ダブルキャスト.2
昨日は早く寝た俺がベッドで、それより遅く寝た久保ちゃんがソファーで寝て…、
そんで夜が明けたら来る、いつもの朝…。
…のはずだったんだけどっっ、今日はちょーっち違うっっ!!
だから、朝っぱらから妙な出来事に遭遇した俺はトースターにパンを入れながら、その近くでコーヒーを入れてる久保ちゃんにマジ顔で話しかけた。
「あのさぁ…」
「ん〜?」
「朝、目ぇ覚めたらいきなりベッドにアイツが寝てたけど、アイツってマジでどっから来たんだよ?」
「さぁ? 新聞取りに行った時、玄関にはしっかり鍵も施錠もかかってたし、窓は開いててもココって四階だし外から来たとは思えないけど?」
「・・・・じゃあ、どっから来たんだ?」
「来たんじゃなくて、最初からいたんじゃない?」
「はぁ? 何わけのわかんねぇコト言ってんだよっ!! そーれーにっ、もう一コ疑問なコトがあんだけど、なんでアイツは俺と同じカオしてんだ? オンナだってコトをのぞいたら、かなりそっくりじゃんっ!」
「うーん、お前が寝てる内に二つに分裂したからとか?」
「ふーん…ってっ、俺はアメーバかっっ!!!」
そう言って久保ちゃんの頭をお笑い芸人のツッコミみたいにバシッと叩くと、美少年で天才な俺様のコトをアメーバ呼ばわりしやがるオカマ校医を思い出してムカッとする。それに久保ちゃんもマジで話してんだから、マジメに答えてくれてもいいじゃんっ!!
…とか思ったけど、そういうんじゃなくてっ、なんとなくイライラしてんのは久保ちゃんが俺と同じカオしたオンナのアイツにすごく優しいせいかもしれない。
今も俺がいつもみたいに食パンを焼いてる横で、寝室にこもったまま出てこないアイツの朝メシを準備してやってるのを見ると複雑な気分になった。
久保ちゃんはコーヒーに俺のと同じように牛乳入れて、そんで俺が焼いたパンにバターを塗るとそれを乗せたトレーを持って寝室に向かう。それを見てるとなんとなく引き止めたい気分になったけど、朝メシ持ってくのを止めんのもなんかヘンな気がして俺は自分のパンにバターを塗るとサクッとかじったっ。
「久保ちゃんのエロ親父…っっ」
そう言いながら久保ちゃんが入れて置いてくれてたコーヒーを飲んだけど…、久保ちゃんはまだ寝室から戻ってこない…っ。さっきのコトもあるし、なんか激しく気になってきて俺はコーヒーと食べかけのパンをキッチンに置くと、なぜか姿勢を低くして足音を立てないように気をつけながら、そーーっと寝室の前に立った。
それから、寝室のドアにピッタリとくっついて中の様子をうかがってみる…。
けど、中からは何か話し声がするような気はするけど、やっぱ良くわかんねぇっっ。
さ、叫び声とか悲鳴とかが聞こえてこねぇってコトは、さっきみたいなコトはなさそうだけど…。なんか…っ、なんかやっぱアヤシすぎるっっ!!!!
もしも、アイツの悲鳴がちょっとでも聞こえたら、ドアをぶち破ってブン殴ってやるから覚悟しやがれっ!!!
久保ちゃんはまだ何もしてないみたいだけど、俺の頭の中ではすでに久保ちゃんはアイツを襲おうとしてるエロ親父になっていたっ。だから、気合をぐっと拳に入れるっ。
でも、その瞬間、そんな俺の頭にゴンッ!と何かが勢い良く当った…っ。
けど、頭に当たったのが何なのかわからなかった俺は、なんなんだよっ!と心の中で叫んで上を見上げる。すると…、そこには寝室のドアの前でしゃがみ込んでるかなり激しく不審な俺を、ドアを開けてじーっと見下ろしてる久保ちゃんがいたっっ!!
うわぁぁぁっっ、やっぺぇぇぇっ!!!
そうココロん中で叫んでても何がやばいのかってのはイマイチ良くわかんなかったけど、とにかくっ、なんかヤバーイっっっ!!!俺様ピーンチっ!!!
だから俺は何事もなかったかのように久保ちゃんに向かって、かなりアヤシイ薄ら笑いを浮かべみせるとしゃがみ込んだままリビングの方へと移動を始める。でも、そんな俺の襟首を久保ちゃんがぐいっと掴んだ。
「こんな所でナニやってんの、お前?」
「な、な、ナニってトイレに行こうとしたに決まってんだろっっ」
「しゃがみ込んで? しかもトイレはそっちじゃなくて、あっち」
「と、トイレはなんとなく、もう行きたくなくなったからいんだよっっ!」
「ふーん、ホントに行かなくていいの?」
「・・・・うっ、まぁな」
トイレに行こうとしてたんじゃないって、ハッキリ言ってバレバレ…っ。
なのに、久保ちゃんはふーんと言ったっきり何も言わない。別に何か言って欲しいワケじゃねぇけど、何も言われないと落ち着かない気分になった。
でも、いつまでもココにいるのはヘンだし、久保ちゃんの周りをウロウロしてんのもヘンだしっ、仕方なく回れ右してリビングに戻る。久保ちゃんがエロ親父になってなかったみたいなのは良かったけど…、そんなのは最初からわかってた気もするし…。
くそぉぉっ、なのにナニやってんだっ、俺っ!!!
自分でもそう思ってるけど、アイツが現れてからなんか調子がおかしい。それはアイツが俺にそっくりでしかもオンナで、こんなあり得ねぇ状況だからだけど、アイツと久保ちゃんが一緒にいると妙に落ち着かなくてヘンなカンジがした。
「なんだってんだよ…っ、くそぉ…っ」
後ろから歩いてくる久保ちゃんの足音を聞きながらリビングに戻ると、俺はぼそっと小声でそう呟いてキッチンに行くと置いてたコーヒーを飲んでパンを食べ始める。すると、ソファーに座って新聞読み始めた久保ちゃんが、俺には何も相談せずに決めたコトをのほほんと言った。
「リビングのソファーはあのコが使うコトになったから、俺らは今日から寝室で寝るってコトでヨロシク」
「…って、ベッドで一緒に寝るってコトなのか?」
「お前がイヤなら、あのコと寝るけど?」
「そ、そんなの絶対にダメに決まってんだろっ!!! アイツは俺と同じカオしててもオンナなんだしっ!!」
「じゃ、そういうコトで…」
「う…、まぁ、非常事態だからしょうがねぇよな…」
今まではどっちかが寝室で寝ると、もう一方はソファーで寝るってカンジ。でも、べつに一緒に寝ても俺らは男同士なんだし、何も問題なんかあるはずねぇし…っ。
けれど、しょうがないって久保ちゃんに返事をした瞬間に、ついさっき見たベッドの上の久保ちゃんとアイツの姿が頭ん中に浮かんできてっ、ますます落ち着かない気分になった俺はポットの中に残ってた砂糖も牛乳も入ってないコーヒーを空になったカップに注ぐと、ゴクゴクと一気に飲み干した。
そして、思わず叫びたくなるくらい苦いのをぐっと耐えてカップを握りしめる。
それから、俺は落ち着かない気分を振り払うように頭を軽く振ったっ。
「久保ちゃんっ」
「なに?」
「俺は決めたっ!」
「決めたって何を?」
「アイツが何者なのか、どこから来たのかっ、絶対に俺様が突き止めてやるっ!」
「それはいいけど、どうやって?」
「今から考えるに決まってんだろっ!!!」
「なるほど、時任らしいやね」
「久保ちゃんも協力しろよっ!」
「はいはい」
そんなカンジで俺様は、久保ちゃんと一緒にアイツの正体を突き止めるコトにしたっ!けど、どうやって突き止めるかなんて聞かれてもわかんねぇっ。
でも、このまま何もわかんねぇのは俺もイヤだし、きっとそれは何もわからないらしいアイツも同じだっ。
「よしっ、絶対にムリでもなんでも俺様が突き止めてやるからっっ、覚悟しやがれーーーっっ!!!!」
って、思わずキッチンで叫んじまったけどっ、
誰になんの覚悟なのか、自分で言ってても良くわかんなかったっっ。
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