魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」

−4−

「ただいまぁ」
 その小さな身体には少々不釣合いな荷物とともに帰宅。今日は薬局でトイレットペーパー8個パックと、ティッシュの5箱セットの安売りをしており、ここぞとばかりに2つずつまとめ買いしてしまったせいだろう。加えていつものように夕飯の材料まで買っているのだから、かなりの量だ。
「おかえり〜」
 翔太の声がするとともに、トイレットペーパーとティッシュ箱がふわふわと備蓄用の押し入れへと運ばれていく。
 翔太の魔法なのだが、こういう時はやっぱり便利だと思った。
「あぶぅあぶぅ」
 BBも真央を迎えるようにプカプカと浮きながら近づいてくる。機嫌がいいのか、キャッキャッと笑っていた。
「ただいま天ちゃーん」
 その愛らしさに顔がほころび、優しく抱きしめて頬ずり。
「あぶぶぅ……」
 しかし、BBはそれを嫌がるような素振りで真央から離れて行った。BBはどうやら接触を嫌うらしい。いつもどおりの反応だったが、少し寂しかった。
「アレ? お兄ちゃん、それどうしたの?」
 テーブルに座っている翔太は、ノートパソコンで何やらやっているのだが、ノートパソコンは出門家には無かったはずだった。
 あるのは共用のデスクトップパソコン一台だけ。
「お客さんから貰ったんだ。モバイルモバイル」
「えー、かなり高いんじゃないのっ!?」
 翔太が使っていたのは、よくテレビCMで宣伝されている有名なパソコンメーカーの最新機種だ。超高性能モデルで、確か30万円以上はしたはずだ。
「メールのやりとりしたいから個人PCが欲しいって言ったら、買ってくれたんだ」
 鼻歌交じりに操作する翔太は、マウスもキーボードも器用に使いこなしている。
 翔太はこっちに来てすぐにパソコンに興味を示していた。最初は美少女ゲームをインストールしまくって、ハードディスクの容量をパンパンにしてしまうなどの失敗をしていたが、最近はそんなこともなくしっかりと使いこなしている。
 今では調べ物とメールぐらいにしか使っていない真央よりも、よっぽど詳しくなってしまっていた。
「ほへぇ〜……」
 テレビなどである程度は知っていたが、ホストの人は、本当に高価なものをポンポン買ってもらえるんだなと妙に感心してしまう。
「いや〜。インターネットは本当に便利だね!
 同じ趣味の人たちと知り合うのも簡単! この前のシスジェルファンクラブのオフ会は楽しかったなぁ」
 PCの操作を滞らせること無く、嬉しそうに話す翔太の姿は、魔族には到底見えなかった。
「いやー、人間は面白い。シスジェルを愛する同志に、真央と同い年の女の子がいるとは思わなかった」
 前回の事もあるので最初は心配したが、ホストの仕事などで人間との付き合い方のコツがわかったのか、すっかり人間界に溶け込んでしまっている。
 破天荒なところはちっとも直っていないが。
 なお、「シスジェル」はシスター☆エンジェルの略称である。
「え〜、ホントォ?」
 シスジェルがどんなゲームかは、翔太の影響で嫌というほどわかっていたので、真央が疑うのは当然だ。
「随分仲良くなったよ! 今度真央にも紹介するからなっ」
「う、うん」
 美少女ゲームが大好きな同い年の女の子。どう考えても一般的でないその存在を紹介してもらうのは、それほど嬉しいことではなかった。
「ところで、お姉ちゃんは?」
 買い物の仕分けを済ませ、エプロンをつけて、さぁ料理をはじめようと言う所で、色香の姿が見えないことに気がつく。
 いつもは小さい声で、「おかえり」と出迎えてくれていた。
「部屋にこもって何かやってるぞ。
 あいつは何かを作り始めるといつもそうなんだ」
「ふ〜ん……」
 物音一つしない色香の部屋の方に視線を向けたが、出てくる気配は無い。
 真央は何を作っているのか若干気になったが、そろそろ支度を始めないと夕飯が遅れてしまうので、とりあえず疑問はそのままに料理を始めた。

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