女神の騎士

10

 ものごころついた時には両親がいなかった。
 ラヴェルナは多くの子供達が集団で生活する施設で育った。
 ただ両親がいないだけで、特に不自由はない。大陸にはもっと不幸な身の上の子供も多数いることを考えれば、自分は幸せなはずだった。
 だけど、心はいつも何かを求めていた。
 求めていたものが何か気がついたのは、同じ施設の同い年の男と恋人関係になったのがきっかけだった。
 心を通わせ、体を重ね、自分が求めていたものを実感した。

 自分に向けられる愛情。

 両親がいない自分は、どこかいつも物足りなさを感じていた。施設の人たちはいい大人達で、子供達を平等に愛してくれた。
 しかし、ラヴェルナはどうしようもなく乾いていた。
 自分だけに注がれる愛情を求めていたのだ。
 それを手にした時、他のすべてが見えなくなった。
 まだ幼かった相手の男は、華やかな都会を夢見ていた。だが、視野の狭くなった幼い二人を受け止めてくれるほど世界は甘くない。そんな判断ができないまま、二人は駆け落ちという形で施設を出た。
 路銀もなく、知識もない。
 しかしラヴェルナは、自分に愛情を注いでくれる男だけがいればそれでよかった。それだけでどんなものでも乗り越えられると思っていた。
 辛うじて男が夢見た都会にたどり着いた二人、安い家を借り、やがてくる成功を信じて過ごす日々。
 しかしそこに辿り着くまでの道は険しく、そして男にはその道を歩き続けることはできなかった。
 堕落していく男。感じられなくなる愛情。
 そして訪れる破局の時。
 男には仕事の才能は無かったが、外見だけは標準以上のものがあった。それを活用し、女性をたらしこんで働かせることで、賃金を得るようになったのだ。
 その事実を知ったとき、ラヴェルナは男の元を去った。
 自分だけに注がれる愛情はここにはない。
 自分の求めるものはここには無くなった。
 あてもなく、目的もなく男の元を去る。施設に戻ろうとも思ったが、思い出される乾きがラヴェルナをそうさせなかった。

 自分だけに注がれる愛情。
 自分だけに注がれ続ける普遍的な愛情。
 
 それを求めて、それを与えてくれる存在を求めて一人旅をするようになる。
 他の生き方は考えられなかった。
 乾いた状態で生き続けるぐらいなら死んだ方がマシだった。

 旅を続けて、様々な出会いがあった。
 様々な愛情を受けた。
 しかし、一度裏切られた記憶を払拭するほどの強い愛情を感じることはなく、短い時間で疑心暗鬼に陥る心は相手の粗を見つけてしまう。
 身勝手だということはわかっている。
 人のモノを盗んでまで、相手の心を盗んでまで、自分の求め続けるものを満たそうとする自分が。
 だけど、他の生き方は考えられないから。もし、この生き方が許されないのならば、この世から消してくれても構わない。
 そのぐらいの覚悟はしている。そのぐらいの覚悟はできている。
 自分はその想いのみで生きているのだから。



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