理事長と寮長…、オカマと総攻め男の取引き。
 もしかしたら、この学園の明日を左右するかもしれない、恐ろしいのかエロいのかわからない取引きが行われているかもしれない今現在!
 普通なら二人の話が気になって気になって仕方がないっ、そんな気分に駆られているばすだが、時任をお姫様抱っこしながら校内を疾走する久保田は、ちっとも少しもぜんっぜん気にしていなかった。
 ついでに何だかちょっぴりあちこち刺さってるガラスの破片だとか。またしても、あちこちちょっぴり流血しちゃってたりな所とかも、もちろん気にしていない。

 「・・・じゃなくって、ちょっとは気にしろよっっ!!!」

 どこの誰にツッコんだのか、時任がそう叫ぶ。
 すると、きょとんとした顏で久保田が、何のコト?と首を傾げた。
 しかし、本人は相変わらず自分の格好にも痛みにも無自覚だが、もしも通りがかった生徒が今の久保田を見れば間違いなく、ギャーッと叫ぶレベルである。
 そもそも二階の理事長室のガラスを突き破って、人を抱きかかえて飛び降りながら、この程度で済んでいること事態が奇跡っ。人によっては心の中で神様ありがとう…と涙ぐみながら呟きたくなるかもしれないが、久保田は神様ではなく、お姫様抱っこした時任の貧乳をちらりと見て口に出して呟いた。

 「ありがとう…」
 「って、どこに向かって、ナニを感謝してんだよっっ!!!」

 そう叫んだ時任を抱きかかえ走る久保田がいるのは、実はすでに学園ではなく、その裏にある森の中。つまり現状を簡単に説明すると、少しでも油断しようものなら即死状態。
 実はオカマやベッドや色々な意味で危険な理事長室から逃げ出したはずが、更に危険な場所へと突入していたっ!! 
 金網や有刺鉄線を乗り越え潜り抜け、色々と飛んでくる危険物を避けまくりっっ、まるで逃亡犯のようにひた走る! 久保田誠人、たぶん15歳!
 チャームポイントは寝てるのか起きてるのか良くわからない細い目と、時任しか知らない場所にあるホクロ…って、そんなの俺が知るかっ!!という叫び声がしたようなしなかったような気のする、今は午前9時。
 昼食にもおやつにも、まだ早い時間帯だった。
 「……そんで、さっき飛んできたり爆発したりしたモンとかは、とりあえず置いといて。なんっで、俺らは森ん中にいるんだ? 逃げるにしても、ベツに何も森ん中じゃなくても良い気がすんだけど」
 「うーん、それはそうだけどね。コレってたぶん…」
 「たぶん?」
 「逃げるっていうより、犯人は必ず犯行現場に戻る的な?」

 やっぱ誘拐犯んっっっ!!!!!のぉぉぉぉぉっっ!! 

 そんなツッコミは相浦がいないので入らないが、自らの犯行について多少は自覚があるのかないのか、久保田は森の中を突き進む!
 犯行現場と言うからには行先は茨の森だと思われるが、目的は未だ不明。
 もしや現場に自分に繋がる物証でも残してきたのか?…と思わなくもないが、すでに犯行はバレバレ。何を残していたとしても、回収の必要は無いはずっ。
 だが、それでも茨の森を目指し突き進む久保田は止まらないっっ!!
 止まらないっ、止まれないっっ、ノンストップ状態っっ!
 しかし、そんなノンストップ久保田の頭に、お姫様抱っこされた王子様が右手でビシリとチョップを入れてブレーキをかけた。
 「あの…、マジで痛いんですけど?」
 「じゃなくって! 犯行現場って何のコトだよっ、ドコだよっ、何しにいくんだよっ!?つか森に入る前に説明しろっていうか、とりあえず降ろせっっ!!」
 チョップブレーキと同時に、時任の口から怒涛のごとく質問や要求が飛び出すっ。
しかし、それを聞いた久保田は慌てず騒がず、のほほんと降ろせという要求だけさりげなく無視して、質問にだけ答えた。
 「あぁ、説明ね? うんまぁ、あの場合はとりあえず雰囲気的に、やっぱ駆け落ちかなぁって」
 「ふ、雰囲気的にって、どんな雰囲気だったら駆け落ちとかになんだよっ!? それに、駆け落ちと森とどんな関係が!?」
 「…というのは、半分冗談で」
 「おいっ!」

 「お前も来たがってたし、騒ぎのついでに茨の森に戻ってみるのも良いかなぁって思っただけ」

 お姫様抱っこ状態なので、お互いの顏は近い位置にある。そんな状態で見直したというか感動した様子で久保田と見つめ合っているせいか、時任は久保田の半分の冗談ではなく、残り半分の本気には気づいていないっ。
 まさか半分の本気で、茨の森へ王子様を監禁?!
 木漏れ日が反射して良く見えないが、眼鏡の奥にあるいつもは細い目が開眼しているのは、そんな本気と疑惑の現れなのかっ。新たなる犯罪が今、ここで行われようとしているのかどうかの確率は半分の本気で50パーセント。
 降水確率的に見ても、カサを持って行くかどうか迷うレベルの危険度。
 えっ、50パーセント?それって低いんじゃない?と思うかもしれないが、確実に襲ってくるかどうかわからないっ、この50パーセントの焦らしプレイ的なドキドキ感がたまらない!

 来るの?来ないの??
 え…、来ないの?来るの…って、一体どっちなんだぁぁぁっ!!!!

 しかし、そんなドキドキの危険に、50パーセントどころか1パーセントも王子様は気づいていない。しかも、チョップブレーキが切れた久保田はゆっくり歩みを進め、二人は犯行現場である茨の森に到着してしまったっ。
 「へぇ…、始めて見たけど、俺ってこんなトコにいたのか」
 「そ、この中にお前が寝てた小さな家があるんだけど…、入ってみる?」
 「ここまで来たら、入るに決まってんだろ」
 「じゃ、入ろうか…、一緒に奥の奥までずっぷりと…」
 「…って、やたらと無駄にエロい声で耳元で囁くなっつーのっ!」
 茨の森の中には、白い小さな家。
 そこへ行くための入り口は、前に来た時に久保田が強引に茨に開けた穴。そして、その中に入っていく二人の姿は新婚バカップル…というより、オオカミと捕われた子ヒツジだった!

 喰われるぅぅぅっっ!!!!!

 そんな叫び声がどこからか聞こえた気がしたが、やはり幻聴かっ?!
 それとも、数分後の未来からの警告かっ?!
 はたまた、理事長室から逃亡中の相浦の声なのかっ?!
 無事に茨を潜り抜け白い小さな家にたどり着いた二人は、ドアを開けて中に足を踏み入れた。


                                         2013.6.27
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