DD

 どうせ味わうなら最高の味を知りたい。
 俺は化け物だが、知性はある。ただ単純に快楽を食らうような真似はしない。それにいくらDの能力が優れているといっても、警察に表立って追われるのは得策じゃないしな。
 会社には休むと電話してある。上司のいやみったらしい小言を聞く羽目になったが、そんなことはどうでもいい。
 近いうちに会社は辞めてやろう。
 ……そうだ、あの上司を壊してやろうか? いつも俺の上に立っている気分で喋ってる人間が、絶対的な力に壊されて行く。
 俺に恐怖し、俺に命乞いをする。しかし、俺はそんな奴に対して執拗に攻撃を加えてやるのだ。
 叩くたびに悲鳴をあげ、骨が砕け、肉がはがれ。そして最後に頭を握り潰す。
 ふふふ……悪くない。
 想像するだけで脳髄に痺れるような快感が走った。
 いや、今度は女にしようか。そうだ。女だったら壊すだけではもったいない。メチャクチャに犯してから壊そう。
 せっかく人間を壊すのだ。Tでは味わえない、精神を壊すことも楽しまなければ。
 ……となると……顔見知りの方がいいか? その方がきっとショックがでかいよな。

 ピンポーン。

 呼び鈴が鳴る。
 俺はその音で妄想から現実に引き戻された。
 ……ったく……誰だよ。
「はーい」
 居留守を使おうかとも思ったが、電気はしっかりと点いている。
 出なければ怪しまれるだろう。
 日常生活で変なイメージをもたれるのはまずい。

 ガチャリ。

「あれ、恵子ちゃん。どうしたの?」
 訪問者は大家の娘、恵子だった。いつもの明るい表情とは違い、不安気な顔をしている。
「あ、あのお休みですか?」
「え?」
「えと、もう会社に行く時間はとっくに過ぎてるのに……出てこないから」
 厚手のトレーナーとジーパンという俺の格好を見ると少し顔を赤くしてボソボソと言った。
 ああ、なるほど。
 そういえば恵子はいつも俺に朝の挨拶をしていたっけ。そうか、いつも俺を待っていたわけか。
 だから俺がいつまでも来ないから心配になったのか。
「ああ、ごめんね。心配かけて。ちょっと体調が悪くてね」
「え!? 大丈夫なんですか?」
 恵子の顔色が目に見えて変わる。
 いじらしい子だ。
「大丈夫だよ。熱もそんなにないし。ちゃんと食って寝れば治っちゃうよ」
「そうですか。だったら私……夕飯を作って……あ……そうだ、今日は帰りが遅いんだった……」
 目を輝かせて喋りだしたかたと思うと、途中でガックリと首を折る。
 表情がころころと変わっておもしろいな。
「いいよそんな。その気持ちだけでも嬉しいからさ。……ところで今日はなんで遅いの?」
「えと、部活なんですけど、今日は私が掃除当番なんです。しかも顧問の先生と二人でやんなきゃいけないんですよ」
「へぇ……大変だねぇ。」
「……多分8時過ぎになっちゃうんじゃないかなぁ……」
「うわっ……そりゃ遅いな」
「もう憂鬱で憂鬱で……」
 ジェスチャー付きで憂鬱さをあらわす恵子。
「あのさ、憂鬱はいいんだけど。時間大丈夫?」
「え?」
 随分と長話をしてしまっているような気がする。
 時計の針は八時十五分。ここから恵子の学校まで歩いて十五分くらいだから……。
「ああぁっ!
 うわーん。急がなきゃ間に合わないよ〜。すいません。恭介さん、これで」
「はは、遅刻しないようね」
「はい! 恭介さん、しっかり休んで早く元気になってくださいね」
 驚き、泣き、そして最後に笑い。
 感情豊かで素直でかわいい子だ。今時珍しい。

 ドクン。

 突然、ゾクリと痺れるようなイメージが頭をよぎり、心臓が高鳴った。
 キレイで純粋なものを汚し、壊すイメージ。
 ……淡い恋心を打ち砕いたら彼女はどんな顔をするだろう。
 信じている男に無理やり犯されたらどんな顔をするだろう。
 まだ未成熟の体に、心に、俺の欲望すべてをぶち込んだら……。
「くくく……」
 思わず身震いしてしまう。
  
 最初の獲物は決まった。





Back Return Next