魔王じゃないもんっ!
「第4話 和菓子じゃないもんっ!」


−3−

 学校からの帰り道。買い物袋を片手に、携帯電話を開く。

『翔太と色香だけでは心配なので、信頼できる魔族を目付け役として送ります。
 翔太や色香と違って人型ではないけれど、小さいし、見た目も全然怖くないから、真央もきっとすぐに仲良くなれると思う。
 パパより』

 真央は、朝に届いたそのメールを読み返して笑顔を浮かべた。単純にアスラからメールが来たことも嬉しいし、自分の心配をしてくれているのも嬉しい。
 そして人型でなく、小型で見た目が怖くないということなら、きっとかわいいに違いない。そんな魔族が楽しみなのだ。
 これを読んだとき、真央のイメージは一瞬で固まった。
 昔見た魔法少女アニメに出てきたマスコットキャラクターだ。喋るぬいぐるみとでも言えばいいだろうか。
 個人的にはふわふわもこもこが好みだが、まんまるツルツルとかでも問題なし。とにかくまだ見ぬお目付け役に心を躍らせながら軽くスキップ。
 軽い足取りはあっという間に真央を家までたどり着かせた。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
「おかえりなさい真央ちゃん」
 元気の良いただいまを、兄と姉が出迎えてくれる。
「あぶぅあぶぅ」
 少し遅れてBBもやってきたが、お目付け役らしい姿は見えない。
「お兄ちゃん……」
「真央っ! 今日は真央にお土産を買ってきたんだ!」
 もしかしたら、今は席をはずしているだけかもしれないと思い、兄に聞いてみようかと思ったが、興奮気味に言う翔太に遮られる。
「テーブルの上に置いてあるぞっ!」
 目をキラキラと輝かせて迫る翔太に、真央は質問を続けることができなくなってしまう。色々と困った兄ではあるが、基本的に真央のことをかわいがってくれるし、真央の喜びを自分のことのように喜んでくれたりする。
 だから、喜びそうなものを見つけてはお土産を買ってきてくれたりするのは、そう珍しいことではなく、早く喜ぶ様を見たくて急かすのもいつもどおりだ。
「うん。ありがとう」
 真央は、こういう好意を素直に受け取ることにしている。
 手洗いとうがい、そして買い物袋の仕分けを済ませ、ランドセルを置いてからリビングへ。
「わー! お兄ちゃんありがとー」
 テーブルにあったのは、こんがりと香ばしそうに焼けたタイ焼きだった。ふっくらとしており、遠目からでもアンコがぎっしり詰まっていることが期待できる。
 一つだけポツンと皿の上に置かれていたが、おやつには丁度いい。それよりなにより、美味しそうなその外見が、空腹を呼びこんで我慢できそうになかった。
「じゃあ、遠慮なく〜」
 おそらく時間が経ってしまっているので温かさは期待していなかったが、まだほんのりと温かかった。
「はじめまして、真央お嬢様」
「!?」
 温かさにさらに食欲を刺激され、かぶりつこうとする真央だったが、突然の声に手がとまってしまった。

 ……どこから?

 真央はタイ焼きを手にしたままキョロキョロと回りを見回した。
 低く、渋みのある声。成人男性にしては高い、翔太の声とは明らかに違うし、真央お嬢様なんて呼び方はしない。それに、かなり近い場所から聞こえてきた気がした。
「ワタクシ、お嬢様のお父上に忠誠を誓いし者」
 続く言葉と目の前の光景に真央は呆然とした。
 異常事態はもう慣れてしまっていたはずなのに、これは今までとは明らかに方向性の違う異常だった。
 パクパクと動く口が、自分が手にしている存在が喋っていることを主張しているのだ。
「海の魔、リヴァイアサン族のシュヴァルツと申します」
 真央が手にしているモノ。
 タイ焼きだと認識していたものが、口を動かし、低く渋い声で自己紹介をする。
「えぇぇえええぇぇっ!?」
 真央が思わず大声をあげてしまったのは仕方がないことなのかもしれなかった。


2へ 戻る 4へ