魔王じゃないもんっ!
「第1話 魔王じゃないもんっ!」

−6−

 面会時間が終わり、放り出されるように病院から出て、家までの道をとぼとぼと歩く真央。頭はぼんやりとしたままで、まさに放心状態だった。

「パパは魔王なのよ」

 自分の父親が魔王。
 そんなのバカみたいな話、信じられるわけがない。
 確かにアスラの外見は恐ろしく、誰一人として初対面で泣かなかった友達はいなかった。
 ……しかし、よくよく考えてみれば、怪しいところはたくさんあった。
 あの角付きターバン。インドでは普通などと言っていたが、どう考えても普通じゃない、頭から角が生えているほうが自然だと思えてしまうほど、異常なデザインのターバンだ。
 それに、いくらなんでも体が大きすぎる。正確な数値はわからないが、二五〇センチは完全に規格外。

 ……ああ、魔王なのかも。

 客観的に自分の父親を見直すと、なんだかそんな気分になってくる。疑えばおかしいところなんていくらでもあるのに、なぜ今まで気がつかなかったのだろう。

「真央が普通の子だったから、次も大丈夫かなーと思ったけど、大丈夫じゃなかったみたいね」

 蓮子はニコニコと笑いながら言っていた。
 魔王である父親の血を引いているなら、浮こうがビームを出そうが火を吐こうがおかしくはない。
 漫画などの魔王しか知らないが、魔王というからにはなんでもできそうである。
 でも、信じられないのは自分も魔王の血を引いているということだった。自分はごく普通であり、特別な力なんて無い。
 日光を受けるとおでこが光るぐらいで、ビームを出すことなんてできない。
 唯一普通と違うところと言えば、瞳の色ぐらいだろう。この赤い瞳は他の子と違っていたが、色素異常だが害は無いと言われて特に気にしなかった。「赤目」なんて言われていじめられそうになったこともあるが、しっかりもので芯の強い真央はいじめられても動じなかったため、いじめは自然となくなった。

 ……結局のところ。

 色々と疑うのは信じられないからだ。

 信じられない。
 受け止めきれない。

 この世には魔界があって、魔族がいて、魔王がいるらしいのだ。

 母親の話によると、あの赤マントと青マントはアスラの側近であり、物質修復能力と、記憶操作ができるらしい。
 魔界の者である魔族が人間界で起こしたことは、ほぼ漏れなく彼らが「無かったこと」にするので誰も魔界の存在を知らないということだ。
 それでも、どんな説明を受けようが理解できるわけがなかった。
 今までずっと普通に生きてきたし、アスラも普通の父親だと思っていた。

 それなのに。

 一瞬で世界が変わってしまった。



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