股間…とは、文字通り股の間。 足と足の間にあり、太ももと太ももの間にある。 そして、そこを見つめる四つの目と、指差す一つの指先。 しかしっ、王子様の股間にツッコんだのは期待を裏切ったのか、それとも予想通りなのか、ヘンタイの人差し指でも修正付きの18禁物体でもなかったっ! 「起きた時もそうだったけど、ソレを見るたびに驚いたり、何か不本意そうなカオしてるよねぇ。そんでもって、今もスゴク気にしてるみたいだし? でも、ベツにソレの大きさについて悩んでるワケじゃないような?」 ヘンタイの予想外のまともなツッコミ…だが、口を塞がれたままの危険な体勢。しかも、未だ下はベッドという素敵なオプション付きっ。 王子様はむぐぐっ、むごごぉっと口を塞ぐ手の下で放せとか違うとかうめきながら、両手で久保田の胸を押してみるがびくともしないっ、動かないっっ。ならばと拳を振り上げてみたが、肩をポンッと横から押された衝撃で倒れたため不発に終わった。 「ずっと眠ってたし、何もわからない知らないっていうのはホントだろうけど…、ね。もしかして、それとはベツに何か隠しゴトとかしてない?」 「・・・・・・っ!」 隠しゴトしていない? してるよね? してたよねぇ? そんな調子で倒れた身体に乗り上げ、迫りくる久保田に、王子様は反撃を試みるっ!そうだっっ、手がダメなら、今度は足でっ! 今だっ、どりゃあぁぁってな具合に足を振り上げた! しかし、それを待っていたかのように、口を塞いだ手とは反対側の手で掴まれ、元々危険だった体勢が更に危険な体勢へとパワーアップっ! その頃、寝返りを打った相浦が何気なく腹チラしていたが、誰も見てはいなかったっっ。 「ま、誰でも隠しゴトってのはあるけど、目の前で悩ましい視線で見つめてるのを見たら…、気になっちゃうよね、やっぱ」 「うーっ、うぅぅー…っ」 「ねぇ…、ココにナニ隠してるの?」 「・・・・・・っ!」 口を押えられ、足を抑えられ、耳元で無駄にエロい声で囁かれっ。 反応して立つのは見つめていた場所ではなく、見事な鳥肌! その瞬間、王子様はまるでシャーッと威嚇する猫のごとくっ、反射的にガブッと口を塞ぐ手に噛み付いた!しかも、甘噛みではなくっ、本気噛みっっ。 これは痛い、マジで痛いっ、容赦なく痛いっ! だが、久保田は顔色一つ変えずに足を掴んでいた手を放し、自分を睨みつけている王子様の頭をよしよしと撫でた。 「ダイジョウブ…、怖くない」 「ワケねぇだろっっ、このヘンタイ野郎がーーっ!!!」 そう王子様がココロの底から叫ぶと同時に、また隣からうるせぇっ、寝ろっと壁を叩かれるっ。すると、久保田はしーっと人差し指を自分の口元に当てた。 「ナイショ話と告白は小声でしないと…、ネ?」 「ないしょ話はともかくとしてっ、告白なんかしてねぇしっ」 「するのは今から、デショ?」 「なんで、俺がそんなのしなきゃなんねぇんだよ」 「ヒミツにしときたいなら、それでも良いって思ってたけど、状況が状況だしね。明日、理事長に会えるかどうかはベツとしても、何が起こるかわからないし…。だから知ってた方が、いざって時に守れそうな気がしたから聞いただけ」 「・・・・・・・・」 相変わらず、声は無駄にエロい。 手は不自然に腰の辺りに回されてたりもするが、眼鏡越しに見た瞳に宿るヘンタイらしからぬ真剣さに、王子様は戸惑い迷い黙り込む。このヘンタイ…、もとい久保田を信じて話すべきか、それとも秘密にして黙っておくべきか…。 けれど、そう考えながら起きてから今までのことを思い返すと、あんなにヘンタイでヘンタイでヘンタイなのに、初めから久保田のことを信じていた自分に気づく。そして、あれ、なんでだろうと首を傾げたが、理由はわからなかった。 でも、目覚めるとパンツの中身は見られ放題っ、その後も久保田のパンツを履かされセクハラ三昧っ。そのおかげなのかどうなのか、迷ったり戸惑ったり落ち込む時間もなかったのは事実なのかもしれない。 それに茨の森まで久保田が起こしに来てくれなれれば、今も知らないヤツの家で眠ったままだったかもしれないと思うと、自分の身に起こった変化を話すことに迷いはなくなっていた。 「・・・・・・俺自身も今も信じらんねぇし、だから、信じてくんなくてもいいけどさ。実は俺、ちょっちワケありで王子は王子だったんだけど、マジで男じゃなかったんだ。なのに、眠って起きたらっ、股間にっ、股間にぶらぶらと…っっ」 「あー…、それで見つめてたワケね。いきなり股間がぶらぶらしてたら、違和感だもんねぇ」 「だろっ!? いきなりぶらぶらしてたら、すんげぇ驚きだよなっ」 「いきなりぶらぶらは驚きだよね」 「だよなっ、ぶらぶらはホント、マジでビックリだぜっ」 いきなりブラブラだもんなっ、いきなりブラブラだもんね。 二人でぶらぶらぶらぶら言い合った後、ぶらぶらを通じて何かをわかり合ったのかっっ、王子様と久保田はガシリと手を握りしめるっ。 しかし、わかり合った次の瞬間、伸びた久保田の手がっ、久保田の手がっ! 王子様の平らな胸にペタリと置かれた。 「うん、確かにアソコはぶらぶらで、コッチはぺったり?」 「・・・ってっっ、どさくさにドコ触ってんだよっっ、このエロ眼鏡っ!」 「ちょっち変化の具合の点検?を、ね?」 「悪かったなっっ、元からぺったりでっ!」 「あぁ、その点については、心配しなくてもダイジョウブ。むっちりからぺったりまで、幅広く対応可能で守備範囲…」 「とか何とか言いつつ、いつまで触ってんだよっ!」 「あ、意外と柔らかい…」 「…っ!な…っ、なにしてっ」 「ん? 試しにちょっと大きくしてみようかなって思って」 「…って、オトコの胸を大きくしてどーすんだっていう前にっっ、揉むな触るなっ!!このどヘンタイがっっ!!!」 バキィイィィーー…っ!!!!! 男の胸を大きくしようと試みた好奇心旺盛な久保田…、もしくは単なるエロ親父に王子様の鉄拳がさく裂する。すると、今度は両側の部屋の住人に黙れっ、うるさいっ、寝ろっと、怒鳴られ壁を叩かれたっ。 このままでは理事長にヤられる前に、不眠で目の下にクマの出来た両側の住人にヤられしてしまうかもしれない!そんなピンチに直面した王子様と久保田は、ぶらぶらもぴったりも忘れて顔を見合わせ、同時にしーっと人差し指を唇に当てた。 「とりあえず、そうなったのには何か理由があるかもしれないし、他の連中にはナイショってことにしとこっか? 話すとたぶん色々と混乱しそうだし、面倒だしね」 久保田が眠っている相浦に視線を向けつつ小声でそう言うと、王子様もそれが良いとうなづく。それに元は女だと知れれば余計な気遣いをされそうだし、男として育ったのに元がそうだからと女扱いされるのは御免こうむりたかった。 ぶらぶらの次に、その件についても意見の一致をみた二人は、一度うなづき合った後で同時にアクビをする。色々あって股間を見つめつつ眠れずにいた王子様も、午前1時を越えたせいか、それとも久保田と話して安心したのかパッチリと開いていた目蓋が半分くらい落ちかかっていた。 そんな王子様を優しくエスコートするように寝かしつけ、毛布をかけてやりながら、久保田はまるで眠る子供に聞かせるように、そっと王子様の耳に安心して…と囁く。すると、半分くらいだった王子様の目蓋は完全に落ちていった。 「この先、何があっても何が起こっても俺は味方だし…。お前が行きたいっていうなら、茨の森だろうと世界の果てだろうとどこだろうと、必ず俺が連れて行ってあげる」 「・・・・・・・・」 「だから、時任・・・・・・・」 時任…というのは、松本が持ち帰ってきた偽装書類に書かれた名前。父親がこの国の出身で母親が外国人で、王子様はハーフということになっていた。 その名を呼んだ久保田が何か大切なことを言ったような気がしたが、眠くて眠くてたまらなくて王子様は…、時任は耳に届く前に意識を手放す。すると、久保田は眠りに落ちた時任の頭を撫でながらオヤスミと微笑んだ。 そして、それから何がどうなったのか、朝になって目覚めた時任は昨日と同じように違和感を感じて下を見るっ。けれど、そこにはぶらぶらではなくっっ、時任を抱きしめつつ、ぺったりとした胸に顔をうずめて安らかに?眠っている久保田の黒い頭があった! 「・・・・・・っ!!!!!」 「ん…、おはよう?」 「お、お、おま…っっ!」 「あれ、もしかして昨日より少し大きく…」 「ならねぇよっっ!!!!つかっっ、なってたまるかぁあぁぁぁっ!!!!」 男の胸を大きくしようとする久保田と、そんな久保田をヘンタイっ、ヘンタイっ、ヘンタイっっ!と寝起きの運動なのかどうなのか踏みつける王子様こと時任。そんなプレイ?を目覚めると同時に見てしまった相浦は、生ぬるい笑顔を浮かべたまま遠い目になった。 「誰か俺に朝起きたらいきなりSМだったり、男が男の胸を揉んでたりしない平和な日常を帰してくれぇぇ…、マジで切実にっっ」 マジで切実な相浦の願いが叶う日は…、そして王子様の身に起きた出来事のすべてが明らかになる日は来るのか…。 謎が増えていく一方で、まだ何も解決してはいない。 しかし、まだ朝の登校前の寮内に響く一つの放送が、来るべき時が来たことを、状況の変化を告げた。 『102号室の久保田。登校後、ホームルーム前に理事長室まで行くように…』 理事長室への、久保田一人だけの呼び出し。それを聞いた久保田は時任に踏まれながら、目は笑わず口の端だけをわずかに釣り上げた。 2012.5.27 ■次 へ ■戻 る |