王じゃないもんっ!
「第6話 音痴じゃないもんっ!」


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 学力試験結果発表日。

 ほのかはそわそわしながら、自分を慕っていつも一緒にいてくれる二人の友人の報告を待った。
「ほのか様ー!」
 小さな地響きとともにやってきたのは花咲舞(はなさきまい)。ぽっちゃりとしたその体型からは想像できない軽快な足取りでほのかのもとへとやってくる。
「ほのかさまぁ〜」
 続いて舌足らずな声を出しながらやってくるのは夢月秋乃(ゆめづきあきの)。舞よりも一回り小さいが、その足元はよたよたとして頼りない。
「舞さん、秋乃さん。御苦労様でした。
 変なことを頼んでしまい、申し訳ありませんわね」
「いえいえ〜とんでもないですぅ」
「ほのか様に何か頼まれるなんてあんまりないから、嬉しいぐらいですよー」
 ほのかのねぎらいの言葉に顔を緩める二人。
「……で、どうでした?」
 ほのかが二人に頼んだのは、真央のテストの結果チェックだった。チェックと言ってもお互いの答案を見せあって答え合わせをしたいと頼んだだけだ。
 ほのかはプライドが高いところがあるため、人と答え合わせをするなんてことは一度も無い。そのため、真央が成績優秀だとは知っていても、どの科目が何点ぐらいかも知らなかった。
 もしかしたら苦手な科目もあるかもしれない。そんな期待をして二人に点数を調べてもらったのだ。
「えっと、一つだけ10点近く点数が低い科目がありました」
 舞がメモを見ながらそう告げる。
「そ、その科目はなんですの?」
 目論みどおりの結果に思わず胸が踊る。
「はぁぃ、算数が86点でしたぁ」
「そう、算数ですか……なるほど。算数が苦手ですのね……」
 秋乃の言葉を聞いたほのかは、ぶつぶつとつぶやきながら考え始める。
 ほのかはどちらかと言えば理数系であり、算数の成績はいつも「4」。そして点数もいつも75点以上をキープしている。
「……86点?」
 自分の平均点まで考えが及んで初めて気が付く。
 今回、ほのかが算数でとった点数は78点だった。
 なお、この学校はテストの平均点がだいたい60点未満となる。70点以上なら「4」、85点以上ならほとんど「5」がもらえる。
「いえ、ちょっと待って」
 86点でほかの教科より10点近く低いということは。
「ほかは全部95点以上。
 100点は国語と理科でした」
「……」
 とりあえず、勉強ですぐに真央を追い越すのは無理であることがわかった。

 体育の時間。
 真央のスポーツ万能っぷりはもう呆れるほどだ。
 背が高い方が有利とされるバスケやバレーでも、跳躍力と技術でカバー。小学生用のバスケットゴールならダンクも決める。
 そして軟体動物並の身体の柔らかさと、バネの強さで小学生とは思えないアクロバティックなこともやってみせる。
 純粋な走力は足の長さの関係で香月蘭子に及ばないようだが、それでも50m11秒切れない自分とは比べ物にならない。
 考えるまでもなく、身体能力も遠く及びそうもなかった。

 続いて芸術。

 美術。
 教室の壁にずらりと飾ってあるコンクールの賞状の名前を見れば考えるまでも無い。

 音楽。
 今日の笛のテストで完璧な演奏を見せていた。

 技術家庭。
 調理実習のさい同じ班になったことがあるが、その味は今も忘れられない。裁縫も見事なもの。

 つまり、今日一日かけて調べて分かったことと言えば、真央がすべてにおいて高い能力を持っていることだった。


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