女神の騎士
12
(どこや、どこにいる?) 闇雲に走って見つかるはずはない。しかし、止まるわけにはいかない。 自分の直感をフル動員させて思いつく場所へと走り続ける。 (……町の中にはきっとおらへん、外や) 全速力で町を出て、人気のないところへと進む。 月明かりも弱々しい今夜は、町の外に出るなど自殺行為に近かった。おぼつかない足下。把握しきれない現在位置。 そんな中でどこに向かおうというのか、このまま進んでどうにかなるものなのか。 理屈で考えればどうにもならないという答えが出る。 だが、ラヴェルナの行動原理は理屈ではない。 どれぐらい走っただろうか。そこでラヴェルナは一筋の光明を見た。 普段であれば目にしたくない存在。しかし今のラヴェルナにとっては道しるべになりうる可能性がある。 何かに向かい、一直線に走る異形の者。 牛ぐらいの大きさまで巨大化した虫。戦闘能力がそれほど高くないCクラスの異形の者だ。ラヴェルナは必死でその後を追う。 アレスは異形の者にこだわっていた。異形の者を倒すことに全力を尽くしていた。だから異形の者を追うことはアレスへと繋がる。 Cクラスとは言え、その脚力は通常の人間を凌駕している。足に自信があるラヴェルナでも、全速力で追わなければ引き離されてしまうのは間違いない。 足下の見えない闇の中での全力疾走は、ラヴェルナの足にちぎれそうなほどの痛みを伴わせた。 場所を選ばず走る異形の者は、追うラヴェルナのことなど考えるはずもない。 背の低い木の細い枝がラヴェルナの肌を切り裂く。凹凸の多い地面がラヴェルナの足首に負担を与え続ける。だが、ラヴェルナは足を止めることなく走り続けた。 やがて異形の者は羽根を広げて飛び立つ。 高度はそこそこに、目標に向かって突撃を始める。 僅かな月明かりを受け、煌めく刃。 体を切断される異形の者。 ゴトリと言う落下音。 ラヴェルナはその時点で限界に来ており、もつれるように倒れ込む。 足の痛み、倒れたときに擦った箇所の痛み。すべてが自分の行動にブレーキをかけようとするが、ラヴェルナはそれに抗い、這いつくばるように前へと進んだ。 目の前に立つ男。 鍛え上げられた体。その手には巨大な剣を携え、異形の者を葬り去る。 ラヴェルナは求めていた男の姿に、いつもと違うところを二つ認めた。 一つはまくり上げられた左腕に広がる火傷のような傷痕。おそらく自分の背中にあるものと同じ。マーキングと呼ばれるもの。 そしてもう一つは……。 「何をしている。この馬鹿がっ!」 怒号に近い声あげる。 慌てて駆け寄ってくる。 助け起こされる。 ラヴェルナの知る男の姿と違うもう一つの箇所。 男の目は確かに自分に向いていた。 |