魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」
−12−
真央、ひとみ、蘭子。そして、5名の男子。 ほのかは残った男子が真央の胸に興味が無い紳士的な男子生徒なのだろうと判断したため、ほとんどの戦力を写真の回収へと回した。男子生徒にもまともな人格の持ち主はいる。そう思っていたからだ。 しかし、甘い。 男は馬鹿なのだ。 そして、ほのかは気がつかなければならなかった。クラスに残ったメンバーに彼がいることを。 ゆっくりと席を立つ5人の男子生徒。 その中には、北野安吉がいた。 「ちょ、ちょっと何よアンタたち」 真央を護るべくひとみと蘭子が立ち塞がる。しかし、ゆっくりと確実に近づく5人を前に、足はすくんでいた。 男子生徒たちの目的はこれだった。撮影に成功したかどうかはどうでもいい。とにかく撮影されたかもしれないという不安を煽り、戦力を分散させるのが目的だったのだ。 必死に真央の前に立ちはだかるひとみと蘭子だったが、それぞれ二人がかりで真央から引き剥がされ、身体を拘束されてしまう。運動が苦手なひとみはもとより、さすがの蘭子も二人がかりでは太刀打ちできなかった。 「ああ、やっと……やっと……また見れた……」 ランランとぎらつく瞳で真央の胸を凝視する安吉。 護りを失った真央は両腕で胸元を隠すが、それが肉が寄せてしまうため、その大きな胸が強調される結果になってしまっていた。 「すまん出門……。俺は……この背中に男子生徒全員の期待を背負っている。 だから俺は……」 見るものに畏怖を覚えさせるオーラをまとい、じわりじわりと間合いを詰める安吉。 「おまえの乳を揉むっ!」 そう、これが男子生徒の目的だった。 巨乳馬鹿一代の名を持つクラス一の巨乳好きに、真央の胸を揉ませることにより、おっぱいガーディアンに屈辱を与える。 「揉み捨てごめぇぇぇぇん!!」 両手を構え、野獣の目つきで突貫する安吉。すでに真央を護れるものは無い! しかし! 「このヘンタイ! いい加減にしなさいっ!」 一瞬何が起こったのかわからなかった。両目で捕らえていた理想の胸から視界が逸れ、世界が回り始めていた。身体には浮遊感。そして、その混乱の中で訪れた衝撃が安吉の意識を失わせた。 ひとみ、蘭子。それを抑え付ける男子生徒4人。そのすべてが言葉を失った。 真央の小さな体が少し動いただけで、安吉の体が舞ったのだ。それは魔法のようであったが魔法ではない。 「……まさか?」 ひとみを抑え付けていた男子が驚愕の表情を浮かべる。彼の名は青空龍一。クラス一の格闘技マニアとして知られる。 彼は知っていた。 真央が使った技がなんであるか。しかし、にわかには信じられなかった。 「沢薙流合気……鬼をも倒す武術」 表舞台には出ない、古の武術。力の流れをコントロールし、相手に返す合気道に似た武術。かつて、鬼を退治するために生み出されたとされるその武術は、龍一も文献などでしか見たことがなく、実在するとは思わなかった。しかし、あの最低限の動きで相手にここまでダメージを与える武術は他に知らない。 「沢薙……って、そういえば真央ちゃんのお母さんの旧姓だけど……」 あまりの出来事に抑え付けられていることも忘れ、龍一の呟きに反応するひとみ。それによって龍一は確信する。 もう偶然とはいえない。彼女は間違いなく、沢薙流合気の使い手だ。 龍一の推測は正しかった。真央の母親は沢薙流の血族である。 鬼退治の宿命が蓮子とアスラを引き合わせたのだが、それはまた別のお話。 おっぱいガーディアンに気をとられ、真央の戦闘能力を計算に入れなかったことが敗因である。真央の実力を知っていたら、このような強行策は出なかっただろうが。 程なくして、男子生徒たちがボロボロになって帰ってくる。その後ろに聳え立つ長身に、自分たちは完敗したのだと悟った。 |
11へ | 戻る | 13へ |