魔王じゃないもんっ!
「第1話 魔王じゃないもんっ!」

−4−

 分娩室前の椅子に並んで座る真央とアスラ。
 立会いを提案されたが、自分の外見の恐ろしさで手元を狂わされても困るので辞退した。
 アスラが蓮子と一緒に「フーフーヒー」などと、複式呼吸をしようものなら、その場に居合わせた助産婦たちのトラウマになるに違いない。

「ママ……大丈夫だよね」

「……大丈夫さ。病気で手術をするわけじゃないんだぞ?」

 不安げな真央を安心させるようにニッコリと笑った。もちろんその笑顔は、真央以外が見れば失禁するほど怖い。
 真央はアスラの気遣いでも不安をぬぐいきれずギュッとアスラの指を握った。
 扉一枚向こうで、母親は新しい命を生み出そうとしている。テレビで見たお産は、汗をびっしょりとかき、苦しんでるように見えた。
 その苦しい表情が蓮子の顔と重なると、どうしても心配になってしまう。そんな中で、どうしてアスラは不安にならないのだろうと考えると、疑問が生まれた。

「……ねぇ、パパ。真央が生まれるときも、今みたいに落ち着いてた?」

 アスラは蓮子のお産を経験するのはこれで二回目である。一回目は言うまでもなく自分が生まれた時だ。

「……ふふ、実は不安で不安でしかたなかったよ」

 照れ笑いをしながら告白するアスラの様子に、やっと心が落ち着き始める。しつこいようだが、笑顔でさえ恐ろしいアスラの照れ笑いは、不気味としか言いようのない代物だ。

「真央がこんなに元気で可愛く生まれてきたんだ。生まれてくる子もきっとそうに違いないさ」

 続けて言うアスラ。最初は真央を安心させるための言い方だったが、後半は自分に言い聞かせるように変わっていた。
 そんなアスラを不思議そうに見る真央。その視線に気がついたアスラは、真央の頭をそっと撫でた。
 真央がくすぐったそうに首をすくめたその時、分娩室の扉が開かれる。

「おめでとうございます。男の子ですよ」

 こうして出門家の第二子は誕生した。


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