかもっ、隣にいたもう一人の俺様とのダブル攻撃っ!!
 ピッタリと息の合ったコンビネーションに、思わず二人でガシッと握手するっ。しかし、ダブルクッション攻撃を受けたオカマ校医はすぐに復活して、俺ともう一人の頭をガツッと殴りやがった!!
 「いっ、いってぇぇぇっ!!!」
 「な、なにしやがんだっ!てめぇっ!!」
 笑われた上に反撃を受けた俺らは、オカマ校医を睨み付ける。けど、オカマ校医はすでに俺らの方なんて見てなくて、遅れて入ってきた久保ちゃんの腕に自分の腕をからめてくっついてた。
 「ねぇ、あんな分裂までしちゃうような単細胞はほっといて、アタシとデートしなぁい?」
 「うーん、でもそれじゃあ白衣で来てもらったイミないし?」
 「イミならアタシが作ってア・ゲ・ル」
 「そう言われても、時任と違って診てもらうトコないんだけどなぁ」
 「あらぁ、アタシは見たい所がたくさんあるわよ…、うふふ…」

 『とかってっ、俺を無視して二人で話してんじゃねぇっっ!!!!』

 ガッコだけじゃなく、ウチでまでオカマ校医の魔の手がっ!!
 俺らが走って行って二人がかりでオカマ校医を引き剥がすと、久保ちゃんはのほほんとしたカオでセッタをくわえる。そして、手を伸ばして俺らの頭をポンッと叩いた。
 「とりあえず、せっかく来てもらったんだし二人で診てもらいなさいね」
 「…って、なんでオカマ校医に診てもらわなきゃなんねぇんだよっ!」
 「しかも俺の方は男だしっ、どっこも悪くないしっ!!」
 「ま、そう言わないでさ。昨日の打ち身のトコ、寝てる間に外れてたみたいだから湿布貼るついでに診てもらいなよ」

 「うう…っ、わぁったよっ、階段から落ちて打ったトコに湿布貼るついでに身体も診せればいんだろっ」

 久保ちゃんが湿布貼るついでに診てもらえって言ったけど、返事したのは俺じゃなくてもう一人の俺…。それを聞いた俺は、少しだけ何かに胸をしめ付けられるような感じがした。
 でも、ホントはそうなんじゃないかって、聞く前からわかってたのかもしれない。一緒にいればいるほど、二人で話せば話すほど、自分の事をニセモノだとは思ってねぇけど…、
 もう一人の俺も、ニセモノだとは思えなくなってしまっていた。
 俺は俺でアイツはアイツだけど、他人のような気がしない。
 特に美少年な上に天才なトコロとかっ、ソックリすぎるっっ!!!
 俺様最高っ!!!!!
 なーんて、そんなコト言ってる場合じゃねぇけど、久保ちゃんと同じように俺もアイツはニセモノじゃないって…、そう思い始めてるのかもしれなかった。

 でも…、そしたら俺は?

 その疑問には俺自身も久保ちゃんも…、そして、もう一人の俺も白衣を着たオカマ校医にも答えられなかった…。だから、未だに何もわからないままで…。
 簡単に診察したオカマ校医は何も言わずに、なぜかメジャーを持って俺のカラダを測り始める。けど、ウェストの次に胸囲を測り始めるとメジャーの数字を見ながら、ふふふ…っと不気味に笑った。
 「せっかく、女になったのに残念だったわねぇ」
 「…って、何がだよっ」
 「もしかして、久保田君の好みのタイプが巨乳だって知らないの?」
 「し、知ってるに決まってんだろっ!」
 「じゃ、知ってるならわかるでしょ」 
 「だーかーらっ、何が?!」
 「いくら女になったってっ、アンタよりアタシの方が久保田君の好みのタイプだって事がよっ」
 「はぁ? なんでオカマが久保ちゃんのタイプなんだよっ。久保ちゃんのタイプは巨乳で、ウソ胸じゃねぇんだっつーのっ!!」
 「これはウソ胸じゃなくてっ、ア・タ・シの身体の一部っ!! くやしかったら巨乳になって…って言っても、色気もクソもないガキなんてアタシの敵じゃないわね」

 「なにぃぃぃっ!!俺様だって育てば巨乳にっっ!!」
 
 …っと言いかけて、ハッと気づくっ。
 俺様は元の男に戻りたいだけでっっ、巨乳になりたいワケじゃなぁぁぁいっ!!!
 その逆だっつーのっ、ぜんっぜんっ逆っっっ!!!
 だ、第一、なんで俺様が久保ちゃんのために巨乳にならなきゃなんねぇんだっ!
 今のままでも久保ちゃんにセクハラされて、も、揉まれて…っ。
 だから巨乳になったらきっと…っ、もっと…っっ。
 そう言葉に出して言いかけて、なぜかカオがいきなり熱くなる。
 な、な、なんで…っ、なに赤くなってんだ俺っっ!!
 自分で自分にツッコミ入れながら、脱いでたトレーナーを着ようとして頭にかぶる。
 すると、オカマ校医が診断してる寝室のドアが、コンコンと軽くノックをする音がした後にガチャッと音を立てて開いた。

 「なんか、巨乳がどうとかってスゴイ叫び声聞こえたけど?」

 トレーナーかぶってて見えねぇけど、聞こえてきたのは久保ちゃんの声っっ。そして、俺はトレーナーをかぶってるだけで何も着てねぇから、膨らんじまってる胸が丸見えだったっ。
 別にいつもは見られてもなんともねぇのに、胸が膨らんでるってだけで見られんのがなんかハズカシイ。こんなの俺じゃねぇってっ、俺はオトコだって思っててもなんかダメだった。

 「み、み、見るなぁぁぁっっっ!!!!!」

 そう叫んで慌ててかぶってるトレーナーを着ようとして、ベッドにぶつかって床に転びそうになる。すると、久保ちゃんが俺の身体を転ばないように支えて、頭んトコで引っかかってるトレーナーを着せてくれた。
 だから、ちょっと驚いたカオしてると久保ちゃんが苦笑する。
 そして、俺の頭をヨシヨシと子供にするみたいに撫でた。
 「別に何もしないから、安心していいよ」
 「・・・・・・」
 「約束破ったら、ちゃんとハリセンボン飲むから…」
 「もう…、む、胸とか触ったりしねぇか?」

 「うん…。だから、俺から逃げないでいてくれる?」

 久保ちゃんが言ったのは、たぶんリビングで撫でられんのを嫌がって逃げたコト…。でも、なんか別のイミもあるような気がして、そんなカンジがしてすぐには答えられなかった。
 それがなんなのかは、考えても良くわかんなかったけど…。
 久保ちゃんに頭を撫でられてると胸がドキドキしてきて、カオがますます熱くなってきて逃げ出したくなる。久保ちゃんと俺は相方で同居人で、逃げ出さなきゃないワケなんてなんにもねぇのにオンナになってから…、俺はどっか壊れたみたいにヘンになってた。
 逃げ出したい…、けど逃げたくない…。
 触られんのはイヤだけど…、手が離れてくとちょっと胸が痛くなる…。
 そんなコトを考えてるとすぐ間近にある久保ちゃんのカオが、まともに見られなくなって視線を反らせた。

 「・・・・・・時任?」

 耳元でした…、俺を呼ぶ久保ちゃんの低い声…。
 その声に反応するみたいに、背中にゾクゾクした何かが走って俺はそれを誤魔化すために久保ちゃんの手をバシッと払いのけた。
 「俺様をコドモあつかいすんなってのっ!!」
 「そうよねぇ、アンタは子供じゃなくてアメーバだしね」
 「そう言うてめぇはっ、厚化粧ババァだろっ!」
 「ぬぁんですってぇぇぇっ!!」
 「あ…、厚化粧すぎて顔にヒビが入ってんぞっ」
 「え…っ!?ってそんなワケないでしょっ!! この化粧も知らない小娘がっ!!」

 「…ってっ、誰が小娘だぁぁぁっ!!」

 結局、オカマと言い合っているウチに、返事はしそびれたまま…。コドモあつかいすんなって言った俺に向かって、何も言わずに苦笑いしてた久保ちゃんのコトがなんか気になったけど聞けなかった…。
 そして、久保ちゃんが触れそうなくらい近くに来ると、胸がすごくドキドキしたりすんのが、胸が膨らんじまったせいなのかどうか…、

 それも聞きたかったけど…、なぜか聞けなかった。


 

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