魔王じゃないもんっ!
「第2話 魔界じゃないもんっ!」


−11−

 翔太が地面に叩きつけられた衝撃により吹っ飛んだ民家の修復も無事に済み、アスラは膝を抱える翔太の隣に座った。
「どうして……」
「おまえは自分の力の強大さを自覚しとらんのか? おまえが力を解放したら、どこにいても気がつくわ」
 翔太の質問を汲み取って答えると、翔太は深い溜息をついた。
「……何かあったのか」
 翔太は、いたずらや、くだらないことをすることには積極的に力を使うが、破壊のために力を使うようなことはしない。
「ボクには理解できません」
 真央の怒り。
 自分のしたことが罪となるこの世界。
「……そうか」
 ことの顛末を聞いたアスラは空を仰ぐ。
「それで人間界を破壊するのはいささか短絡的だな」
 そう言われても何も言い返せない。
「……どうすればいいのかわからない」
 いくら考えてもわからなくて、それが許せなくて。永い時を生きて、こんなことに出会ったことはなかった。
 唯一、自分に勝る力の持ち主。絶対的な力を以って魔界を統べる魔王であり、自分の父親である存在を前にして初めての感情に気がつく。
「……どうすれば……」
 助けてほしい。救いがほしい。
「どうすればいいんでしょう……」
 すべてのことを自分の力で解決できた。
 アスラはそんな翔太の肩に手を置く。
 体のサイズがあまりにも違うので、傍目にはそうは見えなかったが。
「そう思うなら、大丈夫だ」
 意味がわからず首をかしげる翔太にアスラは言葉を続けた。
「どうにもならないことにぶつかり、それでもどうにかしたいと願う。
 これは魔界にはない発想だ。
 力がすべての魔界において、力の無いものは力のあるものに逆らうことはない。誰しもそれが当然だと思っているからだ。
 ……魔族は身体の形成が整った時点で力の成長が止まるのは知っているな」
 コクリと頷く翔太に見せ付けるように握りこぶを作る。
「だが、本当はそんなことはない。ワシのこの力は、永い時をかけて磨き上げた」
「そんなバカな」
 魔界の常識を打ち破る事実に目を見張った。
 しかしよく考えれば、その可能性はありうる。
 アスラは鬼族。
 鬼族は魔族の中でも低級とされている。
 そんな存在が、鬼族を遥かにしのぐ能力を持つ飛天族を退け、魔界の王として永く君臨している理由としては、魔界で言われている「鬼族の突然変異」と大差ない。
「誰もがそう思う。だがワシは諦めなかった。
 実はな、……昔、ワシは突然発生した歪みに飲み込まれ、人間界に迷いこんだことがある」
 こんな話は聞いたことがなかった。
 よく考えれば、アスラとこんなに話し込んだのは初めてである。
「そこで一人の男に出会った。
 鬼に勝る能力を持つ人間だった。その男は、私に可能性の種を植えてくれたのだ。
 人が鬼を超える能力を手に入れるための努力。可能性を信じて変化を望む心。人間界で腐っていたワシに、魔界には無い発想を説いてくれた。
 男は人の寿命に相応しい時間で死んでしまったが、ワシは力を磨き続け、次元を歪ませる力を得るに至ったのだ」
 アスラの言う次元を歪ませる能力は、魔界と人間界を行き来するのに必要な力だ。その力を有する魔族は、魔界でも一億に一人と言われている。ちなみに翔太もその力が備わっているが、色香には無い。
「魔族でも成長できる。
 ……だから理解できないこともいずれ理解することができる。
 どうすればいいのかと悩むおまえは、理解しようとしている。努力を惜しまなければ大丈夫だ」
 翔太は話を聞きながら、アスラの大きさを感じていた。身体の大きさも、純粋な力も規格外だ。しかし、それ以外の大きさを翔太は感じ取った。
「一つ知恵をやろう。きっと、おまえの道を開いてくれる」
「はい、はい!」
 翔太は恥も外聞も無く、アスラの差し出す救いの手をしっかりと握り締めた。




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