魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」
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偶発的に発生する覗き見がピタリと止まり、5年4組は平穏を取り戻した。おっぱいガーディアンは自分たちの功績のよるものだと確信し、互いを称えあう。 しかしそれは男子生徒たちの作戦であった。 意志を統一させることにより、衝動を抑え込み、体力の温存とともに相手の油断を誘う。それこそが真の狙い。 この年頃の男子生徒は、女子生徒には負けられないという妙な敵対心を持っていることが多い。だからこそ、女子生徒に自分たちの行動を制限されるというのが許せなかった。 給食の時間。北野安吉が集中治療を終えて戻ってくる。各所に打ち身や擦り傷は見られるが、致命傷は無い(あったら大変だが)。 給食時間にも関わらず、相変わらず教室は真っ二つに割れ、真央は女子の壁の中心で、運んできてもらった給食を食べているようだ。 男子生徒はすぐさま北野安吉を自分たちの中心に招きいれ、自分たちの思惑を話す。 初めは困惑してた安吉だが、男子生徒全員の意思が固まっていることを感じると、深く頷いた。 給食の時間が終わる。 それとともに教室の空気が変わった。 給食が終われば30分の昼休み。行動の制限が無くなり、教師の目も無い。男子生徒は、そこで作戦を決行した。 男子生徒は一斉に女子生徒に向き直り、号令とともに何かを構える。 「なっ!」 おっぱいガーディアンたちは完全に虚を突かれた。ほとんどの男子生徒が、携帯電話をこちらに向けていたのだ。 「記念撮影開始!」 号令とともに、男子たちがドッと押し寄せてくる。 授業中は教師の目があった。授業間にある5分の休み時間では時間が短すぎる。 このオペレーションを実行するのは、昼休みにおいて他なかった。 圧倒的な戦力差があり、自分たちが勝てなかった原因はただ一つ。団結した行動ができなかったからだ。 団結行動はどうしても目立ち、教師の目を盗んで行うことなど不可能である。だから、どうしても個で動くしかない。対しておっぱいガーディアンは、教師に団結した行動を認められていたのだ。 圧倒的な数の差があるのだから、勝てるわけがなかった。 しかし、休み時間ならば集団行動が可能である。 そのことに気がついた男子生徒たちは、昼休みにすべてを賭けるために作戦を立てていた。 「で、出門さんを護るのよっ!」 ほのかの号令とともに、立ち塞がる女子生徒。しかし、どっと押し寄せる男子生徒の波に気圧されてしまっている。 作戦決行を昼休みにしたのはもう一つ理由がある。 昼休みは、おっぱいガーディアンのまとめ役であるすず子がいないのだ。彼女はいつも、昼休みになると姿を消す。噂では、モバイルパソコンでメールやネットサーフィンをしているらしい。それは今日も例外ではなく、すず子はこの場にいない。 男子生徒にとって彼女は脅威だった。普段はあまりしゃべらないくせに、喋り出すと妙に口が達者で、その外観と相まって強烈な引力を放つ。カリスマと呼ぶに相応しいそれだけでも十分な脅威だが、加えて身体能力も桁違いだった。 成長の早さだけでは説明がつかない戦闘能力。風の噂では、その長身のせいで女子中学生の不良グループ10人に絡まれたにも関わらず、1人で撃退したらしい。 つまり彼女はおっぱいガーディアンの主戦力であり、なくてはならない存在だと言える。今はそれが存在しない。 指揮をクラス委員であるほのかに任しているようだが、ほのかにはすず子のような圧倒的存在感がない。クラス委員ならともかく、戦闘指揮者は荷が重いのだ。そして、戦闘能力はほとんど無いと断言していい。 「邪魔するとスカートの中を撮影すっぞっ!」 男子生徒たちのわざとらしい下衆な脅し文句に、女子生徒たちは思わず自分のスカートに意識が向いた。 男子生徒はそのスキを逃さず、数名の生徒を押しのけおもむろに撮影始める。 「よっしゃーっ! 巨乳画像ゲットー」 数名押しのけただけであり、すぐに数名の女子生徒が真央を囲んだため、撮影はできないはずだった。 しかしとっさのことだ。もしかすると死角があったのかもしれないし、護りを固める前に撮影されたのかもしれない。 「あはははー、ざまーみろー」 そして、脱兎のごとく逃げ出す男子生徒たち。 「真央ちゃんの護りは、ひとみさんと蘭子ちゃんに任せてあいつらを追って! そして必ず携帯電話を没収!」 おっぱいガーディアンは、男子生徒のセクハラから真央を護るために存在する。その点、写真というのはやっかいであった。写真を撮られてしまえば、セクハラを防ぐのは非常に難しくなる。写真はそれだけで、男子生徒たちの欲求を満たすものになりうるからだ。写真があっては、真央を辱めから護ることはできない。だからこそ、撮影には厳しい処罰を与えた。 廊下に逃げる男子生徒たち。追う女子生徒。 5年4組の教室にいたほとんどの生徒たちは、教室から出て追いかけっこを始めてしまったため、教室に残されたのは残りわずかとなった。 |
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