魔王じゃないもんっ!
「第8話 太ってないもんっ!」


−8−

 数分で解除の秘薬は出来上がり、現在は通常状態に戻ることができた。
 とりあえず秘薬に頼れないことはわかった。たとえ痩せたとしても、秘薬はあくまで魔法。魔法は因果関係に誤差を生じさせるものだ。
 それでは意味が無い。
 きちんと、痩せなければ駄目だ。
 基本に戻り、もう一度ダイエットプランを見直してみることにする。
 完璧に見えるダイエットプランでも自分は痩せることができないことはわかった。
 ならばどうするか。
 さらに上のプランを立てるしかない。たとえ、健康を損なってもっ!
 もう背に腹は変えられない。体重を元に戻すことが最優先事項だ。

 人間は思い込めば思い込むほど思考が危険な方向に進んでくる。今の真央がまさにその状態だった。
 そんな真央が導き出したニューダイエットプラン。
 摂取カロリーの50%OFFと運動量の倍増だった。


 何かを動かすためにはエネルギーが必要であり、人間にとってそれは食べ物にあたる。
 食べ物を満足にとっていない状況で運動をすれば、当然エネルギー不足になってしまう。それにも関わらずエネルギーを消費し続けようとすれば、エネルギーを要求するのは至極当然のこと。
 それでも充分なエネルギーが得られなかった場合、人間は蓄積された脂肪をエネルギーに変換させるのだ。結果的にそれにより脂肪が減り、体重も減っていく。
 だから、この空腹感は体重が減少する兆し。そう思えばつらくない。
「真央ー、なんか顔色よくないけど大丈夫かー?」
 そんな自己暗示をかけている最中で、親友であるかっつんこが心配そうに声をかけてくる。
「ううん、なんでもない。ぜんぜん平気だよ」
 慌てて笑顔を浮かべるが、なんとも弱々しいものだった。
 いつもの学校からの帰り道。今日は週に一度のすべての部活が休みの日で、途中まで蘭子とひとみと一緒に帰る日でもある。
「うん、なんだかやつれてるっぽいし……、ちゃんと食べてる?」
 ひとみも心配そうだ。
 だが、真央はそのひとみの言葉に満面の笑みを浮かべた。
「そうかな?」
 やつれているは、痩せているとほぼ同義。そうか、やっぱり成果が出ているのか。
 強行プラン実施三日目。
 精神的な負担が強くなってきた今、成果が出ている兆しを実感できたのは、うれしいことだった。
 親友二人は、つらそうな表情から一変した真央の表情に顔を見合わせる。
「じゃあ今日も商店街に寄っていくから、ここでー」
 なんだかよくわからなかったが、とりあえず元気になったのは喜ばしいことだ。
「うん、ばいばーい」
 二人はまだ釈然としないものを抱えつつも、商店街を駆けていく親友の後ろ姿を、大きく手を振って見送った。


7へ 戻る 9へ