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赤を目指して風になる〜北海道旅行記 5日目〜

 今日で知床ともお別れ。
 そして三泊したこのホテルともお別れです。
 もし快晴ならもう一度知床岬へ行こうと思いましたが、残念ながら雲が多かったので、今日は網走を楽しむことに決めました。

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 早く休んだおかげか早くに目覚めたので早朝風呂へ。

 温泉につかりながら思い浮かべるのは知床の自然。湖、崖、滝、動物。都会では見られないそれらに思いを馳せながら、ゆっくりと湯を楽しむ。

 なんと贅沢な時間か。

「兄ちゃんはどこから来たんだい?」

 そんなことを考えていると50代ぐらいのおじさんが声をかけてきました。
 最初は面食らったものの、どこそこを回ってどんな感想を持ったと言う話になるとすっかり打ち解け、しばらく話込んでしまいました。

 そして「今日知床を離れて網走から旭川に向かう」という話をすると、それなら網走まで車に乗せてってやるとのこと。
 遠慮しようと思いましたが、妙に押しが強かったのでお願いすることに。
 バス代も浮きますしね。
 しかし、すぐにその選択を後悔することになるのです。
 連れがいるとは思っていましたが、それは奥さんだと思っていました。美奈神はなぜか50歳以上の人に嫌われた試しがないので、仲良く出来そうだと思ったのですが、いたのは娘さんでした。
 多分私と同じぐらいでしょうか。
 いや、普通なら嬉しいのですが……。
 この二人、かなりギクシャクしてるんです。
 おじさんの話によれば、父娘水入らずの旅をしてみようとしたものの、会話が続かなくて居心地悪い状態だったそうで。
 アレです。私は潤滑油扱いらしいです。
 というか、社交性があるわけじゃない美奈神に、ギクシャク父娘の仲を取り持てるとは思えません。
 なんとなく白々しい会話をするのが精一杯で、1時間ちょいで網走に到着。
 網走に到着した時は丁度昼飯どきだったので、食事を一緒にとることに。
 いや、もう勘弁してくださいって感じでしたが、バス代ぐらいは働かないととかいうよくわからない使命感に背中を押され昼食をとることに。
 昼食をとる前に、用を済ませたいと席を外すおじさん。

「父が無理やり……すみません」

 二人きりになると、私に娘さんが謝ってきました。しっかりしているようですが、しっかりしすぎていて、人付き合いが苦手そうなタイプのようです。

「いえいえ。バス代も浮きましたし、ラッキーでしたよ」

 愛想笑いで返す私。

「……あなたがいてくれてよかったです。結構父と話ができましたし」

 アレで?
 とツッコミを入れたくなるぐらいの会話しかしてませんでしが、普段はよほど会話が無いのでしょう。
 おじさんがなかなか戻ってこなかったため、娘さんはポツリポツリと身の上を話し始めました。
 去年母親が亡くなったこと。それをきっかけに名古屋から田舎に戻ってきたこと。戻ってきたのはいいが、父親とどう付き合っていけばいいかわからないなどなど。
 今回の旅は、少しでも打ち解けられればと企画したそうですが、効果はあまりなかったようです。
 最初はどうして見ず知らずの私にそんなことを話すのかと疑問に思いましたが、母親が死んでから父親は社交性が無くなり、家に引きこもるようになってしまったそうです。その影響で娘さんも人付き合いができてないとのこと。
 話す相手もあまりいなかったのでしょう。

「話、聴いてくれてありがとうございます」

「聴くだけしかできませんでしたけど……」

「それでも助かりました。実は住んでるところに、歳が近い人もいなくて」

 そう話す横顔は陰りがありました。相当病んでるようです。
 でもアレです。こういう流れならやりやすいです。……弱みにつけこむような感じがしないでもありませんが、力になりたいのも事実ですから。

「私で良かったらいつでも話相手になりますよ。コレ、携帯番号とメールアドレスです」

 メモ帳にささっと番号とメールアドレスを書いて渡すと、最初は少し戸惑っていましたが受け取ってくれました。


 ……んなわきゃない。


 なんか筆が進んでしまいましたが、おじさんと風呂で話し込んだ以降はウソです。
 フツーにバスと電車を乗り継いで網走に行きました。

 網走。

 網走と言えば、言わずもがな網走監獄ですよね。他にも色々施設があるようです。バスが出ているようなのでバスを利用して回ろうかとも思いましたが、駅前にレンタサイクルの看板が出ていたんでちょっと思案。
 バスの本数はそこそこありましたが、時間を自由に使えること、さらに天気が良かったことも手伝ってレンタサイクルを利用することにけって〜い!

 意気揚々とレンタサイクルのお店に行くと、大学生ぐらいの先客がいました。

「今はもうサンゴ草、赤くなってますかね?」

 そんな会話が聞こえてきて、少し気になって観光マップを見てみると、能取湖までのサイクリングコースがあるようです。丁度、さんご草祭りが翌日に行われる時期でしたので、赤くなっているのは間違いないでしょう。見てみたい衝動に駆られましたが、網走駅から片道14kmとあったので、とりあえず保留ということにしました。
 さてまずは網走監獄博物館へ。
 距離にして4kmですので意外と早く着きました。

 着きましたが……。

 博物館まではほぼ登り坂オンリーで有り、ほとんど引いて歩いていたことは記載しておくべきでしょう。
 ゼェゼェと息を切らしながらも到着。博物館自体はまぁ、フツーの博物館という感じでしょうか。
 しかしおもしろかったのが、監獄食が食べれることです。

 これがフツーにうまい。
 特にほっけの塩焼き。
 どこかで食べようと目論んでいましたが、まさか監獄博物館でいただけるとは思っても見なかったです。

 さて、博物館見学が終わって、さぁどうすんべと悩みながら網走駅方面に戻るわけですが。
 行きが登りなら当然帰りは下りなんですよね。これが気持ちいいのなんのって。
 その気持ちよさにあっさり決断してしまうわけですよ。
 能取湖突入を。
 14kmのサイクリング(ママチャリ)。私にとって未知の領域ですが、サイクリングロードの存在が私を挑戦する気分にさせてくれました。
 舗装された道のなんと走りやすいことか。さらに網走湖をサイドに走るのことのなんと気持ちの良いことか。


 まぁそう思ってたのも8km地点当たりまででしたけどね(笑)。
 いくらサイクリングロードとは言え、乗っている自転車はママチャリなんですよ。しかし10km地点を越えたところで、アレがきました。ランナーズハイ的なアドレナリン分泌。
 ここで折り返すのももったいねぇという、つるせこパワーの賜物かもしれませんが……。

 でね。たどり着いたわけですよ。



 真っ赤とはいきませんでしたが、なんと感動的な景色だったことか。ママチャリで到達というのも感動に拍車をかけたに違いありません。うっとりとサンゴ草を眺め、カメラに思う存分おさめました。

 ………………。


 さぁ……戻るか……(激疲労)。

 戻りも14km。しかも同じ景色。MP3プレイヤーを用いて乗り切ろうと気合を入れなおします。

 美奈神のMP3プレイヤーには、140曲以上のアニソンが入っているわけですが、このときランダム再生でチョイスされた曲がこれです。

  鎮-requiem-。

 自分が疾走中のベターマンだと思ってペダルをこぎ始めると、POWERが出てくるから不思議です。

 まぁ網走に戻ってきたときには、足がプルプルいっていたわけですが。
 とりあえず時間内に目的を果たし、旭川へ。そして今日は旭川で一泊。
 旭川観光は日程に含まれておらず、イロイロな場所の中継地点として使うつもりです。旭川って、電車だと中間地点っぽくていいんですよね。
 さぁ、明日は稚内突入です。天気は最悪みたいですがー。

 と、旭川のコンビニでこんなものを見つけたのでお夜食として買っちゃいました。

 「ふらののぽてち」と「旭川動物園プリン」。

 ………………。

 前者はいいです。富良野のジャガイモをつかったポテトチップスなんですよね?
 でも旭川動物園プリンは……。

 まぁいいです。
 前者は少々塩味が強すぎる感がありましたが、後者は普通に美味しかったと評価しておきます。

 5日目の夜は、夜食を口にしながら、ビジネスホテルのLANから「創作チャット」に参加しつつ更けていくのでありました。