魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」

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 その団体は自らの名をそう称した。
 なんとも微妙な名前であるが、命名者が組織をまとめ上げたすず子であったため、異論は出なかった。
 おっぱいガーディアンのその活動は、そのネーミングからは考えられないほど過激であった。
 まず行われたのが、男子生徒の持つ携帯電話のチェック。もし胸を撮影した画像があれば問答無用で消去。男子生徒からは大ブーイングだったが、おっぱいガーディアンにはその強行策を実行に移せるだけの強力なバックボーンがあった。
 この事態を面白がった担任の博美と、セクハラという悪を淘汰する大義に燃える、クラス委員のほのかである。この二人が味方についたおっぱいガーディアンは無敵と言ってもいいだろう。
 そして、活動は授業中である今も、現在進行系で行われている。強制的な席替えにて真央を囲んで壁を作り、男子生徒の視線をブロックしているのだ。
 しかし、その壁も完璧ではない。角度によっては胸を覗き見ることも可能だ。この年頃の男子生徒は好奇心旺盛であり、目の前にある大きな胸を見たいという欲求を抑えるのは至難の業である。欲求に耐えられず、覗き見ようとする男子生徒が後を絶たないが、すべて阻止されていた。
「ハイ、そこっ!」
 声とともに消しゴムが飛び、真央の胸を見ようとしていた男子生徒のおでこに直撃する。百円で売られる大きめの消しゴムは、クリーンヒットすれば赤く腫れあがるほどの威力があった。
「い、いってぇ……」
 おでこを赤く腫らし、椅子ごと撃沈する男子生徒。これでも十分な制裁であるが、携帯電話による撮影には、さらに厳しい暴力的な制裁がなされた。
 その制裁が行われたのは一度だけであるが、そのあまりの凄惨さに、再び携帯電話を真央に向けようとするものはいなかった。
 なお、被害者であるは北野安吉は保健室で集中治療を受けている。

 さらに次の時間。教室は男女で奇麗に分断された。真央は壁側の中央に位置し、男子からはもっとも見えにくい位置に座っていた。
「な、なぁ……あそこまでするか?」
 最初は罪の意識もあり、おっぱいガーディアンの行動を容認していた男子生徒だったが、暴挙と言える制裁と防御策に憤りを覚え始めていた。
「なんかさ……。あそこまでされるとむかつかね?」
 初めは小さな規模だった不満は、やがて大きく拡散していく。そして男子全員に行き渡ると、男子生徒の意志はすでに団結していた。
 女子生徒は理解していない。男子生徒は馬鹿なのだ。覚え始めた性的欲求はとめどなく、目的が困難であればあるほど不屈の闘志が湧いてくる。
 男子生徒は、筆談と手紙のやりとりにより意志の疎通を図り、恐ろしい作戦を企て始めていた。


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