女神の騎士

 疲労と油断がなければ襲撃の察知など容易い。
 アレスは戦士としては一流以上の実力者。生き物の気配を気取ることなど容易いことだ。
 だから昨日の襲撃も、一昨日の襲撃も、その前の襲撃も、初日のような不覚をとることはなかった。
「……懲りないな」
 商売道具で解錠し、忍び寄る影に声をかける。
「アハハ、今日もバレてもうたか」
 点けられた灯りを受けると舌を出すラヴェルナ。
 就寝後、時間はまちまちだが一時間後以降に必ず夜這いに来るラヴェルナに、アレスはため息しか出なかった。
「俺の睡眠時間を削って弱らせる気か?」
 呆れからだろうか。ほとんど自分から話しかけないアレスがラヴェルナに話しかける。
 ラヴェルナはその事実に驚きながら、こみ上げる喜びを顔に出さないように努めた。
「そんなんちゃうねん。
 ただウチはアンタともっと仲良うなりたいだけやねん」
 ベッドで半身を起こしているアレスに素早く近寄ろうとするが、いとも簡単に避けられる。
「……期待するなと言っただろう」
「それは無理や。ウチ、あんたが欲しいねん」
 言葉の意味に似つかわしくない何の屈託もない笑顔。お菓子をねだる子供のようなわがままさ。そしてその瞳はどこまでも真っ直ぐで。
「何度でも来るで。ウチは絶対諦めへん」
 閉口するアレスに、ラヴェルナはさらに続けた。
 ……なぜそうまでして?
 疑問が浮かんだが、その答えを知っている気がして口に出すことができなかった。
「部屋に戻れ……二度とこんなことはするな」
 強い口調で言ったつもりだが、その語尾は弱々しかった。そんな自分に戸惑いを憶える。
(この女に惹かれている?)
 自問自答の答えは即座に「否」と返ってくる。
(……自分と同じものを見いだしている……のか)
 決して自分の意志が揺らいでいる訳ではない。自分の意志は変わっていない。だが、自分と同じものを見いだし始めた存在をないがしろにすることに心が痛むのだ。
「わかった。部屋に戻って一人寂しく寝るわ。『今日のところは』やで」
 そう言い残し去っていくラヴェルナの姿を思わず目で追っていた自分に気が付き、胸のあたりに苦しみを感じた。

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