魔王じゃないもんっ!
「第7話 姐御じゃないもんっ!」
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歓楽街、三反(みたん)。 光野町から電車で二駅だが、自転車であれば15分もかからず、気合を入れれば歩いても行ける距離にある。 都心部の歓楽街とは比べ物にならないが、それでも近隣住民の様々な欲求を満たす店舗が揃っていた。 なお、翔太の働くホストクラブもここ三反に存在している。 日が傾き、三反の街が赤く染まる頃、とある通りに行列ができていた。 歓楽街である三反でも、行列ができるのは開店前のパチンコ屋と有名なラーメン屋。あとはこの場所ぐらいである。 「三反夢見通(ゆめみどおり)」と呼ばれるそこは、屋台などの出店が集う場所。 行列の客層は100%男性。 学生から仕事帰りのサラリーマンまで揃っている。 そんな行列の先にあるのは、小さな看板、黒い机と椅子しかなく、そのいずれも野ざらしだ。 看板には小さな文字で「占い」と書いてある。 設備はひどく簡素であったが、その占いの店は、比類なき存在感があった。 ソバージュのかかった艶かブロンズヘア。世界のトップモデルも裸足で逃げ出す整った顔。そして、胸元の開いた黒のドレスから覗く、くっきりとした谷間と白く滑らかな肌。 それがこの占いに行列を作っているのだ。 これほど美しさをもった人間はそうそういない。 と、言うかいない。 彼女は人間ではなく魔族なのだ。人間では醸し出せない魅力を放つ魔族。それが淫魔、色香なのである。 そんな彼女が店を開けばたちどころに男性客が集まるのは必然と言えた。 それに加えてこの占いも人気の秘訣。 占い自体の的中率の高さも人気の要因であるが、それだけはない。 と、言うかもう一つの方が真の要因と言える。 「おおおっ!」 男性客が小さく歓声をあげる。 占いが始まったのだ。 色香が占いで使うのは二本の細い棒。 それを客の両肩に軽くポンポンと叩き続ける。 その占い法による副産物こそ、ここまで男性客を集める原因だった。 ぶるんっぶるるんっ! 腕の上下運動に伴い、その大きな胸が揺れるのだ。 「す、すごい……」 思わず声を漏らす男性客。 もうすぐ順番というこの距離なら、充分その揺れを認識できる。 「これはもう芸術だ……」 続く言葉はいささか飛躍した言葉だった。 「ふふふ、まさに芸術ですよね」 その言葉は、男性客のひとつ前に並ぶ男の何かに火をつけることになる。 しっかりと「占い」を目に焼き付けてから、ぐるりと首を回す男。 男と言うよりは男児と言ったほうがいいほど若い。 大学生だった男性客は、その年齢に見合わない男児の発言に、目を白黒させるしかなかった。 「胸元の大きく開いた服から覗く谷間ごと、ダイナミックに動くそれは、男性ならガード不能ですよ」 ニヤリと笑うその表情。その瞳は尋常ならざる光を携えている。 「君、まだ若いのに言うねぇ」 その雰囲気に飲まれ、愛想笑いで話に乗る男性客。それが決定打となり、男児のエンジンに火をつけた。 「ええ。彼女の胸は、例え、貧乳が好きだと言う嗜好の持ち主であっても、例外なくノックアウトできる魅力があります。 膨らみ、張り、形はもちろんのこと、アンダーの引き締まり具合がその胸を強調! 引き締まったウェストが、肉付きが言い訳ではなく、胸が大きいことを主張! さらに彼女は胸だけではないのですっ! そりゃあこの場合語っているのは胸の話ですが、そこは人間、男の子! どうしたって顔も評価点に入れてしまいがち。 しかし彼女はどうだっ!? 見よあの顔をっ! 私はあれほど端正な顔立ちを見たことがありません! まさにっ! まさに非の打ち所がないっ! パーフェクト! パーフェクトな胸! いや、あえてこう言おうっ! パーフェクトな『おっぱい』!! そのおっぱいが揺れているのです。 あなたも見たでしょうっ!? あのパーフェクトおっぱいが揺れているのです! 言わばパーフェクトバイブレーション! 嗜好などというそんなものでガードできる代物ではないっ! あの揺れに魅力を感じない存在がいたら、それは病気と言わざるを得ないのですっ!」 いつしか大声で語り出す男児。 「おおおおおっ!」 その声に沸き立つ行列客たち。 いつしか拍手喝采の中心にいた男児は、普通の男児ではなかった。 小学5年にして、巨乳の魅力にとりつかれた男。 彼を知る者は、尊敬の念を込めてこう呼ぶ。 「巨乳馬鹿一代」と。 毎日足しげく通う巨乳馬鹿一代こと北野安吉は、この場所のもう一つの名物になっていた。 歓喜の声が響く三反の夢見通は、今日も呆れるほど平和だった。 |
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