魔王じゃないもんっ!
「第8話 太ってないもんっ!」
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「ううっ、ぐすぐす……」 「真央、少しぐらい体重が増えたからって気にすることないんだぞ?」 アスラが生還し、真央に事情聴取、そして必死になだめているのが今の状況だ。 「うん、真央ちゃんかわいい。太ってない」 色香もアスラに倣って、いつものボソボソという口調で真央を慰める。 「……うん」 二人の優しい言葉に鼻をすすりながら頷く真央。 「ささ、せっかくのケーキなんだから笑顔で食べような」 「ん……」 真央はアスラに促され、フォークを口に運んだ。 ケーキと言うのは保存が効かないものが多い。保存料を使えば違ってくるが、店で手作りしている洋菓子店のケーキの消費期限は基本的に「当日中」だ。もちろん一日ぐらい置いても、傷んで腹痛を呼び込むものになってしまう可能性は低いが、どうしても風味は落ちてしまう。 ケーキの消費期限が一日なのには、ちゃんと意味があるのだ。 このスペシャルモンブランは大好物であり、希少価値も高い。そしてなにより大好きな父親が買ってきてくれたもの。 かけがえないお土産のケーキを、真央は結局無駄にすることができず、今夜食べることにしたようだ。 ムラサキイモのクリームの乗ったスポンジを口に入れると、広がる優しい甘さ。真央の顔がゆっくりとほころんでいく。 「いいかい真央! デビルスウィング改めデブスウィングになったとしても、僕の愛は変わらないさっ!」 「デビルス……」 「ぬんっ」 翔太のからかうような言葉に、真央がデビルスウィングを発動しようとしたが、それより先にアスラの腕が振りぬかれ、翔太はいつもの数倍の速度で回転しながら、夜空のお星様となる。 まさに魔王の一振り。 真のデビルスウィングと言える威力だった。 「ふー、ごちそうさまぁ」 結局、スペシャルモンブランひとつを胃におさめた真央は、一息ついてから目を閉じて考え込む。 「決めた。 やっぱりダイエットはするよ! 太り過ぎは身体にもよくないし!」 そして決意を新たに意志表明をする。 「そうか。 でも無理なダイエットは駄目だからな?」 「大丈夫! 健康的に痩せるプランはすでに作成済みだよ!」 真央は心配そうなアスラに対し、自信満々に言い放った。 なお、ダイエットが成功しない人の特徴のひとつとして、「好物を食べたあとにダイエット宣言する」というのが存在するが、これは余談である。 |
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