ダブルキャスト.1
遠く・・・、遠くから声が聞こえる…。
誰かが、俺を呼んでるような気がする…。
けど、この声は久保ちゃんじゃない…、でも聞き覚えのある声…。
すごく…、今まで腐るくらい聞いた事がある声…。
でも、何かがおかしい…、何もかもがおかしい…。
俺を呼ぶのは…、俺を呼んでるのは誰なんだ?
そんな風に想いながら、朝、目を覚ますとまだ寝ぼけてぼんやりとしてる視界に人影が映る。けれど、その影は小さくもなく大きくもなかった。
誰だ…、コイツ…?
瞬間的にそう想ったけど、それよりももっとおかしいことがある。この部屋には久保ちゃんと俺しかいないのになんで他の誰かが…っ、しかも寝室にいるんだよっ!!
当たり前のコトにやっと気づいた俺は、一気に目が覚めてガバッとベッドから起き上がる。けど、起き上がって不審人物のカオを見た瞬間、なぜか頭の中が真っ白になった。
「てめぇは誰だよっっ!?」
「それはこっちのセリフだっつーのっ!!」
俺の耳に聞こえてくるのは、やっぱり知ってる声…。
そして、目の前にあるのは知ってるカオ…。
でも、こんな事はぜっっったいにあり得ねぇって思いながらも、あまりの事にビックリしすぎて次の言葉が出ない。コレは悪い夢ってヤツなのか、それとも…、もっと性質の悪い現実ってヤツなのか…。
俺が判断できないでいると、寝室のドアが開く。
そして、そこからのほほんとしたカオでセッタをふかしながら久保ちゃんが入ってきた。だから、俺と目の前にいるソイツは、久保ちゃんに視線を向けたままでお互いを指差す。
それから、ほぼ同時に同じ事を叫んだっっ。
『コイツ誰なんだよっ、久保ちゃんっ!!!』
久保ちゃん…、そう目の前のヤツも久保ちゃんを呼んで、俺がムッとして睨むとソイツを俺を睨んでる。同じベッドの上でじーーっとお互いを睨みながら、いつでも攻撃できる態勢を取った。
すると、そんな俺達を頭をポリポリと掻きながら眺めてた久保ちゃんは、ベッドサイドにあった灰皿にポンっとセッタの灰を落とす。それから、まるでガッコの出席を取るみたいに俺のコトを呼んだ。
「時任」
『な、なんだよっ!?』
「うーん、見事に多重放送〜」
「…って、のん気に言ってる場合かっ! 早くコイツを追い出せよっ!!」
「そーだっ、そーだっ!!」
「そう二人に言われても、ねぇ?」
「くーぼーちゃん…っ!!」
「なんでだよ…っって、言う前に…っ!!」
『いちいち俺のマネすんなっ、てめぇっっ!!』
久保ちゃんなら、すぐにわかってくれるって思ってたのになんも言ってくんないっ。
しかも喋るたびに言いたいコトが重なるし声がハモるしっ!!
ムカムカもイライラも絶好調っっ!!
だから、俺がそれをぶつけるみたいに久保ちゃんの袖をぐいっと引っ張ると、ソイツもまた同じように久保ちゃんの袖を引っ張る。そして、ソイツはまるで鏡を見てるみたいな顔で、留守電に久保ちゃん宛てに入れてた自分のメッセージを聞いた時みたいな声で、また俺と同じセリフを叫びやがったっっ。
『俺がホンモノで、コイツがニセモノに決まってんだろっ!!!』
なにぃぃぃぃっ、俺の方がホンモノに決まってんじゃんっ!!!
俺はそう思ってたけど、久保ちゃんはさっきからうーんと唸ってばっか…っ。
くそぉぉっっ、なんで俺らは相方なのに、一番わかってるはずなのにわかってくんねぇんだよっ!!!
確かに久保ちゃん以外なら、わからなくってもムリはないのかもしれない…。俺と目の前にいるソイツは、なんでかはわかんねぇけどカオも姿も双子みたいに瓜二つだし…っ。
けど、ホントはそうじゃないコトがわかったのは、久保ちゃんの両手がソイツじゃなくて俺に向かって伸びてきた瞬間だった。
「なっ、ナニしてんだよっ!! 久保ちゃんのヘンタイっっ!!!」
久保ちゃんにいきなり胸を触られて撫でられて、そう叫んだのは俺じゃなくてもう一人…。俺の方は触れられた時に妙な感覚がして、思わず自分の胸に手を当てた瞬間にカオからサーーッと血の気が引いていくのを感じた。
うっ、ウソだろっ!!!
この感触は…っ、この妙な感じはまさかっっっ!!
俺はホンモノでそれは間違いないはずなのにっ、それを久保ちゃんにわかってもらったらそれで終わりのはずだったのに…っっ!!
自分の胸を触ると…、絶対にないはずのふくらみがあった…。
「うわぁぁぁっ!!! なんだコレっっ!!!」
「ナニって言われても、たぶん胸なんじゃないの?」
「な、なんてヒトの胸を揉みながら言うなっっ!!」
「ちょっと小さいけど、育てがいはありそーだなぁ…」
「ちょっ、なにすん…っ!!」
「あれ、もしかしたらと思ったけど、やっぱり胸だけじゃなくて下の方もオンナノコ?」
「ぎゃあぁぁっ、エッチっっ!!離せぇぇぇっ!!!」
いつの間にか両手で俺のカラダを触り始めた久保ちゃんは、俺が胸だけじゃなくて他もオンナなのかどうかを確かめようとしてくる。だから、その手から逃げようとしてジタバタ暴れてると、いつの間にかベッドに寝頃がされてて体勢が妙な感じになった。
な、ナニをして確かめるつもりだぁぁぁっ!!!!!
胸を触られて色んなトコを触られて…っ、着てるトレーナーを脱がされそうになったりして始めて感じる妙な感覚にカオが赤く熱くなってくのがわかる。ど、どうしよう…、どうすりゃいんだ俺っ!!!
このままだと…、ホントに久保ちゃんに犯されちまうっっっ!!!
俺と久保ちゃんは同居人で学校では執行部の相方で、当たり前に男同士で…っ、
その時にはあり得なかった危機が俺の身に迫っていたっっ。
けど、そんなオンナになった俺を助けたのは…、オトコの俺だった…。
「久保ちゃんのエロ親父っっ、ヘンタイっっっ!!!!」
オトコの俺は、そう叫ぶと久保ちゃんの背中をガツッと蹴飛ばす。すると、久保ちゃんは相変わらずのほほんとした様子で、俺の上からいなくなった。
そして、今度はかなりムッとしたカオで睨み付けてるオトコの俺と話す。だから、俺はそんな二人の会話を呆然としながら、ベッドに寝転がったままで聞いていた。
「ちょっと確かめようとしただけなんだけど、ねぇ?」
「それがすでにセクハラだっつーのっ!!! どこの誰かは知らねぇけど、コイツは俺に似ててもオンナだしっ!!」
「うーん…、ソレなんだけどねぇ」
「なんだよ?」
「俺には…、どっちも時任としか思えない」
「…って、俺はオトコでコイツはオンナでっ!」
「それはわかってるけど、しゃべり方も仕草もホクロの位置もオンナノコだって以外は、何もかも同じだし…」
「だーかーらっ、オンナだってコトが別人だって証拠だろっ?」
「でも…、ねぇ?」
さっき色々と触ったり脱がそうとしたしてたのは、な、なんで知ってんのかはわかんねぇけど、ホクロの位置とか色々と調べてただけらしい。でも、それを確かめた久保ちゃんがまだわからないって、そう言ってくれても自分がホンモノだって自信はなくなっちまってた。
目の前にオトコの俺がいて、そして俺はなんでかわかんねぇけどオンナになっちまってて…っ。それでどっちがホンモノかなんて、誰でも考えなくてもわかる。
けど、俺は昨日までオトコでちゃんと俺だった…っ、時任稔だったっ。
「くそぉっっ、ナニがどうなってんだよっ!!」
俺はそう叫んだけど、ふくらんじまってる胸は戻らない。
あんまりおっきくなくても、ちっちゃくても胸は胸で…っ、なんでこんなコトになっちまってるのか、そしてなんで俺が二人いるのかいくら考えても見当もつかなかった。
だぁぁぁぁーーーっっ!!一体っ、どうすりゃいんだよっっっ!!!
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