ドカッバアァァーンっ!!!!! 気持ち良いのか痛いのかっ、痛いのか気持ち良いのかっっ! なぜか派手に響き渡る破壊音とともに、久保田がリンゴかバナナか王子様か何かを剥いてしまった午前11時。王子様こと時任は痛そうな顏で叫んだが、久保田は平然とした顏で欲望のままに剥きに剥きまくっていた! 「ぎゃあぁぁ!マジで痛ぇからっ、ほんっとやめろってっ!」 「そう?気持ち良くない?俺的にはスッキリしたけど?」 犯行現場?で、スッキリ久保田に痛そうな時任。 え、あれ?まだスッキリするには早すぎ…っと思わなくもないが、抑え切れぬ欲望が色々と秒速だったのかもしれないっ。なんて事をこの場にいる誰かが思ったのかどうかは不明だが、しかしっ! 次に放たれた時任のセリフが、スッキリ久保田に逮捕だあぁっと襲い掛かろとしていた相浦と室田の進行を止めた。 「でも、かさぶたってなんか剥ぎたくなるよね?」 「まぁ、それは俺も思うけどさ。見てるだけで痛ぇんだよな、マジで」 カサブタかよっっっ!!!! 久保田が剥いてしまったのは、リンゴでもバナナでも王子様でもなく…、カサブタ。そう、実は昨日、茨の森に散歩がてら王子様を誘拐しちゃったかもしれない久保田は、当然のようにカサブタだらけになっていたっ! 想像するだけで、かゆくてかゆくてたまらないようなっ。 何だか剥いたり剥かれたり、色々と残念無念のようなっっ。 そんな逮捕劇の顛末に、勢い良く突入しすぎた相浦と室田は真っ白に燃え尽き床に座り込んだ。 「あははは…、なんで俺、ココに居るんだっけ?」 「し、しっかりしろっ、相浦ぁぁぁっ!」 ツッコミを忘れてまで突っ走ってきた相浦だったが、茨の森は久保田がスッキリしただけで平和そのもの。被害は時々、時任の貧乳が揉まれる程度だった。 「程度だった…じゃねぇよっ、逮捕だろっ、大問題だろっっ」 「まぁまぁ、そう言わずに一緒に育てない?その方が大きく育つかもしれないし?」 「一人でも一緒でも男の胸は育たねぇよっっ!」 世界が平和でも理事長がニセモノでも、久保田のセクハラは続くよどこまでも。しかし、どんなに久保田が時任の貧乳を揉んでも、当たり前だが謎も問題も山盛りてんこもり状態のまま解決しない。 そんな現状を前に、これからどうなんだよっっと相浦は頭を抱え、時任はさりげなく伸ばされた久保田の手を叩き落としながら、これ以上揉ませるかぁぁっと叫ぶ。しかし、ちょっと何かを考えるように部屋の中を見回す…のではなく、時任の貧乳を見つめた久保田が、めずらしく真面目な顏でとりあえず聞いてみよっかと言った。 「……聞くって、ドコに何をだ」 もしもし貧乳サン…と聞きかねないヘンタイに、時任が地の底から響くような低い声でそう言う。すると、久保田は貧乳ではなく、時任の後ろを指差した。 今、この場にいる全員の立ち位置を説明すると、ドアを破壊して入ってきた相浦と室田はドアを背にして燃え尽き、松原はドアの横にある勝手知らない他人のキッチンでお茶を入れている。 そして、久保田と時任はそんな三人と向かい合うように立っているが、その背後には室内へと続くドアがあった。 つまり…、久保田が指差しているのは室内へと続くドア。 正確には、ドアの向こうにいる人物を指差していたのだった! 「まぁ、見られてると興奮しないでもないし…、別に出て来たくないなら、それでもいいけど」 「とかって、てめぇは何を見せる気だっっ、何をっっ!」 「俺のすべて…って、ホントは見せたいのも見せるのもお前だけ…だけどね」 だーーーーーー…。 久保田の甘いのかヘンタイなのかわからないセリフに時任が盛大に砂を吐くと、口元を抑えた相浦と顔色の悪い室田が、のそのそと壊れたドアから外へ出ようとする。すると、時任は砂を吐きながら、そんな二人を必死に止めたっっ。 「ちょっと待てっつーかっ、来たばっかでナニ帰ってんだよっ!」 「いや…、胸やけが…」 「そんなモンは気合で耐えろっっ」 「これが気合で耐えられる程度なら、バカップルはこの世に存在しねぇだろ…」 「誰がバカップルだっ、誰がっっ」 行くなっ、もう限界っっ、誰が放すかっ、放せよっ。 な、何か後ろから冷気がっ、気のせいだろっっ。 俺はまだ死にたくないっっ!ワケわかんねぇしっ! そんな言い合いをしながら、押し合い引き合っているのは時任と相浦。 室田は松原を置いては行けず自動的に留まったが、依然として逃げようとする相浦の上着の裾を時任が後ろから掴み、その時任の後ろから久保田がのほほんと抱きついているっ。そんな今なら超お得っ!久保田も憑いてます…状態の後ろを振り返った相浦は、あまりの恐ろしさにガタブル震えながら絶叫した。 ぎゃあぁぁぁぁぁっっ!! 逮捕劇から相浦も絶叫の惨劇へと変わった犯行現場ではなく、可愛い子犬を飼っていそうな白い小さな家の中。いつの間にかドアを開けてキッチンに入って来ていた小宮信夫が、実は隣で話聞いてたんっスけど、それについて俺…、実は知ってる事が…と言ったが誰も聞いていない。 ほど良く短く切った髪をワックスで後ろに流し、前髪だけを上へ逆立てたヘアスタイルの小宮信夫。生徒Aとか生徒Bではなく、小宮信夫。 どこから来たのか、小宮信夫。 そんな小宮信夫だったが、全然誰も話を聞いていない。 おいっ、ちょっとと叫ぶと時任と久保田は小宮を三秒ほど、じーっと見つめたが何事もなかったかのように絶叫の惨劇の続きをし始めた。 「俺、理事長のこと知ってっていうか聞いてんっスか!?」 「あー、はいはい。今は取り込み中なんで、そーいうのは後でヨロシク〜。ちなみに邪魔したら、オタクに明日は来ないかも…、なんてネ」 「とか何勝手なコト言ってんだよ!知ってるコトあるなら今すぐ話せ。とっとと話せ!でなきゃ、アンタに明日は来ないかもしれねぇぜ!」 「ぎゃーーっ、助けてくれぇぇっ!」 いつ三人は小宮信夫の話を聞くのか!? 相浦はこの惨劇から逃れられるのか!? いつ別人になってしまった理事長の謎は解けるのか!? そして、本当に時任の胸はおいしく育つのか!? 謎が謎を呼ぶ展開…ではなく、目の前で繰り広げられる男同士の熱い攻防戦に小宮は静かに涙を流した。 「スイマセン…、マジ帰っていいっスか?」 2014.1.9 ■次 へ ■戻 る |