「喰われるぅぅぅっっ!!!!!」

 そんな叫び声が木霊するのは、学園の裏にある森の中。
 実はそう、茨の森の小さな家に響いてきたのは、幻聴でも数分後の未来からの警告でもなく、沼にハマった上にワニに喰われそうになっている相浦の叫び声だった!
 裏の森のデンジャーな爆発したり飛んできたりの数々は、二度も通った久保田によって、すでにその大半が破壊され尽くしている。しかしっ、そんな状態でも沼にハマるのが相浦っ、ワニに喰われそうになるのが相浦っ!

 腹チラしても襲われませんが、沼オチしたら喰われます…、まる。

 「何だか楽しそうデスネ。僕も混ぜてくれませんか?」
 「…って、コレのどこが楽しそうなんだよっ!! ぎゃあぁぁっ、マジでくーわーれーるぅぅぅっ!!」
 「だ、大丈夫か!? 相浦っっ!」
 「大丈夫じゃないっ、ぜんっぜん大丈夫じゃないっっ!」
 「よーし、よしよし…、あははは」
 「…って言ってんのに、生死の境目で足掻いて足掻いて足掻き続けてる俺の目の前で、なに仲良くワニと戯れようとしてんだっっ、松原ぁぁっ!」
 「見つめ合った瞬間から、ワニと友達とはさすが松原だな」
 「とかって、ワケわかんねぇ関心しつつ、オッサン顔で頬を赤らめるなよ!室田ぁぁっ!」
 松原と室田が二年生で相浦の先輩だという設定は驚いた拍子なのか、すでに端から忘れ去れていたのか、すでにワニの胃の中状態。
 仲良きコトは美しき哉。
 例えワニに喰われようとも、僕たちはトモダチですよ?
 ワニに喰われても、俺らはトモダチ…、なのか?
 きっと、たぶんそうデスヨ。
 きっとたぶんそうなのか、そうだよなっ、あはははは!
 なーんて約束をしたのは、すでに目を細めても見えない遠い日の出来事…ではなく、そんなモノは生まれてこの方一度もした事がなかったっっ!

 「そんなの当たり前だろっっ!うがぁぁぁぁっ!!」

 誰に向かってのセリフなのか、叫びつつ放った相浦のヤケクソキックがワニの顎にヒット。その隙をついて室田がワニの尾を掴み、ブン投げて撃退っ。
 そして、巨木に背中を打ち付け、白い腹をさらして仰向けになったワニに向かって、松原が神妙な顔で両手を合わせた。
 「恨むなら、相浦を恨んでクダサイネ」
 「俺らはトモダチじゃなかったのかよっ!!」
 いやいや、友達じゃなくて先輩というツッコミは、もはや誰からも入らない。しかし、デンジャラスな森を三人は、ある共通の目的と意思でしっかりと繋がれていた。
 それは眠れる森の王子様の力となり、その身を守る騎士となること。
 だからこそ理事長室を脱出した後、二人を追って茨の森に向かっていた。ワニに喰われそうになりつつも、二人というより、久保田を追って爆走していたっ。
 理事長室のオカマでも総攻め男でもなく、ヘンタイの魔の手から王子様を救うためにっ!
 「マジで早く行かなきゃヤバいって、ぜっったいヤバいってっ!」
 「そうは言うが、相浦。俺達と同じように、久保田は時任を守るために連れて行ったんだろう?」
 「た、確かにそれはそうだけどさ。久保田の場合は何か違う気がすんだよっていうか、ぶっちゃけ誘拐疑惑とかあるし、監禁くらいしかねない何かがメガネの奥の瞳にあるような、無いようなっっ」
 げに恐ろしきは、メガネキャラの瞳の奥。
 そこに宿るのはメガネキャラにしかわからない渦巻くような欲望とか欲望とか、更に欲望だという。しかし、そんな欲望が潜む久保田の瞳を思い浮かべようとしたらしい松原と室田は、アレっと首を傾げた。
 「久保田の瞳の奥? 目が糸みたいに細すぎて見えませんが?」
 「そう言えば、そうだな。目が細いだけではなく、やたらと光がレンズに乱反射するせいで俺も見たことが無いし、その何かが何かわからんのだが…」
 「あぁ、でしたら、今度目蓋をこじ開けてみましょう」
 「…って、マジ顔して相談しても、そんなモンこじ開けても何も見えねぇからっっ、無理だからっっ!」
 久保田の欲望は、当たり前に目には見えない。
 瞼をこじ開けても、メガネをブチ壊しても見えやしない。
 しかし、なぜだろう。
 もしも、久保田の欲望を目に見えるカタチにしたとするなら、王子様の時任のっ、貧乳のカタチになるような気がするのはぁぁっっ!!

 「とにかくともかくっ、久保田の欲望が貧乳になる前に急いで追いつくぞっ!」

 貧乳が欲望で、欲望は貧乳で、ハッキリ言って意味がわからない。
 だが、相浦のモブになりかねない作画崩壊レベルの必死の形相と叫びが、室田と相浦を動かし、三人は物凄い勢いで走り出す。そして、しばらくすると久保田の破壊の跡をたどったおかげで迷うことなく、目的の地っ、茨の森に無事に到着!
 茨の森に開けられた穴を覗けば、何やら家のようなものが見えた。
 「久保田の潜伏先は、ここか…」
 「うむ、そのようだな」
 「ですね」
 なぜか走ってる間に三人は騎士から刑事に転職したようだが、相浦もワニに大事なモノでも喰われたのか、そんな行動と発言にツッコミは無い。
 つまり、今の状態はボケっぱなし!
 そのため、ボケっぱなし刑事三人は、誰のツッコミを受けることなく、久保田が無理やり開けた茨の穴を潜り抜け、可愛い子犬を飼っていそうな小さな家の前に立つことが出来た。
 「とりあえず久保田にバレないように裏口へ回って、中の様子をうかがおう。そして、時任の悲鳴のひの字でも聞こえたら、即突入。犯人である久保田の身柄を拘束、しかし時任の身の安全と保護が最優先だ」
 そう真剣な眼差しで告げた相浦の中で久保田がヘンタイから犯人へ昇格したのか降格したのかは謎だが、このままでは久保田逮捕は時間の問題!
 果たして久保田の何が犯罪だったのか、有罪だったのかっ!?
 今までの久保田を振り返ると王子様誘拐にセクハラに次ぐセクハラ、あり得ない武器とエロさとヘンタイ性の所持。おまわりさんっ、あそこですっっ!!!と思わず指差したくなるのは、果たして相浦の脳内だけだったのかっ!?
 かくして、それを証明するため…ではなく、王子様を守るために三人は裏口のドアに張り付いた。
 「…中の様子はどうだ? なんか聞こえるか?」
 「いいえ、残念ながら何も聞こえませんね」
 「いや、耳をすませば…、中から人の声が…」
 「マジか?」
 可愛い子犬を飼っていそうな小さな家の裏口で、ドアに耳を張り付けた状態で、そんな話をする三人。ぶっちゃけ、中にいる久保田よりもよっぽど怪しいと思うのだが、ツッコミが不在故に改善の見込みは無い、まったく無い。
 そして、そんな状態で耳に入ってきた二人の声…、つまり久保田と時任の声に、相浦と室田は叫びたい気持ちとお互いの口を押えつつ、大きく目を見開いた。

 『……ちゃん、ダメだってマジでっ』
 『ダメって何が?』
 『だって、ぜってぇ痛いって…、だからやめろよ…』
 『ダイジョウブ痛くないよ。ちゃんと優しくするから』
 『優しくって…、そんなの優しくしたって、ぜっってぇ痛いって!』
 『そう言われても、ね。もう、この胸から溢れ出す欲望を抑え切れそうもないし…、剥いて良いよね?』
 『あっ、バカっ!や、やめ…っ!』

 「うわぁぁぁあぁぁぁぁっっ!!!」

 お・ま・え・はっっっ!!!
 胸から溢れ出す何の欲望で、時任の何を剥く気だぁぁぁっっっ!!
 時任の悲鳴のひの字でも聞こえたら突入する予定だったがっ、実際に叫んだのは相浦と室田!ツッコミは出来ないが、ボケ倒すのは得意なのか、松原は痛くないなら気持ち良いって事で、犯罪じゃないですよね?と言っているがしかしっ!
 痛ければ犯罪なのか、気持ち良ければ犯罪ではないのかっっ、そんなの痛くても気持ち良くても犯罪は犯罪に決まっているっ!!!

 「逮捕だあぁぁぁっっ!!」
 「うぉおぉぉぉっ!!」

 相浦と室田はボケっぱなし刑事として、久保田が欲望のままに犯行に及ぼうとしている現場のドアを蹴破りっ、中へと突入したっ!!


                                         2013.7.14
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