魔王じゃないもんっ!
「第7話 姐御じゃないもんっ!」
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真央が学校に行った後の出門家は静かなもの。 翔太は部屋でゲームやアニメ観賞。シュヴァルツはリビングで何週目かのアンパラディン(全188話)のDVDを食い入るようにして見ており、天駆は部屋で、最近お気に入りのバランスボールにてぼよんぼよんと遊んでいる。 家の仕事をしているのは色香を一人だが、これは色香の望んだことだった。シュヴァルツは当初、色香に手伝いを申し出たが、見られたら大変だという理由で断っている。 一応これには理由があり、その理由はひどく単純。色香が「甲斐甲斐しく家の手伝いをする妹キャラ」の真似事をしたいがためなのだ。 もちろんシュヴァルツはそんな色香に対し、「魔王のご息女でありながら、人間界の雑事を懸命にこなす色香お嬢様はご立派です!」などとひどく感心しているのだが。 色香の担当しているのはもっぱら掃除と洗濯だった。 最初は洗濯機も掃除機もうまく使えていなかったが、今ではすっかり慣れたもので、鼻歌混じりに使いこなす。 色香が掃除をするようになってから、出門家は全体的に奇麗になった。 もちろん真央もきちんと掃除をしていたが、さすがの真央でも、使わない部屋の方が多い屋敷全体を毎日掃除するような神業は披露できない。学校に通っているため時間がなく、その身長がゆえ高いところの掃除が苦手だったため、どうしても手の回らない部分があった。 そこをいくと色香は時間もあり、身長も高い。加えて高い身体能力をもって毎日屋敷を隅々まで掃除するのだ。 なお魔法は極力使わない。 家事をしている姿が萌えポイントなのであって、魔法を使って簡単に済ませてしまっても意味が無いのだ。 しかし、毎日毎日家事をしているのにも関わらず、肝心の兄の反応はイマイチ。それでも色香はわずかな可能性を求め、今日も甲斐甲斐しく家事をこなす妹と化すのだ。 まずは洗濯。 洗濯物を洗濯機に入れ、スイッチポン。 全自動洗濯機ならでは手軽さ。洗濯機が回っている間に掃除をあらかた済ませて効率アップ。数週間の時間は、色香に手際のよさを与えていた。 しかし、そこに至るまでに余分なプロセスが存在する。 「………………」 洗濯物を洗濯機に入れる途中で動きが止まっていた。 今、色香の手にあるのは、白地にピンクのハート柄の下着。こんな柄だが女性用の下着ではなく、男性ものの下着、トランクスである。 この家に男性は二人。一人は天駆。そしてもう一人は翔太だ。 天駆はまだ下着ではなくオムツを着用しているため、この下着は間違いなく翔太のものということになる。 お兄様の下着。 ダメダメダメダメダメダメ。 自制の言葉が脳内にビッチリと埋めつくことによって、抑えられている衝動。 いつもはこの衝動を振り切って洗濯機に入れている。 しかし今日は、さらなる誘惑のオプションつきだった。 (ま、まだあたたかいっ!?) そういえば翔太はさっきシャワーを浴びていた。 下着を替えた可能性は高い。 脱ぎたてほやほやお兄様の肌のぬくもりが残る下着。 高鳴っていく心臓。 高揚し、赤みを帯びてくる顔。 「ハァハァハァ……」 息苦しさに漏れる吐息。 「が、我慢……」 目をつぶり、兄の下着を洗濯機に放り込もうとするが、意志に反して手が下着を離さない。 「できなっ……」 そしてその手はゆっくりと顔へ。 「どうされました色香お嬢さまっ!」 「ひいっ!」 そこへバリトンボイスが響き渡り、色香は思わず悲鳴をあげた。 「シュ、シュヴァルツ!?」 続いて姿を見せるのは、世話しなく動く空飛ぶタイ焼き、もといシュヴァルツだ。 「顔が真っ赤です! 体調でも崩されましたかっ!」 「違うのっ! 違うのっ! 違うのぉぉぉ!!」 顔を隠して大きく首を振りながら、座りこむ色香。 その次の瞬間、シュヴァルツは悪寒を覚える。 「お、お嬢様!?」 歪む空間。 シュヴァルツが引きとめようとしたときはすでに遅く、色香は空間ごと消えてしまっていた。 |
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