魔王じゃないもんっ!
「第7話 姐御じゃないもんっ!」


−2−

 出門家の食卓は朝から賑やかだ。
「いやー、真央の作るご飯はいつもうまいなー」
 魔界の住人とは思えない箸さばきで器用に骨を取り除いた鮭の塩焼きを口に放り込み、続いて白飯をかきこむようにして食べる翔太。
「もう、お兄ちゃん。
 よく噛んでゆっくり食べないとダメだよ」
 真央は翔太の早食いを嗜めながらも、褒められてまんざらでもないようだ。
 もっとも、魔族な翔太がよく噛まないぐらいで消化不良を起こすとは思えないが、それはそれ。

 じぃぃぃぃぃぃぃ。

 そんな二人の様子を、そんな擬音が聞こえるぐらい凝視している色香。
「お、お姉ちゃん? じっと見てるけど、どうしたの?」
 最初から気になっていたのだが、強くなる一方の視線に耐えられなくなり、真央がついに声をかける。
「真央ちゃんが可愛いから」
「えぇ!?」
 返ってきた言葉に真央は真っ赤になった。
「な、な、なに? い、いきなり」
 何の前置きも無しの称賛は、心の準備ができていない分、感情が大きく動かされる。
 照れ臭さと嬉しさがまじった大きな感情は、真央をしどろもどろにさせた。
「む。やるな色香」
 その様子に翔太がニンマリと笑う。
「え? え? 何がですか?」
 色香は、素直に自分の考えを言っただけなので、翔太に褒められる理由がわからない。
「視線で興味を引いてから、突然の褒め言葉で一閃。
 フラグを立てる手段としてはかなり効果的だ!」
 グッと親指をたてて説明する翔太に、真央はため息。
「フラグって何? フラグって?」
「フラグと言うのはな……」
 真央はフラグについて熱く説明し始める翔太を華麗に放置。
「で、お姉ちゃん。いきなりどうしたの?」
 そして姉に真意を問う。端から翔太説は論外だ。
「真央ちゃんはとっても可愛い妹だから……。
 私も可愛くなりたいから、観察」
 もじもじとそんなこと言う姉の方が、よっぽどいじらしくて可愛いと真央は思うが、翔太好みではないことが問題らしい。
「萌え要素……いっぱい」
 褒められているんだろうが、一般的に「萌え要素いっぱい」が褒め言葉なのかは微妙である。
「ツンデレ萌え萌え……」
 というかこんな評価は微妙どころかドン引きであった。
「お、お姉ちゃん。
 変なゲームやりすぎだよ」
 軽い頭痛を感じながらも、姉にまともな道に戻ってきて欲しいため、軽く注意。
「甲斐甲斐しい妹。萌え萌え……」
 しかし色香はすっかり毒されているようだった。
「お姉ちゃん……。
 ゲーム一日どのくらいやってるの?」
「13時間くらい?
 もう少しで全テキスト暗記できそうなの」
 いや、毒されてるなんてレベルじゃなかった。嬉しそうな顔が眩しく悲しい。
「いや、フツーそんなにやりこまないからっ!」
 このままではダメだと思い、なんとか姉を変な世界から引き戻そうと説得を試みる。
「お兄ちゃんは全部暗記してるぞぉ?」
 そこに熱い説明を終えた翔太が横槍。能天気な翔太の顔に、真央はやり場のない怒りを覚えた。

「デビルスウィーング!」

 スパコーンッ!

「なんだか理不尽だがそこがまたイィ!」
 半ば八つ当たりのデビルスウィングも甘んじて受け止める翔太は、いつものように屋根を突き破って飛んでいった。
「なぜかいつも許されちゃう妹的ツッコミ……。私には真似できそうも無い」
 こんなやりとりにさえ羨望の眼差しを向ける色香に、真央は何も言えなくなってしまっていた。


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