魔王じゃないもんっ!
「第7話 姐御じゃないもんっ!」
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本日の引きこもり魔法は約10分。 戻ってきた色香は気を取り直し、掃除洗濯をテキパキとこなした。 気が付くと時計の針は真上を指している。昼食の時間だったが、別段食事を摂る必要も無い魔族な面々にとってさほど意味はない。天駆がスキムミルクを飲むぐらいだ。 しかし、色香はあえてキッチンに立つ。 料理というのはとても便利であることを学んだからだ。 料理が上手ならそれはそれで萌え要素。さらに、下手くそであってもそれはそれで萌え要素になるのだ。 どう転んでも萌え要素。 シスター☆エンジェルで萌え要素を学んだ色香にとって、料理は「しなきゃ損」なものという認識になっていた。 さぁ何を作ろうか。 何を作ろうかと言っても、色香はほとんど料理らしい料理を作ったことが無い。 作ったと言えば、料理禁止令を出された原因となった、人知を越える激甘の物体ぐらいだ。 せっかくだから翔太の好物をと思ったが、そもそも翔太の好物がピンと来ない。 真央の料理はどんなものでも喜んで食べ、魔界ではほんとど食べ物を口にしなかった。 うんうんと唸りながら考えてたどり着いたものは「すごく美味しいもの」だった。 「さてと」 色香はその指針に従いプランを練り始めた。 すごく美味しいもの。 美味しいと感じる要素としてうま味成分があるのは知っている。有名なところではグルタミン酸などか。 つまり美味しいものを突き詰めれば、うま味成分が大量に含まれるものということになる。 「よしっ!」 方向性の決まった色香は、気合を入れて料理を開始した。 数十分後。 出来栄えを言うなら完璧の一言に尽きる。気弱な色香でもそう思える会心作。 喜び勇んで兄の部屋へ。 「お、お兄様。 あの、あのね。料理を作ってみたの。食べてみてくれない?」 ノックとともに声をかける色香。返事が来るまでの時間、ドキドキと高鳴る鼓動。 翔太は気分屋である。気が向かなければ、軽く断られてしまうだろう。そうなってしまってはこの会心作は無駄になってしまう。 「へー。 どんなの作ったんだ? 部屋、入ってきていいから見せてみろよ」 ぱらぴろり〜ん! 色香の脳内で、シスター☆エンジェルで使われている、ポジティブなイベントが発生した時のSEが鳴り響いた。 「お邪魔します、お兄様」 喜色満面の顔を引っ提げ、おずおずと翔太の部屋に入る。 「で、どんな料理を作ったんだ?」 「は、はい。これです!」 翔太にそう促された色香は、自分の料理を差し出した。 「………………」 翔太はそれを無言でまじまじと見つめる。 (ああっ、見られてるっ! お兄様に私の料理を見られてるっ) 恥ずかしさと嬉しさが入れ混じり、色香の体温はどんどん上昇していた。 「これが料理?」 翔太はジト目で色香が料理と称するものをつまみあげる。 「は、はい。とってもとっても美味しい料理です」 「いや、これクスリだろ」 翔太がつまみ上げていたのは、色香愛用の小さなガラス瓶だった。 ビンのなかにはドロリとした液体が入っている。 「いろんな食べ物からうま味成分を取り出して濃縮したの……。だから絶対美味しいはずなの。 ……た、食べてみてほしいの」 控えめに声を出しながら体をくねらせる。 早く食べてほしい。美味しいっていってほしい。ほめてほしい。 そんな欲求が体を無意識に動かしていたのだ。 「こんなの料理じゃねえ!」 翔太はビンを魔法で燃やし、消し炭に変えながら怒鳴った。 欲求と掛け離れた相手の反応に、頭はショートしそうになる。 「うま味成分抽出濃縮? アホかおまえはっ!」 翔太は呆然としている色香に容赦の無い罵倒を浴びせた。 「料理ってのは、食材を美味しくいただくための工夫だ! 言わば食材に愛を込める作業なんだよっ!! それを美味しい部分だけを取り出して濃縮? そんなものに愛があるかっ? 無いねっ! 全然無いっ! だからおまえの作ったものは料理なんかじゃねぇ! ゴミ以下の物体だ!」 「あ、ああぁ……」 とめどなくぶつけられる辛辣な言葉に色香は涙を浮かべながらも、なぜか顔を赤くさせていた。 お兄様が叱ってくださってる。 ああ、お兄様が……私に感情をぶつけてくださっている。 やっぱり料理ってすごい! 料理サイコー!!! 褒められることはなかったが、色香は違う種類の幸せにうち震えていた。 |
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