魔王じゃないもんっ!
「第8話 太ってないもんっ!」


−5−

「ううっ、ぐすぐす……」
「真央、少しぐらい体重が増えたからって気にすることないんだぞ?」
 アスラが生還し、真央に事情聴取、そして必死になだめているのが今の状況だ。
「うん、真央ちゃんかわいい。太ってない」
 色香もアスラに倣って、いつものボソボソという口調で真央を慰める。
「……うん」
 二人の優しい言葉に鼻をすすりながら頷く真央。
「ささ、せっかくのケーキなんだから笑顔で食べような」
「ん……」
 真央はアスラに促され、フォークを口に運んだ。
 ケーキと言うのは保存が効かないものが多い。保存料を使えば違ってくるが、店で手作りしている洋菓子店のケーキの消費期限は基本的に「当日中」だ。もちろん一日ぐらい置いても、傷んで腹痛を呼び込むものになってしまう可能性は低いが、どうしても風味は落ちてしまう。
 ケーキの消費期限が一日なのには、ちゃんと意味があるのだ。

 このスペシャルモンブランは大好物であり、希少価値も高い。そしてなにより大好きな父親が買ってきてくれたもの。

 かけがえないお土産のケーキを、真央は結局無駄にすることができず、今夜食べることにしたようだ。
 ムラサキイモのクリームの乗ったスポンジを口に入れると、広がる優しい甘さ。真央の顔がゆっくりとほころんでいく。
「いいかい真央!
 デビルスウィング改めデブスウィングになったとしても、僕の愛は変わらないさっ!」
「デビルス……」
「ぬんっ」
 翔太のからかうような言葉に、真央がデビルスウィングを発動しようとしたが、それより先にアスラの腕が振りぬかれ、翔太はいつもの数倍の速度で回転しながら、夜空のお星様となる。
 まさに魔王の一振り。
 真のデビルスウィングと言える威力だった。
「ふー、ごちそうさまぁ」
 結局、スペシャルモンブランひとつを胃におさめた真央は、一息ついてから目を閉じて考え込む。
「決めた。
 やっぱりダイエットはするよ!
 太り過ぎは身体にもよくないし!」
 そして決意を新たに意志表明をする。
「そうか。
 でも無理なダイエットは駄目だからな?」
「大丈夫!
 健康的に痩せるプランはすでに作成済みだよ!」
 真央は心配そうなアスラに対し、自信満々に言い放った。
 なお、ダイエットが成功しない人の特徴のひとつとして、「好物を食べたあとにダイエット宣言する」というのが存在するが、これは余談である。


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