魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」

−3−

 光野学院小等部のグラウンド。
 少子化が問題視される昨今でも、人気のあるこの学校のクラス数は多く、晴れた日のグラウンドには、いつもどこかしらのクラスが体育の授業を行っていた。
 光野学院は自由な校風で有名であり、その校風は体操着を見てもわかる。
 体操着の上は普通の名前入りの厚手のTシャツなのだが、下はブルマ、ショートパンツ、ハーフパンツ、スパッツと様々だ。
 ただしジャージの着用だけは認められていない。
 現在体育の授業を行っているのは5年4組。真央たちのクラスだ。100m走のタイムを測っているのだが、平均タイムが遅い生徒からタイムを測るため、運動神経抜群の真央の出番は最後だ。なお、真央はスパッツを着用している。
「はぁ……」
「真央、どうしたー?」
 大きな溜息をつく真央に蘭子が声をかける。蘭子は普段髪を下ろしているが、今はゴムでまとめているために印象が違って見えた。彼女は真央と同じく運動が得意であるため、出番は最後だ。ちなみに圧倒的に人気の低いブルマを「動きやすい」という理由で選んでいる。
 蘭子は反応のない真央の視線追って、その溜息の意味に気がつく。その視線は走っているひとみに注がれていた。いや、正確にはひとみの胸だ。
「ひとみのおっぱい大きいよねー」
 ニカニカと笑いながら言う蘭子。
 大きいと言っても、小学生にしては大きいという程度であるが、走れば揺れが観測できるほどの大きさはある。
 そのため、一部の男子にもチラチラと見られていた。
 その様子に昨晩の姉の胸と、朝の出来事を思い出してしまったのだ。
「ふぅ……はぁ……はぁ……」
 走り終えて戻ってくるひとみ。額には汗が輝き、息も絶え絶え。運動が苦手なひとみにとっては、100mは地獄のような長さなのだ。
 なお、ひとみはハーフパンツをチョイスしている。
「おつかれ、ひとみん」
「おつかれー」
「ふぅ……はぁ……疲れたよぉ〜」
 二人の声に安堵を覚えたのか、へたり込んでしまうひとみ。真央はその時も、胸の揺れを意識してしまっている自分に少しだけ嫌悪感を抱いた。
「ねーねー、ひとみん。
 アタシ、牛乳とかたくさん飲んでるんだけど、ぜーんぜん大きくならないんだよね。何か秘訣でもあるの?」
 その気持ちを知ってか知らずか、成長の遅いチームに入っている蘭子が、まだ膨らんでいない自分の胸を寄せてあげるようにしてひとみに詰め寄る。
「え、え……べ、別に……特に何もしてないよぉ」
 両腕で胸を隠すようにして顔を真っ赤にするひとみ。
「ほっほっほっ、隠さずとも良いではないか良いではないか」
 その様子を見て嗜虐心に火がついたのか、イヤらしい言い方でひとみをからかい始める。
 こんなやりとりは二人の間にはよくあり、いつも真央が間に入っているのだが、今日はそんな気も起きず再び溜息をこぼすだけだった。
「ね、真央がホントに悩んでるみたいでさ〜」
 そんな真央を指差して言うと、ひとみまで真剣な表情になる。
「わ、私、ホントに特に何もしてないよ。
 ホラ、成長って個人差があるから!」
「あ、いや、そんなんじゃないのっ!」
 いきなり真面目モードで、真央のためにあれこれと考え始めるひとみに、慌てて弁解するがもう遅い。
「大きくしたいんだったら、いつ成長してもいいように栄養をとっておくのは大事だと思うけど……」
 ひとみは心優しく、世話焼きなところがあり、それは少々「おせっかい」の領域に達する。
「う、うん」
 加えて、色々な本を読んでおり、様々な知識を持っているので、一度語りだすと止まらない。
 結局真央は、自分の出番が来るまで「胸を大きく成長させるための方法」を聴かされるはめになった。

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