聖夜のサンタ
第一部 腐ったサンタクロース
「どこもかしこもピカピカ光りやがって……」 煌びやかに飾られた街を独りで歩いていた俺は、誰にも聞こえないような声で愚痴った。 「だいたいまだ十二月の上旬だぞ?」 聞こえたら恥ずかしいが、口に出さずにはいられない。 しかし、羞恥心に抑えられている小声の愚痴で心が静まるはずもなく、余計にイライラしてくる。 ついさっきイヤなことがあったので、気晴らしに街を出歩いてみたのだか、逆効果だったみたいだ。 どこもかしこもド派手に飾られたモミの木やら、真っ赤な服を着たジジィがでかい顔をしている。 流れている曲はジングル・ベルだったけど、オレは違う歌を思い浮かべた。 あわてんぼうのサンタクロースとか言う、クリスマス前にやってきたドジなサンタクロースが、仕方がないから踊ってコトをうやむやにしようとする歌だ。 なんか今の町の雰囲気にそっくりじゃないか? 焦って騒いで馬鹿騒ぎ。 ヤダヤダ。 クリスマス。いつから日本に普及したのかは知らないが、どうしてここまで盛り上がる? いや、盛り上がろうとするという方が正しいと思う。 特別な日だから何かしようとかそういうことだろう。 なぁにが特別だ。 俺はクリスマスが嫌いだ。それなのに俺の名前は黒須 三太(くろす さんた)なんていうクリスマス丸出しの名前だったりする。しかも誕生日は12月24日。だから三太ってつけたって話を訊いたが……。 それも俺がクリスマスを嫌う理由の一つになっている。 クリスマスに生まれたからって、こんなふざけた名前にされたんだぜ? ヒュオォォォォォ。 突然吹いた北風に、俺はしかめていた顔をさらにしかめてコートの襟を立てた。 ちくしょう! 何て冷たい風なんだよ。 頭を冷やせってか? 北風さんよぉ? 冷やす相手を間違ってるだろ。俺よりも、クリスマスが近いからって、浮かれまくってるやつらの頭を冷やした方がいいだろうが。 去年までは、クリスマスの予定があった。 クリスマス・イヴには、気の合う野郎たちと愚痴大会をするのが恒例だった。 だからクリスマスが大嫌いな俺も、それなりに楽しく過ごせていた。 今年もそうなると思っていたけど今年はお流れになった。 仲間たちの1人に女ができたためだ。 そのせいで他のヤツらも焦ってしまい、そんな女と縁遠くなるようなイベントはやらないと言ってきたのだ。 今頃は必死で女をつかまえようと奔走しているんだろう。 かぁー、軟弱な野郎どもだ。 俺はそんなことしない。クリスマスなんてイベントにも流されないし、男が必死こいて自分の元に来るのを、偉そうに待っている女どもに媚びを売り、クリスマスを独りですごさないために、とりあえず彼女にするなんてこともしない。 ピピピピーピ♪ ピピピピー♪ イライラも最高潮に達しようとしているとき、たまにしか聞かない機械音がどこかでなった。 ……ガンダムのOPテーマの着メロなんてそうそういないだろう。俺は確認もせずに、ポケットの中に入っている携帯電話の着信ボタンを押した。 「もしもし?」 「おーい、黒須! ハッピーかーい?」 俺が電話に出るとともに、妙にハイテンションな声が聞こえてくる。 このアホ声はイサムか……。 「地獄の一丁目ってところだな」 「ほぉぉぉ……そいつは悲しいなぁ。俺は今、最高に幸せなんだぜぇぇぇ!?」 「それを聞いた瞬間、俺はさらに不幸になったぞ?」 「カハハハハハ。まぁまぁ、何で俺が幸せか、訊きたくないかい?」 「別に」 プツッ。 俺はそれだけ言い残すと電話を切った。 ピピピピーピ♪ ピピピピーピ♪ しかし数秒もしないうちにガンダムの着メロが鳴り響く。 「もしもし?」 「どうした〜電波が悪くて切れたのかぁ?」 案の定、イサムだった。 「いや、俺が切った」 「カハハハハハハ、ひでぇなぁ相変わらず。それよりどうして幸せか訊いてくれよぉ」 野郎が最高に幸せだといって男友達に電話してくる。となると可能性は一つだ。 「女とっつかまえたんだろ?」 「なぜわかった!? もしや超能力者か?」 「アホ。単純なお前のことなんてちょっと考えれば誰でもわかる」 「ははは、何とでも言えよ! 俺は今幸せだーい」 はぁ……。 こうなってるヤツに何を言ってもどうしようもない。 「クリスマス・イヴはヒロミとドライブに行くんだぜー?」 車好きのイサムは、心の底から嬉しそうに言っている。 20歳のクセしてローンを組んで、高い車を買うほどの車好き。そういや、助手席はいもしなかった彼女専用だとか言って乗せてもらえなかったな。 ……その夢が叶うわけか。 「はいはい。そりゃ良かったな。んじゃ」 しかし俺は機嫌が悪い。親友の夢が叶うとしても、一緒に祝ってやることはできん。 俺は電話を切ろうと、携帯電話を耳から離した。 「おわっ! ちょっと待て! 切るなよ! いい話があるんだよ」 「あん?」 切ろうとする俺の姿が見えてるかのような口振りで言うイサム。 電話を耳から離しているのに、かなりの大音量で聞こえたのだから、そうとう大声で言ったんだろう。やはり見えている? まぁ、こいつとも長いつきあいだし、わかるんだろうな。 とりあえず話を訊いてやるか……。 俺は少し話が長くなると踏んで、近くにあったベンチに腰掛けた。 「実はな、ヒロミが……って俺の彼女ヒロミっていうのな」 さっきも、ヒロミと言う名前を出したくせに改めて言う。さっきはそうとう舞い上がっていたんだろう。 「ヒロミがおまえに友達紹介してれるってよ」 ……友達を紹介? ってことは女を紹介してやるってことか? 「いらねぇよ。てめーの女くらいてめーで探す」 「んなこと言って全然探してないじゃないかよ」 イサムの声色が変わる。冗談から少しマジな話になるときのソレだ。 「おまえももうすぐ二十歳なんだぜ? 女とつき合ったことがないなんて恥ずかしいだろ? ちょっとは焦れよ。 理想の恋愛なんてそんなのにとらわれてたんじゃ、一生女なんてできないぜ?」 「うっせーよ。いいだろ別に。俺の勝手だ」 「はぁ……まったく。ヒロミの友達。結構可愛いぜ?」 「他のヤツに紹介してやればいいじゃねぇかよ」 「他のヤツは自分でちゃんと探してるよ。 何にもしてないのはおまえだけだよ」 コイツはコイツなりに心配してくれている。 「悪いけど、本当にいいよ。 せめて十代の間くらいは理想の恋愛にとらわれていたいんだよ」 「そうか……、ま、その気になったらいつでも言えよ? 独りでクリスマスは過ごしたくないだろ?」 「今のところそれでもいいと思ってるけどな。 もう切るぜ? 今外にいるから寒くてしょうがねぇ。 じゃ、そっちは幸せなクリスマス・イヴを過ごせよ」 「おう、サンキュ。じゃぁな」 ……理想の恋愛ね……。 自分ではそんな風に思ってはいなかった。今言われてみるとそうかもしれないな。 必死こいて彼女をさがすんじゃなくて、好きな人はごく自然に見つかるものだ。 こんなの古くさくてカビの生えた恋愛観かも知れない。 でもさ、恋愛ってのはなんつーかこう、もっと自然に始まるもんで、目の色変えて必死こいて掴むもんじゃない……。 「キミの理想の恋愛ってどんなの?」 そんな質問を突然投げかけられたのは、俺が考え事に夢中になってあたりが見えなくなっていた頃だった。 「あん?」 声をかけてきたのは14、5の少女だった。 ニコニコと笑っているその表情は明るく、ショートカットがよく似合っている。顔もそれなりに可愛いかった。 どこかで会った覚えはない。どう考えても赤の他人だ。……多分。 ……キミの理想の恋愛ってどんなの? だと? こいつまさか、今の電話を聞いててこんなことを訊いてきたのか? 「人の電話を盗み聞きするのは感心できないな。嬢ちゃん」 「ナニよ嬢ちゃんって、そんな言われ方されるほどガキじゃないんだけど。これでも18なんだから」 笑顔だった表情が一転して怒りの表情に変わる。 俺の一コ下だと? とてもそうは見えないが……。 童顔で背が低い18歳って訳か。 「悪い悪い」 とりあえず謝っておこう。面識のない人間と面倒なことになるのはゴメンだ。 「ま、いいや。 で? キミの理想の恋愛って?」 ……そうだ。いきなり相手が怒ったから忘れてたが、こいつは俺の電話を盗み聞きしてたんだ。 それにしても電話を盗み聞きするだけならいざ知らず、その内容について質問してくるなんて信じられない。 「悪い。急いでるから」 危ないヤツかもしれない。俺は街頭アンケートをかわすかのように、ベンチから腰を上げ、足早に歩き出す。 「いきなり逃げモード? そりゃあいきなりこんな風に話し掛けられたら逃げるかもしれないけど」 わかってるなら、止めるなよ。というかその前にやるな。 「だけど深〜い事情があるのよ……って、止まりなさいよ!」 女の子を無視して振り切ろうとしたが、コートの袖をがっしりと掴まれ阻止される。 「だから忙しいんだってばさ」 「嘘つきは犯罪者予備軍よ! どっからどー見たって暇人じゃない」 ど、どっからどー見ても暇人って……かなりキツイんだけど……。 「どーせ、意味もなく町をプ〜ラプラしてただけなんでしょ?」 図星なだけに言い返せない。 「そんなんだったら可愛い女の子とランチでもしながら、理想の恋愛について語った方が建設的よ」 うわ……。自分で可愛いとか言ってやがる。 俺、こういうタイプ苦手なんだよなぁ。 「ランチ? あ、そういやそんな時間だな」 1時か。今日は朝飯も食ってないからいい加減に腹が減ったな。 …………。 ……つーかさ、これって逆ナンってヤツ……なんだよな? 昼飯誘ってきてるんだから。 ……ちょっと変な誘い方だけど。 「さぁ、あなたに残された選択肢は二つだけ! 可愛い女の子と楽しいランチか! 一人寂しくクサイ飯を食べるか!」 おいおい……いきなり二択かよ。しかもクサイ飯って……断ったら捕まるのか俺? 「さぁ!」 ……でも確かに断ったら一人寂しく飯を食うことになるんだよなぁ……。 「ダブルチーズバーガーのBセット2つ」 ……っておい。 俺が思案している途中で、近くのファーストフード店に入り、注文をしてしまっている。 俺に聞こえるような大きな声で注文しているのはわざとだろう。 「おいおい」 「こちらでお召し上がりですか?」 「はい、そーです」 俺が急いで女の子のそばに来たときにはもう遅い。すでに二つのセットがトレイの上に乗ってしまっている。さすがファーストフード。 「おまえなぁ……」 「お会計、1155円になります」 ふぅ……もうここまで来たら腹をくくるしかないわな。 「……だって」 突然振り返って俺を見る女の子。 「は?」 「1155円だって」 ………………。 「俺に全額払えってか?」 「アイ、ドントハブマネー」 困った外人さんのポーズをとってふざけたことを抜かす女の子。 「えーっと?」 本当は『払えるかっ!』と怒鳴って帰ってやろうかと思ったが、店員さんが困っているようなのでとりあえずは払っておくことにしよう。 俺が払う意志を見せると、嬉々としてトレイを持ち、二階に上がっていく女の子。 ……なにかが絶対間違っている。間違いない。何かが間違っている。 俺は釈然としない気持ちを抱えつつ、女の子の後を追った。 「ご馳走様でーす」 ぐぅっ。 絶対キツく言ってやろうと心に決め、女の子の向かいに座った矢先だった。 満面の笑顔。 ちきしょう。先制攻撃を食らってしまった。 だが、引き下がるわけにもいかん。 「あのな……」 「いっただきまーす♪」 ………………。 わざとだ……。わざと俺の言葉をかき消してやがる。 あーあ。何でこんなことになったんだか……。 何だかどうでもよくなった俺は、ダブルチーズバーガーにかぶりついた。 ……値段にふさわしい味がした。 「う〜ん! しょっぱくて美味しい♪」 「しょっぱくて美味しい?」 ファーストフードの多くは塩が効いている。このぐらいしょっぱいのが普通だ。 「え? ……ああ、いつも薄味の食事してるからさ〜」 女の子は、どうして俺がこんな質問をするのかわからないような仕草を見せて、少し考えてから答える。 俺のほうがわからないのだが……。 「薄味のほうが健康にはいいさ」 それに俺は、どっちかというと薄味のほうが好きだ。素材の持ち味が生きるから。 「健康のために好きなものが食べられないなんてつまらないよ。やっぱり好きなもん食べたい」 「そりゃそーだ。まだ若いんだから健康なんて気にしないでいたいよな」 「本当にそうだね」 笑顔で同意する女の子。 一瞬だけ間があったような気がするのは気のせいだろうか? ……それより前に、なんで俺は見ず知らずの女の子と味つけの話をしているのだろう? どうでもよくなったつもりだったか、やっぱりこの状況はかなり異常だ。 「ところでさ、話は戻るけど君の理想の恋愛って?」 ……そうだった。発端はこれだったんだよ。 理想の恋愛。電話口で俺が言った言葉だ。 この女の子はその内容が知りたいらしい。 「……なんでそんなこと聞くんだよ」 理想の恋愛について語る、なんて恥かしいことをする気はない。質問し返すことでうやむやにしてやろう。 「男の子の理想の恋愛なんてさ、女の子がわかりっこないんだから知りたいじゃん」 即答。しかもけっこうまともな理由。 確かになと思ってしまう。 でもこっちとしては、見ず知らずの女の子にそんな話をしてやる理由がない。 「……ふぅ」 「……そのため息、話さない気満々だね」 鋭い女だな。 「理想の恋愛なんて話す気満々な男なんて気持ちわりぃよ」 「確かにそれは言えるかも。 じゃ、渋々話してよ」 どういう理論だよ。 「わかった。正直に言おう。 話す気はサラサラ無い。だからあきらめてくれ」 「無理」 あ、空いた口がふさがらなくなりそうだ。『嫌』とかならまだかわいいが、『無理』ってなんだよ。『無理』って。 「ふざけんなよ。だいたい昼飯おごらされたのも納得いってないんだからな」 正直結構頭にきてるところがあった俺は語気を荒くして言う。 「ごめん」 予想外の行動。 また無茶な言葉でごまかしてくると思ったが、今度はしょんぼりしてしまった。 「あ、いや……」 こういう態度をとられてしまうと、きつく言い難くなってしまう。 「おごらせちゃったのはホントごめん。 結構困ってたんだ。 お金なくて、でもお腹空いてて……知り合いもいなくて……」 「あー、いや、まぁそういうことなら別に……。あんまり高いもんをおごらされたわけじゃないしな」 ……別に目くじら立てるようなことでもないんだ。最初からこういう風に言ってくれればこっちだって……。 でも、あんな風に強引にされなかったら、確実に無視してたんだろうな。 「ありがと」 「……あ、ああ」 ありがとうなんて面と向かって言われると、ちょっと照れてしまう。 ……いや、ちょっと待て。 なんだか雰囲気に流されてしまいそうだが、冷静に考えてみろ。 あの強引さ。有無を言わせない行動力。とても素人とは思えない。 となると……常習犯だという可能性が出てくる。そうなれば『別に』で済ませてやるわけにはいかない。 「……いつもこんなことやってるわけじゃないだろうな」 疑いの目で言ってみる。かなりストレートに言ったのには理由がある。実はこれ、俺なりのトラップ。常習犯ならきっとうまくかわす。技が巧みであれば巧みであるほど疑わしいのだ。 「今回がはじめてだよ。うまくいくとは思わなかった」 うまくいくとは思わなかった……って。……判断が難しいんですけど。 「だいたい奢ってもらうのは二の次。キミの『理想の恋愛』が知りたかったんだよ。 無理やり一緒にごはんを食べるようにしたのだって、逃げられないようにしたいからだし」 ……逃げられないようにしようと昼食を奢らせた……。確かにこういう状況を作ってしまえば、昼食が終わるまではこの子と一緒にいなきゃいけないわな。 でも逃げられないようにするって、かなりしたたかなような気がするんだけど。しかもそれで昼食を奢らせられたんだから、たまったもんじゃない。 あー、なんかこいつよくわからん。少なくても本気なのか演技なのか、俺には見破れん。 「……悪いんだけどさぁ。やっぱり話す気になれないんだけど」 「じゃあ夕食も奢ってもらわないと」 「なんでそうなるんだよっ」 「訊くまでまとわりつくつもりだからだよ」 ………………。 さてどうしよう。逃げるか? 「あ、ちなみに逃げたら大声で泣き出すから」 ……………………。 読まれている。どうしよう。 「素直に理想の恋愛を語っちゃうのがいいと思うよ」 なんだか騙されつづけているような気がするし、俺に何のメリットも無いけど、そうするのが得策のような気がしてきた。 適当なこと言って終わりにするか。 「俺の理想の恋愛はロミオとジュリエットなん……」 「はい、ウソ」 俺のウソが完結しないうちに女の子が止めてしまう。 ………………。 いやっ! ここで引き下がってはいけない。 「なぜウソだと言いきれる!? 俺は本当にロミオとジュリエットのような悲しい恋愛がしたいんだ」 じぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。 俺が熱っぽく語ってやると、女の子はジト目でにらんだ。 ……バ、バレバレっすか? 「………………」 「………………」 ちょっとした沈黙が訪れる。 ……ふぅ……、もう観念するか? 「はぁ……」 「そんなぁ、ため息つかないでよ」 おまえがため息の原因なんだけどな。 「わかったよ。話すよ」 「やった♪」 ニコニコ顔で大げさに喜ぶ女の子。 「でもさぁ、なんつーかうまく表現できないんだよな」 これは本当の話だった。なんとなくはある。だけど言葉にするほどはっきりしていないんだよな。 「……わかった。じゃあ私の質問に直感でYESかNOで答えていって!」 俺が渋っていると勢いよく喋り出す女の子。 YESかNOって……。なんだか雑誌の『なんとかチェック』みたいだな。 「Q1.運命的な出会いを望む方だ」 おいおい、答えるなんて一言も言ってないのにもう始まってるよ。 ……でもまぁいい。そっちの方が話しやすいしな。 「……YES」 多分望むほうなんだろうな。 さっきイサムの申し出を断ったのもそのせい……なんだろうし。 「なるほどなるほど」 どこから取り出したのか、手元の手帳に俺の答えをメモっている。な、なんだか本格的だな〜。 「Q2.浮気はしない」 「YES」 これも微妙な話だ。なんせ俺は女とつきあったことがないんだから。浮気をできる状況まで来たことが無い。 ……でも、俺はしないと思う。 「なんか表情硬くなってない?」 「うわっ!」 ボーっとしてしまったらしい。気がつくと女の子の顔が目の前にあった。ボーっとしていたから顔を覗きこまれたんだろう。 「いや、そんなことないだろ」 俺は大げさに表情を柔らかくして笑ってやる。 「……ま、いいや。Q3.好きな人とは毎日会いたい」 「……YES」 ……さっきからなんて恥かしい質問が続くんだろう……。 素直に答えようと思ったんだが、これにYESと答えるのは恥かしいものがあったぞ。 ……顔が赤くなってしまっているのが自分でもわかる。 まぁさっきとは違い、女の子はメモをとるのに夢中で、俺の表情なんて観察していないが。 「Q4.ムードに弱い」 「NO」 「Q5.コンプレックスを持っている」 「YES」 「Q6.一目ボレしやすい」 「NO」 「Q7.結婚は人生の墓場だと思っている」 「………………」 今までパッパと答えることができていたんだけど、この質問には即答できなかった。 「どうしました? ライフラインは使い果たしてますよ」 いきなり主婦に大人気のおっさんのモノマネを始める女の子。 全然似てない。 その前に、いつから一千万円もらえるかもしれないクイズになってるんだ? いや、それ以前にライフライン、一回も使ってないんだけど。 いやいや、それより前に最初から二択じゃフィフティーフィフティーは……ツッコミどころが多すぎるからキリがないな。 そしてネタが古いだろ。 「……NO」 女の子が『ファイナルアンサー?』と、今にも言いそうだったので、慌てて答えた。 ……NOでいいのか? 「Q8.今現在恋人がいる」 「NO」 今度は即答してやった。恋人がいないことを恥に思うやつがいるけど俺は違う。 恋人がいないのが恥かしいから、恋人を探すような行為の方がよっぽど恥かしい。 堂々と答えてやればいいんだ。恋人がいないからって人間の価値が下がるわけでもなし。 「Q9.今現在恋愛をしている」 「NO」 ……正直なところ初恋以外の恋愛を知らない。それも、何も告げられずに終わってしまった。 「Q10.早く恋人が欲しい」 「NO」 「Q11.初恋は遅いほうだ」 「YES」 「Q12.それは何歳のころ?」 「14歳……。 ってYESかNOじゃ答えられないぞ?」 「おおっ、鋭いね」 俺が指摘すると、女の子はなんだかうれしそうにケタケタと笑っている。 「最後は私が気になったんだよ。つまり私の質問」 「それ以外は自分の質問じゃないのか?」 「これまた鋭いねっ、お客さん」 自分の頭を小突いて言う女の子。扇子でも持ってたら落語家だ。 「この質問はとある雑誌に載っていた『あなたの恋愛観チェック』なのです」 やっぱり雑誌かよ。 ……あ、と言うことは。 「何おまえ、そんなの暗記してんの?」 「うん。雑誌は全部の内容を暗記するぐらい読むからね」 「うわっ、他にやることあるだろ〜」 雑誌なんて興味のある記事以外ほとんど斜め読みだ。 「私には無いんだなコレが」 「そりゃ可哀想に」 「やっぱり?」 ちょっと皮肉っぽく言ったのに、女の子はムッとするでもなく笑顔で肯定する。 なんだかその笑顔は自虐的に見えた。そのせいで胸のあたりが痛くなる。 「……まぁ、人それぞれだよな。 で、その『恋愛観チェック』の結果は?」 話をそらすため、興味なんてまったくないのに結果を早く答えるよう促す。 「え〜と。『古臭い恋愛観を持ったあなた。頭が堅く、相手に自分の恋愛観を押し付けるきらいがあります。純愛という姿勢は悪くないとは思いますが、それで相手を縛り付けることがあるので気をつけましょう』!」 まるで台本を読んでいるかのように、チェックの結果を口にする女の子。 ………………。 「腹が立つ結果だな」 素直な感想を述べる俺。 「この雑誌って全部こんな書き方なんだよね」 「そんな雑誌を好んで読んでいるのか」 「うん。おもしろいから。 ……相手の反応が」 ……こいつ、性格悪いな。 「ちなみにおまえの答えは?」 自分だけ鑑定されるのは少しずるい気がする。 「ふふ、知りたい?」 「ただで教えてくれるなら」 「え〜?」 「何か要求するつもりなのかっ!?」 「あははは、ウソウソ。 なんかおもしろいからさ、キミの反応」 嬉しそうにニコニコしながら言う。……やっぱり性格悪い。 「私もキミと同じだって」 いきなり話を戻したので、最初は何を言っているのかわからなかった。 「へぇ。じゃあおまえも古臭い恋愛観を持ってて、頭がカチカチなのか」 ゴンッ。 急に目の前に星が飛び散る。 なっ!? なぁっ!? 頭が痛い。拳よりもかなり大きめなものに殴られたような……。 ……頭突き? 頭突きをされたのか俺は!? 「おま……何考えてるんだよ」 「ふふ。私の方が堅いようね」 「……なるほど。両方とも頭が堅いって結果だったから、どっちが堅いか試したわけか」 「そうそう、理解早いね。キミ」 「アホかぁあっ! 堅さの意味が違うわぁ!」 「アハハハハハハハハハハ」 俺が怒鳴ると大声で笑い出す女の子。 「な、何だよ」 「うん。ちょっと頭の打ち所が悪くて」 「それは人に言ってもらう台詞だろうが」 「もちろん冗談だよっ、冗談っ!」 女の子はまだ笑い続けている。 「何がそんなにおかしいんだよ」 ちょっとムッとした表情でボソッと呟く俺。 「ん? おかしいし楽しいしおもしろいよ」 「質問の答えになってないぞ?」 「こういう会話がさ」 ……こういう会話? 特別におもしろい話をしていたわけじゃないと思うけどな。 「ふーん」 よくわかんねぇ。 「それよりさ。同じ結果なんてすごい偶然だよねぇ」 「結果って何種類あるんだ?」 「六つ」 「それだったら六人に一人は一緒なんじゃないのか?」 「現実的だね〜キミ。 でも考えてみてよ。突然声をかけられ、昼食をおごってやった女の子と、ある雑誌のあるチェックで同じ結果が出た。 うわっ! すっごい偶然♪」 ……そう考えれば確かにそうかもしれないけど……。 そこまで大げさに考えればの話だろぉ? 「……確かにそうかもしれないな」 無理に否定することも無いので適当に相槌を打つ。 「どう? 私たちの出会いも運命的な出会いかな?」 運命的な出会いかって……。 ……え? それって……。 こ、これは何か? まさか……。 「どう思う?」 もしかしたらこいつ、俺に気を持っているのかもしれない。そうだとしたら……。 顔はそれなりに可愛い。性格は……悪いけど、俺はこういう性格の悪さは嫌いじゃない。話していると……結構楽しい。 適当に話を合わせれば、モノにできるかもしれない。 「いや。そうでもないだろ」 ……だけど俺が口にするのは彼女を引き離す言葉。冷たく……突っぱねるように……。 「そうかなぁ?」 ……どうしてこうなんだろう? 女の子が、ある一線を越えたところまで近づいて来たことを感じると、俺は例外なく拒絶反応を起こす。 「ああ。そうだよ」 「……ねぇ? なんか気に障ること言ったかな?」 「え?」 このときの俺は随分と間抜けな顔をしていただろう。 見抜かれた? 「いや、言ってない」 「……だったら……いいけどさ……」 「……………………」 初めての気まずいムード。とんでもない誘われ方をして、メチャクチャな会話をしていたのにも関わらず、気まずくならなかったのは、女の子がいつも明るい笑顔だったからだ。 「キミさぁ。もしかして恋愛嫌い?」 沈黙を破ったのは女の子の言葉。それも彼女が口にしたのは、俺の心にえぐり込むようなそんな強い言葉。心の奥に不快感を呼びこむそんな言葉だった。 恋愛が嫌い? ……俺が? 「そんなことない」 否定の言葉を口にしてみても、心の中の不快感は消えない。 ……いや、不快というよりは……不安? 「……どうしてそんなこと聞くんだ?」 「なんとなく、そう感じたからだよ。 ほら、彼女が欲しいって質問にNOって答えたし。彼女なんかいらないって感じなのかな〜とか思って」 「特に……欲しくないって意味だよ。別にいらないなんて言ってない」 言って女の子の反応を見る。 真っ直ぐに俺の方を見ていた。俺の気持ちを見抜くようなそんな目で。 「なんかこう『スゲ〜欲しいっ!』とか、『今年中に彼女をゲットするぞ〜』とか、そんな情熱が無いだけだ」 俺は慌ててお茶らける。このまま話を続けたら、心の奥底にある……俺もはっきり認識できていないものを、この女の子に吐き出してしまうような気がしたから。 「そっか……」 憂いを帯びた笑顔で残念そうに呟く。 「……おまえはどうなんだよ?」 ……なんだか急に知りたくなってしまった。 突然俺の理想の恋愛がどんなものか聞いてきて、なんだかわからないうちに一緒に昼飯を食べて……。会話をしているうちに、この女の子のことが知りたくなった。 「欲しいよ」 笑顔で言う。 「『スゲ〜欲しい。今年中に彼氏ゲットするぞ〜』って感じかな?」 俺の言葉を受けてふざけて言っているようだけど、今この女の子の顔に張り付いている笑顔は、今までの笑顔とは違っていた。 なんとなくだけど、そう感じた。 「どうしてそんなにまでして欲しいんだ?」 聞かずにはいられなかった。 デリカシーのない質問なのかもしれないけど、どうしても聞きたくなった。 「わからないの?」 予想外の返答。 「え? わからないから聞いてるんだけど」 少しとぼけた言い方だったかもしれない。だけど女の子はそれを気にするでもなく、ウィンクをして言った。 「もうすぐクリスマスだからだよ」 クリスマス。 俺の嫌いな日。 恋人同士で過ごしたいがために、クリスマスまでに必死こいて相手をさがす。 ……滑稽だと思っていた行為。 この女の子もそうなんだ。 この子が他のみんなと同じことを口にしたこと、他のみんなと同じ行為をしていることが、なんだかものすごく残念だった。 「クリスマスか……」 吐き捨てるように言う俺。 「どうしたの?」 聞き返す女の子。 「いや、いいんじゃないの? がんばって彼氏ゲットしてくれよ。そんで一緒にクリスマスを過ごせばいい」 さっきよりもあからさまな、突き放すような言い方。 「……キミはそういうのに興味ないの?」 言われてハッとする。 ……悟られたかもしれない。クリスマスに嫌悪感を持っていることを。そして女の子に対して嫌悪感を持ってしまったことを。 「……まぁな」 どう答えればいいのかわからなかった。弁解しようかとも思ったけど、俺の中の何かが止めた。 俺の信条が、足かせとなってそれができなかった。 「……私はさ」 少し黙っていたが、ポツリと呟くように話し始める。 「今年のクリスマスは、どうしても誰かと過ごしたいんだ。 それが一番好きな人だったらすっごい素敵じゃない?」 興味がないと言っているのにも関わらず、自分の考えをしゃべり続けている女の子。 不快に思った。 女の子がじゃなくて自分が。 「理想は……そうだな」 理想はそうなんだよ。でも……。 「だったらさ。そうなるように頑張ってみようとか思わない?」 …………。 「理想の恋愛があるんだからさ、それを叶えてみたいと思わない?」 ……そんなのは……。 「……それにさ、今、理想はそうだなって言ったでしょ? だったら一番好きな人とクリスマスを過ごしたりするのが理想なんでしょ? それなのにどうして興味がないの?」 「そんなのはわかってんだよ!」 !? ……俺は怒鳴っていた。 ……なんだか……無性に腹が立って……。 周りの客も女の子も、そして俺も、その声に驚いて黙ってしまっている。 「……わ、わりぃ……」 目を丸くしている女の子から目をそらして謝る。 なんでこんなことで感情的になっちゃったんだろう? ……こんな見ず知らずの女の子に……。 俺は恐る恐る視線を女の子に戻す。 怒っているか……ヘコんでいるか……。 「じゃあさ」 俺の予想は外れた。 「頑張るべきだね! キミは!」 女の子は会ったときの明るさを少しも失っていなかった。 俺の目を真っ直ぐと見ていた。怒鳴った俺を真っ向から見据えていた。 「…………」 気圧されたのかもしれない。俺は黙ったまま頷いていた。 子供が大人に叱られて、否応なしに納得させられる……、そんな場面を思い出した。納得しきれない部分はあるけれど、納得せざるを得ない。 それは相手が、自分の『否定する気持ち』よりも強い、『肯定の気持ち』を言葉にのせているからだ。 この女の子の言葉はまさにそんな感じだった。 「……お店、そろそろ出ようか?」 俺の反応に満足したように微笑むと、トレイにのったハンバーガーの紙くずなどをまとめ始めた。 時計を見るとこの店に三時間もいる。随分話こんでいたようだ。 「そうだな」 女の子がトレイを運ぼうとしたので、俺はそれを奪い取ってゴミを片付けた。奪い取った時は驚いた表情だったが、ゴミを捨てて、トレイを所定の場所に置いてから振り返ると、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。 ……ちょっと気恥ずかしくなった。 ……くさいメシじゃないが、独り寂しくメシを食うよりも建設的……。 まさにそんな感じだったかもしれない。彼女の笑顔を見たとき、俺はそんなことを考えた。 「今日はありがとう」 店を出た女の子は『う〜ん』と唸りながら伸びをした。ずっと座り続けていたから体が縮こまったんだろう。 「ああ」 「貴重なお話を聞けました」 「そりゃ良かったな」 「美味しいお昼ご飯も食べれたし、有意義な時間を過ごせました」 ペコリとお辞儀をする女の子。ファーストフードが美味しいお昼ご飯なのか……、安上がりだな。 「キミに声をかけて正解だったよ」 そう言って浮かべる笑顔は……今までの笑顔の中でも一番可愛く見えた。 ……………………。 いい歳して恥ずかしいが……。 ……胸がドキドキした。 「そういえばキミ、名前なんて言うの?」 名前……。 「そういえば三時間以上もくっちゃべってるのに、自己紹介してなかったな」 ちょっと変な話だ。 「そうだね。ま、別に名前を知らなくても話をするのに不便じゃなかったしね。 で?」 「黒須だ」 「くろす? 珍しい名字だね。名前は?」 ……自己紹介をしなかったのは、俺が意図的に避けていたからかもしれない。 俺は自分の名前が嫌いだから、名乗るときは名字だけにしている。 ……でもたまにいるんだよな。下の名前を聞きたがるヤツが。 「人に名前を尋ねる時は、自分から名乗ると言うのを知っているか?」 俺は自分の名前を言いたくなかったので、そんなことを言ってお茶を濁す。 ……まぁ今までの流れから言って、遅かれ早かれ言うことになってしまうんだろうが。 「あ、そうだね。失敬失敬」 女の子は棘のある俺の言葉を笑顔で受け流している。 「私の名前ってすごいんだよ。聞いて驚いて!」 「すごい名前?」 なんだそれは? 聞いて驚く名前? ……あ、俺の名前がそうか。ということはこの子も変な名前なのか? 「うん。 私、雪野聖夜っていうんだよ! すごいでしょ!」 ユキノセイヤ……。 雪の……聖夜? 「字も聖なる夜って書くんだよ」 頭が少し痺れるようなそんな衝撃を受けていた。 「セイヤっていうと男の子の名前みたいだけど、誕生日がクリスマス・イヴだから名付けちゃったんだって」 クリスマス・イヴが誕生日? 「そ、そんなノリで名前付けられて、災難だって思わないのか? ……嫌だって思わないのか?」 俺は少し興奮気味で聞いていたのかもしれない。ユキノセイヤという名前の女の子に、詰め寄るようにして訊いていた。 ユキノセイヤは少し驚いていたが、やがてニッコリと笑って言う。 「とっても気に入ってるよ」 その言葉には、偽りの影が少しもなかった。 「ふふ……ははっ、あはははははははは!」 その言葉を聞いた俺は、なぜだか大声で笑いだしていた。 なんだか、とてもおかしかった。 「え? え?」 女の子は困惑している。そりゃそうだろうな。 「俺の名前もかなりすごいんだぜ?」 こんな風に自分の名前を名乗るのは初めてだった。 いつも恥ずかくて、もじもじとしながら小声で言っていた。 「三太。……黒須三太」 「クロス……サンタ……。サンタクロース!?」 見慣れている反応だった。自己紹介をすると、みんなこういう反応をする。それがとても嫌だった。 「しかもな。俺も12月24日に生まれたからそう名付けられたんだぜ」 「ええぇ!?」 まったく、なんて偶然だよ。 俺と同じような身の上のヤツがいるなんてな。あり得ないよな? 妙におかしかった。 「ははっ! あっははははは! サンタクロースと雪の聖夜か」 馬鹿みたいなこの偶然に、俺はひたすら笑っていた。 「ほんとすごいね! 私たち、最強のクリスマスコンビだ!」 女の子もクスクスと笑っている。 ……でも、俺が笑っていたのは、きっとこのユキノセイヤという女の子と同じ理由じゃない。 クリスマス・イヴに生まれて……、クリスマス丸出しの名前つけられて……。 俺はそれを嫌っているのに、この子はとっても気に入ってると言ったからだ。 自分の名前を嫌っている自分がどうしようもなく滑稽に感じた。 この子みたいに受け止めることだってできるのに。それができない自分がどうしようもなく滑稽に感じた。 恥ずかしくなって、悔しくなって。笑っていたんだ。 「やっぱりすごい偶然だ」 「……そうだな。運命的な出会いかもしれない」 この女の子の前では、俺のひねくれた考えなんて通用しないのかもしれない。 「でしょ?」 笑顔を浮かべるユキノセイヤ。 「……な、なぁ……雪……野」 ……この女の子なら……。 「聖夜でいいよ。こっち三太もって呼ぶからさ」 「あ、ああ……」 三太と呼ばれるのは嫌いなんだけど……、でも……この女の子……聖夜なら……。 「あ、話の途中みたいだけど、私そろそろ帰らなきゃ」 「え?」 高揚していく気持ち。だがそこにかけられたのは、そんな気持ちに急ブレーキをかける言葉。 「と、言うわけでバイバイ。三太」 そして笑顔で手を振り、パタパタと走っていく。 「あ、あれ? 運命的な出会い……」 どんどん遠ざかっていく聖夜。 「理想の恋愛……」 人混みに紛れて消えてしまう聖夜。 ……………………。 な、何だよ。 あまりにもあっけなく去っていく聖夜に、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。 |
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