王じゃないもんっ!
「第6話 音痴じゃないもんっ!」


−7−

「もぉぉぉぉぉぉぉ!
 みんな死んじゃったかと思ったんだからーーー!!」
 ワンワンと泣いている真央を必死になだめる魔族3名。
「いやー、あまりにも予想外だったものだから対応できなくてなー」
 翔太はハハハと笑いながら弁解する。
 数分後、翔太と色香は意識を取り戻し、シュヴァルツは再生した。
「シュヴァちゃんなんて爆発するんだもーーーーん!!」
「すみません。
 あれほど強い魔音は初めてだったもので……。アンコが過敏反応して爆発してしまったようです」
 そう説明するシュヴァルツの体からは湯気があがっていた。どうやら恥ずかしいと湯気が出るらしい。
 焼きたてのタイヤキのようでとても美味しそうだ。
「真央ちゃんごめんね」
 未だ泣き続ける真央を色香が抱き締める。
「むぐぐぐ……」
 そのボリュームのある胸に顔を埋める形になり、呼吸ができなくなる真央。たまらず、色香の身体をポンポンと叩いて、苦しいこと伝えようとするが、色香はその意図に気がつかずさらに腕の力を強める。
 その結果、今度は真央が意識を失うことになった。


「意識喪失……これはマウストゥマウスしかないっ!」
「デビルスィーング」

 スパコーンッ!

 意識喪失と言ってもほんの数秒。
 不穏な翔太の言葉が聞こえれば、デビルスウィング発動だって軽いもの。
 そんなこんなで翔太は遥か上空に飛んでいき、真央は手慣れた修復作業によって、すっかり落ち着きを取り戻していた。
「えと……さっきシュヴァちゃんが魔音とか言ってたけど、私の歌を聞いた人が気絶しちゃうのと関係あるの?」
「ではご説明いたしましょう」
 落ち着きを取り戻していた状態で、シュヴァルツがまじめに話をしているところを見ると、なぜ笑いがこみあげてくるんだろうと、失礼なことを思いながら「おねがいシュヴァちゃん」と説明を求めた。
「そもそも魔音とは、魔界の海の妖である、ローレライが得意とする魔法です」
「ま、魔法!?
 ってことは私、魔法を使ってたの!?」
 普通の人間でしかない自分が魔法を使うなど考えられなかったが、自分が魔王の娘だということを考えれば不思議ではない。
「魔法と言っても、魔力を使って因果関係の誤差を引き起こすものとは性質が異なります。
 簡単に言えば魔力に干渉する音波ですね。
 うまく使えば、精神干渉もできますが、先程真央お嬢様が出した魔音は、純粋に魔力と共鳴現象を起こすものです。
 共鳴現象が起きると、自分の制御下にあるはずの魔力がありえない動きをするためか、精神的、肉体的に強い疲労を引き起こすのです。
 しかしながら。
 魔力に干渉する音域を発生できる種族は、魔界でもローレライの他に数種しかおらず。いずれも1体で発生させられる魔音はそれほど強力ではありません。
 単純な共鳴現象を起こすぐらいでは、少しけだるさを感じる程度でしょう。
 数秒で意識を失わせるには、ローレライの1千体程度が、一斉に魔音を放つぐらいのことをしないといけません。
 人と魔族のハーフという特異な存在だからこそ得た能力なのかもしれませんね」
 スラスラと説明をするシュヴァルツだが、普通の小学生で、ファンタジーにもそれほど興味の無い真央には少し理解しずらかった。
「えーっと……」
「ま、とにかく真央にその意識はなくても、歌う行為の副産物に魔音を出しちゃってるわけさ」
 そこにいつの間にか帰ってきている翔太が付け足すように言う。
「とりあえず音痴だからみんな気絶してた訳じゃないってこと?」
「そーいうこと」
 軽い口調で肯定する真央は少しだけほっとする。
 良かった。人が気絶するぐらい音痴ってわけじゃないんだ。

 ……いや、よくない。

「それって音痴より直しようが無いんじゃ……」
 原因はわかったものの対処法がわからない。ある意味絶望的だった。

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