王じゃないもんっ!
「第6話 音痴じゃないもんっ!」


−8−

「僕にいい考えがある!」
 自信満々な翔太の提案は、今までろくなものがなかった。
 しかし今回は毛色が違う。
「おそらく歌うつもりで声帯を震わせると魔音を出してしまうんだろう。
 ローレライが魔音を使う時に歌声のような音を出すから、魔音を出す行為は歌を歌う行為と酷似しているんだろうよ」
 軽い口調ではあるが、その内容はシュヴァルツの説明に勝るとも劣らない真面目さがある。
「真央の場合は歌うことと魔音を出すことが一緒になっちゃってるんだろうと思う」
「なるほど、充分考えられますな」
 うんうんと感心したように相槌を打つシュヴァルツ。
「つまり、どう声を出すことが「歌う」で、どう声を出したら「魔音」が出るかを理解するのが第一歩ってわけさ」

 おおおおっ。

 思わず歓声をあげる出門一家。
「具体的にはどうすればいいんだろう」
 真央の小さな声に翔太はニンマリと笑い、親指を立てて自分へ向けた。
「そこで僕が一肌脱ぐのさっ」
 ババーンという効果音と、効果線が見えそうなぐらい自信満々に踏ん反り返る翔太。
「お兄様が……脱ぐっ!?」
 しかし、その勘違いだらけの色香の言葉に、反り返った身体がよろけてしまった。
「魔音は魔力の高い存在のほうが敏感に共鳴現象が起きる。つまり、魔王様を除けば僕が一番魔音を察知できるってことになるわけだ」
 なんとか持ち直して、ポーズを決めながら得意気に言葉を続ける。
「そこでだ!
 いろんな歌い方を試していき、僕が魔音の量を感知。『どういう風にすれば魔音が出るのか』を手探りで見つけるのさ」
 そこで決めポーズ。
 ポーズが無い方が説得力があるのだが、翔太はそれに気が付いていない。
「それは危険です!
 敏感に共鳴現象を起こすということは、受けるダメージも大きいのですよっ!?」
 それに対し、すぐにシュヴァルツが異論を唱える。
「私もお兄ちゃんが苦しむようなことしたくないよっ!」
 その内容に真央も声をあげた。
「真央……僕は悔しいんだ」
 そんな真央に翔太は急接近してググッと顔を近づける。普段なら危険を感じてデビルスウィング発動のタイミングだったが、いつに無く真面目な表情がそれを躊躇わせる。
「いくら真央のためとかでも、そのほのかって子が原因で、真央が落ち込んで悲しい顔をしていたのは間違いない。
 だけど報復を真央が望まないことは知ってる。だからせめて見返してやりたいんだ」
「……………………」
 ここに来てすぐの頃には考えられないような、人間的で、それも前向きな言葉。
「真央が歌えないのを克服するのは僕の望みでもある。これはお願いだ。一緒にほのかって子を見返してやろう」
 真っ直ぐな瞳。
 真央はその瞳に、魔族が人間よりもひどく純粋な存在だということに気が付く。どんなことにも素直すぎるから、気持ちに嘘をついたりしないから、時折ひどく相手を困らせるのだ。
「見返すっていうのが、なんとなく違うけど。
 でも、私も頑張ってみんなの前で歌えるようになりたい。できないって思い込みたくない。
 協力……してくれるかなお兄ちゃん?」
「お安い御用さっ!」
 真央と翔太はニッコリと微笑みあうと、ガッシリ手を握りあった。

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