魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」

−2−

 ……どういう意味なんだろう。

 昨晩から、姉の占いの結果が気になって仕方が無い真央。
 崇め奉られている自分が見えたらしいが、どうしたらそういう状況になるか想像もつかない。
 朝食を作っている最中も、そのことばかり考えてしまい、心ここにあらず。
 料理は身体に染み付いているので失敗することは無いが、近づいてくるその影に気がつくことはできなかった。

 シュルシュルシュル。

 その音でようやく存在に気がつくが時既に遅し。
「……ふむ。服の厚みを考えても膨らみは観測できず……と」
「お、お兄ちゃん……何やってるの?」
 忍び寄ってきた影の正体である兄の手にはメジャーがある。
「真央のおっぱいのサイズを調べていたのさっ!
 まだ膨らんでなくて大感激だっ!」
「デビルスウィーングッ!」

 スパコーンッ!

 指輪を杖に変化させて翔太をかっ飛ばす。翔太はクルクルと回転しながら、天井を突き抜けて空の彼方に飛んでいった。
 ちなみに「デビルスウィング」は、指輪を杖に変化させるための掛け声。杖に変化させるには、変化を命じる意志とともに声をかけるだけで大丈夫なのだが、変化と攻撃をスムーズに行う掛け声としてぴったりだと言うことで定着した。
 二週間で定着してしまうほど、「デビルスウィング」の発動率は高いのだ。
「ま、まったく……失礼しちゃう……」
 真っ赤な顔でプリプリと怒りながら、天井の修復を始める真央。小学5年というその時期は、成長が見られ始める年頃であり、その時期は人によってそれぞれ。
 クラスメイトのほとんどが、少しずつ変化が表れている中、まったく変化が表れない真央は軽いコンプレックスを感じていた。
「な、何?」
 そんな中、なぜか身震いしてしまうほどの強い視線を感じる。
 視線の主は、テーブルに座って朝食を待っていた色香だった。
「……う、うん……。羨ましくて……」
「は?」
「お兄様に愛される胸……」
 色香の言葉に軽い怒りを覚えるが、色香の境遇を考えて抑える。翔太はいわゆるロリコンであり、色香のような大人の魅力が溢れ出ているタイプには見向きもしないのだ。兄を慕っている色香にとっては、真央の成長していない胸は羨ましいのだろう。
「もう……、そんなこと言って……。
 私はお姉ちゃんの胸が羨ましいよ。すごく大きいし、形だってすごくいいんだもん。私もいつかそんな胸が欲しいよ」
 少し呆れたように言う真央。
「ホント? ホントにそう思う?」
 色香はその言葉に強い反応を示した。
「う、うん。そりゃそうだよ……」
 色香にしては珍しい圧しの強い問いに、真央は動揺気味に頷く。
「そう、わかった。……うん」
 その返答に満足したようにうんうんと納得するとともに、ブツブツと独り言を言い始める。
 はっきり言って変であるが、このぐらいで変だと思っていてはやっていけない。いつの間にか帰ってきて、テーブルに着いている翔太も気にしていたら身が持たない。
 真央はとりあえずどちらも気にしないことにして、朝食の準備を再開した。

1へ 戻る 3へ